異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第113話「泉の補給拠点(1)」

 

「リネールさん、もうちょっとで弓矢の練習した広場だよね」

 

 そこはリネールさんに、弓の射方の基本を教えてもらった北の狩場の入り口のことだ。泉のそばだったはず。

 

「おう、よく覚えてるじゃないか。そういやマヤさんは地形を読んだり地図見たりするのも得意だったね。方向音痴でもないみたいだし」

「方向音痴だったら、野外の依頼とか受けたらどうなるの?」

「やばいね。非常食しこたま持っていって、食い尽す前に戻る、迷ったらとにかくどこかの町に辿り着くか、誰かと出会うのを祈るしかないね」

「ええー? そんな人、絶対一人で行動しちゃだめでしょ」

「ところで、その後ちゃんと弓矢の練習してる?」

「し、してるわよ。ただ弦を引く力がないんで飛ばないし、当たっても刺さらないしだけど」

 

 わたしの射るひょろひょろ弓矢は、ウサギの魔物に馬鹿にされる程で、散々だった。

 そんな時、デッカーさんが皆に向かって声を上げた。

 

「間もなくヘキサリネ軍の補給拠点『キャンプ・スプリング』だ。泉の横の、北の林入り口広場に設営されている。着いたら一旦休憩だ。最新情報を確認して、草原に進むか森へ入るかを決めるぞ」

 

「「「うおっす!」」」

 

 まだ疲れる程歩いてないとは思うが、休憩と聞いて皆嬉しそうだ。なんとなく足取りもウキウキと軽くなったその時、一同の足を止める一言が響いた。

 

「魔物の反応だ!」

 

 どうもこのセリフを聞くとイラッとくる。

 それは早期警戒レーダー『イレム』の声だった。

 

 非常に有用な情報だとゆうのにイラッとくるのは、アイポメアニール採取クエストの時、このセリフの後には必ず魔物が現れて、大概はイレムが格上の魔物にもかかわらず斬りかかっていって、返り討ちされて、その尻拭いをする羽目になったからだろう。

 

 不機嫌そうな顔を返したのはわたしだけではなく、先頭集団にいた探知法力持ちのパイアスさんも、片眉を上げて聞き返してきた。

 

「はあ? どこにいるって?」

「半里先、10頭の集まりが……えーと15個もあるぞ! やべえすげえ数じゃねえのこれ!? 大きさからしてオークあたりの魔物だ。間違いねえ!」

 

 イレムは自信たっぷりに言った。

 こいつは素行の悪い悪ガキだけど、探知に関してだけは早くて正確だった。性能は採取旅行で証明済み。だとすれば……

 

 わたしはこの先の状況を想像し、顔を青ざめさせた。

 だがそこでパイアスさんとデッカーさんは笑い始めた。

 

「半里先だあ?」

「ガハハハ! お前そりゃあ、ヘキサリネ駐屯軍の兵士だ! 魔物じゃねえよ!」

「えっ?」

「半里先ならちょうど北の林に入る手前の広場なんだよ」

「つまり駐屯軍の『キャンプ・スプリング』がそこにあるんだ。交代要員もいるし、だからそれだけの人数がいるんだよ」

 

 それを聞いて他のパーティーの者もクスクス笑い出す。

 

「15組の他にはないか?」

 

 パイアスさんはイレムに問うた。

 

「う、うん。いねえ」

 

 イレムの答えを聞くと、はあと溜息をついて肩をすぼませた。

 

「20人くらいの集団が東寄りにいるだろう?」

「え? そ、それは……見えねえ」

「デッカーさん、こいつはまだ半人前でさあ。見切れてねえっす」

「そうか。まあ十何年もハンターやってきたお前と比べんのは酷ってもんじゃねえか?」

 

 デッカーさんはニヤニヤして肩をすくめると、イレムを睨みつけた。

 

「未熟な貴様の探知なぞ頼らんでも、Bランクの探知法力持ちがこっちにゃいるんだ。これ以上邪魔するんだったら本当に置いてくぞ!」

 

 頭から怒鳴られて、イレムは怯えて首を引っ込めてシュンとなった。デッカーさんは前へ向き直ると、行くぞと歩き出した。イレムはしょんぼりとして、とぼとぼとその後ろに付いていく。

 

「パイアスさん。イレムは探知しきれてないって、本当ですか?」

 

 デッカーさんの後ろを行くパイアスさんにわたしは尋ねた。

 

「そうだ。奴が言った他にも、20人の集団がいる。密集してかたまっているから、宿舎のテントだろう」

 

 周りの人達から呆れた声が次々に出た。

 

「数人ならまだしも、20人も見逃したんですかい?」

「とんだポンコツだな。その程度で役に立つからと討伐隊に加わろうとは。修行して出直しな」

 

 イレムを罵る声をパイアスさんは片手でまあまあと鎮める。

 

「まあそう言うな。そこは多分宿舎のテントだ。遮蔽物の中にいると反応が弱まるからな。それを漏らさず見つけ出すには場数が必要なんだよ」

 

 さすがはパイアスさんだと、多くの探検者(エクスプローラー)達が賛辞の言葉を口にする。

 

「まあボウズにはいい経験になったんじゃないか?」

 

 パイアスさんはそのように良い方へ話を纏め上げて、この話はもう終わりだと先へ歩き出した。

 イレムはますます意気消沈して下を向いた。

 

「いや、待って待って! こんな奴だけど、イレムの探知は結構正確なんだよ!?」

 

 わたしが呼び止めると、パイアスさんは立ち止まって再び不機嫌な顔で振り向いた。せっかく穏便に話を終わらせたというのに蒸し返されたからだろう。

 

「おい、邪魔すんなって言ってんだろ。そいつには確かに探知法力があるのかもしれねえが、まだ中途半端な探知しかできてねえ。なら、横で俺達ベテランのやり方を見て、それに倣って自分でも練習して学ぶってのが探検者(エクスプローラー)見習いのすべきことじゃねえか?」

 

 非常に正論をパイアスさんは言う。それでもである。

 

「いえ、邪魔してるわけじゃないです。見えてない20人は、もしかすると魔物じゃないせいなんじゃないかと思ったからですよ」

「ああん?」

 

 パイアスさんは片眉を上げる。

 

「っていうのは、イレムの法力はホント超出来が悪くて、なんとまあ、魔物だけしか感知できないんですよ。その代わり魔物探知は結構正確で……」

「出来が悪いってなんだよ!」

 

 ゲシっとわたしの足の方から鈍い音がした。

 

「あいた! 蹴った! この子わたしのスネ蹴った!」

「ベロベロバアー」

「待てこの悪ガキ! せっかくあんたの援護してあげてるのに!」

「超出来が悪いとか、アレのどこが援護なんだよ!」

 

 イレムの騒ぎで隊列が止まったので、レオさん達が馬車を降りてきた。

 リエラさんが歩み寄って、ざっといきさつを説明する。さっきも見たなその光景。

 

「ふむふむ。なるほど?」

 

 説明を聞いてるレオさんの横を通り過ぎようとしたイレムを、レオさんはさっと捕まえる。

 

 う、わたしが必死に追いかけて捕まえられないでいる悪ガキをいとも簡単に……。これがSランクとやらの実力なの?

 

「おいイレム。お前には今も同じ様に見えてるのか?」

「う、うん」

 

 レオさんに襟首を掴まれてぶら下がるイレムが頷いた。

 

「マヤ。お前も例の法力使って探知もどきができるんだろ?」

「わたし? すみません。移動しながらの探知はあんまやったことなくて、まだそんな遠くを監視できないです」

「使えねえ奴だな。今は止まってるんだし、この状態なら見れるんじゃねえか? 遠くが探知できるってどれだけ貴重だと思ってんだ。そんな能力に気付いたら、俺なら寝る間も惜しんでいろいろ試してるぞ。ホレやれ、今すぐやれ」

「う~、けなしてやらせるんじゃなくて、褒めながら促してくださいよ~。わたし褒めて伸びる子なんですからー」

「えーい、面倒臭ぇ。いいからやれっつーの!」

 

 スパルタ王子にけしかけられて、わたしが涙目になって「酸素広域散布(オキシジェン・スキャッター、ワイドエリア)!」とやってるところで、リエラさんがわたしに代わってデッカーさんの説得を続けた。

 

「マヤさんが言ってたのは本当よ。イレムは魔物しか探知できないけど、数は正確だし、最近は大きさも分かるようになってきて、信頼性は上がってきてるわ。ということは、そこにいる大多数はヘキサリネ兵ではないわよ」

「お前ぇら、そんなにそのガキの探知を信用してんのか?」

 

 デッカーさんの問いにリエラさんが「ええ」と頷くと、サンドラちゃんとリネールさんも「今んとこ外れたことないの」「自分で仕留めたいが為にワザと言わないなんてこともあったなぁ」と言い添える。さらに助け舟を出してくれたのがホワイトガーディアンのメンバーだ。

 

「イレムの探知の正確さは僕達も目にしている。僕達も一目置いてるよ」

「そうよねー。イレムちゃんの探知は、いるいないだけじゃなくて、なにより微妙な反応の違いを見れるようになってきてるのが凄いわよねー。経験積んだらそこにいる魔物の種類もバッチリ当てられようになるわよー」

 

 ニエミネンさん、エリンさんの言葉に、デッカーさんはにわかには信じられないようだった。しかし確かにさっきイレムは、魔物はオークあたりだと言っていた。本当に種類までわかるのか? と訝しむ。

 

「おい待てよ。そうしたら10人15組の集団が全部魔物ってことになっちまう。そもそも魔物はそんなに行儀よくない。ゴブリンやオークは集団にはなるが、きれいに組なんか作らないぞ」

「それよりも、そうなるとパイアスだけが見えた20人だけが人間ってことだよな? 他は魔物だと。もしそれが本当なら、『キャンプ・スプリング』は魔物に占領されてるってことになるんだぞ?」

 

 その言葉を聞いた探検者(エクスプローラー)は、あざ笑う者と息を飲む者とに分かれた。

 すると、

 

「そういうことなんじゃねえの?」

 

 とレオさんが冷ややかな口調で口を挟んだ。

 

「な、何言ってんですかいレオナルド王太子」

「ヘキサリネ軍の駐屯地が占領されてるって、あんたが言った通りだよ」

 

 レオさんは口元に皮肉な笑みさえ浮かべて言った。

 

「……ま、まさか、信じられねえ」

「待て待て! そこは単なるキャンプじゃねえんだぞ。今回の作戦の後方補給拠点になってるんだ。しかも総大将の領主様が行ってるはずだ。もしそんな事になってたら、領主様はどうなったんだ?」

「ほうヴェルディも行ってたのか。たかが魔物退治に、のこのこ前線に出て来るたあヒマなんだな」

 

 レオさんがそう言うと、ケンさんがニヤニヤしながら冷やかした。

 

「まったくですなあ。たかが魔物退治に、妙にウキウキして付いて行こうとする人もいるらしいですし。その人もよほどヒマなのか子供なのか」

 

 クーノさんも吹き出しそうになるのを必死に堪えてケンさんに同調した。

 

「俺もその人のことを聞きました。このタイミングで出発する為に、あれこれ言い訳を考えて引き伸ばし工作してたそうですよ。余程暇なんでしょうねえ」

 

 二人がレオさんの事を暗に言ってるのは間違いない。バツの悪そうな顔で睨み返すレオナルド王子様。

 

「ちっ。ヴェルディも元探検者(エクスプローラー)らしいからな。なら現場に出たがる気持ちは分からんでもない。もしそれで死んでりゃ、そこまでの男だったってことだ」

 

 レオさんは軽く言っているけど、ヘキサリネの人にとっては一大事だ。軽口で済ませられるものではないので、食下がってきた。

 

「あっさり言わんでください! 一国の国主ですよ!?」

「その通りだ。国が傾くような事案ですぞ!」

「ふん。だが俺の国にとっちゃあ好都合かもしれねえぞ?」

 

 冷酷に笑ってそう言うレオナルド王子に皆が押し黙る。

 そうだった。ワリナ王国は今まで敵対国だったんだ。皆には虎視眈々とヘキサリネを占領するタイミングを狙っている国という認識なのだ。今は雪解けムードだけど、何がきっかけで急変するかわからない。領主様がいないとなれば、その空白を突いてチャンスとばかりに攻めてくるかもしれない。そう思っているのだ。

 

 皆が深刻そうな表情をするのに気付いて、レオさんは言葉を和らげた。

 

「そんな顔するな。別にヴェルディ領主がくたばってるのを望んでるわけじゃねえ。それよりまずは事実を確かめるのが先だろう」

「そ、そんなわけわからんFランク共の話が信じられるか!」

 

 デッカーさんはなおもイレムへの疑いを捨てなかった。それに対してレオさんは面白そうに笑った。

 

「ふふふ、それじゃあ次は目視確認といこうじゃないか。それでみんなはっきりする」

「い、言われるまでもねえ!」

 

 レオさんは頷くと、皆の方に向いた。

 

「ただし探検者(エクスプローラー)らしく、最悪の状況を想定して進むぞ。皆音を立てないよう静かに進め。馬車はここで待ってろ。サンドラ、リネールも留守番だ」

 

 

 

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