しかし、にこに勇者としての適正があることが判明したことで、状況は一変した。
その頃、矢澤家は後継者となる勇者が生まれておらず、にこに適正があるとわかるや否や、手のひらを返して接触を図ってきた。
だが、名家としてのプライドか驕りか、一度絶縁を言い渡した娘を簡単に迎え入れるというわけにもいかず、にこは分家の一つである矢沢家の養子として迎え入れることとなった。
その際にもひと悶着あったが、結果として、にこは矢沢家の養子になることを自らの意志で選んだ。
理由の中に、苦労続きだった両親を経済的に楽させたいということもあったが、自分にも何かを守れるのだと証明したいという、子どもじみた理由も大きかった。
母は、ただ好きなものを好きだと言っただけのことだと、笑って言っていた。
にこにはまだ男女の機微についてはわからないが、好きなものを好きだということが、案外難しいものだと知ったのは小学生になった頃のことだ。
自分の思いを貫くということの難しさを知った今だからこそ、にこは母の選択を心から尊敬していた。
だからこそアイドルという夢を追うと決めた今、絶対に信念を曲げたくなかった。その所為で多くのものを失ったが、それでもにこはまだ全てを諦めたりはしていなかった。
「園田に南か。あの穂乃果って子何者なんだろ」
園田家も南家も大赦に連なる名家の一つで、特に南家は四方家(四法家)に数えられ、他の名家と比べても頭一つ抜け出している。そして、矢沢家の勇者であるにこ自身も含めると、勇者部は本当に『勇者』部になってしまいそうだと考えて、ふっと笑みをこぼした。
しかし、笑みを浮かべたのは一瞬、にこは直ぐに笑みを消して、空を見上げた。
コンテストに懸ける想いは変わらない。しかし、このままでは入賞さえ難しいという有様だ。
(もしも、私が折れていれば、今も違ったのかしら……)
辞めていったかつての部員たちの事を考えて、にこは頭を振って、その考えを打ち消した。
(あの子たちに……)
穂乃果、海未、ことりの三人にバックダンサーではなく同じアイドルとしてステージに立ってもらう。そうすれば、他の出場者たちに劣らないパフォーマンスを披露することが出来る。
(でも、それは……)
期待する自分と、諦めた自分が内心で相反する意見を述べていた。
にこはぐるぐると回り続ける思考を吐息で切り替えて、ふと思い至る。
(まだ、引き受けてくれたわけでもないのに……)
だが、何となくにこは、穂乃果たちは断らないと思っていた。というよりも、穂乃果たちが断るという未来が想像出来なかったという方が正しい。
色々と考えた結果、にこは考えることを辞めた。参加するとなれば、たとえどんなに不利であったとしても、やることは変わらない。ステージに立つ以上、観客には最高のパフォーマンスを披露するのは、にこにとって絶対だ。
自らの信念を貫いてきた結果、にこは一人になったが、今更、信念を曲げるなどできるわけもなく、曲げた所で過去が変わるわけではない。
ならば、最後まで貫き通すまで、と、にこは決意を新たにして来月のコンテストに向けたプログラムの内容を考え始めた。