刻渡りの勇者   作:嶽山

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西暦編 14.思い出したくなかった

「…。」

 

病院の屋上のベンチで奈津雄は一人ぼんやりと空を見上げていた。

 

あれから傷は完治し後は退院までの数日を待つばかりとなっている。

 

奈津雄の頭は今まで考えないようにしていた方向へと傾いていた。

 

そういえば元いた世界、自分が死んだ地球ってどうなったんだろう?

確かバーテックスは人類にのみ攻撃性を示す生物だからあちらに残ってるのは人間を除いた動植物のみとなる。

 

人間がいなくなった世界、おそらく蝕まれていた環境は急激に回復しつつあるのだろう。それはこちらも同様で若葉達からも聞かされた事がある。

 

…多分あの混乱じゃ家族は生きていないだろう。

 

後悔があるとすれば、両親の死に目に立ち会えなかった事…。

 

そして最近の自分は徐々に親のいない寂しさに苛まれてる。

 

神樹に言われるがままこの地に来て、頼まれ事をこなし敵と戦う。

 

考える余裕すらも無かった

 

丸亀城に寮はあるものの、奈津雄は異邦人でありこちらには戸籍も帰る家も、待ってる人もいない。

 

「ホームシックかよ…」

 

考えないようにはしていたが溢れ出てしまった。

 

いつの間にか、つぅと頬を伝って涙が落ちて行く。

 

父に、母に、また会いたい。会ってちゃんとさよならを言いたい。

 

独り泣く。嗚咽が、風にのまれて行く。

 

周りの勇者も千景の様な例外を除いて似たような境遇だと聞いたが普段見せないだけで実は色々と抱えているのかもしれない。

 

青空を睨む。涙が溢れるのはまだ止まりそうにない。

 

「…結嶋君?」

 

背後から遠慮しがちな声がかかる。慌てて涙を拭う。

 

「千景…。」

 

そこには病衣にカーディガンを羽織った千景が立っていた。

 

顔色はかなり良くなってる。友奈と花本さんの尽力のおかげだろう。

 

「隣、いいかしら?」

 

「ああ」

 

「いいのかよ、出歩いて。」

 

「それはお互い様。私はもう元気なんだから」

 

「ふふ…そうだな。」

 

「ねぇ…さっき、何を泣いてたの?」

 

「…。」

 

見られていたらしい。

 

「私もね、高嶋さんみたく上手くはいかないかもしれない」

 

「でもあなたの抱えてる物、和らげてあげられると思うの。」

 

「だから…話してみて。」

 

「今度は私があなたを助ける番よ。」

 

「千景…。」

 

変わっな、千景…前よりも強さとそれ以上に暖かな優しさを感じる。

 

話してみよう。今なら…今だったら。

 

奈津雄は千景に胸の内に仕舞っていたポツリ、ポツリと話し始めた。そんな奈津雄にたまに相槌を付きながら優しく聞いてくれた。

 

「…とまぁこんなとこ。」

 

「そう…。全部吐き出せた?」

 

突然千景が立ち上がると奈津雄の正面に立つ。

 

「?おい、千景?」

 

「私は…口下手だからこういう風にしか出来ないけど」

 

そう言って両手を広げたそのまま千景は奈津雄を強く抱き締めた。

 

「頑張ってたのね今までずっと…」

 

「…うん。」

 

千景の暖かな体温と言葉が奈津雄の心に染み渡って行く。

 

それは遠い昔、母がそうしてくれた事と同じだった。

 

いつの間にか自分も千景の背に手を回していた。

 

いつまでそうしていただろうか、お互いに身を離す。

 

少しだけ名残惜しさを覚える。

 

「その、ありがとう千景。」

 

「俺さ…」

 

続けようとした奈津雄の口を千景の人差し指が塞ぐ。

 

「それ以上は良いわ。」

 

「そ、それよりも!今の事は他言無用よ?」

 

「…解ってるよ」

 

苦笑しながら答える。

 

「次の御役目もあるし、もう戻りましょうか。」

 

「そうだな。」

 

二人して屋上を出る。

 

だが二人は気付いていなかった。

 

屋上の物陰、若葉、ひなた、球子、杏、友奈が五人が一部始終を見ていた事に。

 

「…。」

 

そして彼女達の胸の内、奈津雄を抱き締める千景を目にした時から理由もわからないざわめきが芽生えていた。

 

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彼がここに来る前の事を聞いたのはこの時が初めてでした

 

連戦続きでしたからね、私達も聞く余裕が無くて

 

それを聞いた千景さんにはちょっと妬けちゃいました

 

あ、これは内緒ですよ

 

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