海未と別れた絵里と希は人気のない道を歩いていた。
いくら夕暮れ時の郊外はいえ、一台の車も、一人の姿さえ見ないというのは不自然だった。
「希、ありがとう」
「ん? なんのこと?」
「人払い、もういいわ」
「流石はえりち、お見通しか」
「何年の付き合いだと思ってるの」
「んー? そっかもうえりちと知り合ってから七年になるんやね」
くすくすと笑いながら、希はふっと肩の力を抜いた。
「意外とこれ疲れるんよね」
「帰ったら肩揉んであげるわよ」
「なら、お願いしよーかな」
笑いながら絵里の背中にじゃれつく希。
「今日も寄ってくん?」
「ええ。だから……」
「今日はうちも行ってええかな?」
「いいけど、希こそいいの?」
「その話はもう終わったやん?」
「そうね。ごめんなさい」
「さ、亜里沙ちゃんとこ行こ行こ!」
どんどん先へと進む希の背中を追って、絵里も足を早めた。
二人は最寄りの駅まで歩くと、駅前に止まっていたタクシーに乗り込み、街の外れにある大赦の運営する施設へと向かった。
駅からタクシーで二十分ほどの距離に絵里の目的地は建っていた。
表向きは先進医療研究センターだが、その実態は大赦が運営する非公開の研究施設だ。ここでは、神樹のエネルギー研究、勇者の装備品の研究開発、勇者システムの更新や改良といったソフトウエアの研究開発など多岐にわたる分野の研究が行われている。
鉄製のゲートに閉ざされた正門の前でタクシーを降りた二人は、無人のセキュリティゲートに非接触型ICカードをかざして、先へと進んだ。
受付の職員に会釈をして、施設の奥へと進んでいく。エレベーターに乗り込み、地下へ降りる。白亜の外壁に白亜の床。白一色といった施設内の廊下を進んでいくと、物々しい扉に閉ざされた一室の前にたどり着いた。扉の先を毎日訪れている絵里は、慣れた動作で生体認証を済ませると、希とともに扉の先へと足を踏み入れた。
扉の先には狭い部屋があり、一面のガラスで遮られた先には広々とした部屋が続いている。洋室に不釣り合いな、社殿を思わせる祭壇が設えられた部屋の中央には、キングサイズのベッドが鎮座していた。
「亜里沙……」
キングサイズのベッドに横たわる少女に向けて、絵里はガラス越しに声をかけた。
眠る少女の姿は、まるで漂白剤に漬け込んで育ったかのように真っ白であった。先天的にメラニン色素が欠乏したアルビノという症状を持っているというだけでなく、横たわる少女には生気というものが全く存在していなかった。
少女の名前は絢瀬亜里沙。絵里の実妹である。
生気が感じられないのは当然のことで、亜里沙は四年前のバーテックス襲来に際して命を落としていた。
しかし、この遺体は四年の歳月を経てなお、全く劣化した様子はない。それは、特殊な設備によって維持されているからというわけではなく。今の亜里沙の身体は、たとえ野ざらしにしていたとしても劣化していくことは一切ない。
亜里沙の身体は確かに、心拍や呼吸といった生命機能は停止しているが、亜里沙の身体には神樹からもたらされるエネルギーがいまだにとどまり続けている。そのおかげで亜里沙はこうして今なお当時のままの姿を保っていられるのだ。
そんな経緯を知った大赦によって、現在は即身仏でもあるかのように秘密裏に祀られ、同時に研究対象になっている。
亜里沙がモルモットのような扱いを受けることに絵里は強く反対したが、研究のいかんによっては目覚めさせる方法が見つかるかもしれないと言われれば、反対し続けることは出来なかった。
ずっと変わらない亜里沙の姿を見るたびに、絵里は亜里沙が命を落とした日を鮮明に思い出してしまうーー