絵里が十三歳になった頃、絵里と亜里沙は大赦の主催する神事に招かれていた。
家内では、明確な優劣のある二人だが、外聞を気にした絢瀬家は表立っての二人の扱いに差はなく、こうした行事には積極的に参加させた。
護衛といえば聞こえはいいが、二人の周りには常に侍女が付き、目を光らせていた。
同年代の子たちと自由に会話することも許されず、代わる代わるやってくる、酒の匂いを漂わせた役人や重役といった人物たちに向けて、愛想笑いを浮かべながら、決められた慣用句を述べるだけの役目だった。
大赦の主催した神事は、神樹のエネルギーを利用して行う新たな儀式で、より効率良く、より効果的に、神樹のエネルギーを転換することができるというものだった。
より神の力に近づいたと喜び、口先だけの感謝を述べて、お祭り騒ぎをする大人たち。
そんな大人たちに憤りを覚えたのは、なにも絵里たちだけでななかった。
絵里は亜里沙とともにホテルのバルコニーから夜空を眺めていた。亜里沙が指差す星の名を教え、二人で新しい星座を作ってはなぞっていった。
ある時、亜里沙が指を差して絵里に尋ねた。
「おねーちゃん、あの星はなぁに?」
絵里が夜空を見上げるとーー夜空に浮かぶ星が蠢いていた。
その瞬間、絵里と亜里沙のスマートフォンが悲鳴のような不協和音を奏で、一転して夜が明けた。
眩しさにくらんだ眼が慣れてくると、あたり一帯が植物に覆われた異色彩の空間へと変化していた。
それが神樹が世界を守るために発動する結界『樹海化』というものだと、絵里は知っていた。
しかし、知識上の景色と、実際に見る景色は全くと言っていいほど違った。絵里は樹海がこれほど気味が悪い空間だとは思っていなかった。神の作り出した結界だと聞いて、勝手にファンタジーな空間を思い描いていた所為か、想像と現実とのギャップに慄いていた。
少し遅れて、絵里と亜里沙の周りに、幾人かの少女たちが集まってきた。
彼女たちは、絵里や亜里沙のような勇者候補を守るために集められた防人と呼ばれる少女たちーー別称『都落ち≪なりそこない≫』。
総勢八名の防人の少女たちは、簡易型の勇者システムを発動し、戦闘衣を身に纏っていく。防人の少女たちの使う勇者システムは、適正の低い彼女たちでも運用出来るように科学的に改良されたもので、適正の低さをシステムや機械的な方法で補うことで、限定的にバーテックスへと対抗出来るようにしたものだ。勇者の戦闘衣の製造と開発を行っていた絢瀬家が独自に実現したものだ。(防人という制度自体は他の家にも存在する)