異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第110話「王子様ご出立」

 

 領都の城門へ行くと、相変わらず出入りの順番待ちで混んでいた。

 しかしいつもならいるハンター・探検者(エクスプローラー)はおらず、貿易の荷馬車ばかりだ。その荷馬車は重武装した護衛を引き連れているのが多い。北街道も西街道も強力な魔物が出るので規制が入り、高ランクの護衛がないと通れないからだ。規制のない東国街道へ行く商人も今が稼ぎ時と、沢山の荷馬車を出していた。

 我々も並ぶのかと思いきや、討伐隊はヘキサリネ軍専用の門へと誘導された。こちらから優先して出してもらえるようだ。国の一大事だもんね。

 

 

 軍用門に向かって歩いていると、前後に騎兵を護衛につけた馬車列が後ろから追い抜き、軍用門の隣にあるVIP用の門に停まった。こちらは政府要人や他国の偉い人が優先して通る門だ。

 VIP門の前に停まった馬車は、派手さのない、ゴツくて頑丈そうな実戦向けの馬車だった。威厳や荘厳さを見せびらかすものではない。誰が乗ってるんだろう?

 馬車を眺めていると、側面に小さくワリナの国旗が描かれているのに気付いた。

 

「ワリナの馬車だ」

「ワリナのだと? なんでワリナの馬車がヘキサチカにいるんだ。何用だ?」

 

 デッカーさんが不機嫌そうな目で馬車を見る。この感じだと、デッカーさんはワリナに対して従来の嫌悪感を持ったままのようだ。

 

「デッカーさん。最近ヘキサチカにはワリナの大使館ができたんですよ。今、ヘキサリネとワリナは関係改善にまっしぐらなんですから」

「ワリナがぁ? 怪しいな。なんか企んでるんじゃねえのか?」

 

 馬車のドアがガチャッと開き、若い貴族っぽい人が出てきた。っていうかケンさんだった。もう一人貴族の青年が降りてきたと思ったら、クーノさんだった。

 この二人がいるとなればもう馬車の主賓は明白だ。

 

「失礼。ワリナ王家の馬車である。横を失礼する」

 

 最後にドアの中からさらに高貴な雰囲気を纏った一人の青年が出てきた。その金髪がふわりと風に舞う。

 

「やっぱレオさんだった」

「え?」

 

 わたしの声に振り向いたリエラさん。金髪青年を見て目を大きく開き、そしてちょっぴり頬を色付かせた。

 

「レオナルド様!」

 

 金髪をたなびかせた超イケメン青年は、ワリナ王国第一王子、レオナルド王太子だった。

 レオナルド王太子はわたしとリエラさんに気付くと、よっと片手を上げて、通学途中に合った友達みたいに笑った。

 出てきたのが王太子殿下と聞いた討伐隊の探検者(エクスプローラー)達は、慌てて跪いた。

 が、その顔を見て一部の探検者(エクスプローラー)達は「えっ!」と驚いた。

 

「え、レオさん!?」

「レオさんじゃねえか!」

「無礼者!」

 

 すかさず騎馬の護衛が馬を「レオさん」と呼んだ男の方へ向ける。

 騎兵に睨まれた男達は、当惑してオロオロと膝を着いた。

 レオナルド王太子は騎兵の側に行くと、さっと手を出して騎兵を制止した。

 

「いいんだ。いちいち説明してこなかったからな。一部の者は知らないままのもいる。仕事仲間だから許してやってくれ」

 

 騎兵は不満そうだが馬を戻した。

 

「ど、どういうことだ?」

 

 デッカーさんが困惑していると、ニエミネンさんが説明した。

 

「レオナルド王子はヘキサチカに滞在中、Sランク探検者(エクスプローラー)のレオと名乗って、何度かギルドの仕事をしてたんだ。」

「Sランクだと!?」

 

 デッカーさんが目を鋭くする。

 

 SランクはAランクより上で、複数パーティーの統率や指揮、作戦立案などの戦略的能力が求められる階級だ。

 

「側近のケンさんとクーノさんもAランク探検者(エクスプローラー)で、3人でAランクパーティーを組んでたのさ」

 

 ニエミネンさんの言葉に、デッカーさんはますます目を険にして睨みつける。

 ちなみにケンさんとクーノさんはワリナ王国の有力家臣のご子息で、レオさんの護衛兼付き人をしている。別の言い方をすると、幼なじみで遊び仲間だ。

 騎馬護衛に注意された男は、横の者に小突かれて、小声で問い掛けられた。 

 

「お前、レオさんが王子だって知らなかったのかよ」

「知るかよ。て言うか、なんでお前は知ってんだ?」

「俺はレオさんがサーベルタイガーの頭骨を買った時に居合わせたからな。あの時レオさんは大金を支払える事を証明するため身分を明かしてるんだ」

「早く言えよ。そしたら俺、もうちょっと付き合い方変えたのに」

 

 レオさん達は、式典に出たり高位の人と会ったりするわけでもないからか、民衆の前に出るときのような見せびらかすための着飾った服ではなく、見慣れた探検者(エクスプローラー)の時の服装に近い。近いんだけど威厳威圧を出しまくってるのは、王太子モードだからだろう。わたしやリネールさんが言うところの、統率者の覇気スキル発動中ということだ。

 

 

 隣国の王太子殿下がいきなり来たと門兵に呼ばれたらしい領都門守備隊の司令官がすっ飛んできて、ゼーゼーいいながらレオさんの前に膝をついた。

 

「レオナルド王太子でいらっしゃいますか!? 領都邸からは、ご出立の連絡は受けておりませんが……」

「すまないな。こちらの都合で帰国する日を今日にすると、急遽、ついさっき決まったものでな」

「ついさっき……」

 

 司令官が絶句する。

 

「それ故、各方面に出立することは伝え切れてない。が、そのせいで正式な見送りの体制などできてないことは承知している。なのでその辺はこちらも問題視しないから安心してくれ」

「し、しかしワリナ王国へ向かう北街道は今、魔物出現中のため入場規制が入っています。安全上からも今はタイミングが良くありません」

「護衛なら自前の護衛兵と直衛の家臣を付けてるから大丈夫だぞ。護衛兵は魔境国境警備師団の者だから、魔物退治には慣れた者ばかりだ。それに俺含め全員探検者(エクスプローラー)登録しているし、探検者(エクスプローラー)パーティーとしてもAランクだ。規制地帯に入る資格はクリアしてるはずだ」

「いやしかし、国賓をそんなところに通すわけには……」

「そこの討伐隊も行くんだろ? 途中まで道は一緒だろうから、後ろをついていくよ。これ程頼もしい同行者はないだろう。むしろいいタイミングってもんだ」

 

 反論できなくなった領都門守備隊司令は、仕方なく伝令の馬を城へ出すとともに、出国の手続きを進めた。

 手続きを待っているレオさんに、リエラさんが近くまで来てペコッと頭を下げて、目立たないように小さく、ちょいちょいと手で合図した。こっち来てとの合図だ。それに気付いたレオさんはリエラさんに歩み寄った。護衛騎兵もレオナルド王子の方から歩み寄る分には止めることはない。

 

「レオナルド王子。帰るとは聞いてましたが、これはどういうことですか?」

 

 小声で詰め寄るマリエラ皇女様モードが少し入ったリエラさん。

 

「ミリヤ大使館には連絡できなくてすまなかった。まあ正式な挨拶は終わってるから形式上は問題なかろう」

「その挨拶の後、帰りそうでなかなか帰国しないでいるから、どうしたのかと思えば、急に出立するなんて。ヘキサリネも知らないようじゃないですか」

「これでも本国から急げ急げとせっつかれる中、このタイミングで出発するよう引き延ばしてたからな。大変だったんだぞ?」

「引き延ばしてたんですか?」

「ああ。そりゃこんな面白れえ魔物退治を見ずには帰れねえだろ」

「討伐隊が出るのを待っていたと?」

「正確にはマヤが参加する日を待ってた。その時はリエラも参加するだろうし、そうすりゃリエラとも長くいられるじゃねえか。マリエラ姫に挨拶しに行ったんじゃ、形式ばった中で顔をちょっと合わせるくらいしかできねえだろ?」

 

 リエラさんはぼふっと顔を赤らめた。

 レオさんも統率者の覇気など既に引っ込めて、いたずらっ子のような笑顔になっている。

 実はこの二人、アイポメアニール採取クエストの時にかなりよい仲になっているのよねぇ。

 わたしは半ば呆れて、つい本音が漏れた。

 

「まさか帰国を引き延ばしていた理由が、姫様とデートしたいためだったとは」

「ち、違うぞ。討伐隊の魔物退治を見たいからって言っただろ」

 

 それはそれでどうかと思う。

 

「あなたという人は……。とことん道楽を優先させるのですね」

 

 リエラさんはもっと呆れていた。

 

「こんな国とお付き合いを深めて大丈夫かしら」

「討伐隊に参加するようなお姫様には言われたくねえな」

 

 対するレオさんはニヤリと笑みを返す。

 

「おーい、リエラ嬢。そろそろ出発しますよ。そのお方はワリナの王子様だ。いくらリエラ嬢が美人だからったって、探検者(エクスプローラー)の身分じゃ一緒にはなれませんよ」

 

 討伐隊から呼ばれたリエラさんは振り返って、照れたような困ったような表情をした。そしてレオさんの方に向き直ると、

 

「それでは王太子殿下。道中の護衛は我々にお任せください」

 

 リエラさんは右手を胸に当て、片膝をついて男性探検者(エクスプローラー)風に挨拶をした。そして顔を上げると、ちゃめっ気たっぷりに微笑んで、討伐隊に戻っていった。

 その背中をだらしなくニヤけた顔で見送るレオさん。

 

 「うわぁ、でれでれしちゃってぇ」と、わたしがその様子をジト目で見てたのに気付いたレオさんは、急に赤い顔になって、しっしとわたしを追いやる。

 しかしわたしを遠ざけたところで、レオさんに意地悪な声がかかるのは防げないのであった。

 

「へー。お姫様に護ってもらうのですか王子。へー」

「覚えとこうぜ。将来若に何か頼み事する時、いいネタになるかもよ」

 

 ケンさんとクーノさんにからかわれたレオさんは、照れ隠しなのか、乱暴に2人を馬車の方へどついた。

 

「おらこっちも行くぞ。とっとと馬車乗れ!」

 

 20人の荒くれ探検者(エクスプローラー)集団と、その後ろからワリナの馬車4台に騎兵10騎という妙な隊列が、ゾロゾロと北街道を進んでいった。

 

 

 




ヘキサリネの隣国、ワリナの王子と、ミリヤの姫の仲を再確認するのんびり回でした。
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