その日も遅刻ギリギリに教室に滑り込んだ銀を須美は訝しんでいた。
共に御役目に就いて早数ヶ月、仲良くはなれたが彼女のこの部分だけは不明な所ばかりで、理由を聞いても本人ははぐらかすばかり。
『本格的に調べる必要があるわね…』
「園っち、やるわよ!」
「んぁ…サンチョの取引…50万…むにゃ…うへへ」
隣の園子はよくわからない寝言を呟いていた。
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「結嶋、最近御役目の方は、どう?」
「御役目?うーん…そうだな。」
「あの三人と一緒に上手くこなしてるよ。最初はやれるかどうか不安だったけどさ、どうにか。」
「良かった。」
休日、奈津雄はしずくと初めて会った神社で他愛もない話をしながら過ごしていた。
最近は訓練や御役目に忙殺される日々を送っていたので彼女に会うのは随分久しぶりだ。
しずくとは妙に波長が合う気がする。奈津雄は彼女といて一種の安らぎの様な物を感じていた。
「御役目、大変だって聞いた。他にも怖いって。」
「結嶋は、怖くないの?」
「…怖いよ。」
「怖く無い方が、どうかしてる。」
「…。」
「けどさ」
「詳しくは言えないけど、俺にはあの三人とは別に果たさなきゃならない大事な御役目があるんだ。」
「それを成す為に、怖くても進まなきゃいけない。」
バーテックスと戦う以外に奈津雄に課せられた御役目、『勇者が直面する危機を救う』。
未だ神樹からの連絡は無いがこの時代でもそれは引き続きやらないといけないのだろう。
「私も、何か結嶋の役に立てたら良いのに」
伏し目がちにしずくは言った。
『優しいな…。』
「大丈夫、今こうしてしずくが俺と話してくれてるだけでも十分さ。ホント、ありがとうな。」
励ます様に奈津雄は言った。
「うん…。」
「そうだ、何か食べに行かないか?俺腹減った。」
「ん。私も。」
しずくと奈津雄は二人して神社を出る。
「何食べに行こうか?」
「拉麺食べたい。」
「良いなそれ。」
拉麺が圧倒的にアウェーなこの地に店があるのか謎だが。
と、二人して鳥居をくぐった所で異様な光景を目にした。
巨大な集音機器を手にした少女とそれに引き摺られている少女、須美と園子だった。
「…。」
両者の間に沈黙が流れる。
一体この二人は何をやってるんだ。
関わらんとこ…
「さ、ラーメンだな。行こうぜしずk…「お~っと待った!!!!」
「そこのお二人さーん!何処へ行くんだぜ~!!」
「ちょっと、園っち!?」
「うぅ…」
園子のテンションにたじろいでしまったのかしずくは奈津雄の後ろに隠れてしまう。
「…園子。」
「あ、あはは~…。ごめんなさい~」
「園っちったら…奈津雄君と、隣のクラスの山伏さんよね。二人は何をしてたの?」
「デートだよ」
「結嶋!?」「えぇ~!!」「あ、逢引!?」
三者三様の反応が帰って来る。
「冗談だよ。」
「/////ッ~!!!!!」
顔を真っ赤にしたしずくが背中をポコポコ叩いて来る。
何だこれ、凄く可愛い。
「あー…それでその、2人は何やってんだよ?その機械は…」
「今からね、銀の家に行くのよ。」
「銀の?」
「銀っていっつも遅刻して来るでしょう?私が理由を聞いても教えてくれなくて。」
「御役目に安心して打ち込む為にもその辺りはっきりさせないと、って思ったのよ。」
「な、成る程。それで、その機械は何に?」
「隠れて調べるのに使うんだって~」
大分アウトくさいが良いのだろうか。盗聴?になると思うが…。
「と、言うわけで!」
「うん?」
「二人にも手伝って貰うわ!」
「やだよ」「嫌」
「なっ!何で!?」
「腹減ったし、今から飯行くし」
「ん。」
「それなら大丈夫!今日はお弁当を持って来てます!」
「弁当って、須美が作ったのか?」
「そうよ。安心して、味には自信あるから。」
これはもう逃げれ無さそうだ。
「はぁ…、しずく。」
「ん。何?」
「ごめん、予定変更。悪いけど付き合ってくれるか?」
「ん。判った。」
「決まりね!早速向かいましょう!」
「お~」
何だか面倒に巻き込まれた気もするが仕方無い。しずくには悪いが須美達に協力するとしよう。
4人は三ノ輪家に向かって歩き出した
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「…で、あたしの家を覗いてた、と。」
「…。」
三ノ輪家の縁側、次男の赤ん坊を抱いた銀の前で須美、園子、奈津雄の三人は正座させられていた。
しずくはというと、三ノ輪家の飼い猫と遊んでいる。何故だ…
あの後神社を出た四人は三ノ輪家に到着、須美が持って来ていた機械を使って彼女の動向を伺っていたのだ。
弟達の面倒を見てる途中、買い物に出掛けたのでそのまま後を付いて行ったが、銀は向かう先々で舞い込む様に人助けをしていた。遅刻の原因はおそらくこれだろう。
そして帰宅した所で見付かってしまったのだ。どうやらずっと後を付けていたのはバレていたらしい。
「…なぁ銀。」
「何だー、奈津雄。」
「そろそろ許してもらえないかなーって。腹減ったし」
「私も~」
奈津雄はあれから結局何も食べず終いだった。空腹で腹は鳴り続けるばかりだ。
「…。」
「何だよ須美?」
鋭い視線を送る須美に銀は言った。二人の間を険悪な雰囲気が漂う。
「元はと言えば銀が何も話してくれないからこんな事になってるのよ」
「なっどうしてだよそれ!」
「銀の事ずっと見てたけど、別に隠す程の事でも無かったでしょう?」
「そ、それはそうだけど!これは私の問題で…」
「私は心配してたのよ。困ってたりしないかって。」
「銀は私の友達、だから。」
「わっしー…」
「…須美の言ってる事に嘘は無いぞ。それにしたってこれはやり過ぎだったと思うけど」
「銀の遅刻の原因、人助けしてたからだったんだな」
「言ってくれたら良かったのに~」
「うん…。でもさ、何があっても遅れたのは自分の責任なんだし人のせいには出来ないしさ」
「それなら、次からは俺達を頼れよ。」
「え?」
「一人で抱え込むなって事!」
「う…。でも」
「ぎ~ん~!!」
「わ、解ったよ!」
須美の迫力に銀がたじろぐ。
「解ればいいのよ…。」
「お前って時々強引なとこあるよな、須美。」
「何か言ったかしら奈津雄君?」
「いや別に…。」
須美は怒らせない方が良さそうだ。
「終わった?」
猫を抱えたしずくがやって来る。
「ああ、どうにか片付いたよ。」
奈津雄は立ち上がって答える。ずっと正座していたので少しフラついてしまう。
「今度こそ飯にしたいんだが…」
「うん。」
「あ、それなら私の家で食べて行きなよ!」
「良いのか?」
「うん。皆のおかげで色々スッキリしたしさ。お礼したいし。」
「なら私が作って来たお弁当も一緒に食べましょう。」
「やった~!」
その後は銀の家で彼女の兄弟達と卓を囲んで食事をとる。大勢で囲む食卓に奈津雄は何処か懐かしさをおぼえたのだった。