刻渡りの勇者   作:嶽山

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西暦編 22.旅立ち

奈津雄の端末に異変が起きたのは結界強化の戦いから帰還して数日後の事だった。

 

端末の画面に表示されたリミット表示は故障か何かかと焦ったがその晩、就寝中に神樹からのメッセージがありこれがメッセージの内容に関わる事だと理解した。

 

次の時代に関わる事態へサポートに行く、神樹から下った辞令である。

 

ただ次の時代へと言われてもどの様に行くのか全く検討が付かなかった。

 

神樹からは目的以外に情報が下りる事は無かった。

 

自分は一体どうなってしまうんだろう?

 

奈津雄は一人ベンチに座りながら考えていた。

 

今日の丸亀城には奈津雄一人、今回彼を覗いた勇者達とひなた達だけが大社本部へ出向いていた。

 

そこに

 

「あ、いました!奈津雄さん、お預りしていた端末です、お返ししますね。」

 

「あ、あぁ…ありがとうひなた。」

 

「どうしたんですか?」

 

「ん?…まぁ色々と思う事があってな。」

 

奈津雄は丸亀城内の広場でひなたから頼まれて貸し出した自身の勇者端末を受け取った。

 

なんでも大社の開発セクションに持って行って再度調査をするとかだったらしい。

 

若葉達の勇者の方は何の用だったかは判らず終いだったが。

 

「前にも一度見て貰ったが中身がどうなってるか何も判らなかったんだろ?何したんだ…あれ」

 

奈津雄は手に持った端末の感触に違和感を覚える。端末の裏側、規格に綺麗に添うように何かが増設がされていた。

 

「え、何これ?なんか増えてるぞ」

 

「確かに中身を調べる事は出来ませんでした。しかし!外付けでこれからの貴方に役立つと思う機能を付けちゃいました!」

 

「…因みにどんな?」

 

「ふふふ、内緒です♪」

 

大丈夫なのかこれ…

 

--------

奈津雄の端末に表示されたリミットは残り数日が迫っていた。

 

最後だからと若葉と友奈からはみっちり剣術と格闘技を仕込まれ、球子と杏、真鈴に連れ出されキャンプにも行った。

 

千景とは夜通しゲームに付きわ会わされたりと、皆奈津雄との別れの間にやれる事をしてくれた。

 

そしてそこから更に数日、リミットがいよいよゼロに差し掛かろうとしていた。

 

丸亀城の広場には若葉達五人の勇者、ひなたを始め真鈴、美佳の巫女組と久美子が集まっていた。

 

「奈津雄…寂しくなったらいつでも帰って来いよ?」

 

「タマっち先輩…」

 

「こーら、球子!杏も!ちゃんと笑って送り出さないとダメでしょ!?」

 

球子も杏も今にも泣き出しそうな顔で言い、そこに真鈴が二人の頭を抱き寄せながら宥める。

 

「うん…そうだな。もしそれが叶うならさ、この丸亀に帰って来るよ。約束だ」

 

思い返せばこの世界に来て最初に出会ったのは彼女達だったな。華奢な身体に武器を携えた彼女達には驚かされたっけ。

 

「奈津雄君、お別れは寂しいけど…何処に行っても、辛くても、私達との事忘れないでね!」

 

「友奈…、ああ!忘れない!」

 

友奈は最後まで元気なままだ。この元気さと明るさがこれからも続くのを願うばかりだ

 

 

「結嶋君…私その、色々あったけど貴方のおかげで本当に助けられたわ。」

 

「結嶋様、郡様の事、本当にありがとうございました」

 

「まぁあの件は私の活躍が大きかった気がするがな」

 

「最後まで先生は…。千景、確かに色々あったけど、お前は変われた。」

 

「千景の周りには花本さんや友奈達、支えてくれて、助けてくれる人がいる。」

 

「千景のこれからはまだ長いだろうけど辛い時はちゃんと周りを頼るんだぞ」

 

「そうね…、そう。私にはこれからがある。判ったわ」

 

暴走の果てに家族と故郷の問題から解放され、お役目を終えた千景。彼女の人生はここからスタートするのだ。

 

「奈津雄」「奈津雄さん」

 

「若葉、ひなたも。」

 

「本当に世話になったな。お前と出会わなかったら私達はどうなってたか正直判らない…。」

 

「そんな大した事はしてないさ。俺はただ、やれる事をやった…」

 

「謙遜しないで下さい。若葉ちゃんの言ってる事、本当ですよ」

 

「うん…。」

 

「天の神にはああしてやられたが私達はこれから先の時代に向けて動こうと思う。」

 

「もう大人の方達に任せておけなさそうですからね…手始めに大社を乗っ取ろうと考えてます♪︎」

 

「物騒だな!?まぁ、お前達なら大丈夫だろうけど…」

 

「今日は私達が守って行く。未来は奈津雄、お前が救ってくれ。いずれ現れる次の代の勇者と。」

 

「責任重大だなこりゃ。了解、任された。」

 

リミットがいよいよゼロに差し掛かる。

 

「お、そろそろか。」

 

「じゃあ俺、行くな」

 

「未来で、必ずこの事態を終わらせて来る」

 

奈津雄の身体が光に包まれ始めた。これは神樹に最初に呼び出された時の…

 

「奈津雄!」「奈津雄さん!!」「奈津雄君!」「結嶋君!!」

 

皆が叫んでいる。奈津雄の身体がゆっくりと上昇を始める

 

光に包まれた奈津雄はそのまま空へと吸い込まれて行った。

 

最後の言葉は皆に届いたのだろうか。

 

 

「行ってしまいましたね」

 

「ああ…。」

 

「若葉ちゃん…泣いてます?」

 

若葉の手をそっとひなたが握る。

 

「そうだな。泣かないと、決めてたんだが…」

 

「だが、泣いてはいられない!」

 

若葉は涙を拭う。

 

「私達は次の戦いを始めよう、未来に繋ぐ為に!!」

 

「はい!!」

 

若葉の叫びが青く晴れ渡った空へ響き渡った。

 

 

 

時に西暦2019年、4年に渡った人類とバーテックスとの初戦は結嶋奈津雄という来訪者を迎え一応の決着となった。

 

だがしかし、これはまだほんの始まりに過ぎない。

 

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「これが私が彼を見た最期でしたね」

 

「はあ~っ。やっと終わった~。」

 

「安芸先輩、だらしないですよ。」

 

「花本ちゃん冷たいよー。」

 

ここは丸亀城の一室、ひなた、真鈴、美佳は三人集まって大社には内緒である書物の制作を行っていた。

 

勇者御記、結嶋奈津雄に関する事である

 

彼に関しては本人も御記を記して行かなかったのでこうして三人集まって書こうという事になったのだ。

 

歴史には記されず、しかし確かに勇者達に寄り添い戦い続けた彼。

 

そんな彼を忘れない為にも。

 

「これは若葉ちゃんの家で預かってもらう事にします。」

 

「流石に大赦に提出したら検閲で黒塗りまみれになっちゃうもんね。」

 

「そうね上里さん、こればかりは真実のまま未来に託さないといけないから」

 

ひなたはふと、窓から空を見上げる。

 

青空は今日も何処までも高く広がっている。

 

「彼は今、何処の時代にいるんでしょうね」

 

ぽつり、とひなたはつぶやく。

 

時代は違えど同じ空の下、ひなたはただ、彼の無事を祈るのだった。

 

 

-西暦編 完-

 

 

 

 

 

 

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