例え命を落としたとしても、それは変わらない。勇者たちは、それを承知の上で戦っている。
――このままでは勝てません。
大型バーテックスの持つ再生能力と、周囲を囲む小型種の妨害を前にして、遠距離戦を主体とする海未では、致命傷を与えることは難しかった。
このままでは、いずれバーテックスが神樹へとたどり着くのは明白だ。
勇者は海未一人というわけではないが、古くからの習わしで、基本的に勇者たちは常に一人で戦っている。
当然、万が一の備えはあるが、勇者は常に世界の命運を背負っているという覚悟を持って、戦わねばならない。
このまま、遠距離から時間稼ぎを続けていたとしても、やがては他の勇者が介入し、このバーテックスを倒してくれることだろう。
そんなことをしなくても、海未が後退すれば、すぐに次の勇者が現れて、海未の代わりに戦ってくれるはずだ。
だが――
それは違う。
それは悔しい。
そう、思った。
ここにいるのは海未が自らの意思で決めたことだ。もし一度でも逃げてしまえば、この胸にある決意は泡のように消えてしまうことだろう。
それだけはダメだと、その気持ちを失ってしまえばもう二度と立ち上がれないと海未は思った。
姉という目標を失い、同時にバーテックスの怖さを知った。
今も、恐怖はある。しかし、それよりも守りたいと思えるものが、海未にはあった。
悠然と進み続けていた、大型のバーテックスの動きがわずかに変化したのを、海未は見逃さなかった。
異変に気付いた瞬間、大型のバーテックスを取り囲んでいた小型種が、濁流となって海未へと向かって迫っていた。
海未はふわり、と緩やかな動作で木の根から飛び降りると、自由落下のまま、空中で矢を次々と放った。
小型種を狙うのであれば、威力より手数を優先し、必要最小限の威力に調整した矢は、迫りくる無数の小型種を撃ち抜いた。
碧色の空にオレンジの光点がいくつも生まれ、ささやかな彩りを与えた。しかし、その程度の攻撃では目に見えて数が変わった様子はない。
整列した小型種は、まるで一本の管のような動きで、うねうねと空中を進み、海未の後に追いすがった。
その先頭に向かって海未は矢を放った。
だが、何度先頭のバーテックスをつぶしても後ろに控えた個体が前に出てくるだけで、小型種の勢いは止まらない。
やがて、彼我の距離は徐々に縮まっていき、一瞬の間隙を付いて海未の懐へと入り込こまれてしまう。
「っ……!?」
小型種は海未に近づくと自ら爆発した。