「なら買いに行けばいいでしょうに……」
呆れながらも、海未は仕方なく自分のスポーツドリンクを手渡した。
「ありがとう!」
遠慮なくごくごくと飲んでいく穂乃果。やがて、ぷはぁと空になった容器を海未に手渡した瞬間、穂乃果はピタリと動きを止めた。
「私のドリンクは美味しかったですか?」
「え、あ、うん。とっても……」
「そうですか……それは良かったですね!」
空の容器を笑顔で受け取る海未に見つめられた穂乃果からさーっと血の気が引いていく。顔こそ笑っているが、穂乃果を見る目は全く笑っていなかった。
「穂乃果……まったくあなたという人は……」
同じ練習をした後だというのに、海未のお説教は至って普段通りのものであった。
「では穂乃果、これを」
「えっ?」
海未は空になった容器を穂乃果へと差し出して、穂乃果に変わりの飲み物を買ってくるように言いつけた。もちろん、代金は穂乃果持ちで、である。
「海未ちゃんの鬼! 悪魔! けちんぼ!」
という捨て台詞を残して、穂乃果は空の容器を持って、変わりの飲み物を買うために一人、校内へと入っていった。
「あんたも大変ね」
海未と穂乃果のやりとりを眺めていたにこが、呆れたような表情を浮かべながら言う。
「もう慣れました」
「幼馴染ならではってことね」
「まぁ、そうですね。ですが、ある意味では矢沢先輩とも幼馴染……なのかもしれませんね」
「はぁ?」
何を言っているんだと言わんばかり怪訝そうな顔を浮かべるにこ。
「出稽古でずっとお世話になっていますしね」
矢澤家(矢沢家)も園田家と同じく武家の家系で、互いに対バーテックス戦術を組み上げただけでなく、武芸者としての道を進む上ではお互いに切磋琢磨する関係であった。
その縁で、海未とにこは事前に面識があったのだが、勇者のお役目については関係者以外には秘密である為、初対面であるかのように振る舞っていた。
「馬鹿な事行ってないで、あんたにはやることあるでしょ」
そう言って、にこは日陰でうずくまっていたことりの方を指差した。
「そうですね。行ってきます」
にこに告げて、海未はことりの方へと向かって行った。
「ことり、どうですか?」
日陰で休んでいたことりの傍に歩み寄り、隣に腰を降ろして、海未が問いかけた。
「うん。ありがとう海未ちゃん」
先ほどよりは幾分か回復した様子ではあったが、辛そうであるというのは海未の目から見ても明白だった。
「明日からは体力作りのメニューにしようと思います」
「大丈夫。私、頑張るって決めたから……」
「私も気に掛けるようにはしますが、もし体調は悪くなったりしたら直ぐに言ってください」
「うん」
二人で話していると、海未は自分の前に誰かが立っていることに気づいて、顔を上げた。