異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
盗賊団は短時間でコテンパンにやっつけた。
その後は戦闘の倍以上の時間をかけての事後処理が待っていた。
まずはすぐさま無酸素地帯を回復させた。そして燃えている倒木を酸欠消火する。火傷で呻いている盗賊の生き残りは、縛って木にグルグル巻にした。
最後に逃げて無酸素地帯で倒れた連中。彼らは数分呼吸できなかっただけなので、軽い酸欠で済んだようだった。後遺症はあっても知らん。こいつらも木にグルグル巻にする。連れて行く余裕なんかないからね。
道を塞いでいた倒木は斧で割って、チトレイさんのリフト法力でどかした。酸素ふんだんにぶっかけて燃やしたので、大木もだいぶ小さくなっていたから、割るのも楽だった。
「マヤちゃん、容赦ないねぇ」
焦げが残る戦場の跡地を見たサンドラちゃんはボソリと呟いた。
「ごめん。まだ修行の身なんで、手加減の仕方が分かんなくて。程よくやっつけるなんて器用な事できないのよ」
「盗賊も馬鹿なときに襲ったねぇ」
「程よくやっつけるなんて、よほどの達人でもないとできませんよ」
リネールさんは気にすることないよと言った。
「リネールさん。あの火焔を出した人って、隣村の……人?」
わたしは尋ねた。村で聞いたリネールさんよりも大きな火を出せると言っていた人。盗賊団に流れたという人のことだ。
「いいや違う。あの人は火の塊を作って、投げるというものだった」
違う人か。わたしは少しほっとした。知り合いを粉々にしたとかなれば、少し気まずいものが残ったかもしれなかったから。
だとしても、わたしの大切な人を傷つける者として現れたなら、守るためには躊躇うわけにはいかない。
さっきの火焔の人にも、後悔とか後ろめたい気持ちはない。だめだよ、人としてあそこまで落ちたら。
片付けが終わり、馬車の準備ができると、わたし達は出発した。
◇◇◇
その後無事にヘキサリネの東の主幹街道、『東国街道』に突き当たった。そこで西、つまり領都方向へ曲がり、日が暮れてから少しして、領都まであと4時間くらいにあるという小さな宿場に到着した。名は特にないらしい。けど通称『領都の東4時間』と呼ばれているとのことだ。とても分かりやすい。きっと西南北にも似たようなのがあるに違いない。
そして宿場に入っての第一声はこれだった。
「ここホントに宿場? 宿屋1軒しかないじゃん。あとはお店ばっか」
その宿屋というのも小さいもので、入口には既に「満室」と立て札がかかってる。泊まれないじゃん。
「宿に泊まれないのは想定済みです」
「想定済みって、それじゃ野宿するの?」
「ええ。ここは野営場が整備されてるんですよ」
そうなのだ。ここは元から野営を前提にした作りになっていたのだ。
「本来は休憩処だったんです。領都からちょっとの距離なので、行くにしても帰るにしても一休みに丁度良く、そのうち前日に近くまで行って、午前中に領都入りする為に1泊するという使われ方が増えていきました」
「なるほど。わたしの国でいう道の駅だなこれ」
沢山あるお店は、食事や酒、水の補給、馬の餌、馬具や馬車の手入れや修理といったものだ。トイレもある。お風呂がなかったのだけは残念だ。
野営場へ行くと、横と背後に低い垣根を巡らして区画割がしてあった。オートキャンプ場みたいだ。
「うちらは荷馬車2台だけだから、ここでいいだろう」
適当な大きさの区画に入り、馬車を停める。こちらは御者さん達に任せて、わたし達はテントやテーブルとかを下ろした。
設営をしていると、2人組の男の人が挨拶してきた。
「こんばんは。領都探検者ギルドの出張所の者です。泊りですね? 宿泊帳の記入をお願いします」
そう言って宿帳みたいなのを差し出してきた。
ライナーさんが「ご苦労様」とそれに応対する。いくらかお金を払っていた。
「出立は明日日の出過ぎですね。夜はなるべく静かに願います」
「わかりました。よろしく」
わたし達の区画を出ると、向こうの区画のパーティーの方へ歩いて行った。
「あの人は?」
「領都のギルドの者です。ここに出張所があって、この野営場の維持に人を出してるんです。荷馬車や荷物の見回り、野営場の清掃や修繕なんかをしてくれてます。盗難とかあれば閉鎖して取り調べもするんで、泥棒抑止効果は結構あります」
「お金払ってましたよね?」
「野営場の維持費と彼らの経費ですね。宿に泊まるよりははるかに安いですよ」
ふむ。この世界、お金を使う場面が結構あるみたいだな。それは貨幣文化が進んでいるってことだろうから、益々お肉の換金は重要になってきてるぞ。
「さて、それじゃあ、盗賊団の襲撃を受けた事を報告に行きましょう。お尋ね者だと賞金がかかってるかもしれないですよ」
「賞金!? お金貰えるの?」
「賞金首ならですよ。リネールも来てくれ」
「おっす」
キャンプ地の設営を他の人達に任せ、ライナーさん、リネールさんと共に、わたしは領都軍のこれまた出張所というところへ向かった。
「領都周辺の警備部隊ですね。今は平時なんで何人もいませんが、戦時ともなれば領都防衛の最終防衛線くらいに重要な駐屯地になります」
「4時間の距離だもんねえ」
出張所は道の駅のメイン建物の中にあった。隣に仲良くハンターギルドの出張所もあった。平時のせいか、人が多いのはハンターギルドの方のようだ。
「何だって!? 村道で盗賊団!?」
「どこの盗賊団だ!?」
「分かりません。見える範囲にいたのは20人程。火炎放射の法力を使う者がいました」
「そいつは最近隣国から来たリットン盗賊団だ。主街道の脇道で被害が続出している」
「で、そいつらからどうやって逃げたんだ?」
「撃退しました」
「え!?」
領都軍詰め所の横のギルド事務所からも、がたがたと席を立ってこっちへやって来た。
「生き残りはその場に縛り付けて放置してきました。捕虜を連れて来るゆとりはなかったので」
「無論そうだろう。縛り付けてきたのは何人だ?」
「11人です」
「よく捕まえられたな」
「あのぉ」
わたしは手を上げた。
「周りの森の中にも、もしかすると仲間が倒れてるかもしれません。時間なくて探してないので」
ライナーさんとリネールさんはきょとんとしている。念の為、周辺を酸素収奪で先制攻撃した事は誰にも言ってなかったからだ。わたしも潜んでいる仲間がいたのかは知らない。出てこなかったし。まあ窒息してたら出てこれなかったろうけど。
「分かった。明日朝一で状況見聞と捕縛に行く。兵力がないからギルドから傭兵を出してくれ。お前は領都へ早馬で連絡を。ギルド本部へも何か伝言しようか?」
「傭兵を出しちまうと、ここの警備が手薄になる。応援を頼む手紙を託していいか?」
「分かった。後で持ってこい。ライナーさんは明日立ち会えるか? 手配中の盗賊団に間違いなければ賞金が出るぞ?」
賞金と聞いてわたしは、おおっと目を輝かせた。
「いや、荷が駄目になってしまうんで、領都へ急ぎます」
「そうか。でもまあライナーさんのパーティーからの申告だと調書に記録しておくから、心配しなくていい」
「ありがとうございます」
報告が終わり、出張所を後にする。
リネールさんが少し誇らし気に言った。
「本当に賞金首だったようですね」
「ああ。なんかヤバそうな法力持ちがいたからな」
「まあ、マヤさんの敵ではなかったですがね。爆殺させるなんて、流石は門外不出、幻の法力を受け継ぐお弟子さんです」
「や、やめてください! なんですか、そのまるで殺人拳の達人を師匠にしたような例えは。わたしは法力をもっと平和的な事に使いたいんです!」
「へえ、例えば?」
そう言えば何に使えるんだろう、危険でない酸素の使い方って。肺の悪い人に酸素吸入とか? でも濃すぎる酸素はかえって体に悪いとかいうし、数パーセント濃くするだけ? 酸素吸入程度に使うには能力過剰すぎる。
くそ、まさか返答できないとは。このままでは行く先々で取扱注意のシールを貼らないと、出入りもできなくなるやもしれん。
「……それも含めて修行中です」
リネールさん、ニヤニヤと笑ってんじゃん! いつか平和の女神と言わせてやる。
キャンプ地に戻ると、サンドラちゃん達が温かいシチューを用意して待っていた。
「あら豪勢!」
「なんだ、屋台で買ったのか」
「はい。せっかくここに寄ったんだもの」
「オーク肉のシチューですよ。たまにゃあ豪勢にいきましょう」
チトレイさんは嬉しそうにそう言う。が、皆は一斉に呆れた顔になった。
「昨日、普通は一生かけても食えないものが出たというのに」
御者の一人がつっこむ。
「チトレイさんには大した事なかったみたいですねぇ。肉代ご請求しましょうか」
わたしもつい意地悪をしてしまう。
「えええ!? いやあ冗談! 冗談ですって!」
異世界の道の駅に、わたし達の笑い声が響き渡った。
あ、夜は静かにでしたっけ。
でも他のパーティーも、酔っ払ったりして負けないくらい騒いでたよ。
ちなみに初めて食べた魔物のお肉はとても美味しかった。
オークは豚肉だ。
よし、今度しょうが焼きにしよう!