刻渡りの勇者   作:嶽山

19 / 36
西暦編 18.勇気のバトン

奈津雄達の目の前、倒した筈の大型バーテックスが尋常じゃないスピードで再生をしていた。

 

友奈が地中から引き摺り出してタコ殴りにした潜航型も混じっている辺りオールスター集合と言った感じだ。

 

『敵さんも考えを変えて来たって訳か…』

 

内心で溜め息をつきながら奈津雄は考える。

 

「何度再生しても構うもんか!もっかいタマが!!」

 

「よせ!!!!」

 

「な、…何だよ奈津雄…」

 

飛び出そうとした球子を奈津雄は急いで止めた。

 

「よく見てみろよ。補充に充てるバーテックスは俺達じゃ対処出来ないくらい残ってる。このまま繰り返してたら負けるのは…俺達だ。」

 

「なら奈津雄、この戦局どう覆す?」

 

若葉が静かに問い掛ける。

 

「一つだけ…、一つだけ方法がある。初めてやる事だし殆ど賭けになるけどな。」

 

「ここで同じ方法で連中とやり合うか、俺の賭けに乗るか。…どうする?」

 

――――――――――――――――

結局若葉達は奈津雄の賭けに乗る事にした。今は切り札を解いて補修されるバーテックス軍のかなり後方に下がって来ている。

 

「それで奈津雄君、賭けになるかもしれない作戦って何なの?」

 

「ああ、こないだ訓練中に偶然見付けたんだけどさ…」

 

奈津雄は片方の掌に力を込める。すると、蒼黒く光るリレー競技に使われるバトンの様な物が現れた。

 

「それは?」

 

「外に出した俺の力を形にした物。このまま力を込めれば大きく出来るし、手から離しても暫くは消えない。」

 

「タマ、今からこれ投げるから軽く殴ってくれ。」

 

「お!?おぉ…解ったよ。」

 

奈津雄は球子から十分に距離を取った。どうなるか…

 

「何が始まるんだ…?」

 

「さぁ…」

 

若葉や杏達は奈津雄のやろうとしてる事がさっぱり解らないと言った感じだった。それは指名された球子もまた同じだ。

 

「んじゃいくぞタマ!外すなよ!!」

 

奈津雄は光のバトンをタマに向かって放り投げた。

 

「解ってる…よ!!」

 

球子の拳がバトンに直撃する。その途端、バトンは何倍にも巨大化し轟音と共に地面に落下した。

 

「うわっ!?」

 

「なっ…!」

 

「えぇー!?」

 

「嘘…。」

 

「成功だな。これ俺の力だけじゃなくてお前達の力を注いでもデカくなるみたいだ。」

 

「どうするの…これ。」

 

「今から敵陣間近まで一人づつ間隔を明けながら並ぶ。」

 

「並びはこうだ。スタートは俺、次は杏、タマ、千景、若葉、そしてアンカーは友奈だ。」

 

「俺が全力でデカくしたバトンを投げるから後の皆も同じ様にやってくれ。」

 

「タマが軽い力を込めただけであれだけデカくなったんだ。全員で繋いだら…」

 

「多分大型も補修用のバーテックスも纏めて吹き飛ばせる、と…」

 

「恐らくな。友奈をアンカーにしたのは酒天童子の力で敵陣に打ち込めば最後にもっと被害を敵に出せると思ったから。」

 

「友奈、アンカー頼めるか?」

 

「うん…!私やるよ!!」

 

「決まりだな!早速取り掛かるぞ!!」

 

全員が配置に着いた。

 

奈津雄は掌にバトンを構成し槍投げの姿勢を取ると、身体の内からありったけの力を込め始めた。

 

『これが成功すれば結界は強化される』

 

『この一撃で…!』

 

『この一撃で終わらせてやる…!!』

 

全身が軋み始めるがそれでも奈津雄は止まらない。

 

限界を、限界を超えていく。

 

「…ッ!今だ!タマ!!」

 

奈津雄は光のバトンを球子のいる地点に向かって全力投球した。

 

「任せタマえ!行くぞ!輪入道ー!!!!」

 

「うおぉりゃあぁぁぁぁッ!!!!」

 

球子が切り札を発動し旋刃盤で思い切り殴り飛ばす。

 

球子の力を乗せられたバトンは更に大きく、太くなり飛んで行く。

 

「杏ー!そっち行ったぞー!!」

 

「タマっち先輩!…よーし!来て!雪女郎!!」

 

「飛んでけぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

続いて杏が切り札を発動、杏の全力が込もった極太の光の矢がボウガンから放たれバトンに直撃、強く押し出しながら更に大きくさせる。

 

「千景さーん!お願いします!!」

 

「解ったわ…!七人御先!!!!」

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

七人御先を発動した千景、六人の分体が一人づつバトンを大鎌で打ち飛ばし最後に千景本人が全力を持って更に先に打ち飛ばした。

 

「乃木さん!頼んだわ!!」

 

「ああ!任された!!」

 

「降りよ…大天狗!!!!」

 

「これを…友奈に!繋ぐ!!」

 

大天狗の切り札を発動した若葉が生太刀をフルスイングしてバトンを打ち飛ばした。

 

「来た…!来い!!酒天童子ぃッ!!!!」

 

酒天童子をその身に宿した友奈が高く高く舞い上がる。

 

彼女の元に来たバトンは直径も全長も数十kmを超えており最早バトンとは言えないサイズになっていた。

 

『皆が繋いだ思い…!』

 

『皆の勇気を乗せて…!!』

 

「勇者!!バトン!!パーンチ!!!!」

 

超巨大と化したバトンに酒天童子を発動した友奈の全力の拳が叩き込まれる。

 

友奈の拳に込められた力を受け、凄まじい巨大化を遂げた。

敵陣を遥かに超えた大きさで急速落下して行き、体制を建て直した6体のバーテックスと周囲の補修型を光の奔流に飲み込んで消滅させて行った。

 

直撃の際に生じた光とバトンが落下した際の大旋風が巻き起こり樹海内は大荒れとなっていた。

 

吹き荒れる旋風に耐えながら奈津雄は必死に目を凝らす。

 

バトン、と言うより巨大な光の柱は最終的に敵陣を遥かに上回る規模になっていた。

 

これをバーテックス達は受けたのだ。流石にもう生きてる個体はいないだろう。

 

「どうやらやったぽいな」

 

端末のレーダー機能に敵影無し、勇者も全員生存が確認できた。

奈津雄は端末に向かって皆に呼び掛ける。

 

「こちら奈津雄。皆無事?」

 

「土居球子、以上無しだ!」

 

「伊予島杏です。此方も問題ありません。」

 

「郡千景、無事よ…凄かったわね…」

 

「乃木若葉だ。私も無事だ。こちらから目視する限りバーテックスは全滅みたいだな。」

 

「た、高嶋友奈。生きてまーす…もう疲れたよ…」

 

奈津雄達はギリギリの賭けに勝った。神樹の結界の強化への時間は稼げたのだ。

 

「ってか奈津雄」

 

「あん?」

 

「あれはちょっと、予想外にやりすぎだ!タマ大風で飛ばされるとこだったぞ!!」

 

「いや、俺だってあれは予想外さ!あんなデカくなるなんて思わなかったし…」

 

「結嶋君が悪いわね…」

 

「奈津雄のせいだな」

 

「ですね~…。」

 

「奈津雄君が悪いから晩御飯は奈津雄君の奢りで…」

 

「「「「「賛成!!!!!」」」」」

 

「と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛! ! ! !」

 

奈津雄の叫びが、敵のいなくなった樹海に響き渡るのだった。

 

------------------

 

死力、文字通り死力を尽くした戦いは勇者達の勝利で終わりました。

 

ふふ...まさか彼が最後にあんな隠し玉を用意していただなんて私も知りませんでしたよ

 

これで神樹さまの結界強化は果たされ、大社の立てた作戦は成功に終わりました

 

終わった、はずだったんです

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。