異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第105話「法力と魔法」

 

「ハーブティーお待ちどう」

 

 沿道のお祭り騒ぎを思い出していたわたしを現実世界に引き戻したのは、宿の料理人のお姉さんだった。

 テーブルにいい香りの漂うティーカップが置かれる。

 

「ついでに今本気出してもらおうか。これ8等分に切ってくれる?」

 

 お姉さんの方に首を上げると、空中にふわふわと、直径50cmはある立派すぎるカボチャが浮いていた。ハロウィンとかで飾るオレンジ色のではなく、日本でよく煮物にされる深緑色タイプの巨大版だ。それがティーカップの横にドスンと着陸した。

 

「でっか! てか、これなら本気出さなくても切れますけど。ここでやるとテーブルも切れちゃうんで、外でやらないと」

「いいわよ? 中庭使いなよ」

「はぁ~」

 

 お客をこき使うとは、何たる宿。まあ年間契約してるお客は、一宿一飯の客とは違うか。

 しかたないと、わたしはハーブティーを一口だけ飲んで立ち上がる。

 

「あたしはオーブンからパンを出さないとだから、切ったら厨房に持ってきてね」

「え! 中庭に運んでくれないんですか!?」

「パン焦げちゃうから。頼むね」

「ええー」

 

 お姉さんは厨房に戻ってしまった。

 しようがないな。わたしはカボチャを持ち上げようと手を掛ける。

 

「も、持ち上がらないんですけど!」

 

 お姉さんは『リフト』を使って持ってきたからいいよ。それにたとえ手で運ぶにしても、機械化されてない時代の大人の女性に、こないだまで学生やってた現代日本のひょろひょろ女の子が、力でかなう訳がない。

 と、そこに力強い味方がやってきた。

 

「ただいまー」

 

 宿の玄関のドアを開けて入ってきたのは、わたしの命の恩人だった。

 

「サンドラちゃん!」

 

 わたしの声に青い瞳を向けた女の子は、明るく素敵な笑顔を返してきた。肩に届くかどうかくらいの金髪は、少々くせ毛で跳ねがある。見た感じわたしと同じくらいの体格だけど、歳はずっと年下の13歳だ。

 

 この娘は、異世界に飛ばされて右も左も分からないわたしに、この世界の事を教えてくれたり、居場所となったリトバレー村との間を取り持ってくれた人だ。だから命の恩人なの。

 サンドラちゃんはリトバレー村の出身で、森の中で途方に暮れていたわたしを村の人と引き合わせてくれた。わたしもひょんなことから村を助けたりしたことで村人と信頼関係ができ、この世界で生きていく為の地盤を作ることができた。全部サンドラちゃんとリトバレー村の人達のおかげだ。

 特にサンドラちゃんのご両親は、わたしを娘として、物理的にも精神的にも迎え入れてくれた。お父さんが「娘ゲットだぜ!」って言ったのは少々気になるけど、今ではこの世界におけるわたしの帰る場所となっている。

 だからわたしにとってこの異世界で一番大事なのがサンドラちゃんであり、その次にサンドラちゃんの家族がいるリトバレー村なのだ。

 

「マヤちゃん起きてたんだー。でも起きたばっかよね? 寝癖取れてないの。おそよう」

「うう、サンドラちゃんにもダメ人間にされたー」

 

 わたしは寝癖を撫でながら涙目になる。サンドラちゃんは結構わたしに辛辣なのだ。わたしが全部悪いんだけど。

 

「そりゃそうだろう。俺ら、もう一仕事してきたんだからね」

 

 サンドラちゃんの横に立ち、わたしにダメージの追い打ちをしてきたこの青年は、リトバレー村のリネールさん。わたしの1つ上の18歳で、村一番の弓使いだ。

 この人も金髪碧眼の美青年だけど、付き合ってみるとちょっと怠け癖のある、いたずらっ子が大きくなったような人だった。同級生にいそうな感じ。

 

「ひと仕事って何してきたの?」

「例のポーション作ってきたの」

「俺は材料運んだりの力仕事かなあ」

「あの超回復ポーション?」

「うん。どうやら北の森で、大至急補充が必要になったらしいの」

「もしかして討伐上手くいってないのかな」

「そうみたいだよ。俺達リトルウィングも明日行くことになったし」

 

 『リトルウィング』というのは、サンドラちゃんがリーダーをしている、薬草採取をメインとした探検者(エクスプローラー)パーティーの事だ。リネールさんは常設メンバーで、わたしも臨時隊員として入っている。

 

「それじゃわたしも?」

「マヤちゃんはマスターに呼ばれてるんじゃないの? 今朝ケイトさんに会ったら言ってたよ」

「そうだった」

「またマヤさんが無双するところが見たいなあ」

 

 リネールさんがニヤニヤしてそんなことを言い出す。

 

「は? わたしのような女神が無双なんてするわけないじゃん」

「おーい、カボチャまだあ?」

 

 厨房の奥から声が聞こえてきた。料理人のお姉さんから催促されてしまった。

 

「あ、はーい。サンドラちゃん、このカボチャ切らないとなの。重くて持ち上がらなくて」

「中庭で切るの? 分かった、持っていってあげる」

 

 そう言うとサンドラちゃんは、緑の巨大なボールに抱きつくように取り付くと、ぐわっと持ち上げた。

 

「ええー!」

 

 田舎の女の子のサンドラちゃんはすごい力持ちなのだ。薬草採取に行っても、わたしの3倍くらいの量を平気で担いで山道を歩く。こっちは平坦な道を少し歩くだけでも脚ガクガクになるのに。

 平気な顔で中庭に向かって歩いていくサンドラちゃんを慌てて追いかける。

 

 

「ここでいいかな」

 

 中庭に出てすぐのところに、ゴロンと巨大カボチャは置かれた。

 

「ありがとう。十分だよ」

 

 わたしは人差し指を出すと、その先に噴出点を作り出す。そこから勢いのある極細の空気が噴出した。

 

酸素切断(オキシジェン・カッター)

 

 その指をカボチャの上で縦横斜めと動かすと、バラララっとカボチャはあっという間に8個にバラけた。あとは運ぶだけだ。期待の目線をサンドラちゃんに向ける。

 ところが。

 

「こうなっちゃうと一人じゃ持っていけないから、マヤちゃんも持っていってね」

「え、わたしも!?」

 

 サンドラちゃんは4つほどを抱えると手がいっぱいになった。こりゃ確かにわたしも持たないとだよね、と1つを掴む。

 

「うわあ、8分の1でもこんなに重いの!? リネールさんも手伝って!」

「おう!」

 

 切れたカボチャを3人ががりで急いで厨房に持っていった。

 

 

 厨房に行くと、お姉さんが口を尖らせていた。

 

「遅いから、竈の火が消えちゃったよ。いいところにリネールさんがいるじゃない。ちょいと点けてもらえるかねえ」

「火? 点ける点ける!」

 

 竈に薪を詰め込んだお姉さんは、火を点けると聞いた途端に大喜びのリネールさんに場所を譲った。

 リネールさんが指を突き出すと、その先にポッと火が灯る。そして薪の下の方に積んである小枝に指を向けると、ボボーッと指先から炎が伸びた。炎は小枝に移り、すぐに燃えだす。

 

「ついたついた。次マヤさん」

「はいはい」

 

 続いてリネールさんはわたしに場所を譲った。

 わたしも形式上、手を竈に向ける。私の場合、別に手をかざす必要は全く無いんだけどね。そして。

 

酸素噴射(オキシジェン・インジェクション)

 

 手から竈へ向けシューッと空気が送り込まれる。

 とたんに竈の中はぼばあっと炎が大きくなり、あっという間に太い薪に火が移って、どんどんと燃えていく。

 

「これで十分でしょ」

 

 やり過ぎると跡形もなく燃え尽きちゃうので、太い薪にも火が回ったところで手を戻した。

 

「お姉さん、いいよー」

「えっ、もうそんなに強火にできたのかい? へー、まるで魔石コンロ使ってるみたいだよ」

「カボチャ煮るの?」

「ええ。お昼にはカボチャのミートパイを出すから。よかったら注文してね」

 

 そう言ってお姉さんは、保冷庫から大きなお肉の塊を『リフト』で取り出した。それは空中を移動して、まな板の上に着陸した。

 

 

 さて、ここまでの話の中で、何気に超常現象がいくつかあったけど、スルーしてたのはこの世界では当たり前のことだからだ。

 

 この異世界の人間には独特の不思議な力がある。それを『法力』という。

 お姉さんが巨大カボチャを空中に浮かせて運んだ『リフト』も、リネールさんが竈に火を点けた『火炎』も、わたしが封筒やカボチャを切ったり、竈の火を大きくしたり、世紀末悪党をやっつける為に低酸素症で鈍らせたのも、『法力』によるものだ。

 一見魔法かと思っちゃうけど、『法力』は『魔法』じゃあない。

 

 『法力』は、この世界の人はみんな何かしら1つ持っていて、5,6歳くらいから発現し、鍛えることで大体15歳くらいで確立する。水や火を出せる、手を使わず物を持ち上げる、遠くが見える、暗闇でも見えるなど、法力は様々あって、強さも人それぞれだ。

 たまに発現しない人もいて、そういう人は捨てられたり、迫害されたりする。孤児院の子の半分以上は、法力が発現しなくて捨てられた子だ。

 

 ちなみにサンドラちゃんの法力は『薬効アップ』。薬の効能を何倍にも引き上げることができる。会ったときは5倍って言ってたけど、最近はそれ以上いってそうだ。

 そしてわたしの法力は、酸素を自由に操れるというものだ。さきほどからシューシュー噴出させていた空気は、純粋酸素なんだ。

 

 

 ところで、わたしはどうして酸素を操れる法力を持っているのか。

 法力は生まれ持ってくるものだけど、異世界から来たわたしには当然法力はなかった。それなのになぜ、わたしは今法力を使えるのか。

 

 それはこの世界に飛ばされた時、そこで出会ったお師匠様から授かることになったからだ。

 授かった法力の名は『オキシジェン・デストロイヤー』。他の人のように生まれ持ってくるものではなく、人から渡たされて、継いでいくという、特異な法力だった。

 

 

 法力があるのであれば、この世界には魔法はないんだろうね。

 と思ったら、そんなことはない。この世界にも魔法はあったのだ。魔法は人間ではなく、魔物や魔族だけが使えるものとして存在していた。

 

 しかし高度で複雑な魔法はもうない。

 200年前、法力を持つ人間と、魔法を使う魔族との間で最終戦争があり、魔法は法力に負け、魔族が滅んだからだ。

 

 法力は手足を動かすように出すことができる体の一部の力。

 一方で魔法は、訓練して身につけ、詠唱を唱え、魔素と魔力を消費して事象を発生させる、らしい。

 この差は何か。

 高位魔法使いが無詠唱で行うのと同じ事を、法力が発現したばかりの子供がやってのける。

 そういうことだ。

 その差が魔法を圧倒したのだ。

 

 200年間この世界では、魔法を使う者は高度な知能を持たない魔物だけとなり、単純な魔法を使う魔物くらいしか敵のいなくなった人間は、人間同士で覇権を争う戦いを深めている。

 

 だけどわたしがこの世界に飛ばされて2ヶ月にも満たない短い間に、ここヘキサリネでわたしは、魔法使いや魔導具といったものに遭遇している。

 

 魔族は滅んでなかった?

 人間達の争いを横目で見ながら、魔族は密かに力を蓄え、報復を企んでいる?

 

 真意はわからないけど、魔族がコソコソとやっていることは、わたしが飛ばされたこの異世界でのほほんと暮らそうとしてる事に対して、怪しい影を落としている。

 何よりわたしの大切なサンドラちゃんとリトバレー村が、いつ危険な目に遭うかわからない。

 

 そしてヘキサリネ領主ヴェルディ様によると、わたしの法力『オキシジェン・デストロイヤー』は、どうやら魔族にとって天敵とも言うべきものらしいのだ。

 それが最終兵器のように見られている原因の一つ。他にも原因はあるけど。

 

 ならさっさと終わらせたい。ヘキサリネの平和はリトバレーの平和。サンドラちゃんの安全に繋がるんだから。

 

 

「……それに少しでも依頼をこなして、溜まりまくったペナルティを減らさないと」

 

 国の将来から、急に直近の現実を思い出して、わたしは肩に鉛の塊が乗っかったような感覚を覚える。

 

 わたしは先日、ワイバーンなる龍の仲間をオキシジェン・デストロイヤーでやっつけちゃったせいで、探検者(エクスプローラー)制度に変更されて以来初となる、『5階級差違反』という途方もないペナルティを背負うことになってしまったのだ。

 

「……終わることあるのかなあ、このペナルティ」

 

 

 ちなみに探検者(エクスプローラー)というのは、ファンタジーものによく出てくる冒険者と同じだ。昔はここでも冒険者と言っていたそうだけど、ある事件から呼び名を変えたんだって。

 

 ある事件とは何だって?

 

 ヘキサリネ領には本魔境という魔境の最深部に、最短で入るルートがある。そのため各国から多くの冒険者が一攫千金を狙って集まってきた。極一部の成功者の話に憧れて、この国の若者も多分に漏れず、冒険者を名乗って無謀な行動に走った。結果多くの若い命を失い、国が危険になるほどに陥ったのだそうだ。

 

「一か八かに賭ける冒険はこの国にはいらない。未知のものに挑むため相手をしっかりと探り、(しら)べ、勝つ算段を整えて事に当たる。そういう探検であるべきだ」

 

 そのような当時の施政者の政策によって、冒険者ではなく探検者(エクスプローラー)と言わなければならなくなったんだとか。

 

 ということで、わたしも異世界ファンタジーの定番にもれることなく、冒険者=探検者(エクスプローラー)の登録をして、生計を立ててくことにしたのよん。

 

 

 




設定のおさらいが続きます。法力についてでした。
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