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「というわけで、勇者だよっ! 勇者!」
「は?」
昼休みの最中、幼馴染の口から飛び出した一言に、園田海未は思わず箸を落としそうになった。
付き合いの長い間柄ではあるが、流石にこの一言は予想外であった。
「なにが、というわけですか、分かるように説明してください」
「だから、勇者だよっ! 海未ちゃんも知ってるでしょ?」
昼休み、いつものようにいつもの場所で食事を始めた幼馴染の三人。穂乃果はいつも通りのパンを片手に語りだしたのは、昨晩に遊んだゲームについてのことだ。
穂乃果の話が唐突なのもいつもの事であるが、ゲームの知識に疎い海未にはその意図の一片さえ理解出来なかった。
「勇者っていうと、あれかな? ゲームとかで出てくる悪い魔王を倒しに行く人だよね」
呆れていた海未に代わって答えたのは、もう一人の幼馴染である南ことりだった。
「そうそうそれだよ! ことりちゃん!」
「それで、その勇者がどうしたんですか?」
海未の問いかけに、穂乃果は待ってましたと言わんばかりに胸を張って言い出した。
「昨日、クリアしたゲームをやってて思ったの。勇者ってなんか海未ちゃんみたいだなって」
「はい?」
何を言ってるんだコイツと言わんばかりの冷たい視線を向けられていることを気にも留めず、穂乃果は語り続ける。
「だって、強くて、優しくて、正義感もあって……それに、何よりカッコイイじゃん!」
「そんなわけないでしょう」
「あー、でもちょっと分かるかも」
「ことりまで……」
呆れた様子で首を振りながら海未は、頭痛薬が欲しくなった。
「それで勇者などと言い出したんですか?」
「うん! 海未ちゃんは運動も勉強も出来るし、勇者になれるんじゃないかなって」
「なれるわけないでしょう」
胃薬も追加したい気分になりながら、海未は残っていたお弁当を口に運んだ。
「海未ちゃんを勇者にってどうするの?」
これ以上、掘り下げてほしくないという海未の願いもむなしく、話はどんどん進んでいく。
「まず勇者部を作ってね。それで、困っている人を探してさ私たちで助けるの」
困りごとが、いわゆる体育会系であれば海未や穂乃果が、勉強などの文学系であれば海未とことりで対応すればいいと、穂乃果は言う。
「でも、それなら部活にしなくてもいいんじゃないかな?」
ことりが浮かんだ疑問を口にする。困っている人を助けたいなら別に部活動である必要はない。
「いや、ほら依頼を受けて解決するのって、なんだかクエストをこなすみたいでカッコいいかなーって」
「馬鹿ですね」
「うぇぇっ……」
海未の容赦のない辛辣な一言に、空気の抜けた風船みたいにしぼんでいく。
「ところで穂乃果?」
「うん?」
「先ほど、昨日ゲームをしていて思いついたとか言ってましたよね?」
「えっ? あー、うん。言ったかも?」
嫌な予感を察して、穂乃果の第六感が激しく警鐘を鳴らす。
「まぁ、それはいいんです。ゲームをするな、とは言いませんが。ゲームをするならば当然、昨日出された課題はすべてやってきているんでしょうね?」
「えーっと、それは……」
答えを言わずとも、その態度がまさにやっていないことの証明であった。
「困っている人を助ける? その前にやるべきことがあるでしょう!」
スイッチが入ったように始まった海未の説教は、そのまま昼休みが終わるまで続いた。
結局、課題をやっていなかった穂乃果には罰として、追加の課題が言い渡された。
海未は当然ですと言い切っていたが、ことりは苦笑いを浮かべながらも泣きべそをかく穂乃果を慰めていた。
「ことりは穂乃果に甘すぎます。たまにはビシッとですね……」
いつの間にか説教する相手の中に、自分まで含まれていることに、おやっと思ったものの、ことりはそれをおくびにも出さずに聞いていた。