「なんでさ……」
「どうしたのです?」
立っていたのは、先ほど飲み物を買いに行った穂乃果だった。
手にはしっかりと二本の飲み物を握りしめたまま、穂乃果はじっと立っていた。
「穂乃果?」
ただならぬ雰囲気を感じ取った海未が立ち上がって、歩み寄っていく。
「なんで、海未ちゃんはことりちゃんにばっかりやさしくするの!?」
「え……」
「私にはいつも口うるさく言うし、すぐ怒るし、すぐぶつし! でも、ことりちゃんにはいつも優しくしてるじゃん!」
「それは、穂乃果が怒られるようなことをするからでしょう」
「私だって頑張ってるんだから、ちょっとくらい褒めてくれてもいいじゃん!」
「あなたは運動が苦手というわけでもないのですから、より苦手なことりの心配をするのは当然でしょう」
白熱する二人の間で、ことりはおろおろとしながら泣きそうな表情を浮かべていた。
「そもそも、私たちでことりのサポートをすると決めてたではありませんか」
ぐぬぬ、と悔しそうな表情を浮かべる穂乃果。
「ごめんね、わたしの所為で……」
「ことりは悪くありません。そもそも苦手だと言っていたことりに一緒にやろうといったのは穂乃果ですから、気にすることありません」
それよりも、と間を置いて、海未は続ける。
「穂乃果! ことりが気にしているんですから、少しは考えたらどうですか!」
「違うじゃん! 海未ちゃんはことりちゃんばっかり気にしてるじゃん!」
「それは……」
穂乃果はやる気が安定しないという問題を除けば、大抵の事は出来てしまう。いわゆる天才肌というタイプだ。それ故か、長続きしないという欠点にもなってしまっていた。
それを知っていたからこそ、海未は穂乃果なら大丈夫だと思っていたのも事実であった。
「もういい! 海未ちゃんのバカぁ!」
言い捨てて、穂乃果は手に持っていた飲み物を海未に向かって投げつけると、そのまま走り去っていった。
「穂乃果……」
走り去る背中に向かって伸ばした手も虚しく、海未はそのまま立ち尽くしていた。
☆
飛び出した穂乃果は目を擦りながら、当てもなく校舎の中を進み続けた。
放課後のがらんとした廊下をずんずんと進みながら、穂乃果は脳内で海未への恨みを連ねていた。
しかし、連ねていく度に、同じ分だけ寂しさも連なっていく。
「海未ちゃんのばか……」
ブツブツと独りで恨み言を呟きながら歩いていると、穂乃果は廊下で真姫と出会した。
真姫は練習着のままの穂乃果の様子がおかしい事にすぐに気がついた。
「どうかしたの?」
「ううん……」
歯切れの悪い口調で否定する穂乃果に真姫はあえて事情を聞かず、ピアノを聞いて行かないか、と誘った。
真姫と穂乃果は出会ったあの日からというもの毎日のようにメッセージを送り合う仲になっていた。
いつも明るく楽しいメッセージを送ってくる穂乃果には似つかわしくない表情と様子から、真姫は敢えて無理に聞き出そうとはしなかった。