「良かったのですか?」
「うん。たぶんだけど、いま何を言っても認めてもらえないと思う」
「たしかにあれはちょっと無理かなって思うなぁ」
穂乃果は怒っていた。人数やルールの事にではなく、勇者部の内容がくだらないと言われたことにだ。確かにきっかけはゲームだったのかもしれないし、理由も子どもっぽいものだったかもしれない。それでも、確かに胸に宿った気持ちは本物だった。だから、海未もことりも一緒にやってくれると言ってくれたのだと穂乃果は思っている。面と向かって伝えるのは恥ずかしくても、三人がこれまでで築いてきた絆からなんとなく伝わってくる。
「では、まずは部員集めから始めないといけませんね」
「ううん」
穂乃果は首を横に振った。
「ですが、部員がいなければ部活動の申請も出来ませんよ?」
「でも、いきなり勇者部に入ってくださいって言って、入ってくれる人なんてたぶんいないと思うよ?」
「それはまぁ、そうかもしれませんが」
海未やことりが加入したのは、穂乃果という人物を元々知っていたからだ。
見ず知らずの人に、よくわからない部活動に誘われて加入したがる人は、余程希少だろうと思う。
「だから、まずは困っている人を探そう」
なるほど、と海未は納得する。先に実績を作り、その上で勧誘されれば相手も断りにくいだろうし、幽霊部員くらいにはなってもらえるかもしれない。普段はだらしがなく、何事も疎かな穂乃果だが、やると決めたら行動は早く、そしていざという時の判断力や決断力は確かなものがある。
「それで、どうやって困っている人を探すんです?」
「え?」
「そこまでは考えてないんですね」
はぁ、とため息を溢して、穂乃果を見ると誤魔化し笑いを浮かべていた。
「やっぱりポスターとかチラシ配るしかないんじゃないかな?」
答えながらことりは顎に指を当てて考える仕草をして見せた。
「だよねぇ」
「しかし、校内でポスターを張るとなると、やはりまた生徒会に申請をしなければなりませんが」
「チラシを配るのも部員募集なら許可がおりるかもだけど、依頼を募集しちゃうと流石になにか言われそうだね」
「とりあえず部員募集という感じでポスターを掲示させてもらいましょう。隅のほうに小さく依頼募集と書いておけばもしかしたら依頼も来るかもしれませんし」
「うん。あと、チラシも一応配ってみようよ。出来ることはなんでもやろう!」
そんな話しながら歩いていると、ことりのポケットが震えた。
「あ、お母さんからだ」
ことりはメールの内容を一瞥すると、二人に用事を頼まれたこと告げた。
「ごめんね」
「ううん」
「その様子だと急用なのでしょう? 仕方がありませんよ」
二人の優しい言葉に見送られことりはまた明日ね、と言って別れた。
「さて、私たちも帰りましょうか」
「うん!」
二人は随分と静かになった廊下を抜けて、下駄箱へと向かった。
「ところで穂乃果、今日出された課題、忘れたりしてませんよね?」
「え?」
あっ、という穂乃果の分かりやすい反応に、海未は呆れて言葉も出せなかった。
穂乃果は「取ってくる!」と告げて、走り出した。
海未は慌てて「廊下を走ってはいけません!」と声を上げたが、穂乃果は速度を緩めることはなく、いつものように慌しく駆けて行った。
「仕方ありませんね」
こうして、待っているあたり、自分も大概甘いのだと思ってしまう、何だかんだと世話を焼いていては、穂乃果の為にならないのだが、ついつい助け舟を出してしまうのだ。
「全くどうして、穂乃果の事になるとこうもあっさりと揺らぐのでしょうか」
独白と共に沈みゆく夕陽の浮かぶ空を見上げてため息を一つ。まだ冬の名残を含んだ風が海未の髪を吹き抜けて――世界が止まった。