異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第112話「密航者」

 

 わたしは討伐隊を覆うくらいの範囲に粗く酸素を振りまいた。そして討伐隊の人達の呼吸を見ながら、探知感度をウサギが感知できるくらいに調整した。

 こんなところかなといったところで、さっそくおやっと思うものがあった。

 

「あ、あのー、パイアスさん」

 

 わたしは小走りに先頭から2番目にいるパイアスさんへ近寄ると、声を掛けた。

 

「ん、なんだ?」

「わたし達の討伐隊におかしなところはないですか?」

「おかしなところ?」

 

 パイアスさんはわたしを見つめた。周りを見回すでもなく、じっとわたしを。

 

「うちのパーティーメンバーにFランクの子供がいることだろ。それから同じような子供を護衛して討伐ランクBのエリアに入ってるとか、メイドの格好したのがいるとか、おかしなところだらけだ」

「むわあ、初っ端から間違ってますよ! わたしは大人です! そうじゃなくて!」

 

 わたしはワリナの馬車に目を向ける。

 

「わたしが疑ってるのはレオナルド王太子の馬車です」

「む。確かにヘキサリネの探検者(エクスプローラー)が、敵国の王族を護衛して危険地帯を歩いてるってのも、あり得ねえ事態だな」

「そうじゃなくてえ……」

 

 わたしが溜息をついていると、

 

「おい、居候。あまりパイアスの邪魔すんじゃねえ。探知に集中できねえだろ」

 

とデッカーさんに怒られてしまった。

 

「ええー!?」

 

 そんな理不尽な。

 

「魔物の奇襲攻撃を受けたくなきゃあ、何も言わず黙ぁって俺らの後をついて来い」

 

 いかにもFランクらしい扱いを受けて、わたしは仕方なくリネールさんのところに歩み寄った。

 

「なんか相手にしてもらえないから、仕方なく俺のとこに来たって、背後に説明書きが見えるんだけど」

「えっ!?」

 

 わたしは慌てて後ろを振り向く。

 無いじゃない、そんなもの書かれた吹き出しは。

 

「冗談は置いといてですねリネールさん。もしかするとレオさんの馬車に、何か小型の魔物がくっついてるかもしれないですよ」

「何だって?」

 

 道を歩いている探検者(エクスプローラー)は20人。馬車の中に乗っている人は、わたしマーク付いたの酸素を吸ってないので感知できてない。なので馬車の所で感知するのは馬と御者の人になるはずだ。

 実際、文官と護衛が乗ってるという馬車では、御者の人だけが感知できる。

 ところがレオさんの馬車には、御者とは違う酸素の減りがあるのだ。減る量からして小さい動物だろう。どこかにウサギの魔物とかがしがみついてるんだろうか。

 どうしたの? とリエラさんも近寄ってきたので説明した。

 

「なるほど。マヤさんのサンソを使った探知で見つけたわけね」

 

 博識なマリエラ皇女様ことリエラさんは、わたしの法力について少なからず把握が進んでおり、なので理解も早い。

 

「なるほど。マヤさんの血に飢えたデストロイ法力が、生贄を見つけたってわけだね」

 

 対して田舎の村の一青年でしかないリネールさんは、住んでるファンタジー世界同様のファンタジーな理解力が精一杯のようだった。

 

「今なんか俺に失礼なこと考えなかった?」

「いいえ。というかわたしの法力はデストロイ法力じゃないです。オキシジェン・ビーナスと何度も言ってるでしょ」

 

 わたしは自分の法力の正式名を自ら口にしたことは一切ない。にもかかわらず、一緒に旅行した弧児院の子達に、デストロイ法力だの、破壊神(ザ・デストロイヤー)だのと言われるようになったのよね。子供に間違われるほど可愛いわたしに、どうしてデストロイヤーなんて物騒な二つ名を付けようとするのかしら。

 とにかく、リネールさん、リエラさんと道の脇に立って馬車を待っていると、ワリナの騎兵が寄って来た。

 

「どうかしたのか?」

「レオナルド様の馬車を調べたい。魔物がくっついてるかもしれないんだ」

「何だと?」

 

 リネールさんが告げると、騎兵の人は馬車へ向かって何か合図を送った。

 

「すまんが馬車は我々で調べる。君達は近付くな」

 

 途端に馬車の窓に鉄の扉が下ろされ、護衛の乗る馬車からは兵士があちこち乗り出して警戒に入る。御者の人も手綱を握り直し、今にも馬を駆け出させんばかりだ。

 

「これは襲撃に備えた構えね。馬車を止めろって言っても聞かないわよ。一応疑われたってことね」

「なんで?」

 

 リエラさんの見解にリネールさんはキョトンとする。

 

「異常があるから馬車を止めろって言って、止まったところを周囲に隠れていた仲間が飛び出してきて馬車を襲撃するっていうのは、要人が乗ってる馬車ではよく取られる方法だからよ」

「へー。一般人は知らない世界だねぇ」

 

 クーノさんが馬車から出てきて、こっちへやって来た。

 

「何か馬車にくっついているって?」

 

 リエラさんが説明していると、続いてレオさんも顔を出した。護衛の人が慌てて飛んで行く。

 

「王太子殿下、危険です! 身を晒さないでください!」

 

 クーノさんが手でわたしを指し示しながら何事か合図を送ると、レオさんは頷いた。

 

「マヤが言い出しっぺなんだろ? 襲撃じゃねえよ。止めろ止めろ」

「王太子殿下、まだ分かりまぜん!」

「コイツらとはひとかたならぬ付き合いだ。心配すんな」

 

 レオさんは護衛の言うことも聞かず、馬車から飛び降りると、わたしの方に歩んでくる。信用してもらえてることは、わたしにとっては嬉しいことだけど、護衛の人達にはたまったものではないだろう。

 後ろの方の騒ぎに、討伐隊も立ち止まった。

 

「何事ですか!?」

 

 デッカーさんとパイアスさんがやって来る。

 

「マヤがこの馬車になんか貼り付いてるんじゃねえかだとよ」

「なに?」

「お前、さっきもワリナの馬車がどうのとか言ってたな」

「パイアスさんの探知には異常は見えてないですか?」

「こんな目視でわかるところに探知法力使ったってしょうがねえだろう」

「でも……」

 

 わたしが反論したげでいると、パイアスさんはむっと嫌そうな顔をした。そしてため息を吐くと、じっとレオナルド王子の馬車を見た。法力を使っているようだ。

 

「御者を含め3人。異常は無えようだが?」

 

 外から見た馬車は、御者の人が1人見えるだけだ。

 

「3人?」

「ああ。あとの2人は馬車の中に乗っている」

 

 少し自慢げにパイアスさんは答える。見えてないのに人数を言えるということは、やっぱり探知法力で感知してるんだろう。

 だがレオさんは面白そうに笑うと驚くことを言った。

 

「馬車の中にいるのはケン1人だ」

「「「え!?」」」

 

 周りにいた人達も同時に驚いて声を上げる。

 

「マヤはどうして馬車が変だと思ったんだ?」

 

 レオさんが聞いてきた。

 

「わたしも自分の法力で探知をやってたんですが、レオさんの馬車からは2つの反応があるんです。わたしの場合、馬車の中までは探知できないんで、御者の人だけなら話は分かるんですが、そうすると1つ余計です。その1つの反応は小さいので、小型の魔物がいるのかもって思って」

 

 レオさんはいよいよ面白そうにすると、腰の剣を引き抜いた。

 

「マヤ、よく見つけてくれた。クーノ、ケン、馬車を調べるぞ」

 

 レオさんは馬車を触りながら周囲を回り、クーノさんとケンさんも「そっち見ろ」「こっちは俺が見る」と声を弾ませて、屈み込んで馬車の下を見たりする。護衛の人が、「我々がやります!」というのを制し、3人は「退屈でしかたなかったんだ」「いいタイミングで余興がやってきた」と嬉しそうだ。

 一切言う事を聞かない隣の国の重要人物達に、フィリアさんが「絶対あの人達の護衛侍女はやりません」とか言ってる。

 

 そしてクーノさんが車体の下に潜り込んだとき、「やった! でっけえネズミがいやがった!」と声を弾ませた。

 

「いててて! 何すんだ、は、はなせえ!」

 

 うわあ、なんてことでしょう。

 

「こりゃあ凶悪な魔物だ!」

 

 馬車の下から引きずり出された大きなネズミとは、なんと孤児院の悪ガキ、イレムだった。

 レオさんがイレムの首根っこを掴んで持ち上げ、嬉しそうに笑った。

 

「こ、これ感知できなかったんですか?」

「じ、自分達の隊列なんか見るか。というか、普通見る必要なんかねえだろ」

 

 わたしが探知法力のパイアスさんに問い詰めると、凄く焦った顔をした。

 

「おいイレム。お前なんでここにいるんだ?」

「そ、そりゃあ討伐隊に参加するためだ。俺には魔物探知法力がある。ぜったい役に立つだろ?」

「馬鹿野郎!」

 

 すかさずデッカーさんが怒鳴りつけた。イレムは首をすぼめて縮こまる。

 

「いらねえって言っただろうが! こっちにゃBランクハンターの探知法力持ちがいるんだ! Fランクのガキなんざ邪魔なだけだ!」

 

 他の龍の鱗メンバーも続いた。

 

「帰れ馬鹿者が! 戦力は割けられんから一人で帰るんだぞ! 探知法力があるなら魔物くらい避けて帰れるだろう!」

「仮に魔物に見つかって食われたとしても、規則を破って危険地帯に入り込んだ者の責任だ。実力に合わぬ所に来た者が悪い!」

 

 格上探検者(エクスプローラー)達に次々と叱られ、イレムは青い顔をしてアワアワしている。そして図々しくもレオさんの方へ助けを求めるように首を向けた。

 

「行きてえのか? ならまず百まで数えてもらおうか? できるまで連れて行かねえって言ったよな?」

「げげっ!」

 

 さっき領都の門のところでは、あれはレオさんのパーティーでの話だとか言って逃げてたけど、そのレオさんの前だ。もう言い訳は通じないぞ。

 

「どうした、ほれ」

「か、数えるよ。いち、に、さん……」

 

 観念してイレムは数え始めた。

 

「じゅうく、にじゅう。に、にじゅういち」

「おお!」

「両手両足の指の数を超えた!」

「一応その後に練習はしてたんだね」

「イレムのくせに偉いじゃないか」

 

 わたしとリネールさんが手を叩く。

 龍の鱗の人達は低次元な話に呆れていた。

 一瞬感心したわたしとリネールさん。だがしかし、いくらも進まずに躓いた。

 

「さんじゅうはち、さんじゅうく。……えっと次なんだ?」

 

 パカッとレオさんに頭を叩かれた。

 

「できてねえじゃんか! 三の次なんだ?」

「三の次? よん、よん、四……もしかしてよんじゅうか?」

「一応僅かには脳ミソがあるみてえだな。じゃあ四十九の次は?」

「四の次だから五。ごじゅう?」

 

 そんなこんなで九十九まで行き、

 

「九の次は十だから、じゅうじゅうだ!」

 

と自信満々に言ったもんだから、討伐隊じゅうで大笑いになった。レオさんからまたポカリと叩かれた。

 

「バカモンが、九十九の次は百だ! マヤ、こいつはお前が見とけ! 帰るまで面倒見ろ!」

「ええ、わたし!? また押し付けられた!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ王太子殿下!」

 

 デッカーさんが慌てる。

 

「ここは討伐ランクB地帯ですぜ。単独でFランクを入れるわけにはいかねえ。これは規則だ」

「なら危険地帯で確保した成人前の子供を保護せず、一人で帰すのはどうなんだ? 心配すんな、規則に倣うなら、護衛対象としてならここにいたって問題ねえ。俺のパーティーはAランクだから、俺達の護衛対象って事にしとこうや。帰りはマヤの参加するパーティーあたりで護衛してやりゃあいいだろ」

「ワリナの王族に護衛されるFランクなんて聞いたこともねえですよ!」

「俺達はAランク探検者(エクスプローラー)パーティーだ。王族じゃなくて、探検者(エクスプローラー)とみりゃあなんてことねえだろ」

 

 デッカーさんはため息をついた。

 

「そのうえ帰りはギルドマスターのパーティーで護衛ですかい? どんな重要人物だ」

「そんなに嫌なら途中で魔物の餌にしてこいや。どうせちゃんと百まで数えられなかったしな」

「も、もう数えられるようになったよ!」

 

 捨てられそうになって慌てるイレム。

 

「後出しじゃねえか! 魔物討伐の邪魔になるようだったら、即餌にするからな!」

 

 と、なんだかアイポメアニール採取クエストの時を思い出すようなやり取りになって、思わずわたしは笑ってしまった。

 それと同時に何だか肩の力がフッと抜けたような感じになった。

 初の討伐パーティー参加。しかもマスターと合流後は、直属になって火力支援とかで働かされるんだろう。どこかで緊張してたみたいだ。

 ここまでわたしはマスターに無理やり連れてこられた感があって、実は討伐隊がちょっと怖かったんだ。だけど今、あの薬草採取パーティーに戻ったみたいで、わたしの心の躊躇は吹っ飛んだのだった。

 

「王太子が……いやSランクがそう言うなら仕方ねえ。いいでしょう」

 

 デッカーさんは渋々同意した。

 

「や、やったぜ!」

 

 イレムはまたも首の皮一枚が繋がったので、ガッツポーズした。ホント、最後の首の皮一枚が分厚い子だ。

 デッカーさんはかなりの不満顔である。口出しのできない隣の国の王太子にして探検者(エクスプローラー)としても格上。その上、自分の年齢の半分の若造に意見を覆されたのだ。しかもその国は信用できない敵国ときたもんだ。そりゃ全く面白くなさそうな不機嫌顔になもなるよね。

 

「じゃあイレム、邪魔になんないよう大人しく付いていけよ」

 

 一応イレム密航の件に片が付き、レオさん達は馬車へ踵を返した。

 するとイレムも胸を張ってレオさんの後を付いていく。レオさんが振り返った。

 

「なぜこっちに来る?」

「護衛対象だから、俺も馬車乗っていいんだろ?」

「馬鹿かお前は。それはここにお前を置き去りにしないための方便だ。そもそも要人用の馬車に乗せられるか」

 

 ちぇっと舌打ちして、やむを得ずと言う顔をしてわたしの方にイレムは戻ってきた。

 

「道草食っちまった。行くぞ! 少しペースを早める!」

 

 デッカーさんの号令で、第二次探検者増援部隊は再び歩き始めた。

 

 

 歩き始めてすぐ、イレムはわたしに問いかけた。

 

「なあガキババア。大人のパーティーに探知法力者がいるんなら、俺は探知しなくていいのかな」

「その呼び方やめないと次から相手しないわよ。そうね、わたしならそれでも自分の探知法力で見張るわ。ベテランとどれくらい差があるのか知ることができるじゃない」

「そうか。俺の方が早く見つけられりゃあ、俺の方がスゴいぜって言い返せるもんな」

「その無駄な自信はなに? どうして謙虚になれないかな」

「だって孤児院の先生が、大人は『うやまわなければならない』って言ってたぞ。間違ってたらたとえ大人でも注意してやるんだろ?」

「それ『敬う』のと全然違うから。なんか違うのと取り違えてるから」

 

 こいつ、3才くらいに巻き戻してやり直せないかしら。

 

 わたしは道中、イレムの非常識を矯正するのに四苦八苦するのであった。

 しかし討伐隊にとってお荷物となったと思われたイレムだったけど、その真価はすぐ発揮されたのだった。

 

 

 

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