異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
小一時間くらいで、北の森を貫く街道の入り口に着いた。
そこにはヘキサリネ軍のテントが立っていた。ゲートがあり、西街道の道の駅でやっていたのと同じように、出入りを規制をしている。周辺には、肩や胸などへ黄色いラインが入った鼠色のサーコートを着た兵隊が展開していて、ここから領都方向に魔物が入らないよう守備しているという。
わたし達第二次探検者増援部隊の入場はスルーだった。ワリナの護衛も騎兵も、ケンさんやクーノさんらも、制限に引っ掛からない上位ランク者を揃えてきているので、問題なく入場できた。
一方で明らかに子供であるサンドラちゃんは、「おっと、お嬢ちゃんはなんだい?」と止められる。リネールさんが護衛されて入ると説明すると、そうかそうかと兵士達は理解を示した。
「行ってらっしゃい。気を付けてな嬢ちゃん。大人の言う事はきちんと守るんだぞ」
とサンドラちゃんは頭を撫でられた。
次いでわたしも頭を撫でられる。
えっ!?
「それ、わたしも子供だと思ってやってるんですか~?」
わたしは薄ら笑いに口元をヒクつかせて兵士を仰ぎ見る。ゲートを守っている兵士は身長190cm以上ありそうで、ガンを飛ばすにも首が痛くなる。
「おう、元気のいい嬢ちゃんだな。怪我すんなよ。ガッハッハ」
巨人兵士は豪快に笑ってわたしを送り出した。
むわーっ、でっかい魔物引きずって帰って、子供扱いしたことを見返してやるわ。
ギリギリ歯を噛み締めているわたしを見て、リネールさんがヒャハッと嬉しそうにしやがった。おのれ、いつか締めてやる。
さあここからは危険地帯だ。
一応わたしも警戒を強めといた方がいいかしら。
そういえば確か、わたしが入れさせてもらっているパーティーには、探知法力持ちがいるって言ってたっけ。
わたしの前を歩く、クロスボウを担いでいる『龍の鱗』メンバーのガーターさんの横に並ぶと、声を掛けた。
「あのぉ、龍の鱗って探知法力持ってる人がいるんですよね?」
「ああ。パイアスが探知法力持ちだ」
そう言ってデッカーさんのすぐ後ろを歩いている人を指差した。
腕力こそ正義な感じの『龍の鱗』メンバーにしては珍しく、パイアスさんは小さめで細身の人だった。小さめと言っても、170cmはゆうに超えてそうだけど。
「パイアス。臨時メンバーが、探知法力のことが気になるようだぞ」
「俺の法力にか?」
パイアスさんは少し歩調を緩め、わたしが追いつくのを待つ。
「あぁいえいえ、気になるっていうよりは、こういう場面ではすごく頼りになる法力ですよねって思って」
褒められたパイアスさんは気を良くした。
「まあな。特にどんな魔物が出るか分からないところでは、何の備えもなしに強力な奴と鉢合わせしたら命取りだからな。普段の狩りで獲物探すのにも役立つし、近くの味方を探すのにも便利だ」
「近くの味方? ってことはもしかして、人間や普通の動物も見つけられるってことですか?」
「当たり前だろう。探知法力ってのはそういうもんだ」
あれ、そうなのか。
「それは安心ですねえ。角曲がったら出会い頭に虎とごっつんこなんて、嫌ですからねえ」
「逆にこっちから奇襲かけたりもできて、探知法力持ちがいると重宝なことこの上ない」
ガーターさんも絶賛する。
さすがはAランクパーティー。単独で西街道の危険地帯を抜けてきただけのことはある。
わたしが参加したアイポメアニール採取クエストでも、探知法力を持ってたイレムが早期警戒レーダーをやってくれたおかげで、移動時から宿営中まで、見張りが非常に楽だった。あれに慣れちゃうと、探知法力無しでの危険地帯の移動は怖いったらありゃしないよね。
「やっぱりレーダーは探検には必須よね。ようし。わたしも探知の腕を磨こう」
「なに? お前も探知法力持ちなのか?」
「いえいえ、全然違う法力なんですけど、いろいろやりくりすると探知の真似事みたいなのができるんです」
「ほー? どんなふうにやるんだ?」
「うーん、一言で言えば、息をしてるものを探知するんですけど」
「息を? それでどれくらい遠くのを見つけられるんだ?」
「それが、今のところ目で見えてる範囲ぐらいでして……」
「「はあ?」」
パイアスさんにもガーターさんにも呆れられた。
「目で見えてるなら探知なんていらねえじゃんか」
そうなのよねえ。
パイアスさんはケタケタと笑いだした。
「止めとけ止めとけ。紛い物使っても専門の法力には及ばねえし、中途半端はかえって身を危険にするだけだ。そんなもん使わなくたって、俺がずっと遠くから見つけてやるから安心しろ」
そう言って笑いながら歩調を早め、先頭集団の位置に戻っていった。
そうかもしれないけどねえ。
わたしにも一応酸素を使った索敵方法というのがある。
わたしの索敵方法というのは、わたしのマークを付けた酸素分子を振り撒いて、その酸素の減りを見張ることで、酸素呼吸する生物を感知するというものだ。
魔物もこの星で進化してきた生き物なので、酸素呼吸しているから、この方法で探知できちゃうのだ。
ただし、わたしが酸素を出し入れできるのは目で見えてる範囲なので、魔物がいるなら目でも見えてるはずじゃん、というオチがあって、それでさっきは笑われたわけだ。
ただ酸素は一度出してしまえば見えない方へも、勘でこの辺かなーって動かすことはできる。酸素を感知するのも直接見えてなくて問題ない。見えている必要があるのは、酸素の出し入れだけなのだ。
なので、酸素を出した後に遠くへ移動させれば、目視範囲外でも探知できるようになる。
わたしはこの方法を我流ながら思い付いて、アイポメアニール採取クエストの時に試している。その時の感想としては、使いこなせば便利だろうけど、いろいろ課題も多いなというものだった。
というのも、これを移動中に使おうとすると、がぜん難易度が上がっちゃうのよ。絶えず前方に酸素を撒かないとだし、もう見なくてよくなった後方の酸素を回収するという作業も加わって、なかなかに忙しい。それを酸素の減りを監視するのと同時にやらないとなのだから大変になる。
回収しないで捨てちゃうのも手だけど、広域を見張る時は捨てちゃう酸素量が多いから、もったいないのよね。
でも、わたしはこれをマスターしたいのよ。
そこでお師匠様の残した本に書いてないだろうかと探していたところ、昨夜そのページを見つけたんだ。やっぱちゃんと載ってたのね。
それによると、撒く酸素の量は少なくていいという。逆に多すぎると情報過多になり、パニックになるのだとか。酸素を消費する生物とは人間や動物、魔物だけでなく、虫から植物、細菌に至るまで、あまたいるからだ。
実際わたしは採取旅行で試した時、火の勢いが強くなるくらい酸素を撒いて探知を試み、パニックになりかけた。感度をかなり落として、やっとこ使えたのだ。
わたしはもうちょっとしたら、西の端の町『タウエルン』へ、お師匠様の目的を引き継ぐ旅に出るつもりでいる。一歩町を出れば野生動物と魔物が
最大の問題だったところはお師匠様の本で解決の目処が立ったことだし、本職の探知法力には敵わないとしても、できるようにしておいて損はないと、練習しておくことにした。
「
わたしは両手を上に広げて酸素を放出する。
それを見たサンドラちゃんが不安そうな顔をして問いかけてきた。
「マヤちゃん、何始めるの?」
「探知法力の真似事をわたしの法力で練習しておこうと思って」
サンドラちゃんの目が何かを確信したものに変わる。
「えっとね、マヤちゃんの法力はとっても危ないの。魔物だけ相手してると思っても、実は近くにいる兵隊さんやハンターも巻き添えにしてるかもしれないの。だから気軽に使うのは控えた方がいいと思うの」
「な、なんで兵隊さんやハンターも巻き添えになるの?」
「また『サンソ』とかいうの取っちゃって、この先歩いていくと魔物が道端に倒れてたりして、あ、ここで魔物が待ち構えてたみたいですねー、探知! ってやるんだよね?」
「それ探知じゃないから! 前もって見つけるっていうのが探知でしょ!? それくらいわたしだって判ってるよ!」
「あ、そうなの?」
酷い言われようだ。わたしがやることは全て命の危険ありって疑われている。
そりゃあ採取旅行で野営地の周りに張った『結界』は、誰彼構わず入ったものがみんな死亡するようなものだったけどさあ。
「探知は見つけるためのもの。探知に引っかかったら即死亡なんて、そんな物騒なことしません」
「……うん、わかったの。疑ってごめんね。でも練習ってことはまだ加減できてないんだよね? 気を付けてね?」
「うう、サンドラちゃんの疑いは完全には晴れてないって~」
「誰の法力だって使い方を間違えれば危ないものだもの。マヤちゃんのは特に力が大きいから、念を押しておくのに越したことはないの」
「……まあそうだよね。前科もあるし」
法力は刃物と同じようなもの。そして万人が持っているから、みんな危うさも自然と心得ているんだ。わたしはいきなり法力を持った経緯もあるし、あまりにも物騒な利用法が多いのに、配慮に欠けてるところがあるのは確かだ。
「確かにそうだよね。よく考えて、気を付けて使うよ」
そして有益に使いこなして、早く平和の女神と言われるようにならなきゃと、心に誓うわたし。
さあ、安全第一で練習しよう。
わたしは討伐隊を覆うくらいの範囲に粗く酸素を振りまいた。そして討伐隊の人達の呼吸を見ながら、探知感度をウサギが感知できるくらいに調整した。
こんなところかなといったところで、さっそくおやっと思うものがあった。