サイレンススズカとクリスマスにいちゃいちゃするお話   作:坂水木

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次回メインシナリオ、サイレンススズカと知って。とても嬉しい。この短編書くのがより楽しくなりました。


4. 食事処探し

 スズカと風男は食事処を探して、リハビリがてらのクリスマス散歩と言い訳しつつ彷徨い歩いた。

 鍋、鍋、鍋と。サイレンススズカが出した答えは鍋だった。この寒さに加えて喉を通りやすい食事と言えば鍋である。栄養バランスにも優れ、二人で一つの鍋なら風男が食べられなくてもスズカ自身が食べればいい。完璧なプランであった。

 

 惜しむらくは、鍋料理を提供しているお店の多くが昼営業をしていなかったというところだろう。

 

「スズカー。もう諦めようぜー。俺ぁ疲れたよ」

「……むぅ」

 

 この十分ほどはくるくると駅近くを歩き回っていた気がする。右回りか左回りか。どちらにせよ時間を無駄にした。

 風男の声には未だ余裕があり、言葉とは裏腹に体調は悪くない。歩き回っているとはいえ速度はゆっくりで、隣には支えてくれるスズカがいる。精神的な安心感もあり、かつ歩いたことで体温が上がり元気度も上がっていた。

 

 途中でマフラーを外そうとしたが、スズカが無言で抗議の目を向けてくるという一幕もあり、今も繋いだままでいる。お互いに動きづらさを感じてはいるものの、それを気にして外すほどではない。

 

 トレーナーの手を引いていたウマ娘が立ち止まり、同じようにウマ娘に手を引かれていたトレーナーも立ち止まる。良い具合の二人三脚だった。

 

「スズカ?諦めた?」

「……しょうがないわね。フウくんは何を食べたいの?」

「そこで俺に聞くかい」

「ええ」

「えー。……あったかいもの?」

 

 見つめ合って二人して困惑を浮かべる。あったかいものって何があっただろう。鍋じゃん。温かいものだと色々ありすぎて困るわ。どうしようかしら。と。

 

 無言で数秒が過ぎ、どちらからともなく歩き出す。

 

「ずっと外にいるのも寒いだけだし、とりあえずどこか入ろうか」

「そうね。あそこに行きましょう?」

 

 スズカが指差したのは、まだ新しさを感じさせる背の高い綺麗な建物だった。建物の前は大きく開けて、ちょっとした待ち合わせ場所にも使えそうな雰囲気が漂っている。ベンチや案内板も複数あり、現にこの寒い中座って携帯を見つつ待ち合わせをしているらしい男女の姿があった。

 

「あそこが何か知ってるの?」

「いえ、知らないわよ」

「あ、そう。じゃあなんでそっち?こっちでもよかったじゃん」

 

 と、風男が後ろを指差す。スズカの示した先は道路を越えた反対側にあるので、手間と言えば手間になる。代わって風男の示す先はすぐ後ろ。歩いて十秒もしない場所だ。

 

「こっちって……フウくん、そこは銀行よ?」

「い、いや違う。違うから。そっちじゃなくてこっち」

 

 真後ろの銀行を指差していた風男は慌てて指先をずらす。先には大きな家電量販店があった。

 わたわたとする男の姿を見て、少女(十九歳)はくすくすと笑う。

 

「ふふっ、わかってるわ。からかっただけよ」

「そ、そうだよね。知ってた知ってた」

「フウくんの方でもいいんだけど、そっちは人が多そうだから」

「あぁ」

 

 納得の呟き。スズカが人混みを苦手とするのは知っての通りで、先の待ち合わせ場所ですらわかりやすく合流のしやすい場所を避けたのだ。今思えば、この建物前でもよかったかしらと、彼女は頭の中でそんなことを考える。

 

 気持ちを切り替え、互いに同意したところで横断歩道を渡る。信号のない小さな道路だ。この程度の道なら話なんてすぐ止めてさっさと歩いていればよかったと、淡い気持ちもないこともない。

 ただ、風男もスズカも話をすることそのものが今日の目的とも言えるため、会話は大事なのである。

 

 クリスマスらしい会話を未だほとんどしていないという部分については言いっこなしだ。

 

 建物に入ってすぐ、二人の鼻を料理の香りがくすぐった。ついでに圧倒的とも言える暖かさ。自然とほっと一息をこぼし、ちらりと横目で互いを確認する。同じ仕草をしていたことを見て、ちょっぴりの照れを感じながら足を進めた。

 入口すぐにあった案内板に近寄り、館内全体図を見る。

 

「え、ここ映画館じゃん」

「そうらしいわね。フウくん見たいものある?」

「切り替え早いなぁ。お昼ご飯は?」

「……私、お腹が空いたわ」

「まあそうだよね」

 

 言いつつ時刻を確認すると、既に短針は十二を過ぎて長針も十に近づいていた。スズカが隣から腕時計を覗き込み、"十二時五十分?"と上目遣いに風男を見上げる。

 彼女の頭を撫でながら頷き、男はスズカ、と名前を呼ぶ。

 

「なに?」

「くすぐったい」

「ふふっ」

 

 軽やかに笑って、わざとよと言うウマ娘へ何とも言えない顔をするしかないトレーナーであった。

 

「……と、とりあえず、ご飯だよ、ご飯」

 

 内心の誤魔化しに話を切り替える意味も込めて、改めて食事の話を進める。

 

「ご飯ね。どうするか決めた?」

「いや、え?俺が決めるの?」

「そういう話じゃなかった?」

「どうだろう……二人で考えようねってならなかったっけ」

「そうだったかしら……」

 

 緩んだ頭で見つめ合い、数秒経って同時に目を逸らす。二人ともの顔が赤みがかっているのは気のせいではない。

 なぜならそう、今もまだ二人一組マフラーを首に巻いたままだからだ。

 

 マフラーのサイズが大きめで余裕があるとはいえ、二人で巻くことは想定されていない。簡単に外れないようにするため身体の距離はぐっと詰め、その状態で目を合わせればこれ以上ないほど近い距離に互いの顔があることになる。

 

 手を繋いでいたりするのだから今さらといえばそうなのだが、彼と彼女にとって手を繋ぐ行為は日常の一部となっているため、既に羞恥を覚えるほどのことでもなくなっている。だからこそか、暖かいところに来て今さらに強い羞恥が二人を襲っていた。

 

「うん。ええと、調べるか」

「……うん。私も調べるわ」

 

 顔を見ずに頷き合い、ちょろちょろと辺りに視線を流す。館内図を見てなんとなく予想していたが、どうにも一階に休憩スペースはないらしい。

 

 ため息をつきたいのを我慢し、風男はそっとスズカに目を向ける。

 

「スズカ、ごめん。俺、君の隣で突っ立ってるだけでいい?」

「ん……気にしないで。フウくんこそ大丈夫?歩きっぱなしで立ちっぱなしは大変でしょう?」

「大丈夫大丈夫。スズカがいてくれるおかげで全然平気だから。場所だけ移してちゃちゃっと探しちゃおうぜ」

「そう、ね。ええ、フウくんが大丈夫ならいいわ」

 

 通行人の邪魔にならないよう窓際に寄り、スズカは斜め掛けの桃色鞄から携帯を取り出して食事処を探す。

 対して風男はぼんやりと前を見つめ、一階に並ぶ軽食屋らしきお店を眺める。先ほど見た館内図だとカフェがいくつかあり、他にもちょっとした雑貨屋があった。

 

 今日、風男が買おうと思っていたものはクリスマスケーキとクリスマスニンジンと来年用のカレンダーだった。

 

 ケーキとカレンダーはともかく、数年トレーナーをやっていても未だに人参にかかわるあれそれは意味がわからない部分がある。

 去年はクリスマスを楽しむ余裕などなかったが、二年前はクリスマスニンジンを買った。見た目は普通の人参なのに、口にすると人参グラッセの甘みと柔らかさを持つ不思議料理であった。どうやって作っているのか、今でも疑問しかない。教えてくれれば作るのに……と思わなくもないが、クリスマスだから食べられて美味しいという思いもある。

 

 バーガー屋の月夜見バーガーと同じようなものだろう。

 

 等々考えに耽っていたところで、横からちょいちょいと服の袖が引っ張られる。隣に目を向けると、そこではやけに深刻そうな顔をしたスズカが風男のコートの袖をちんまりと掴んで待っていた。相変わらず距離が近い。

 

 二人揃って恥ずかしさはあってもマフラーを外すことがないのは、やはり今の状況が心地いいからだろう。とりわけスズカは絶対に外さないと心に誓っていた。

 

「フウくん……」

「うん。なによ」

 

 大真面目な顔をするスズカに対し、風男はいつも通りに普通な反応を返す。

 反応の薄いトレーナーに一瞬気を落としつつも、調べたことを伝えようと口を開く。

 

「フウくん。ここの二階、映画館なの」

「知ってるけど……」

「座るところがたくさんあるらしいわ」

「……なるほど」

「行きましょう?」

 

 落ち着いたクールな雰囲気のサイレンススズカだが、実は結構茶目っ気もあることを風男は知っている。今もそんな空気で、何か適当なこと言うんだろうなぁと思っていたらこれである。

 一言目は何を言っているのかとも思ったが、次の言葉で察した。自分の担当ウマ娘は、今もまた自分のことを気にしてくれていた。どれだけこの子は、と。じんわり潤みそうな瞳をそっと逸らして、静かに彼女の頭に手を置く。

 

「……フウくん?」

 

 ウマ耳を動かし、置かれた手がどんな意味を持つのかを考える。

 目前のトレーナーを見つめ、そっと逸らされた瞳を追う。若干斜め上に顔を向けているのと瞳が光を反射したのを見て、風男の内心を察する。

 

 撫でてくれることは嬉しく、心がぽかぽかと温かくなる。けれど今はそれ以上に、この男の照れ隠しが嬉し楽しくてしょうがなかった。

 

「ふふっ」

 

 自然とこぼれた笑みをそのままに、スズカは携帯をしまって風男の手を引く。

 なんともふわふわとした心地で気分がよかった。

 

「な、なに笑ってるんだい」

「いいえ、なんでも」

 

 動揺しておかしな口調になる風男に、さらに笑みを深くする。素っ気なく返事をしながらも、スズカは鼻唄混じりに尻尾を揺らしてエスカレーターへと足を向けるのだった。

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