異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第9話「盗賊が出たー!」

 

「前方、道が何かで塞ってます!」

 

 御者の大声で皆に緊張が走った。わたしを除いて。

 

「なに? 崖崩れとか?」

 

 すると今度は後方で、ズズズズーンという地響きが起こった。馬車が止まり、後ろをを振り返ると、来た道が倒木で塞がれていた。明らかに人為的な仕業。呑気なわたしでもようやく何事か悟った。

 

「馬車を狙った襲撃? もしかして盗賊!?」

 

 前後の遮蔽物の陰から人がゾロゾロと出てきた。前後とも10人ずつといったところか。リネールさん、チトレイさんら護衛役の4人が馬車を守るように前へ出る。

 わたしはそれを見て愕然とした。

 

 護衛役が4人。うちらのパーティー、戦闘する人たったの4人しかいないじゃん。

 

 他6人はおまけだ。おまけのうち2人は子供の女の子。わたしはこの世界では成人らしいけど、たぶん見かけで子供としてカウントしていいだろう。……いいよね?

 それなのに敵兵力は見えてるだけで20人。全て戦闘員だ。

 

 これ、勝ち目あるのかしら?

 

 サンドラちゃんがわたしの袖を掴んで震えていた。うむ、実事情としてもこちらは戦力外1名が決定してしまった。

 

 前方の盗賊が1人、大声で呼び掛けてきた。

 

「馬車をそのままそこに置いていけ! そうすれば命は助けてやる! 女子供もいるようだが、手出ししねえと約束する! いい条件だろう?」

 

 積み荷は日本円換算で一千万円以上の品。連中がそれを知ってるとは思わないけど、それでも命に比べれば安いもんだよね。引き渡して落ち延びて、次に賭ければいい。

 そしてわたしはちんちくりんだと自覚あるけど、サンドラちゃんは大人でないとはいえ、十分魅力的な少女。それを見逃すって言ってるんだから、これは確かに盗賊としては破格の条件に聞こえる。ただ平和ボケしたわたしでも、相手が約束を守るのかというのには……信じらんないなあ。

 中世ヨーロッパとか、日本の戦国時代、ファンタジー世界の常識で考えると、力に屈服すれば次は無いのでは?

 

「ライナーさん。言うとおりにしたら、わたし達とか、リトバレーの未来ってあるのかな」

「街道合流点を押さえられたら、村は孤立無援です。荷の内容からして、村にまだ次の荷がある事も知られてしまうでしょう。恐らく村は襲われます」

 

 ライナーさんの言を聞いて、助手の人は震える声で懇願した。

 

「こ、ここは逃げましょう! 村に帰って、襲撃に備えるんです! 村に警告する上でも逃げ延びないと!」

 

 わたしは馬車の上に登って、前後をもう一度見渡す。

 盗賊団はいかにもテンプレートなガラの悪い顔をしていた。刀の刃を舐めたり、歯をむき出しにして威嚇したりと、テンプレート過ぎる。

 

「この人達、本当に逃してくれるのかしら」

 

 どうみても核戦争後のモヒカン頭の集団と同類だ。そしてもしそんなテンプレートがあるとすれば、わたし達こそ、この盗賊共を完膚なきまでに叩きのめさなければならないのだけど。

 そんな事できるのだろうか?

 ただここにきて、わたしはどうしてパニックも起こさず、こんな事を冷静に考えていられるのだろう。

 するとリネールさんが恐れてる様子もない声色でわたし達に言う。

 

「マヤさん。マンモス討伐の戦いを思えば、マヤさんがやると言えば負けるとは思えないのですが」

 

 何だか自信ありげだ。マンモスとの戦闘が経験値を高めたの? それとも法力『オキシジェン・デストロイヤー』が麻痺させているんだろうか。

 

 リネールさんはもう矢を用意していた。いつでも火矢を放てる態勢だ。

 彼らはわたしの法力を使った戦い方を心得ている。やる気満々だ。わたしは質問する。

 

「でも戦うってなったら、人でも殺さなきゃいけないんだよね?」

「でなきゃ我々が殺されますから」

 

 はーふーと深呼吸した。

 これもファンタジー世界の通説通り。ただ刺されても死なないチートならともかく、わたしは防御力ゼロ。矢が1本でも当たれば終わりなんだけどね。

 それでもこの世界で生きていくには覚悟するしかないか。

『オキシジェン・デストロイヤー』は攻撃しかできないかもしれない。でも攻撃は最大の防御。そう考えれば防御力はゼロではないんだ。

 どのみち元の世界には戻れないし。戻りたくもないし。

 わたしの体から、水色の靄がもわぁっと立ち昇った気がした。

 

「戦います!」

 

 わたしの宣言に護衛役4人は力強く頷いた。

 

「「おう!」」

「「おう!」」

 

 ライナーさんも、御者の人も、覚悟を決め、剣に手をかけた。

 わたしはサンドラちゃんを馬車に乗せる。

 

「サンドラちゃん、箱の間に隠れて」

 

 こんなこともあろうかと、人ひとり入れる横穴状の隙間を、箱を積み上げるときに作ってあったのだ。サーベルタイガーのお肉バリヤーだ。

 

 

 

 

 わたし達の雰囲気が殺気立ったものに変わったのを感じ、盗賊団も目付きが変わった。

 

「おいおい、倍以上の人数相手に本気かお前ら!?」

 

 盗賊団が武器を構えて、ガシャガシャガシャっと装備が立てる物騒な音が響いた。

 

 

 

 

 見えないところにもまだ控えがいるかもしれない。弓を使うものがいたら、バリヤーみたいなのは持ってないのだから、防げない。何らかの法力持ちもいるに違いない。となると見えない範囲は問答無用だ。

 

酸素除去(オキシジェン・リムーブメント)

 

 動物さん達、いたらごめん!

 

広域発動(ワイドエリア)!」

 

 周囲の森一帯と、盗賊団の背後の道から酸素を奪い取った。見えてる盗賊団を範囲に含めなかったのは、現代日本人としての最後の抵抗だ。

 

 マンモスと戦ったときの酸素収奪技では、周りからの空気の流れ込みを防げなかったけど、今のは対策してある。なんの事はない。酸素を充填するときは空間を限定できていたんだもの。それと同じ要領だ。

 特定空間に酸素充填ができるのは、充填空間の一番外側に酸素の密度の高いところを作って膜を張ったようにしてるからだよ。それで酸素が外に逃げないようにしてある。なので酸素収奪でもまず同じような膜を先に作って、その膜の中の酸素を奪うようにすればいい。膜が外側からの空気の流入を防いでくれるので、酸素を奪い続けないと、という心配はないのだ。

 

 今、広域発動(ワイドエリア)したところは、横半分に切ったドーナツを置いたような形の酸素の膜が張ってある。そしてその中を無酸素地帯にした。もし草むらに隠れてるのがいたとしても、これで戦力外になるでしょ。

 酸素に関してだけは、こうしようと想像するだけでその通りに操れてしまうんだ。なんで? って思うけど、それこそが『オキシジェン・デストロイヤー』という法力なんだよ。

 そんじゃ続いて、今朝予習してきたのを早速やってみるよ!

 

酸素分子振動(オキシジェン・バイブレーション)、前の集団へ!」

 

 手を振り向けた前の集団で、構えていた剣や槍の刃先が急に赤茶色になり、あっという間にグズグズに崩れて崩壊した。今朝お師匠様の本で読んだ、鉄を急速に錆びさせる方法だ。それは酸素分子を激しく振動させながら対象にぶつけ、強制的に酸化させるというものだ。ぶっつけ本番での使用だけど、上手くいった!

 

「げえ!?」

「なんだこりゃあ!」

 

「後ろの集団へ、それえ!」

 

後方の集団の金属の武器や鎧も同じ様に崩れ去った。

 

「チキショウ、なんの法力だ!?」

 

「あなた達に勝ち目はありません! 引き下がりなさい!」

 

「ナマ言ってんじゃねえ小娘があ!」

「構わねえ、素手でぶん殴れえ!」

 

 やっぱり!

 分かってたよもう。この人達に更生を求めるなんて、この世界ではあり得ないってことを。どうせここで引き下がったって、またすぐ誰かを襲うんだ。

 

「リネールさあん、火矢を倒木へ! 後ろもね!」

「承知!」

 

 ボヒュッと火のついた矢が道を塞ぐ倒木に次々と突き刺さる。すかさず酸素を供給する。

 

酸素噴射(オキシジェン・インジェクション)!」

 

 ボボッ、ボム、ボアアアア

 

 倒木は一気に燃え盛り、乗り越えてこっちへ向かおうとしていた盗賊達にも燃え移った。

 

「ぎゃあああー!」

「このやろう!」

 

 燃えながらも弓を射ってきた者がいた。図らずも矢は火がついており、馬車へ向かって弾道起動を描く。

 

「燃えちゃえ!」

 

 矢に手を向け、純粋酸素で覆う。矢はさながら大気圏に突入した宇宙塵のように光り輝き、落ちる前に燃え尽きた。

 

「マヤ様!」

 

 後ろの集団から一人が無傷で向かってきた。チトレイさんが落ちている石や木を法力で持ち上げて、そいつに向けてぶつけるが、構わず突き進んでくる。そして両手をこっちへ向けてきた。

 

「死ねえ!」

 

 火炎放射器のように炎が吹き出た。

 

「くっ、消えなさい! 酸素除去!(オキシジェン・リムーブメント)

 

 これがリネールさんの法力同様に酸化剤入りの燃焼材を噴射してるなら、空気中の酸素を奪っても火は消えない。燃焼材の中の酸素も奪い取るんだ! 前もって宴会でリネールさんの法力見せてもらえてよかった!

 男の腕から火炎も含めた空間の酸素奪取をすると、炎は白い煙だけとなった。

 

「な、なにい!?」

 

 男はその法力に絶対的な自信を持っていた。これまでどんな相手でも焼き尽くしてきた。近寄らせもしなかった。水や氷を出す法力の者でも止められなかった。火焔の大きさが尋常ではないからだ。

 その俺様がこんな小娘ごときに阻止されていいわけがない。さっきは手加減して普通の火炎放射にしてやったが、こうなれば話は別だ。荷馬車が燃えようと関係ねぇ。この一帯全部燃やしてやる!

 

「このお、今度こそ燃やしてやる!」

 

酸素充填(オキシジェン・フィリング)!」

 

 わたしは今度は逆に、酸素でその男を包み込んでやった。

 

 それは男にとっては最悪の攻撃だった。その男の法力が手の先から出したのは、燃焼燃料である炭化水素と酸化剤の空気。つまりガソリンと空気の化合物である。炎の大きさを決めるのは燃料の量だ。そして男は火炎放射戦車並みの量を出す力を持っていた。だが今、その男の周りを包んでいるのは空気ではない。100%純粋酸素なのだ。そして火炎となる為の最後のピースを自ら出現させた。

 ほんの僅かの火花。

 

 ドガアアアーーーン!

 

 男は木っ端微塵になって消え去った。

 

「う、うわああ」

「に、逃げろおー!」

 

 火焔法力の男が爆散し、戦意を喪失した生き残り達が道を走って逃げ出す。

 だが、少し先に進んだところで急に足がもつれだした。無酸素地帯に突っ込んだのだ。吐いた息に含まれる酸素も瞬く間に奪い取られ、次に吸い込んだ空気に酸素はない。肺の中もすぐ無酸素になる。無酸素地帯を抜ける前に、盗賊達はバタバタと倒れていった。

 

 戦いはあっという間に終わった。完全勝利で。

 

 ……うーむ、やっぱりテンプレートだったか。

 

 

 

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