サイレンススズカとクリスマスにいちゃいちゃするお話   作:坂水木

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3. マフラー

 依存しているのは自分なのか、それとも彼女なのかと。そんな取り留めのないことを考えながら、連れ人の会計を待つ。

 

 ここは男らしく、と古いプライドがないこともないのだが、何せ風男は杖無しで動くのが難しい。出来なくはないが、きつい。つい先ほど、クリスマスデートのお相手であるサイレンススズカに醜態を晒してしまったばかりだ。同じ轍を踏むのは御免だった。痛いのも、御免だった。

 

 どうせ財布は共有なのだからと、ぼんやりと揺らめくスズカの尻尾を眺める。試着時にコートを脱いだため、今は深緑のロングスカートから髪と同じ色のさらさらな尻尾が飛び出していた。黒にも近い緑のセーターも似合っており、明るいクリームカラーのコートとは打って変わって落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 

 ちょっと着ておいてと、首に巻かれたマフラーと手渡されたコート。コートはいいとして、自分のマフラーを人に渡すとき首に巻くのはどういう了見なのか。

 

 依存心について考えていたため、まるで自分への首輪か何かかと邪推してしまう。サイレンススズカに限ってそれはないだろうと、すぐに思考を翻したが。

 

「お待たせ。行きましょう?」

「うん。はいコート」

「ありがとう」

「マフラーは?」

「ふふっ、そのまま貸しておいてあげるわ。フウくん寒そうだったし」

「…………ありがたく借ります」

 

 熟考の果て、風男はそのまま借りておくことにした。

 薄オレンジ色のマフラーはふわふわとして暖かく、淡く香る優しい香りに気持ちが落ち着く。柔軟剤の香りか、それともスズカ自身の香りか。何にせよ、離しがたいことには変わりなかった。

 

 サイレンススズカからの好意を受取りつつ、二人はスポーツショップを後にして次の目的地へと向かう。

 店内を物色中に話したことだが、とりあえずこの買い物を終えたらお昼を食べようとのことだった。

 

「お昼って言っても、俺この辺知らないんだよね」

「それ、さっき聞いたわよ」

「さっき言ったからね。スズカは?スペシャルウィークから聞いてない?」

「スぺちゃんはスポーツショップのことを熱弁しただけで、他のことは何も教えてくれなかったわ……」

 

 あぁ、と男の口から納得の声がこぼれる。スペシャルウィークのきらきらとした眼差しと長話が目に浮かんだ。

 

「じゃあどうするかー。スズカ食べたいものある?」

 

 トレーナーに問われ、彼の担当ウマ娘であるサイレンススズカは思考に沈む。

 

 めちゃくちゃに軽く訊いてきた風男であるが、それに対する答えは難しい。単純に好物を答えるなら人参料理となるし、冬らしく鍋物も悪くないと思う。クリスマスなことを考えればちょっぴり値の張るものでもよくて、選択肢は色々ある。

 

 スズカ自身、食は細い方だからそこも気にしないといけない。いくら人間より食べられると言っても、スペシャルウィークやオグリキャップでもなければそんな大食いはできない。それに――。

 

「……?なに?」

「いいえ、なんでもないわ」

 

 ちらりと隣を見て答える。

 それに、この人のことも考えないといけない。

 まだ本調子……とは程遠く、満足に歩けもしない身体。なんとかここまで回復して、本当に最近になって外を出歩けるようになった。筋肉も落ちて、食べられる量も以前よりぐっと減った。

 

 "あんまりお腹が空かないんだ"と無理やりに作った笑顔で言われた時は、胸が痛くて痛くてたまらなかった。思い返すだけでじくじくと心が悲鳴を上げる。

 

 なんとか思考を振り払って、改めて考えようと――したところで、強めの風が吹いた。

 

 立ち止まり、首周りがやけに冷たいことに気づく。彼にマフラーを貸したから寒いのかと思い、自然と震えた肩を温めるように近くの体温にさらに身を寄せる。

 

 何事か察したのか、風男は優しく笑ってマフラーを解き、スズカとの架け橋を作るように二人共々マフラーの中に収めた。

 

「っ、ふ、フウくん?」

「これであったかいね」

 

 薄っすら頬を赤らめ、照れくさそうに笑う男にスズカはもう何も言えなかった。耳の先から足の爪まで、全身が熱く感じる。

 

 温かくて、暖かくて、熱くて、暑くて。先ほどまでの寒さなんてなかったくらい――――やっぱり寒いわね。

 

 再度吹いた風を受け、寒いものは寒いと思い直すサイレンススズカであった。

 もちろん濃密な恥ずかしさは健在なので、スズカの頭の中で昼食に食べたいものへの結論が下されるまでかなりの時間がかかったことは、言うまでもない。

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