サイレンススズカとクリスマスにいちゃいちゃするお話 作:坂水木
ショッピングモールの四階は男性用、メンズの衣服雑貨売り場となっていた。それに加え、風男とスズカにとって重要なお店――大きなアウトドアショップが入っている。
ウマ娘であるサイレンススズカにとっても、彼女のトレーナーである常宮風男にとっても見逃せない店である。
少々お高い財布や鞄を扱っている店を横目に、寄り道せずアウトドアショップへと向かう。登山コーナーにダイビングやシュノーケリングといったマリンスポーツコーナー、スキースケートとウインタースポーツもあれば、サッカー野球バスケットボールと、一般的なスポーツグッズも多く見られる。
そんな多種あるコーナーを通り過ぎる中で、一つ目に留まるものがあった。
「あ、お散歩グッズ」
「?あぁ、ふふっ、さっき買ったわね」
足を止めた風男に続き、スズカもその場に留まる。
二人の視線の先にはお散歩用服――ウォーキングウェアを含めた散歩・ハイキングコーナーがあった。
夏用、冬用に加えて季節を問わず着られる上下服。耐久性の高い靴底の厚い靴もあれば、外を歩くことを考えての手袋や帽子、サングラスといったものまで置いてある。
「さすがにあれだね。スペシャルウィークが教えてくれたお店の方が種類は多かったね」
「ええ。ここは他にも色々置いてあるもの」
事前に別のスポーツショップに寄っていなければもう少し見ていてもよかったが、今回はさらりと見送ることにした。
ゆるりと歩き、たどり着いたのは陸上競技コーナーにドンと大きく作られた場所。ウマ娘コーナーである。
置かれているのは蹄鉄にウマ娘用の各種サイズ分けされたシューズ、ランニングを想定した走りやすい上下服に、レインコートやお散歩用とは異なる、目にフィットする形のランニングサングラスと、さすがのラインナップだった。
「フウくん、私に買うなら何を選ぶ?」
「え?えー」
棚を見て、どれがいいか考える。
サイレンススズカのトレーナーである風男としては、既にあるものより新しいものをあげたいと思う。蹄鉄はもとより、練習用のウェアなんてものは色々と買ってある。というより、トレセン学園から支給されるものが多いのでわざわざ外で買う必要がないものも多い。
撥水性の高い上下服なんてその最たる例だろう。
じゃあ何を選ぶか。
スズカは期待の色を瞳いっぱいに宿して風男のことを見ている。出会ったときからあまり変わっていないようで、それでもやはり数年経ち大人びた顔立ちの少女が見つめてきている。変わったところは顔立ち以上に表情の移り変わりで、ずいぶんといろんな
どんなものを選んでくれるのかと、ちょっとしたからかいも混ざりながらの楽し気な表情だ。
隣のウマ娘に見惚れつつも、気を取り直して商品選びへと戻る。
スズカがそう真剣でなくとも、適当に選ぶのは忍びない。単純にスズカのために選ぶなら真面目に選んであげたいと思う。
「……」
さぁーっと視線を流し、とあるもので目を留める。何やら左手が遊ばれている気がするが、そこは気にしない。
一方で、期待に尻尾をふりふり、耳をぴこぴこと動かしながら待っている少女は隣のトレーナーの手で遊んでいた。
風男の左手を掴んで手のひらでぽんぽんと片手お手玉をする。彼の手は思ったよりも大きくて、それでいて自分の手よりも意外と固い。数えられないくらいに触れて繋いできた手ではあるけれど、こうしているとどこか新鮮な気持ちになる。
骨ばった手は温かくて、触れていると自身の体温と相手の体温が混ざり合っていくような感覚になる。
ぎゅっと繋いで結んで、そっと指を絡める。大きな手に包まれるような、細い手を支えてあげているような、不思議な感覚と同時に全身が火照ってきたような心地になる。
顔が熱い。でもずっとこのままでいたくて。やっぱりこの人といると"しあわせ"でいっぱいだって、そう思う。一緒にいるだけで、近くに、隣にフウくんがいて。私はこれだけで胸がいっぱいになるのよって、走っている時と同じくらい気分が良くてしあわせになるのよって、昔の自分に伝えたらどう思うか。
そんなことを考えて、くすりと笑みをこぼす。
「スズカ、決まったよ」
「ふふっ、どれにしたの?」
名前を呼ばれるだけで嬉しくて、勝手に手を繋いで指を絡めたことも何も言わないでくれる。それでもちょっぴりフウくんの頬が赤くなっているから、照れているんだとわかってまた嬉しい。
フウくんがトレーナーで、トレーナーがフウくんで。よかったなぁなんて、何度も何度も思ったことを今も思った。
「……なんかすごい楽しそうだね」
「ふふ、そうかしら?」
「うん。俺の手で遊んでてそんなに楽しかった?」
「ええ、とっても」
「そりゃよかった。それじゃ、ぱぱっと伝えるけど覚悟はいい?」
「覚悟なんてしないといけないものなの?」
「別にしなくていいよ。小粋なジョークってやつ」
「ふふ、それならいいわ。教えてくれる?」
「おっけー。俺が選んだのは――これです」
と、スズカと繋いだままの手を引いて風男が動く。少し横にずれて指で示した先の棚に置いてあったのは冷感ミニジェルクッションだった。
「……こんなもの売っていたかしら?」
「新発売だって」
「ええ。それは見たからわかるけど、こういうものは普通夏に売り出すものじゃないの?」
「どうなんだろう。走ってる人は一年中走ってるから関係ないんじゃない?現にスズカは季節問わず走ってるわけだし」
「それもそうね」
首に当てるサイズよりも少し大きく、頭の下にも敷ける程度の大きさをしているジェルクッション。スズカが手に取り触れてみると、プラスチックの袋越しでもわかるくらいにぷにゅっとしていた。ジェル特有のあの柔らかいのにドロッとした感覚。ちょっとした弾力もある。そしてひんやりとしていた。
トレーニング後の体温が上がったときや夏ならまだしも、今は冬。屋内で温まっているとはいえ、冬は冬である。冷感の良さは伝わらずとも、感触の心地よさはそれなりに伝わってきた。
裏返し、説明書きに目を通す。
だいたいはスズカの思っていた通りのことが書いてあり、接触冷感素材を使っていること、ジェルは冷凍冷蔵どちらでも使用可能なこと、ある程度自然環境で冷たさを取り戻すこと、乱暴に扱わないでほしいこと、食べ物じゃないこと、等々わかりやすく書き連ねられていた。
値段もそう高くなく、千円と少しで買える。新発売お試し価格で割引中だった。先ほどまでの風男同様、ざっと棚を見渡しても他に目ぼしいものはない。
適度にトレーニング用品の買い物はしているだけあって、新しくほしいものはあまりないのだ。これも別に必須というわけではなく、確かにあったら少しは便利かなという程度。それでも……。
「どうよ!」
「ん、フウくん、ありがとう」
私のトレーナーがこうしてちゃんと選んでくれたことが嬉しいから。しっかりと買わせてもらうことにした。
買い物を済ませ、ルンルン気分で歩くスズカと風男。
どちらも結構な幸せオーラを放っている。繋いだマフラーも相まって、周囲に伝わる雰囲気の温かさがすごいことになっている。幸せのおすそ分けというのは、こういった二人の醸し出す空気感から生まれるものなのかもしれない。