高坂穂乃果は勇者である   作:ZENSUN

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2-9 バックダンサー5

 穂乃果たちを残して、一人にこは学院の屋上に立っていた。

 初夏の風が心地いい反面、どこか重みのある湿度空気が髪を撫でた。

 

「はぁ……」

 

 ため息を風に溶かして、にこはこれでよかったのだろうかと何度も考えていた。

(勇者部……ね)

 ほとんどやけっぱちの選択だと思う。ダンス経験さえないような子たち、しかもまだ部活動にさえなっていないという。

 コンテストまで約一か月あるが、このまま練習したとしても入賞は難しいだろう。それは、勇者部の三人の実力がどうという話ではなく、メインパフォーマンスを務めるのがにこ一人という問題だ。

 アイドルグループコンテストとの名の通り、他の出場者は皆人数を活かしたパフォーマンスを披露するだろう。バックダンサーがいたとしても、アイドルがにこ一人では、どうやっても華やかさで差が出てしまう。

 それは、にこ個人の技量ではどうにもならないことだった。

(本当にこれでよかったのかしら)

 アイドル研究部も最初からにこ一人だったわけではない。部活動創設には、最低でも五人以上の部員が必要なのは、にこが入学する以前からある校則だ。

 

 しかし、最初にいたメンバーたちは卒業や意見の――意識の違いから徐々に減っていった。

 最高のパフォーマンスを目指すと主張するにこと、楽しい部活動をやりたいというメンバーの対立はどんどん深まっていった。

 最初の一人が辞めると、また一人、また一人と日に日に部員は減っていった。しかし、それでもにこは意志を変えようとはしなかった。

 にこにとってアイドルは夢であり、到達点の一つだ。こんな場所でただ楽しくアイドルごっこをしている時間はなかった。 

(それにしても、勇者部って。まぁ、深い意味なんてないんでしょうけど)

 皮肉なことだ、とにこは思った。

 

「『勇者』である私が、勇者部に助けを求めるなんてね」

 

 にこの実家。正確には本家というべきか、矢澤家は大赦に連なる名家の一つだ。これまでにも優秀な勇者を輩出してきただけでなく、矢澤家は園田家と並んで対バーテックスにおける基礎戦術を作り上げた歴史ある武家であった。

 そんな家に生まれたにこの母は、家が決めた縁談を蹴って、自らが愛した人と一緒になる道を選んだ。

 当然、矢澤家がこのようなことを許すはずもなく、にこの母は絶縁を言い渡された。

 それでも、にこの母は自分の選んだ道を進み続けた。名家との関係が切れたことで、苦しい生活ではあったが、にこも含めて家族は幸せな日々を送っていた。

 




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