戦闘衣へと着替えた防人たちは、迫りくるバーテックスから絵里と亜里沙の二人を守るために立ち向かっていった。
しかし、この時襲来したのは、『甲種』に分類されるバーテックスだった。
小型のバーテックスの相手であれば防人でも対処は可能だったが、能力に劣る防人では、最上位のバーテックスには対抗出来ず、防人たちは次々にバーテックスに喰われていった。
「絵里様お助けください……」
目の前で飲み込まれていく防人が絵里に向かって懇願しながら手を伸ばしていた。
絵里は必死にスマートフォンの勇者アプリのアイコンをタップし続けたが、絵里の姿が変化することはなかった。
ここが樹海でなければ逃げ出すことも出来たが、人類を守る結界が今は絵里を閉じ込める檻と化していた。
絵里に出来た事といえば亜里沙のことを抱きしめることだけだった。
大きな口を開けたバーテックスが二人に目掛けて迫り、絵里は目を閉じて、身を強張らせた。
「だいじょうだよおねーちゃん」
抱きしめていたはずの亜里沙は絵里の腕をすり抜けて、絵里を守るように立つと微笑みながらそう言った。
亜里沙は小さな手をバーテックスに向けてかざす。同年代の女の子と比べても華奢な白い手では、迫りくるバーテックスと比べてあまりにも非力に見えた。
「だめ……だめ……だめ……」
いやいやと首を左右に振って泣きじゃくる絵里に亜里沙は微笑むと、手をかざしたままバーテックスに飲み込まれた。
「あぁぁぁ……」
へなへなと腰を抜かして座り込む絵里の前で、亜里沙を飲み込んだバーテックスが声とも言えない咆哮を上げた。
次は自分が喰われるのだと、絵里は泣くことさえ諦めた。
だがいつまでまってもバーテックスの咆哮は止まることなく、不規則な身動きを繰り返し、そのまま痙攣しだしたかと思うと、ピタリと静止して咆哮が絶叫へと変化した。
金属の悲鳴のような音をまき散らしながら、バーテックスは内部から光を放ち膨らんでいく。やがて、外殻が限界に達したのか、膨らんだバーテックスは爆散して花びらへと昇華した。
舞い散る純白の花びらに包まれながら、絵里は涙を流していた。泣きながら絵里は必死に消えていく花びらを集めていく。舞い散る花びらに、絵里は妹と同じ温もりを感じていた。一枚、また一枚と花びらが消えていく度に亜里沙が消えていくような気がして、絵里は無我夢中で拾い続けた。樹海が解除され、現実の世界に戻っても、絵里はずっと花びらを集め続けていた――。
あの日と変わらない瞳で、絵里は亜里沙の姿を見つめていた。
「亜里沙、しばらくここにはこれなくなると思う」
伏し目がちに絵里は言った。口に、声に出すのが辛く、細く消えそうな音で。かき消えそうになりながらも、絵里は言葉を続けた。
「私はこれから究極の勇者を目指すの。もう一度、あなたに合うためにね。きっと亜里沙はそんなこと望んでいない、って言うでしょうけど、これは私の我儘だから先に謝っておくわ。ごめんなさい。究極の勇者になるためには手を汚さないといけないの。だから、究極の勇者の勇者になるまでは、ここには来ないことにする。人を殺める顔を、亜里沙に見せたくないから」
言い終えて、絵里は亜里沙に背を向けた。
「次に会うときは、直接会いましょう」
そう言い残して、絵里は希とともに部屋を後にした。
第一話 完
これにて第一話が終わりとなります。
次回から第二話が始まりますので、よろしくお願いします。
次回更新は6日を予定しております。