サイレンススズカとクリスマスにいちゃいちゃするお話   作:坂水木

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5. 食事処探し2

 映画館の壁際木製ベンチに座ったサイレンススズカと常宮(とこみや)風男(かぜお)は、新しくエレベーターやエスカレーターで上がってくる客から好奇の視線を受けていた。というのも、ベンチに座っている人で同じマフラーにくるまっている二人組など他にいないからである。

 

 ウマ娘とそのトレーナーだと判断して視線を向けているのではなく、マフラー一つを二人で巻いていちゃいちゃしている()かっぷる――いや()かっぷるな二人に視線を向けているのだ。

 

 当の本人たちはそんな気は欠片も――とは言わないがあまりなく、スズカの携帯を二人で眺めているのもなんとなくの流れでそうなっただけである。

 

「この辺お店多いねぇ。もう十三時過ぎたし、そろそろどこか入りたいな」

「ええ。どうしようかしら……」

 

 顔を上げ、スズカはむむりと考え込む。顎に手を当てて考え込む仕草はずいぶんと様になっていて、深窓の令嬢といった表現がまさに似合う姿であった。それを真横から眺めるのは彼女のトレーナー足る男、風男。線が細く、事実身体も細い。体重だけ見れば下手をするとスズ――は言い過ぎでもスペシャルウィークよりかは軽いかもしれない、そんな半病人の男である。

 

 風男の視線の先にはスズカの横顔があり、その美しい(かんばせ)をぼんやりと見つめていた。視線に気づき、翡翠の瞳を動かしてほんのり微笑むスズカは、目を惹くほどの可愛らしさに満ちていた。

 

 美人よりも未だに美少女との言葉が近いウマ娘を隣に、風男は携帯へと目を落とす。画面上には周辺のマップが表示されており、多くの食事処が表示されていた。

 今は暖かい場所にいるからいいものの、つい先ほどまでいた外は震えるほどに寒かった。どうせ食べるなら温かいものがいいと、風男はじっと考え込む。 

 

 当のスズカ側も思考を巡らし良さげな案を模索していた。

 鍋がだめだとわかった今は、また新しい案を出さないといけない。こんなにも悩むのは相手がフウくんだからかしらと、そんなことを思い浮かべて頬を熱くする。

 温かいものにするのは前提として、風男の体調面を見て消化にいいものを選びたい。我慢強い人だから、無理やりにでも出された食事は残さないように食べるだろう。スズカ自身も食が細いことを知っているから尚更だ。これがスペシャルウィークやオグリキャップなら……と思わなくもないが、今考えても意味のないことである。

 

 量の調整がしやすく、消化しやすく身体に優しい、そして温かい。

 

 この三つを基準にして、サイレンススズカはすっと携帯を見つめる。周辺地図から画面を移し、適当に現在地の駅名とお昼という二つの単語で検索をかける。ずらりと出てくる情報に悩みつつも、これから食べるならと考え、夕食を鍋に――。

 

「あっ」

「お?」

 

 ふ、っと気づいたことに声を上げる。すぐさま隣に顔を向け、大きく揺れたスズカの髪から甘やかな香りが広がる。

 

 風男は匂いを感じて、安心感を隠すかのように曖昧に笑う。スズカの翡翠色の瞳を見つめ返し、彼女の言葉を待った。

 

「フウくん」

「うん」

「今日、夕食って食べるの?」

「……」

 

 思ってもみなかったことを問われ、無言で頭を回す。

 そういえば……という話である。

 

 そもそものプランが緩く、今日はいつまで外にいるか考えていなかった。買いたいものはあり、それを買って持ち帰るというのは考えていた。他にもちょろちょろと見回ったり、スズカも買い物があるだろうと――事実買い物は済ませた――考え、それなりに時間はかかるかなと思ってはいた。

 ただ、夕食までと聞かれると困る。なので、正直に伝えることにする。

 

「どうしよう。考えてなかった。スズカって今日フジキセキさんに話してきた?」

「ええ。一応トレーナー……フウくんとお出かけしてくるとは伝えたけど」

「ふーん……え、もしかしてフジキセキさんに"フウくん"とか言ってるの?」

「?フウくんはフウくんでしょう……?」

 

 こてりと首をかしげるスズカを見て、何とも言えないもどかしさが胸の内に広がる。スズカの言う通りではあるけれど、けれども。だからといってフジキセキにも平然と言っているとは……。悩みつつも、今さらかと諦める。本当に今さらなのだから仕方ない。受け入れた方が早い。

 

 にしても、と頭を切り替える。

 スズカはまだトゥインクル・シリーズを完全に終えたわけではない。そもそも厳密にいえばドリームシリーズに進んだウマ娘や引退したウマ娘以外は全員がトゥインクル・シリーズに参加していると言える。

 日本を出て海外をメインに走るウマ娘であっても、日本で開催されるレースに参加する権利はある。もちろんそれは人気や収得賞金に左右されるものではあるが。

 

 スズカの場合、今は休養中だ。ウマ娘としては遅めの本格化で三年間走り、来年には二十歳という節目を迎える今は全盛期を過ぎたと言える。というより全盛期の時に骨を折ってしまったため以降リハビリ中である。

 明確にウマ娘の本格化についてわかっていることは少ないため、スズカの走力がこれ以上伸びない、と言い切ることはできない。むしろ、トレーナーである風男としてはまだまだ先があると思っている。

 

 ようやく走れるようになってきたのだ。自分は無理でも、スズカはまだ走れる。

 トレセン学園の方もそのことは承知しており、サイレンススズカは今現在も在籍中で、寮暮らしも変わらずそのまま。スズカが暮らす栗東(りっとう)寮の寮長はフジキセキであり、彼女の年齢はスズカはもちろん風男より上だった。

 

 細かい年齢を風男は知らないし聞こうとも思わないが、少なくとも年上であることは知っている。

 病院暮らしから解放され、トレーナー用の宿舎暮らしに戻った風男はともかく、スズカは寮暮らしらしく門限がある。二十二時から翌朝の五時三十分までの間は基本外出禁止というルールがあるので、その点を聞きたかった。

 

「――フウくん?」

「え?なに?」

「いえ、考え事?」

「あーうん。いつ頃帰るかなーって考えてた」

 

 とりあえずフジキセキに伝えているなら、ちょっとばかりの遅刻は許してくれるだろう。最悪電話を一本入れればそれでいい。 

 スズカが怪我したことと、自分が大怪我したこととで、栗東寮の寮長であるフジキセキには結構な迷惑をかけた。献身的に見舞いに来たスズカに付き添ってくれることもあれば、時間に融通を利かせてくれることもあった。

 

 チームスピカの沖野トレーナー同様、風男の頭が上がらない相手の一人だ。

 

「そう……夕食は食べないのね」

「うーん、迷うんだけどね。寒いし、これからお昼だと夕飯遅くなるでしょ?さすがにそこまでは外にいないかなーと」

「そうね……」

 

 見るからにしょんぼりとし、わかりやすくウマ耳が垂れるサイレンススズカに風男は苦笑する。だから、というわけではないけれど。

 

「――夕飯は食べないけどさ、今日ケーキ買って帰るつもりだったんだよね」

 

 続けられた男の言葉に、少女は耳を傾ける。下向きだった顔が上がり、瞳が期待の色を含む。

 

「スズカのおかげでトレーナー室もらってるし、どうせならそこで一緒に食べない?」

 

 笑顔で聞いてくる風男に、スズカは柔らかく微笑んで頷いた。

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