「ちゃんと説明するわ。来月に秋葉でアイドルグループコンテストがあるの。ま、アイドルって言っても、アイドルの卵をコンテストで来場者による審査もあるの。ま、優勝商品自体は大したものじゃないけど、大会の模様は様々な媒体で生放送されるし、上位入賞者は間違いなく人気が出るから、デビューに繋がる可能性だってあるわ」
「それで私たちを?」
「そ、今回のコンテストはグループ参加必須だから、一人だとそもそもエントリーさえ出来ないわ」
「他の部員さんは出ないんですか?」
ことりの疑問はもっともだった。
アイドル研究部のバックダンサーを務めるなら、本来は部員が行うはずだ。部員数の問題で外部に応援を頼むとしても、部にさえなっていない勇者部に頼むというのもおかしいことだ。センターを誰にするかで、揉めた可能性もあったが、その場合はバックダンサーを募集しても解決にならない。
「ま、そうよね。もう何となく分かってるかもしれないけど、この部には私一人しか居ないの」
あっさりと言い放つにこの表情には動揺は微塵もない。むしろそうであることが当然のようであるかのようだ。
「にこはアイドルが好き。私は本気でアイドルをやりたいと思ってるの。楽しいだけのアイドルなんて、アイドルじゃないわ」
赤い愛らしい瞳が真っ直ぐに穂乃果三人の瞳へと向けられる。かわいらしい外見とは裏腹に、燃えるような情熱が確かにそこにあった。
「あんた達は鴨の水掻きって知ってる?」
「ええ、気楽そうに見える鴨であっても、見えない場所で努力しているという諺ですね」
「アイドルも同じよ。ステージで歌って踊る姿は楽しそうに見えても、その裏では血のにじむような努力があるの。ただ、楽しく歌って踊りたいなんて、そんな虫のいい話あるわけないでしょ」
なにか嫌な事でも思い出したのか、にこはむすっと頬を膨らませた。
「ま、そういうわけでさ、バックダンサーの件、お願い出来ない?」
上目遣いで手を合わせてくるにこは幼げな容姿と相まって、断りずらい雰囲気を持っていた。
「――私は引き受けてもいいと思う」
僅かな沈黙を挟んで、穂乃果が自分の意思を伝えると、海未とことりは何も言わず頷いて同意を示す。
「助かるわ。正直、引き受けてくれなかったら、出場を辞退しようかと思っていたの。できるならユニットとして出たかったけど、そこまでは求めないから安心して」
何を安心すればいいのか分からなかったが、にこの笑顔を見ると、全く安心出来ない三人だった。
次回更新は25日です。