異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第100話「孤児院パーティーの凱旋と伝説のむにゃむにゃ ~その3~」

 

 あとはウサギ肉がホロホロになるまでじっくり煮るだけとなったところで、マリエラ様が私を迎えに……ではなくて護衛されにやってきました。レオナルド様とクーノ様、そしてリトルウィングの皆さんと一緒です。この後私の護衛だけで帰る方がよほど頼りない気がします。

 私に付いて院長先生と子供達も門まで迎えに出ました。

 

「サンドラ、リネール、マヤさんも、長旅お疲れ様。子供達の面倒をありがとう」

「ううん、こっちもいろいろ助けてもらったの。皆偉かったよ」

 

 子供達はマヤさんに群がります。

 

「家に帰るまでが旅行だったよね! マヤ姉、ちゃんと帰ってきたよ!」

「怪我も病気もしないで帰ってきたよ!」

「だからデストロイしなくてもいいよ!」

「やめてええ! しないから、デストロイなんてしないから!」

 

 そして今度はマリエラ様を見ると、ダッシュして飛びついていきました。

 

「リエラお姉ちゃん!」

「リエラ姉様」

「お姉ちゃーん」

 

 マリエラ様の体が吹っ飛びそうな程に勢い良く飛びつく子供達に、院長先生は真っ青になって卒倒しそうになりますが、職員の女性が、責任を取っていただきませんと困ります! と直ちに引き起こし倒れさせてくれません。

 油が切れた人形のようになって、院長先生はようやく前に出てきました。

 しかしマリエラ様を恐る恐る仰ぎ見た院長先生は、少し戸惑われました。そこには、巷で噂になっている触ったら壊れてしまう繊細なお人形のようなお姫様の姿はなく、旅行装備一式を背負い、剣をぶら下げ、旅の埃で少々汚れた服を誇らしげにして、元気に笑顔を向ける闊達な女性が子供達をぶら下げて立っていました。

 一瞬、この方で良いのかと目の色に迷いが見られましたが、ミリヤ皇族らしいフワッとした栗色の髪と、澄んだ大きな青味のあるグレーの瞳、あまりにも綺麗に整ったお顔、何より体から発せられる上に立つ者のオーラを感じ取って疑念はなくなり、膝をついて深く頭を下げました。

 

「マ、マ、マリエラ皇女様、この度は私共の子達が大変失礼を……」

「私はリエラよ」

「こ、皇女様……?」

「リエラよ。探検者(エクスプローラー)の」

「マリエラ皇女殿下では……」

「リエラ、です。一介の探検者(エクスプローラー)に頭を下げる必要はないわ。お立ちになって?」

 

 笑顔で手を取り引き起こすマリエラ様に、ここではそうせよと言っておられるのだと察し、涙ぐみながら立ち上がります。

 

「この子達は本当によく頑張った。立派に依頼をこなしたわ。褒めてあげてね」

「おお……」

 

 感激して震えています。

 すると横に背の高い男性が立ちました。

 

「まあ一部、とんでもねえ事やらかすのもいたが……」

 

 見上げるほどの長身。サファイアのような青い目に綺麗な金髪、そして美形。加えて隠しもしない王族の覇気と高ランク探検者(エクスプローラー)の風格。すぐさま話に出たレオナルド王子だと気付き、院長先生は慌てて後退って土下座の体制になりました。職員の女性2人も「ワリナの王子様よ!」と真っ青になって同じ様に横に並んでひれ伏しました。

 

「お許しください! こ、子供達の失態は全て私の至らぬ躾のせい。どうか私に何なりと処罰を!」

 

 キョトンとしたレオナルド様は、特に声を荒げるでもなく言います。

 

「処罰? 俺はワリナのSランク探検者(エクスプローラー)のレオだ。この国で人を処罰する権限なんぞ持ってねえぞ? それにガキ共だって、ああいうやんちゃができるのも今のうち、子供の特権ってもんだ。あんたは今まで通り自信を持って子供達を育ててやってくれ」

「ゆ、許して頂けるのですか?」

「許すも何も……」

 

 レオナルド様は頬をポリポリと掻きました。

 

「俺にも身に覚えのあることばかりで、こっちがこっ恥ずかしかったぜ。護衛役として子供達を怪我させることなく送り届けられてホッとしている」

 

 こちらも権力や地位を振りかざすのではなく、普通に接しよと言っていると察した院長先生は、ありがとうございます、ありがとうございますと何度も頭を下げました。

 

「この子供達の大半は法力を持ってないんだろう? それなのにこんなに明るく生き生きと育って、大したもんだ」

「本当ね。一緒に旅ができて楽しかったわ。いい子に育ててくれてありがとう」

 

 隣国の王子様と皇女様に褒められて、院長先生と職員の女性達は、感極まって言葉をなくし、涙を流しました。

 それを横で聞いていたイレムさんは、半分お世辞が混じっているとも知らず胸を張って偉そうにふんぞり返りました。

 すかさずその襟首を、レオナルド様が掴んで持ち上げました。

 

「う、な、なんだよ、レオ兄ちゃん」

 

 いくら子供の特権と言ってもらったとはいえ、レオナルド王太子をレオ兄ちゃんなどと気安く呼ぶイレムさんに、院長先生と職員の女性達は顔を蒼白にしました。

 

「覚えてんだろうな? 計算できるようにならないと次連れていかねえからな?」

「わ、わかってるよ! 百まで数えられるようになるし、依頼報酬額もごまかされたりしねえよ!」

 

 レオ様は「本当だなぁ?~」と腰を折って覗き込むと、地面に下ろしてお尻をパシッと叩いて解放しました。

 つんのめったイレムさんは痛てえなもうと言って、レオナルド様の方にくるっと向くとベーッと舌を出し、そしてニカッと笑うと、建物に向かって走って行ってしまいました。

 院長先生は今度こそ顔を真っ白にして倒れます。が、泡を吹いてようが職員の女性が直ちに引き起こしました。

 マリエラ様は走り去るイレムさんの後ろ姿にやや呆れ気味に苦笑すると、レオナルド様と顔を見合わせ、そしてお二人して面白そうに笑ったのでした。

 ぽかんと呆気にとられる女性職員。

 マリエラ様はレオナルド様に「それじゃあね」と片目を瞑ると、私に向き直りました。

 

「さて、帰るとしましょうかフィリア」

「は、はい!」

 

 私がマリエラ様のところに歩み寄ると、子供達、特に女の子がまた、マリエラ様と私に抱きついてきました。

 

「お姉ちゃんありがとう!」

「また来てね!」

「リエラ姉様、大好き!」

「またねー」

 

 子供達の頭を撫でて、取り囲まれながら孤児院の門を出ると、探検者(エクスプローラー)『リエラ』さんは、大きく手を振って皆に別れを告げました。女性職員の方々も手を振っています。その表情はマリエラ姫にというより、もう一つの新しいイメージのお姫様にという感じです。院長先生は向こうで泡を吹いたままでした。

 数歩歩いたところで、後ろから声がかかりました。

 

「あれー? リエラお姉ちゃん、フィリアお姉ちゃん、手繋いで帰るんじゃなかったのー?」

「そうだー」

「手繋がないと、フィリア姉様が迷子になっちゃうよー」

 

 子供達に煽られると、マリエラ様は私の顔を見て、少し頬を赤らめました。

 

「そういやそんな約束したっけ?」

「は、はい! しました!」

 

 マリエラ様は少し照れると、そっと手を出しました。私は一応「し、失礼します」と断ってから、マリエラ様のお手を取りました。背後からきゃあと子供達の黄色い声が聞こえます。

 二人してもう一度振り返り、手を振って、孤児院を後にしたのでした。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 はい。マヤです。

 リエラさんとフィリアさんは、なんでしょう、初々しく手を繋いで帰っていきました。

 残った王族だのなんだのの方達は、よく見れば恐ろしく美男子なので、職員の女性陣の目がいつの間にかハートに変わってるし。ここではわたし達リトルウィングはまるで存在感がない。

 そんなレオさんとクーノさんは、こちらは男の子達に(たか)られ、女性職員に「あ、あの、よろしければまたいらしてください」と上目遣いで見送られ、ご機嫌で帰っていった。

 

「ああ、サンドラ、リネール。お前達を見るとホッとするよ」

 

 意識を取り戻した院長先生がわたし達を見て言った。どうやらリトルウィングにも存在価値はあったようだ。

 

「院長先生、マヤちゃんに失礼だよ」

「あ、も、申し訳ありませんマヤさん」

「いいんですよ。どうせわたしは極々一般的な、超平凡平民ですから」

「そのうちそうも言ってられなくなりそうな気がするけどなあ」

「え、どういうこと? リネールさん」

「いやあ、マヤさんは大物だからねえ。領主様からも一目置かれてるし」

「そ、そうなのですか!?」

 

 驚く院長先生。

 

「絶対そんなことないよ。わたしは大人しく慎ましく、静かに暮らしていくんだから」

 

 サンドラちゃんにもジト目で見られた。

 どうして?

 

「サンドラ姉、マヤ姉、ご飯食べていくだわよね?」

 

 そんなところにニーシャが年長組の女の子達と声を掛けてきた。

 

「え? そんな予定なかったけど」

「フィリア姉様が置いてった食材で、たーくさんスープ作っただわね」

「ジャイアント・エルクラビットのポトフよ。フィリア姉様直伝の味よ? 美味しいよ?」

「採取旅行の食事作りと同じにやったから、量が半端なくって。むしろ少し食べてってほしいな」

 

 成程そういう事か。この子達はフィリアさんに鍛えられて炊き出し名人になっちゃったんだ。

 

「おう、それならご相伴しようぜ。俺が味の判定してやるよ」

「リネール兄ちゃんの判定なんてなくても、十分美味いっての」

「どうする? マヤちゃん」

「そうね。じゃあ食べてこうか」

 

 わーい、と子供達も万歳する。

 駆けてこうとする子供達に、わたしはストップを掛けた。

 

「待って皆! 食事の前にやる事あるよね!?」

「「「手洗いだよね!」」」

 

 振り向いた子供達は一斉に答えた。

 まあまあと驚くと共に、ほっこり微笑む院長先生。

 

 ♪手ーを洗いましょ、表も裏もキレイキレイに、洗わないとデーストロイ、デストロイ♪

 

「わあああ! やめてえええ!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 こんにちは、フィリアです。

 はい、私は無事にマリエラ様を護衛して帰り着くことができました。マヤさんが言うところの、家に帰るまでが旅行というのを無事終わらせたわけです。

 まあマリエラ様と手を繋いで帰ってきたので護衛侍女長には睨まれましたが、マリエラ様から「よく護衛してくれました」と言ってもらえたので、いちゃもん付ける訳にいかなかったというのが実情のようです。後はそれで付け入るスキさえ見せなければ私も安泰だったのですが、世の中そうは上手くいきません。

 

 後日私は、孤児院にジャイアント・エルクラビットのお肉を使ったハム作りを教えに行ったのですが、その時聞いたところによると、あの日子供達が作った夕食のあまりの美味しさに、院長先生や職員の女性方が子供を差し置いて獣のようになって貪り食べたと、永遠に語り継がれるような『孤児院伝説の食事会』となったそうです。

 どこから広がったのか、それは料理を教えたミリヤのとあるメイドのせいだとの尾ひれがついて、それが護衛侍女長の耳にも入り、私は問い詰められて、噂を打ち消すのが大変だったことを付け加えておきます。

 噂を広めたのはマヤさんです。ええ間違いありません。ギルドのサロンで、虎の爪の人達とその話でゲラゲラ笑っていたとの目撃情報がありましたから。

 私の外交努力をパアにするとは。やっぱりあの人はデストロイヤーで子供です。

 

 それにしても、なぜミリヤのメイドと言うだけで、護衛侍女長は私だと特定されたのでしょう。不思議です。

 

 

 




 ちょうど100話に到達したところで、これにて第3章終了です。
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