人間は魔物よりも遥かに脆弱である。
ゴブリン一匹でも一般人では倒せないし、ましてや魔物の頂点である魔王になんて勝つのは、人間には到底不可能だ。
だから、俺には彼女が可哀そうに見えてしまう。
「準備は出来ているかしら、ギャルド」
魔物を弱体化させる結界を設置した俺に、我らが聖騎士団長様が最終確認を行う。
「はい、結界も問題なく発動してますよ」
魔方陣を土で隠し、ならしながら答える。
「そう。それは良かったわ」
「……団長、やっぱり俺も加勢した方がいいんじゃないですか?」
「気持ちはありがたいけれど、これは私の復讐。もし手を出してきたのなら、例え貴方でも殺してしまうかもしれないわ」
鋭い目つきをこちらに飛ばしてくる聖騎士団長様に、俺は背に汗が流れるのを感じた。
分かってる、分かっているさ。
その言葉が嘘ではないことぐらい、誰だって分かる。
だけど、それと同様に彼女を一人で向かわせてしまう危険性も理解している。
「相手は
「知ってるわ」
「なら!復讐のためとはいえ、ここは俺と一緒に挑むべきです!リスクはできるだけ少なくした方が良いに決まってます!」
「……却下ね。私は自分の復讐のために誰かの手を借りる気はないの。死んでしまったのならそれまでだっただけよ」
それに、私は負けるつもりはないもの。
そう続けた団長の言葉は間違っていない。
彼女は俺が知っている人間の中で最も速く、強い。
俺だって団長が負けるとは思っていない。
ただ、相手は何をしてくるか分からない魔物だ。
もしかしたら、があるもしれないのだ。
「……そんなに言うのなら、敢えて私も言わせてもらうけど」
団長は俺の心の中を見透かしたような目をして、剣の柄に手をかける。
「貴方程度の実力じゃ、ただの足手まといよ」
「―――――――――ッ!」
いつのまにか振り抜いていた、団長の剣先が俺の鼻を掠る。
「……受け、取り方によっては、背任行為と見なされますよ団長」
「別にいいわよ。私の覚悟が貴方に伝わったのなら」
「……ッ」
その言葉に、俺は唇を噛むことしかできなかった。
俺は弱い。
十大聖人なんて呼ばれてるけど、その中で俺は最弱と言っていい。
槍の腕前もそこそこで、他より秀でたものといえば炎系統の魔術のみだ。
最弱の俺と、聖騎士最強の団長。
団長と俺には、立場の関係どころではなく、れっきとした実力差が存在するのだ。
だから団長が、俺のことを足手まといと呼ぶのは至極当然のことだ。
「それじゃあ、よろしく頼むわよギャルド」
去っていく団長に、俺はただ拳を握り締める他なかった。
……ちくしょう、俺に、俺にもっと力があれば―――――――――
気づいたら赤ちゃんになって、もう早百数年。
“東の帝国”やら“竜種”などの存在を知り、この世界が転スラの世界だということを悟った俺は、日々武芸の練習に励むことになった。
全ては原作キャラに会うために。
憧れの世界にやってきて、原作キャラに合わない奴がいると思うだろうか。
断言しよう、そんなものはオタクではないと。
例えこの身がどうなろうとも、俺は原作キャラに会いたいんだッ。
その足掛かりとして、俺は聖騎士になることを決意した。
ぶっちゃけ、キツイねん。
なんか二次創作のオリ主みたいにチートな能力とか発現しないし、ご都合主義な才能チートもまるで実感できない。
そろそろ自分の才能の限界を感じ取っていた頃だったし、原作キャラに会うのと同時に師範してもらうのも良いのかもしれないと思ったからだ。
そして、聖騎士の総本山とも言える神聖法皇国ルベリオスに向かった俺は、心の内のどこかに芽生えていた『自信』をぼっこぼこに壊された。
それもう、ずたぼろに。
聖騎士って怖いなぁと思いながら団長の剣を全身に受けていたのは今も覚えている。
今でも夢に出ては俺を苦しめるほど。
別に、俺の身体に秘められた可能性的なやつが開花してもよかったんだよ?
俺はいつ開花してもいいので、ね。楽しみにさせてもらうぜ(涙目)
それからなんやかって、俺は十大聖人の一角にまで昇り詰めた。
人類の守護者と呼ばれる、超人の集団に。
え?それまでの経緯が知りたいって?
いいけど、ただただ団長にボコされるだけの物語になるがね。聞きたくないだろ。
俺も話したくない。うっ、頭が……。
ああそう、もう分かっているとは思うが、俺が言っている“団長”とは
転スラを語るには欠かせない、原作屈指のメインキャラ。
先も言った通り人類の中でもかなりの強者の部類に入り、たびたびみせるヒロイン顔にファンもご満悦したことだろう。
まあ、今はリムルとは恩師の仇みたいな関係になってしまっているのでデレもクソもないが。
現時点では、俺の中で最強な存在である。
―――――――――それと、もう一つ俺が聖騎士になって気づいたことがある。
十大聖人にはそれぞれ二つ名を付けられる。
例えば、副団長のレナードは得意な魔法が光系統なので“光”の貴公子と呼ばれている。
率直すぎね?と思うかもしれないがネーミングセンスについては十大聖人の時点でお察しである。
そして、俺についたのは“炎”のギャルド。
……なんか聞いたことがある名前だね。
そのことに気づいたときは、それはもう恐怖したものだ。
そりゃそうだよね、俺って殺される運命にあるんだもの。
今ではその恐怖も乗り越えて、原作キャラに会うことに全力を捧げているが……それでも警戒を怠ったことはない。
テンペストの面々はともかく、
―――――――――だから、
「―――――――――ッ!」
「おっと」
―――――――――俺は、原作の道を辿らなきゃいけないんだ。
例え、それが大きな被害をもたらすことを知っていたとしても。
俺は背後から迫っていた刀を槍で流し、その場から距離を取る。
大丈夫。何度も何度もシュミレーションしてきたんだ。
こんなところでヘマするようじゃ、この先生きていけないぜ、俺。
俺は高揚する心を落ち着かせるように、自分に言い聞かせ、ゆっくりと
「青い髪、額には白い一本角……情報にあった顔だな」
「………貴様と話すつもりはない」
「へっ、それは残念だよ―――――――――
俺は、原作キャラに槍を構えた。
映画化を祝して。
好評だったら続くかも。