異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第106話「5階級差違反」

 

 翌朝、ギルドマスターに招集されたわたしとサンドラちゃん、リネールさんは、連れ立って探検者(エクスプローラー)ギルドに現れた。

 

 階段を上がって、道より1.5mくらい高い所にある両開きの重厚な入口のドアに手をかける。そして体重を乗せるようにしてドアを引っ張った。

 

「……開かないんだけどリネールさん」

「どいてみ。ふん!」

 

 ごえぎぃ!

 

 リネールさんが思いっ切り引っ張ると、ドア枠の何処かが悲鳴のような凄い音を出して、ギルド入り口のドアが開いた。探検者(エクスプローラー)どもの乱雑な扱いに歪みまくったドアは、いよいよわたしの力では開けるのが難しくなってきている。

 入れなくなったら、もう呼ばれても来なくていいかな。

 

 ギルドの受付前には、今日の第二次探検者増援部隊に参加すると思われるパーティーが集まって来ていた。15人くらいいるだろうか。Fランクのわたしとは普段接点のない、上位ランク者ばかりだ。

 と思ったら、先日のアイポメアニール採取クエストの時、帰路で一緒になった『ホワイトガーディアン』の面々がいた。リーダーのニエミネンさんが気付いて手を上げてくれた。わたしも笑顔で手を振り返す。

 

 先日のアイポメアニール採取クエストとは、領都の疫病を防ぐため臨時で行われた探検者(エクスプローラー)ギルド発注の依頼のことだ。

 アイポメアニールというのは薬草の一種で、殺虫・殺小動物薬の原料になる毒草だ。これが作れなくなると都市の衛生が保てなくなり、疫病が流行るのだという。25年前にもアイポメアニールが不作になって、疫病で町の人口が半減したという恐ろしい経験をしたことから、ギルドが緊急クエストを出したのだ。

 

 『ホワイトガーディアン』はそのアイポメアニール採取クエスト後にBランクパーティーに昇格したそうだ。今日は上位ランクパーティーとして声が掛かったんだろう。

 上位パーティーらは受付を済ませると、サロンの奥の上位ランク者が使うコーナーへと移動し、大きなソファーに座って、飲み物を注文したり、煙草をふかしたり。

 

「よお、サンドラ。……と黒髪の嬢ちゃん」

 

 そこへ買取り係のおじいさんが声をかけてきた。

 薬草採取では確かな実績を持つサンドラちゃんは、探検者(エクスプローラー)ギルド職員の覚えもめでたい。わたしは別のことでだいぶ覚えめでたい、かな。

 

「おはようございまーす」

「まーす」

 

 サンドラちゃんの挨拶に便乗して、わたしもペコッと頭を下げる。

 

「やっと来たわね、永久Fランク」

「はうっ!」

 

 わたしを発見するなり新たな称号でわたしを出迎えたのは、ギルド受付嬢のケイトさん。その一言で深刻なダメージを受けたわたしは、胸を押さえる。

 

「こ、こないだまで万年Fランクだったけど、え、永久? それもうわたし、一生Fランクから抜け出せないってことですか?」

「前代未聞の5階級差違反よ。脱出できるかどうかは貴女自身が証明することね」

 

 まあ無理でしょうけどねとか言って、肩をすくめるケイトさん。

 

「マヤさん、噂を聞いたぜ!」

「また伝説を作ってくれたらしいじゃんか!」

「俺はいつかやってくれると思ってたぜ! でもまさかこんなすぐとは思わなかったけどな!」

「一生ついていきます。サインください」

 

 ギルドのサロンでも入り口に近い側にたむろってる有象無象の低ランク探検者(エクスプローラー)達が、わたしの周りに集まってきて、何だか賛辞をくれる。この人達はわたしのファンなんだとか。

 

「だからその娘がやったことは違反! 犯罪じゃないけど、罪人と同義よ! 褒めることじゃないっつうの!」

 

 ケイトさんがこめかみに青筋を立てて、わたしを囲む低ランク探検者(エクスプローラー)達を叱りつける。

 

「分かってる? 冒険者とか言ってた時代とは違うのよ? 今はランク制度を厳格に守る秩序の世なの。それがあなた達の命を守っているのよ。 そのスカスカの頭じゃ理解するの難しいかしら?」

 

 有象無象達は、額に汗を垂らして苦笑いしつつ、まあまあとケイトさんを宥めて椅子を薦めたりしている。低ランク者が集うサロンの手前の椅子はぼろっちい木の椅子ばかりで、椅子を見下ろしたケイトさんが爪先で小突くと、簡単に脚が折れた。

 「直してきな!」と椅子を薦めた探検者(エクスプローラー)を追い出すケイトさん。

 わたしを崇める人達は、最近では変態一派にされて、ケイトさんの目の敵にされている。

 対してサロンの奥にいる上位ランクのマトモな人達は、こっちをチラリと見てヒソヒソと小声で話をするのみで、関わらない構えだ。

 

 

 冒険者を探検者(エクスプローラー)と言わなければならなくなったいきさつについては前に説明したけど、その時に厳格化されたルールが、探検者(エクスプローラー)が仕留めていい魔物や動物のランクだ。

 

 基本、探検者(エクスプローラー)単独では自分と同じランクの獲物しか狩れない。上位者のいるパーティーに参加することで1つ上のランクまで狩ることができる。

 自分のランクより高い獲物を狩っちゃった時に発生するのが、階級差違反だ。FランクがEランクの獲物を狩ったら、1階級差違反。Dランクを狩ったら2階級差違反てな具合だ。

 そして階級差違反を起こすと、ペナルティが課せられる。一定数の依頼を成功達成するまでランクアップできないというものだ。この罰則回数は階級差が増えるごとに倍倍で増えていくように規定されていて、1階級差違反だと100依頼をこなさないと、ランクアップのためのポイント稼ぎができないのだ。

 

 わたしは探検者(エクスプローラー)になって早々に4階級差違反を犯していて、800依頼という罰則を受けていた。それでさっきわたしを取り囲んだ人達に、変なふうに崇められるような事態になっていた訳なんだけど。

 

 なんでこれが崇められるような事かというと、つまり常人なら普通ルールは守るわけで、仮に運悪く格上に出くわしちゃって、逃げるのに失敗して戦わざる得ない状況になったとしても、よっぽど実力がある人でも相手できるのはせいぜい2階級がいいとこ。普通は格上に敵うわけないから反撃食らって死んじゃうので、違反者になることはない。

 だからやりたくても出来ないものが階級差違反なのだ。

 それを4階級……。

 

 これがこの世界の人達にとってどれくらい異常事態かというと、わたし達の世界でいうと、道路に飛び出た小学一年生がダンプとぶつかったところ、ダンプに打ち勝った、というくらいの感覚らしい。

 そこへ今回、ワイバーンなるAランクの空飛ぶ魔物トカゲを殺っちゃったことで、5階級差違反が加わることになってしまった。

 これをわたし達の世界で置き換えると、道路に飛び出た小学一年生が戦車とぶつかったところ、戦車が真っ二つに割れた、というくらいの感覚のようだ。

 

 5階級差違反の罰則は4階級差違反の倍だから、1600依頼ということになる。つまりわたしは、合わせて2400依頼を達成して、そこからさらに依頼をこなしてポイントを稼がないと、Eランクに上がれないということなのよ。

 

 2400依頼!

 

 仮に年中無休で働いて1日1依頼達成したとしても、6年半以上かかる計算だ。週休1日にすると8年弱。週休2日にしちゃったら10年近くかかる。病欠やゴールデンウイーク、年末年始休みなどとろうもんなら、もう途方もないことに。

 年末年始休みというのがこの世界にあるのか知らないけど。

 

 わたしはがっくりと膝をついた。夏休みって1ヶ月以上だっけ? そんな世界があったなんて、もう信じらんない。

 永久Fランクなわけだ……

 

 

「まあそんなあなたでも、マスターから超高難易度依頼のご指名が来るんだからいいじゃない。これ、あなたへの依頼書です」

 

 そう言ってケイトさんはぴらりと1枚の注文書をわたしの目の前に垂らす。横からサンドラちゃんが覗き込んだ。

 

「わわっ、難易度Sの依頼書なの!」

「なにい!?」

「えええ!?」

「難易度Sって、Sランク探検者(エクスプローラー)への依頼と同じってことか?」

「てえへんだ!」

 

 低ランク探検者(エクスプローラー)からどよめき声が上がる。

 ケイトさんは、うるさいわねとサロンを睨んで静まらせた。

 注文書をひらひらと漂わせながらカウンターへ移動するケイトさんをわたしは追う。

 

「この依頼内容はマスターと合流後のものです。合流するまではAランクパーティーに所属させてもらって、そこのメンバーとして働いてください。これ以上ペナルティ増やしたくないでしょう?」

「ペナルティはもう御免です! ぜ、ぜひお願いします。そのAランクパーティーってのは?」

「あとで来ます。その時紹介します」

 

 カウンターに着いたケイトさんは、それではとわたしの胸元に手を突っ込んだ。

 

「え? いやあん!」

 

 家探しするように手が服の中を撫でまわし、時に悪意ある指先が敏感なところを弾きと、いいように胸の中をまさぐられて目的の探検者(エクスプローラー)タグを見つけると、ケイトさんはそれを引き出した。

 ケイトさんはタグを手に、遅かれながら両手で胸を庇っているわたしを見下ろすと、ふっと口の片端を上げて笑った。

 

 こ、この人! わたしの胸がケイトさんに遠く及ばぬと知って優越感にぃ! ケイトさんのホルスタイン!

 

 ホルスタインはカウンターにあるパステルを手にすると、わたしの探検者(エクスプローラー)タグで勝手に依頼書へタグの印影を取った。それで受注しましたのサインとなる。

 

「ち、ちょっと、わたしまだ依頼書の内容読んでないんですけど!」

「ああ、そうでしたっけ? マスターと会うまでは、依頼内容は伏せといた方がいいでしょう。あなたの見掛けからして、皆さん信じないでしょうし」

 

 もう一度わたしの前に依頼書を広げるケイトさん。

 

「なんか物騒なことやらせようとしてるんですか?」

 

 わたしは不審な目でケイトさんを睨んでから、依頼書に目を落とした。

 要約すれば『ヘキサリネ軍および探検者(エクスプローラー)が魔物発生源を発見したら、そこを破壊しろ』ということだった。

 

「魔物発生源の破壊? それどういうのですか? どうやって破壊するんですか?」

「そこは現場でマスターの指示に従ってください。どうなっているかはその時によって違ってますから」

「はあ」

「頑張ってくださいね」

 

 わたしのタグの文様が入った依頼書をひらひらと振って、ケイトさんは受付へ帰っていった。まあ受注しないわけにいかないからいいけどさ。

 低ランカー側のサロンの方では、わたしの依頼書の難易度のことで持ちきりだった。

 

「お、マヤさんが戻ってきたぞ」

「マヤさん。受注額はいくらだった?」

「あ、そういえば金額聞いてなかったわ。有無を言わさず受注させられたんで」

「まあ難易度Sの依頼だからな。金貨10枚や20枚ってことはないだろう」

「当然だ。Sランク探検者(エクスプローラー)の貴族なみの生活を支えられる収入だぜ」

「え!? Sランクってそんなに高給取りなの? 難易度S依頼ってそんなに報酬凄いの?」

 

 わたしは目を丸くする。一部の有象無象の低ランク探検者(エクスプローラー)達の目が輝いた。

 

「それをFランクのマヤさんが貰うのか? すげえ!」

「俺、一生付いていきます!」

「永久Fランクばんざーい!」

「永久Fランクばんざーい!」

「やめてえええ! 言っとくけど奢ったりしないからね? わたしにつけといてとかされても払わないからね!?」

 

 

 




今回も大部分は設定のおさらいでした。階級差違反についてでした。
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