刻渡りの勇者   作:嶽山

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西暦編 12.彼岸花は風に舞う

バサリ、千景は目の前の女学生...かつての自分をいじめていた同級生達の足元に罵詈雑言が書かれた紙を投げ捨てた。

 

これらは全て郡家に投げ込まれていた物だ。

 

高知の実家の惨状は悪化の一途を辿っていた。

 

勇者の戦闘の影響が一般市民の生活に何らかの影響を及ぼす事は周知されており、その怒りの矛先は勇者の千景へ、元々村内の腫れ物扱いだった郡家へと向けられていたのだ。

 

『私達は戦ってる』

 

『一生懸命、戦ってる』

 

『なのに何故...?』

 

『何故こんな目に会わないといけないの?』

 

『どうして?』

 

『どうして...?』

 

『許せない...』

 

『許せない...』

 

「許せない...!!!!」

 

千景は勇者システムを起動させ瞬時に大鎌を振り上げると目の前の少女に躊躇いなく振り下ろした─

 

しかし

 

振り下ろされた刃は少女の目の前で割って入って来た長刀によって防がれていた。

 

「あ、危ねぇ...。どうにか間に合ったな。」

 

「...ッ!結嶋君!?」

 

「探したぞ千景。どうした、揉め事か?」

 

「ふざけないで!あなたには関係ない!!」

 

「...いや、そうでも無いさ。ここに来るまでお前の事で色々知って俺も今じゃ半ば関係者だよ。」

 

「何をッ...!?」

 

「花本さん。」

 

奈津雄は後ろで控えている一緒に来てくれた巫女、花本美佳へ声をかける。

 

「気は進まないだろうが後ろの連中を安全な所へ頼む。」

 

「...はい、解りました。どうかご無事で。どうか郡様を、郡様をお願いします。」

 

「任された。」

 

美佳が千景に殺されかけた女学生達が離れたのを見届けて奈津雄は切り出した。

 

「...さて千景、こっからは俺が相手になるよ。」

 

「だからさ、お前が今まで溜め込んでた物全て吐き出しちまえ」

 

「それで、全部吐き出したらさ、帰ろうぜ。丸亀城に。」

 

「...あなたにそんな事話した所で!!」

 

「溜め込むから悪い方向に行くのさ。吐いちまえばいい」

 

長刀が大鎌に押し切られる

 

「父はろくでなし、母はそんな家族に見切りを付けていなくなって...!」

 

「残された私がどんな仕打ちを受けて来たか分かる!?」

 

「あの親のした行いが全て私のとこに来た!」

 

千景の斬激が続く。彼女の気迫の乗った独白に奈津雄は防戦一方だった。

 

「でもあの日、勇者に選ばれてやっと変わったの!解放されたの!!」

 

「皆が私を見てくれる!愛してくれるんだって!そう思って戦ったのに!」

 

「…なのに、これは何?何なのよ…結局何も変わらなかった...」

 

「大社に言われて帰って来たけど歓迎される所じゃなかった...!」

 

「もう嫌なの!」

 

「だから!!」

 

「だから全部終わらせてやるの!!!!」

 

千景の身体から力の奔流が迸る

 

『切り札か…!!』

 

先日のスコーピオンバーテックスとの戦闘で奈津雄にも切り札じみた力が発現したがあれ以降いくらやっても力の発現は出来なかった

 

『これは...どこまで耐えられるか...』

 

「あああああぁぁぁぁっ!!!!」

 

先程よりも早く、鋭く千景の斬激が奈津雄を襲う。

 

「ぐぅっ!!!!」

 

捌き切れず吹き飛ばされた奈津雄は木の幹に叩き付けられた。

 

「…。」

 

白い強化装束に身を包んだ千景が鎌を引きずりながら一歩づつ、ゆっくりと迫る。

 

「...なぁ、千景。確かにお前の故郷の連中お前に対してはそうだったかもしれない...」

 

「けど、けどさ...一緒に戦って来た連中の事を忘れてないか。」

 

「確かに一般人や大社の連中からは勇者の戦いは見えないよ、どんな事してるかも憶測でしか知らない。」

 

「それでも一緒に戦う千景の頑張りは若葉や球子に杏、ひなたに離れてはいるけど花本さん…それと友奈が一番よく知ってる。」

 

「俺だってそうさ」

 

「お前は俺達が認める立派な勇者だよ。」

 

「千景はそれすら否定して壊すってのか...?」

 

「...っ!!!!」

 

「私は…」

 

千景の足が止まる。

 

『あなた、結嶋君の事、本当に信じられて?』

 

『この人だって大社と同じ…貴方という道具を失いたくない為にここにいるかもしれないのよ?』

 

『結嶋奈津雄は貴方の敵よ』

 

切り札の影響による千景の影が悪意をもって彼女の心に語りかける。

 

「私は…私は…!!!!」

 

『敵は...怖いものは全部、倒さなくちゃ』

 

「私...は...。」

 

千景の切り札の能力、七人御先が発現した。身動きの取れない奈津雄に千景の分身体達が一斉に襲い掛かる

 

「千景…!!!!」

 

七人御先達に奈津雄を羽交い締めにさせた千景は大鎌を振り翳す。

 

「終わりよ!結嶋奈津雄…!!!!」

 

大鎌が奈津雄の腹部に深く突き刺さった。

 

「がっ...!!!!はぁ.......っ」

 

激痛が駆け巡る。

 

『ああ、クソッ!、これは…。』

 

『ダメだ...これじゃあ...!』

 

奈津雄は片膝を付く、痛みが強くもはや動く事は叶わない。

 

千景を助けなきゃいけないのに。

 

『あ...千、景...ごめんな...』

 

奈津雄の意識が遠のき始めようとするその時だった。

 

「ぐんちゃーん!!!!」

 

桜色の影が二人の間に舞い降りた

 

「勇者...!パァーンチ!!!!」

 

友奈の渾身の一撃が千景に叩き付けられれた。

 

千景は防ぎきれず友奈ともみ合いながら転がって行く。

 

そして漸く止まった先で友奈は呆然とする千景を抱き締めていた。

 

「た、高嶋さん…!?」

 

「ぐんちゃん!!」「ぐんちゃん!!」

 

千景を抱き締めながら友奈は泣いていた。

 

「ここに来るまでね、聞いたよ。ぐんちゃんの全部。」

 

「仲良くしてても、私全然ぐんちゃんの事知らなかった…!」

 

「気付いてあげられなくてごめん…ごめんね」

 

「高嶋さん…。」

 

「私、怖い、怖いのよ…!」

 

「大丈夫だよ、ぐんちゃん。何があってもぐんちゃんの事は私が守る。皆も一緒だよ!」

 

「だから…帰ろう。皆の所に。」

 

「もう…大丈夫。」

 

「高嶋…さん…」

 

「大丈夫、だから...!」

 

千景の切り札が解除されていく。

 

友奈の言葉が、最後に漸く千景の心に届いたのだった。

 

――――――――――――

 

「よう、生きてるか?欠番勇者」

 

「またその呼び方ですか烏丸先生…」

 

「もうじき救護班も来る。」

 

「千景達は…?」

 

「無事だ。大した怪我も無い。」

 

「良かった...それで、首尾の方は?」

 

「先程上里から連絡が入った。そちらも問題無しだ。」

 

今回奈津雄が用意したもう一つのプラン。

 

ライブ配信機能付きドローンを積んだ車で久美子に先行して高知の千景の実家に向かい、千景が暴走した際に機材を機動。

 

そこに奈津雄が止めに入り彼女の事情を聞き出しながらライブ配信で大社本部に流しその際にひなたを解説役にし、彼女の事情から勇者の道具扱いする考えを改めさせ、また切り札の影響による危険性をその目で知らしめる為であった。

 

友奈に関しては奈津雄自身、千景を止めるのに力不足を感じたので止めにと呼んだと言うわけだ

 

殴って止めるとまでは予想してなかったが…

 

大社側の行動が此方の予想を上回ってたのは完全に予想外ではあった作戦は完遂したと言える。

 

また一つ、勇者の直面する危機を回避する事が出来た。

 

「…。」

 

危うい所ではあったが今回もどうにか出来た。友奈の助けが無かったらどうなっていたか…。

 

『千景、無事で良かった』

 

奈津雄は満足して意識を手離した。

 

――――――――――

 

「う...」 

 

奈津雄はゆっくりと目を覚ます。今回もまた病院のベッドの様だ。

 

「...起きたのね。」

 

ベッドサイドの椅子に腰掛けて携帯ゲームをしていた千景がヘッドホンを外しながら言った。

 

「千景...。」

 

「まだ動いてはダメよ」

 

起き上がろうとした奈津雄を千景が止める。

 

「結嶋君...今回の事、本当にありがとう...それとごめんなさい。」

 

「あなたと、高嶋さんのおかげで私、気付けたわ…皆は友達として私を愛してくれてたって」

 

「何だか、とても悪い夢を見てたみたい...」

 

「でもそれももう終わり。これからは本当の意味で前を向いて行ける…私として、勇者として、皆と一緒にね。」

 

「...そうか。」

 

「それと私の家族ね、香川に引っ越したの」

 

「...!?じゃあ、あの村には!」

 

「ええ、もう二度と戻る事はなくなったわ。」

 

千景はあの村から漸く解放されたのだ。

 

「それじゃあ、そろそろ私は行くわ。また来るわね。」

 

「なぁ、千景。」

 

「今度さ、一緒にゲームやろう」

 

「...えぇ!覚悟しなさい、容赦しないわよ。」

 

千景は満面の笑みでこたえた。

 

それは奈津雄が初めて見た、彼女の心からの笑顔だった。

 

----------------

 

本当に目まぐるしい一件でした。

 

千景さんの事、現状を大社本部へ映像付きで訴えた事、体制に変化が起きる事...

 

でもそんな中で友奈さんや花本さんが、そして彼が果敢に行動してくれたから解決へたどり着いたんだと思います

 

今回も彼はボロボロでしたね。烏丸さんが付き添ってましたが気に入られてるんでしょうか

 

彼が聞いたらきっと不服に思うかもしれませんけどね

 

 

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