刻渡りの勇者   作:嶽山

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西暦編 8.蝎の尾

ひなたに全てを話した事で奈津雄の不安と恐怖は幾らか解放された。

 

その後は友奈、千景とゲームセンターでガンシューティングゲームに興じ、球子共にアウトドアショップへも向かった。

 

今度一緒に釣りに行く約束もした。

 

なんでも近々丸亀城で大社に常駐している巫女達を呼んで盛大に花見をするそうだ。その中には球子や杏、千景を見出だした巫女もいると聞く。球子は釣った魚をそこで振る舞うらしい。

 

若葉からは「何か憑き物が落ちた様な顔だな」とからかわれてしまった。

 

楽しかった休日が終わり、また授業と訓練の日々が始まる。

 

訓練メニューをこなしながら奈津雄の戦闘技量は漸くギリギリ及第点に届くとこまで来ていた。

 

しかし力を付けるにはまだまだこれからだ。

 

樹海化警報が流れたのは、そう思ってた矢先だった。

 

「奈津雄君、樹海は初めてなんだよね」

 

隣で友奈が言う。既に勇者装束への変身は完了している。

 

「そうなんだよな。しかし…また凄い事になってんな。」

 

神樹が防衛に入る際に発生させる樹海は太い植物繊維が絡み会った不思議な空間だった。

 

「奈津雄、お前の訓練はまだ完成してない。無理だと思ったら直ぐ下がるんだ。」

 

「戦闘経験はタマ達の方が上だからな!いざというときは任せタマえよ!」

 

「私も精一杯頑張ります!」

 

「私が…あいつらを多く殲滅する…!」

 

各々気合いは十分の様だ。奈津雄の実力がどこまで通用するかは未知数だが全員で帰る。

 

あの夢の通りにさせない為にも。

 

「敵、来ます!」

 

杏の声で我に帰る。

 

目の前には初めて勇者システムを使った時に戦った何倍もの数の星屑が押し寄せて来た。

 

戦闘が始まる。

杏の提案から今回は切り札…神樹の精霊の力を用いて戦闘力を飛躍的に上昇させる能力の使用は今回見送りとなった。

力を得る代わりのデメリット対策なんだそうだ。

 

六人は迫る星屑へ向かう。若葉、千景、友奈、奈津雄は遊撃を、球子と杏はペアを組んでの体制だ。

 

次々と駆逐されていく星屑達、奈津雄は若干だが遅れているもののどうにか付いて行ってる。

 

杏はボウガンで進化体への融合を阻止し続ける。

 

このままなら…!

 

だがそんな杏の希望をよそに大量のバーテックスは融合合体し進化体への形成を始めた。

 

融合する数が多く仕留め切れない。

 

これでは…杏は球子の制止を振り切り自ら見送った切り札を使用した。彼女の勇者装束が変化した。

 

同時に精霊雪女郎の力による猛吹雪が辺り一面を襲う。

 

吹雪が収まり辺り一面氷付いたバーテックスが落ちてきて砕け散る。

 

「凄いなこりゃ…」

 

奈津雄は感嘆した。しかし同時に杏の身を案じる。

 

以前聞いた精霊の使用。これにはデメリットがある、だがそれが何をもたらすのかを聞けず終いだったからだ。

 

「お、おい杏、大丈夫なのか!?」

 

「奈津雄さん!私は今ので初めて精霊の力を使いましたから多分大丈夫かと…」

 

「全く、使うなって言ったの杏じゃないか!」

 

「まぁ球子、文句は後だ。残りを片付けよう。」

 

怒る球子を若葉が諭す。

 

「ねぇ…皆あれ…」

 

残りのバーテックス殲滅を開始しようとした直後、それは現れた。

 

友奈が指差す方向、瀬戸内海側に大量の星屑を引き連れた異様な大形のバーテックスが出現したのだ。

 

大型バーテックスには先端に鋭利な刃の付いた尾、胴体と思われる箇所には毒液の様な貯蔵容器が付いていた。

 

その姿はまるで蝎の様だ

 

「もう一度!凍れ!!」

 

杏が叫ぶと共に吹雪を放つが蝎型バーテックスには目立った効果が無い。

 

その間に蝎型の周囲にいたバーテックスは融合を終え、進化体となって球子、杏を除いた四人を分断しにかかっていた。

 

「こうなっては仕方無いわ。こちらも切り札を」

 

「あぁ、こうなった以上は」

 

「うん!やろう!!」

 

三人の切り札、千景の七人御先、若葉の義経、友奈の一目蓮が発動、彼女達の勇者装束も変化する。

 

 

――――――

「あぁ、これ。あいつら俺達を分断させようってか。」

 

「訓練、まだちゃんと終わってないのに!いきなり中ボスみたいなのと戦わされるのか!!」

 

長刀で進化体が伸ばす触手を捌きながら奈津雄は悪態を付く。

 

分断された向こう、若葉、千景、友奈は切り札を発動していた。

 

彼女らはこれならどうにか捌ききれそうだ。

 

しかし奈津雄は初実戦の上そんな力は無い。

 

視界の端には杏が。策の失敗へのショックか、彼女は茫然としている。

 

そこに蝎の尾が迫る─

 

ダメだ、間に合わない。奈津雄は焦った。

 

だが間一髪、切り札・輪入道を発動した球子が助けに入る。

 

球子はどうにか杏を助け出し二人で攻撃を再開する。

 

だが蝎型には大きなダメージを与えられず二人は長い尾で吹き飛ばされてしまう。

 

「た、タマ!杏!!」

 

目の前の進化体が邪魔で援護に行けない。

 

体制を建て直した球子は杏の盾となり蝎の尾針を防ぎ始めた。

杏の方は吹き飛ばされた衝撃で身動きが取れない様だ。

 

尾針の連激が球子を襲う。

 

あれ

 

この光景

 

どこかで

 

あぁ…、これはあの夢の、奈津雄は思い出す。

 

神樹が自分に与えた指命、勇者の直面する危機。その光景はこれだったのだ。

 

動かなきゃ、動かないと。

 

しかし相手にする進化体は焦る奈津雄をよそに攻撃を繰り返す。

 

「ぐぅっ!?」

 

触手の一撃が奈津雄を打ち据える。

 

この、ままでは…死んでしまう。あの二人が。

 

胸を貫かれて、手をとりあって…

 

ここに来て最初に出会ったタマ、色々と気遣ってくれた杏。

 

二人の笑顔が、消える…消えてしまう。

 

「うぉぉぉぉぉっ!!うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

やらせない。

 

絶対にやらせない

 

その時だった。

 

強く念じる奈津雄の勇者装束が思いに応えるかの様に顔まで含めて全体に蒼く光るラインが走りはじめた。

 

若葉達の切り札とは何か違う。何か大きな力が溢れて来る。

 

だが今はそんな事どうでもいい。

 

奈津雄は自然に若葉に習った居合いの構えを取る。

 

「…」

 

居合いの型で長刀を振るう。進化体の触手が全て切り裂かれる。

 

「…!!!!」

 

そのまま友奈に習った格闘術で進化体を吹き飛ばし大きく跳躍、蝎型へ向かう。

 

杏と球子の攻撃で蝎型の表面には攻撃が通り難い事は理解していた。

 

ならば狙うは…

 

「ここだっ!!!!」

 

蝎の針と尾の間、針を動かす箇所を長刀で斬る。幾ら表面が固くても関節までは…と予想して振るったが上手く行ったようだ。

 

切られた尾針が足元に落ちる

 

「奈津雄!」「奈津雄さん!?」

 

「無事…じゃなさそうだな。」

 

「お前、その身体の…」

 

「俺にもよく解らん」

 

「えぇ…」

 

「まぁ、とにかく」

 

奈津雄は蝎の尾針を拾う

 

「これで終いだ!!」

 

何倍にも強化された力で尾針を蝎型の容器にダーツ投げの要領で投擲する。

 

バリン!!!!

 

尾針が容器を貫通、溶液を撒き散らして蝎型が大きくバランスを崩す。

 

「壊れた内側を狙ってくれ!」

 

「わかった!」

 

そこへ進化体を倒した若葉、千景、友奈が合流。

 

破壊された蝎型の容器を内側から斬激と拳激を浴びせる。

 

表面が固くてもその内側までは固さが回って無いはず。

 

予想は当たり、連続攻撃を受けた蝎型は融合を解かれて通常体へと戻って行く。

 

残った通常個体は全て駆逐され勝負は決した。

 

あの状況から見事逆転。勝利したのだ。

 

『…良かった』

 

奈津雄に発現した力はよく解らない。だが課せられた勇者の直面する危機を救うという目的の一部は果たせた。

 

樹海化が解けて行く。

 

安堵した奈津雄はゆっくりと、その場に倒れ落ちた。

 

-------------

 

この日が彼が初めて樹海に入った日で、初めて自分に課せられた若葉ちゃん達とは別に与えられたお役目を果たした日でした。

 

戦いが終わって私が駆け付けた時、彼は力を使い果たしてしまったようで気を失っていたんです。

 

でも彼の顔はどこかとても安堵してるようでした、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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