勇者とは――
それは、勇気のある人。勇士。であり、また物語やゲーム、アニメといった多くの媒体で、ヒーローのような存在を指している。
ファンタジー世界では、魔王を倒す使命を帯びて冒険する、正義感に溢れた好青年であることが多く描かれ、仲間たちと共に冒険し、様々な困難を乗り越えて世界を救うのが王道の展開だ。
そして今、まさに一つの世界が救われようとしていた。
天に掲げた青年の剣が、眩い光を宿し、魔王と呼ばれる男の胸を引き裂くと、闇色の霧が天高く舞い上がり、そして散っていく――
光となって消えていった魔王を見送った青年が高らかに
黒く分厚い雲がゆっくりと晴れていくと、雲の隙間から光がカーテンのように差し込んでくる。
幻想的な背景に、スタッフロールが表示され、バラード調の楽曲が流れていく。
程よい達成感と、一つの終わりを迎えたという寂しさを抱きながら、彼女はコントローラーを置いた。
高坂穂乃果、十六歳。高校二年生。
無地のスウェットの上下で、頭にタオルを巻いたままうつ伏せに寝転がってゲームに興じている姿は、華の女子高生とは思えないものだ。
床に置かれたコントローラーの隣には、ポテトチップスの袋が置かれ、ご丁寧に箸まで添えられている。
エンディングを見終わった穂乃果は、テレビとゲーム機の電源を切って、のそのそとベッドの上に這い上がった。
ストーリーを思い出しながら、穂乃果は漠然と主人公みたいになりたいな、と思っていた。
空想のキャラクターであるが故の完璧ともいえる人柄で、弱点さえ可愛らしく思えるような理想の人物。強く、優しく、正義感に厚い。
「これって……」
ふと頭に浮かんだ幼馴染の姿に、穂乃果は、ふふっと笑みをこぼした。
これまでは想像でしかなかった存在が、すぐ届く存在に感じられて、何となく自分にも出来そうな気がした。
「勇者部……うん! いいかも!」
言葉に出すと、不思議なほどしっくりと感じて、穂乃果はベッドの上でガッツポーズまでとっていた。
湧き上がる感情を今すぐに伝えたいと、穂乃果はスマートフォンに手を伸ばして、画面を見た瞬間、現実へと引き戻された。
表示されていた時刻は、午前二時三十三分。そして、今日は月曜日。つまり、平日だった。
時刻を知ってみると、不思議なことに眠くなったような気がして、穂乃果は慌てて歯を磨くと、ベッドの中に潜り込んだ。
元々寝つきのいいこともあって、すぐに寝息を立て始めた穂乃果が、目覚まし時計のアラームを忘れていたことに気がつくのは、遅刻が確定してからの事だった。