異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第108話「龍の鱗」

 

 がばーんとギルドのドアが開け放たれた。

 舞った埃の中から現れたのは5人の屈強な男達だった。

 

「Aランクパーティー、『龍の鱗』!」

「Aランクプラスの探検者(エクスプローラー)氷の弾丸(アイシクル・バレット)・デッカー!」

 

 彼らの姿を認めたサロンの者が次々とそう口にした。

 そんな中で、わたしだけが違う言葉を漏らした。

 

「ドアが……、と、取れちゃった……」

 

 ギルド入り口のドアが半分取れて、ぶらーんと吊り下がっていた。

 前にも誰かが乱暴に開けたせいで傾いて、それを見たマスターが「弁償しろ!」って叫んでたドア。どうしたのかな、今日は聞こえてこないな。

 

 マスターの代わりに受付嬢のケイトさんが歩み寄った。

 

「デッカーさん、よくいらしてくださいました。マスターは既に現地入りしていて留守なので、マスター代理の受付嬢ケイトが対応します」

 

 なんだ、マスターは不在なのか。それにしてもマスター代理が受付嬢って……。

 わたしはヘキサリネ領都の探検者(エクスプローラー)ギルドの複雑な組織構造が理解できないでいた。

 

「この度は討伐パーティーの統括リーダーの依頼をご快諾いただき、感謝します。よろしくお願いします。あ、ドアはその辺に適当に立て掛けといてください」

「えっ! ドア弁償してもらわなくていいんですか!?」

 

 わたしがびっくりして思わず声を上げると、ケイトさんはフンッと見下ろして言った。

 

「デッカーさんには、この緊急時にギルドから直々に指名依頼して来てもらっているのよ。外れかけたドアの取り付け程度の事、塵です」

 

 うおおお、マスターが目を三角にして怒っていたギルドのドアが、塵。マスター代理、スゲえ。

 でもそういうことなら、わたしも指名依頼されて来てるんだけどなあ。

 

 デッカーさんは、現役探検者(エクスプローラー)としては珍しく40歳代くらいの壮年の男性だった。

 この職業は体が資本だし、この世界は平均寿命も短いからか、現役だとあまり歳行った人はいないのだけれど、デッカーさんは身長は2mはありそうだし、腕も足も体も筋骨隆々。無精髭と左頬に傷跡もつけて迫力満点で、ぜんぜん若い人に負けてない。

 他の人も負けず劣らずの大柄で、180から190cm位の背丈に分厚い胸板の持ち主ばかりだ。年齢は30歳中頃だろうか。ハルドさん、ガーターさん、オランさんと紹介された。

 パーティーの中で一人だけ、並ぶと頭一つ引っ込んでる人がいる。とは言っても170cm以上はあるだろうけど。その人はパイアスさんと名乗っていた。

 

「どうぞ奥へ」と『龍の鱗』なるパーティーはケイトさんに連れられ、応接室の方へと案内された。

 

 その後ろ姿を無言で見守っていたら、とてててとやって来たサンドラちゃんが横に立った。

 

「あのパーティー、単独で西の街道を抜けて領都に帰ってきたんだって」

「西街道って、わたし達がアイポメアニール採取に行った所? ランクの高い魔物がうじゃうじゃ出るから入場規制が入って、Bランクパーティーでも走破するの苦労してたのに。あ、でもあのパーティー、Aランクなのか」

 

 わたし達もAランクパーティーが護衛についていたから、アイポメアニール採取も無事に終えられたんだよね。なるほど、あれくらいの実力があるってことね。

 

「ちなみにこれから行く北街道も、エリア討伐ランクBの規制が敷かれてるわ」

 

 リエラさんが言った。

 

「そんなんでフィリアさんは参加できるんですか? まだFランクでしたよね?」

 

 リエラさんが探検者(エクスプローラー)遊びをするんで、仕方なく護衛のためにフィリアさんも探検者(エクスプローラー)登録をしている。それも最近。わたしより後のことである。

 

「問題ないわ。入場できるのはBランク以上か、BランクがいるCランクパーティーだから。私とフィリアのパーティーは、そのCランクパーティーの条件に入ってるわ」

 

 助けてとフィリアさんの目が訴えている。

 

「それじゃあ仕方ないですね」

「マヤさん酷い! 見捨てた!」

「だってほら。フィリアさんいると何かと旅が豪華になっていいじゃないですか。特に食事が」

「飯炊き!? 私、飯炊き要員ですか!?」

 

 そんな時、

 

「俺も討伐隊に参加させてくれよ!」

 

 そろそろ声変わりが始まりそうな、ちょっとかすれたような、最近よく耳にした男の子の声が聞こえてきた。しかもこの声を聞くとちょっとイラッとする。

 

「Fランクじゃ参加できないと言ってるでしょう?」

 

 困った様子で受付予備嬢のレーナさんが男の子の対応をしていた。

 

「俺、魔物を探知できるんだ。絶対役に立つから!」

「そういう問題じゃありません。エリア入場規制が敷かれてるから、あなたではランクが足りないんですよ」

 

 それは孤児院の年長組の男の子だった。孤児院一のやんちゃ坊主で、いわゆる悪ガキに分類される子だ。名をイレムという。わたしの中では悪ガキの別称もイレムという。これはジャ〇アンと言えば集団でどのような事してる子か通じるようなもんだ。つい最近12歳になったらしい。

 根は素直で純粋な子ではあるんだけど、まだ分別がついてないというのかな。自分の気持ちに素直すぎて、大人から見るとやってほしくないことを率先してやってくれる。

 

 舌打ちするその男の子と目が合った。

 

「ガキババア、お前なんでいるんだよ」

 

 イレムはわたしのことを色んな呼び方するんだけど、このところ定着しているのがこれだ。

 わたしはこっちの世界では中学生くらいの見た目らしくて、イレムからもせいぜい1、2歳位しか離れてないように見えるらしい。そこに大人の17歳ですと言い張ってるもんだから、男子小学生の安直な脳ミソが導き出した呼び方がこれだ。中学も小学校もこの世界には無いけどね。

 

「わたしはギルドマスターに呼ばれたんだもん」

「まさか討伐隊に参加するのか? こいつだってFランクだろ! なのに何でガキババアはよくて、俺はダメなんだ、ずりーぞ!」

「わたしはアンリミテッド・パーティーの資格があるからよ。こないだのアイポメアニール採取クエストの時、護衛側に回ったでしょ? あれと同じ理屈よ」

「はあ? どういう事だよ!」

「あーもう。それが理解できないで参加も何もあったもんじゃないわよ。その前にあんた、百まで数数えられるようになった?」

「うっ! そ、それは……」

 

 この子、実は両手両足の指を超える数を数えられなかったのだ。それで、次行く時までに百まで数えられるようにすると宣言してたのだった。

 

「あ、あれはレオ兄ちゃんのパーティーと行くときだけの話しだい!」

 

 無理やり言い訳つけやがったな、この悪ガキめ。

 

 するとそこへ、「あーっ、やっぱりここにいただわね!」という声が入口の方から聞こえてきた。見ると、外れかけたギルドのドアの隙間から数人の子供達が中を覗いている。その中で一番大きい女の子がイレムを指差していた。

 

「げっ、ニーシャ!」

 

 ニーシャという女の子を先頭にして、子供達がずかずかとギルド受付前の通路を進んで行く。

 

「お庭掃除をさぼって姿をくらましたと思ったら、やっぱり探検者(エクスプローラー)ギルドに来ていただわね! まさか討伐隊に付いていく気じゃないだわよね?」

「付いていく気だよ。だって俺の法力はこんな時こそ役立つはずなんだ」

 

 ぺしっとイレムの頭を叩くニーシャ。

 この子達も皆孤児院の子供だ。ニーシャはその中の最年長者で12歳。先日のアイポメアニール採取クエストでは孤児院パーティーのリーダーをやっていた娘で、しっかり者ではあるが、たまにポカをやらかすなど抜けているところがある。

 

「条件を見なさいだわよ。あんたには資格がないだわね。行ったところで死ぬのは確実なのだわね」

「「「そーだそーだ」」」

「んなの行ってみなきゃ分かんねえだろ!」

「分かるだわね。Dランクのクモにだって、まるで歯が立たなかったのに、BだのAだのが出るスタンピードで、Fランクのあんたなんか瞬殺されるの間違いないだわね」

「「「そーだそーだ」」」

「でも同じFランクのガキババアは行くんだぞ!」

「マヤ姉は破壊神(ザ・デストロイヤー)だから普通に考えちゃダメだわね」

「「「そーだそーだ」」」

「ちがーう!」

 

 わたしはニーシャに駆け寄って肩を掴んだ。

 

「わたしは女神! 世界平和を目指してる女神なの! デストロイヤーなんかじゃないわ! もっと大きい重巡(ヘビークルーザー)……おっと、それは駆逐艦(デストロイヤー)違いだったわ」

「えー? あんなに物騒な法力使って女神ってのは、なかなかに無理があるだわね」

 

 崩れ落ちるわたし。サンドラちゃんに援護を頼もうと顔を向けるが、「無理なの」と首を横に振られた。

 

「うう、どこで印象操作を間違えたのかしら」

「マヤ姉はよいとして。イレムにはこんなところで死ぬようなことしてないで、きちんと賢く強い探検者(エクスプローラー)になってもらわないと、わたしが困るだわよ」

「……なんでニーシャが困るの?」

 

 ニーシャはちょっともじもじする。

 

「だって……イレムはあたいを見受けすることになってるから」

「……は?」

 

 わたしはニーシャとイレムを交互に見る。

 サンドラちゃんも、「まあ!」と両手を頬に当てて、詳しく聞きたいという顔をした。

 

「ええーっ、ニーシャ、イレムのとこにお嫁に行くの!?」

「だって法力もない孤児の女なんて、変態金持ちの奴隷愛玩として買われるか、歓楽街に流れ着くかで、そう簡単には真っ当な生き方なんてできないのだわね。だから同じ境遇の孤児の男の子と一緒になって、助け合って暮らすのが一番危なくないだわね」

 

 確かニーシャは孤児院の財政が厳しくなった時、危うく売られるかもという事があったと言っていた。実際可愛いし、いろいろ発育具合も良い。この勢いだとわたしもうかうかしてられない。既にわたしは13歳のサンドラちゃんに、ほぼ並ばられているのだ。どうにかしてお胸のサイズアップを図らないとニーシャにも……。

 

「もみもみして、どうかしたのだわね? 胸痛いの?」

 

 ニーシャが不思議そうに覗き込む。

 

「はわあっ、なんでもないの! こ、こんな器量が良くて気が利いていろいろできる娘が、そんな明日をも知れぬ日陰暮らしするなんて、あまりに切なくて。なんならわたしが出資して、お店でも開くってのはどうかしら?」

 

「イレムと一緒にお店……?」

 

 ニーシャが頬を染める。

 

「えっと、イレムはどうしてもひっついてくるんだ。その前にイレムは法力が発現しちゃったから、法力のない娘はもう相手しないかもよ?」

「そんなことしねえよ」

 

 振り向くとイレムが腕を組んで突っ立っていた。

 

「えっ、イレムはちゃんとニーシャを引き受ける気満々なの?」

「歳が近いから、孤児院を出る時期もそんな差はないし、それに孤児院に入ったときからの約束だからな。法力が見つかったからって約束破るのはカッコ悪りいだろ」

「おおー、悪ガキなのに、そういうところのケジメはつけるんだ」

「ヘンなこと言ってるとぶっとばすぞ」

 

 イレムは平然と言ってのけた。しかしちっとも恥ずかしげがないというのは、もしかして恋愛とかそういう気持ちがまったく未発達なんじゃないだろうか。それはそれでこの先心配だ。

 一方のニーシャは真っ赤になってるので、そっち方面の意識は十分あるみたいだ。サンドラちゃんが覗き込んで「へー、そーだったの、へー」とからかってる。

 

「そ、そういうことだから、マヤ姉の話はうれしいけど、孤児はあたいらだけじゃないし、あたいらだけマヤ姉に頼るのはきっと良くないだわね」

「ニーシャって結構大人だねえ。わかった。これは孤児とか法力を持たない人達に対する社会的問題なんだね」

 

 ニーシャの後ろに並ぶ他の女児達にも目を向ける。

 この子達が歓楽街に身売りするという事態にならないよう、どうにかしてあげたい。この任務が終わったら何か考えよう。

 

「それにしても、イレムがねぇ……」

 

 むっとした顔でイレムがわたしを睨むと、

 

 げしっ!

 

「あいた! 蹴った! この悪ガキ、わたしのスネ蹴った!」

 

 なんか既視感がある。

 

 わたしが蹴られた足を抱えてぴょんぴょん跳ねて、イレムがニーシャにぺしっと叩かれていると、重たい靴の音を幾つも連ねて、『龍の鱗』メンバーが戻って来た。

 

 

 




今回の設定のおさらいはイレムとニーシャ。龍の鱗は初登場です。
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