サイレンススズカとクリスマスにいちゃいちゃするお話   作:坂水木

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13. クレープとお買い物

 ウォーキングウェアに靴下、ジェルクッションにカレンダーと。

 歩き回って買い物を重ねて、小用を済ませて戻れば時刻はもう十五時半を過ぎていた。まだ空は明るいままだとはいえ、そろそろ帰り支度を始める人もいるだろう。何せ今日はクリスマスだ。家でぱーっとパーティーを開く人も多い。

 

 対してこの二人、サイレンススズカと常宮(とこみや)風男(かぜお)の二人はまだまだ買い物を終えていなかった。

 

 荷物はおおよそスズカが左手に持ち、一部を風男の持つ杖にかけていた。杖に物を引っかけられるようにして作ったのはこういった買い物のときのためである。

 

 橙色の尻尾を揺らし、機嫌良さそうに待つスズカはご機嫌なウマ娘であった。彼女とマフラーで首を繋がれている風男もまた機嫌がよかった。彼にウマ耳でもあれば適度にぴこぴこ動いていたことだろう。

 

 彼と彼女がいるのはショッピングモールの一階。クレープ屋の前である。

 

 人の出入りするドアが近いからか、建物内の他の場所よりも寒さが強い。それでも屋外とは比べものにならない暖かさなため気になるほどではない。

 クレープ屋の前で待っている二人は冬の寒さに手先が冷たくなる、なんてことはなかった。今でも手を繋いで仲良く待っているところだ。

 

 壁に掛けられているメニュー表には、プレーン、フルーツ系、クリーム系、フルーツ&クリーム系、フルーツソース系など、他にもいくつかの種類が写真付きで書かれていた。この寒い時期でもアイス入りのものがあるところを見るに、冬だからこそアイスを食べたい、という人も少なからずいるのだろう。

 

 風男とスズカはそれぞれ一つずつ頼み、片方はプレーン系のメープルバターを。片方はフルーツソース系の練乳&オレンジを頼んだ。言うまでもなく、メープルバターが風男、練乳&オレンジがスズカである。

 

 クレープの大きさはそこまででもなく、意外と子供でも簡単に食べられるようなサイズ感をしていた。

 

 注文をされてから作るスタイルなため、風男とスズカはしばしの待機となる。他の客は先ほどまでいたが、早々とクレープをもらって去っていった。二人は横に併設されている飲食スペースで居座る気満々である。

 というより、まだ買い物が終わっていないため外に行くつもりがなかった。風男の目的のうちの残り二つ、クリスマスケーキとクリスマスニンジンが待っているのだ。

 

 待つこと数分。先に出来たのはプレーンのメープルバターだった。

 支払いは既に終えているので、紙に巻かれたクレープを受け取る。ほんのり甘く香るクレープは薄いはちみつ色で、実際にはちみつの香りがふわりと鼻をくすぐった。

 

「……ふむ」

 

 呟き、隣のウマ娘を見る。羨ましそうに風男の持つクレープを見ていた。トレーナーからの視線に気づき、はっと目を逸らす。わかりやすく可愛らしい少女であった。

 

「スズカ、食べる?」

「……いいの?」

「うん」

「じゃあ、その……フウくんが食べてからもらうわ」

「おっけー」

 

 食べたがりな少女を待たせるのも悪いので、ぱくりと一口。

 出来立てクレープの風味にバターの香りとはちみつの甘さが口に広がった。作りたての温かさに自然と頬が緩む。もぐもぐと咀嚼し、飲み込んで一息。

 

「ふぅ。美味しい」

 

 甘みも抑えられていて食べやすい。この分なら一人でも食べ切れるが、スズカが食べたそうにしているしそれはそれである。

 はい、とクレープを差し出し、風男は微笑む。

 

「ありがとう。……本当に食べていいの?」

「ふふ、いいよいいよ」

 

 スズカの頭をさらりと一撫でし、いつでもと待つ。

 照れながらもはむりとクレープを食べる少女は、また一段と可愛らしかった。

 

「ふふっ、とっても美味しいわ」

「ならよかった」

 

 微笑む少女に微笑み返し、ちょびちょびとクレープを食べていく。

 数口ほど食べたところで店員から声をかけられ、二つ目のクレープを受け取ることとなった。

 二人で横並びに椅子へ座り、はむりはむりと食べ進めていく。

 

「ねえフウくん」

「うん」

「私のも食べてみる?」

「え、いらない」

「……どうして?」

「だって重そうだし」

「そんなに重くないわ。軽いわよ」

「……スズカ、重いの意味わかってる?」

「ふふ、ええ、わかってるわ。胃に辛いって意味でしょう」

「そうそう。練乳なのに意外と軽いんだ?」

「うん。だからね?」

「うんうん。わかったよ。……はむ……おお、意外と爽やか」

「ふふ、言ったでしょう?」

「うん。疑ってごめん」

「いいわよ別に。それより一緒に食べましょう」

「うん」

 

 甘い食べ物を口にしながら、甘やかな空気で話を続ける。

 一休みの休憩にしては、ずいぶんと甘々な時間だった。

 

「――ごちそうさま」

「私も、ごちそうさまでした」

「美味しかったなぁ」

「そうね。思ったほど甘くないから食べやすかったわ」

「そうだねー。ホイップクリーム入ってなかったからかな、やっぱ」

 

 ぽつぽつと話をしながら、立ち上がり、ゆっくりとその場を離れていく。クレープが巻かれていた紙を捨てついでに店員の人にそっと会釈だけして、向かうのはエスカレーターだ。

 

 このショッピングモール最終目的地となる、地下一階。

 最上階はレストラン街となっていたので、そこはスルーすることにした。お昼はもう別の場所で済ませてきたのだ。クレープも食べたことだし、スズカはともかく風男はもうお腹いっぱいである。

 

 文字通りにお手洗いだけ済ませ、再度マフラーをまき直し、エスカレーターを降りるとそこはまた賑わいのある場所だった。

 

 近くの壁に掛けられている階層地図には"FOOD MARKET"と書かれており、どうやらこの階の半分がスーパーマーケットになっているようだ。もちろんその辺のスーパーと違って肉野菜魚と分けられている専門店の並びではあるが。

 残りの半分は総菜や弁当、はたまた紅茶やコーヒー、酒の専門店に加えお目当ての菓子店が数多く並んでいた。ざっと見た感じ総菜の店と菓子店が半々で多い、といったところだろうか。

 

「スズカ、どうしよう。どこから見よう。俺、全部見たいんだけど」

「私もよ。フウくん、こういうときどうすればいいのかしら」

 

 世間知らず、というほど物を知らない二人ではないのだが、あまりこういった場所――いわゆるデパ地下のような場所には来たことがなかった。場所が場所なだけに個々の値段も高く、普段は見られない食品も多く並んでいる。お菓子だけでも和菓子洋菓子の専門店が多く、本店以外ではこういった場所でしか見られないタルト専門店やアイスケーキ専門店も見られた。まあ、アイスケーキに関しては今の季節柄別の物も売っているだろうが。

 

 とにもかくにも、微妙にお上りさん気分な二人はちょっぴりのドキドキ感を味わいながら左右を見渡し、ゆっくりとそれぞれの店を見て回っていくことにした。

 

 

 肉屋。

 

「あ、そういやスズカって、何のお肉が一番好きなんだっけ?」

「私は……特に何が好きというものはないわね」

「へー。好き嫌いないもんね」

「うん。そう言うフウくんは?」

「俺?」

「ええ。フウくんの好きなお肉」

「俺は鳥肉だけど」

「どうして?」

「どうしてって……うまいから」

「ふふっ、他のお肉も美味しいじゃない」

「うーん、だって一番美味しいって感じるし」

「ふふふ、そうね。それならわかるわ」

 

 

 魚屋。

 

「私、世界中のあらゆる魚を食べてみるのが夢なの」

「え、初耳なんだけど」

「冗談よ」

「冗談かい。本当の夢は?」

「そうね……観ている人に夢を与えるようなウマ娘になること?」

「それは知ってる。他には?」

「ふふ、フウくんと一緒に世界中を走り回ることかしら」

「トレーナー冥利に尽きるなぁ」

「好きな魚はサーモンよ」

「脈絡ないね。俺もサーモンは好きだけど。マグロとかは?」

「それもいいわね。私、魚ならだいたいなんでも好きよ」

「スズカ、魚以外でもなんでも好きだよね」

 

 

 八百屋(野菜屋)

 

「フウくんフウくん」

「はいはい」

「人参が売っているわ」

「売ってるねぇ。買うの?」

「……買わないわ」

「今結構悩んだね」

「いいえ、だってこれからクリスマスニンジンを買うのでしょう?」

「うん」

「なら今買わなくてもいいじゃない」

「そりゃそうだ」

「だからフウくんはフウくんが買いたい野菜を買って?」

「……しゃあない。芽キャベツ探すか!」

「……フウくん、芽キャベツが好きなんて言ったことあったかしら」

「初めて言ったかも」

「そう……これからは好物の話もしましょうね」

「そうだねぇ」

 

 

 ざっくりと地下一階半分の見回りを終え、ついでに少々の買い物も済ませた。

 芽キャベツの旬は冬、風男自身調べたことはなかったが、そもそも芽キャベツ自体売られていないことが多いのだ。こうしたショッピングモールのスーパーマーケットとなれば売っているだろうと判断しての行動だった。

 

 旬が冬だと気づいたのも、置かれていた芽キャベツのパッケージに書かれていたからである。

 

 そうして、二人は今日の最大目的でもあるお菓子、お惣菜、お弁当その他諸々コーナーへと足を進めていった。

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