異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第114話「泉の補給拠点(2)」

 

 第二次探検者増援部隊は街道を進み、そろそろ広場が見えてくるといった辺りで斥候を出した。

 

 その頃にはわたしの酸素散布と酸素移動も終わって、駐屯地があるという辺りも酸素探知(オキシジェン・レーダー)の探知範囲になっていた。

 

「レオさん、わたしの酸素探知(オキシジェン・レーダー)でも見えました。イレムの言ってた10体15集団と、20人の集団も分かります。20人の集団がもし建物やテントの中にいるなら、わたしの探知方法だと見つけにくいはずなので、そうでないところを見ると普通に外にいると思います」

「そうか。イレムはまだ見え方に変わりないか?」

「うん。変わんねえ。その20人は俺には見えねえ」

「駐屯地は魔物に占領されてる説が濃厚になったな」

 

 草原の草に身を隠しつつ近付いた斥候がしばらくすると戻ってきた。彼らが見てきたものは、まさしくイレムが言った通りだった。

 

「魔物はオーク・ソルジャーでした。広場はオーク・ソルジャーだらけです。20名ほどのヘキサリネ兵士が捕らえられて、一箇所に集められてました。それも、ポイズン・スパイダーの糸で編まれた檻に入れられてます」

 

 報告を聞いたデッカーさんはさすがに顔を青ざめさせた。イレムの言った通り魔物がオーク系だったことも、皆には驚きだった。

 

「ヘキサリネ軍予備兵力がやられちまったっていうのか!? 百人近くいるって聞いてたんだぞ! それに代わってオーク・ソルジャー? そんなのが百五十頭規模で広場にいるってのか!?」

 

 他の探検者(エクスプローラー)達も顔面蒼白になって頬を引き攣らせている。

 

「オーク・ソルジャーなら整然と10体ずつの隊を作ってるのもわかる」

「単なる魔物ならまだよかったのに、オーク・ソルジャーか。あいつらは統率の取れた戦闘集団だ」

「それが百五十頭となると、もはや普通の軍隊と違いがない。それはもう探検者(エクスプローラー)が扱う事案じゃねえ」

 

 皆口々にそう言う。

 

「な、何か手はありますか?」

 

 Aランクプラスのデッカーさんに皆の視線が集まる。デッカーさんは険しい表情のまま、歯切れの悪い返事をした。

 

「10や20ならどうとでもなるが、広場中に広がった百五十頭ものオーク・ソルジャーともなると……」

 

 デッカーさんであっても簡単には手が出せない様子だった。

 

「ふん。まあAランクプラス一人じゃあそんなもんかもしれねえな」

 

 皆のやり取りを面白そうに見ていたレオさんはそう呟き、そして不敵に笑った。

 

「それじゃあSランクの力を見せてやろうか」

「わあ、Sランクだともっとバッタバタとやっつけられるんですか?」

 

 わたしはレオさんに期待でキラキラとなった目を向けた。

 

「そのまま突っ込んでいくだけなら、単独戦闘力に長けたAランクプラスには敵わねえかもしれねえが、Sランクってのは指揮統率の能力ってのが求められる階級だ。Aランクプラスができない事でも、組織を動かして実行するのがSランクよ」

 

 おおっ、と皆が唸る。デッカーさんは苦々し気に口を歪めた。

 

「まあもっとも、あれくらいの魔物集団なら、マヤ一人で十分だと思うがな。Sランクなんて関係ない。作戦立案にもならねえ」

「「「はあ?」」」

 

 デッカーさんや龍の鱗メンバーが声を上げ、そしてわたしに目線を向けた。

 

「この女はペーペーのFランクのガキだろ! アンリミテッド・パーティーだかなんだか知らねえが、こんなケツの青いのと一緒にしないでもらいたい!」

「青くなんてないです! ちゃんとお年頃のプリッとしたかわいい……その、アレなんですから!」

「ふっ、赤ん坊のケツってことか? ぷにぷにしてて、ありゃあ確かに可愛いが、オシメちゃんとしとけよ? 魔物に噛まれて傷でもついちゃあ、唯一の将来の希望も潰えちゃうぞFランク」

 

 そのメンバーは、わたしのとある一点を見ながら言った。

 

「むがっ! わたしの胸見て言いましたね!? 赤ん坊扱いしないでください! 成人とはいえまだまだ成長途中なんですから、まだまだこれからなんですよ! 2,3年後に豊かになったわたしを見て擦り寄ってきても、もう遅いですからね!」

「ナニを訳分かんねえこと口走ってんだお前は」

 

 レオさんに呆れ笑いをされる。

 

「その前にー」

 

 エリンさんが手を挙げて口をはさんだ。

 

「マヤちゃんはAランクの魔物が出たとかくらいの危機的状況じゃないと使うな、目立たせるなって、マスターから言われてたみたいだけど~?」

「ほう?」

 

 レオさんは顔を上げる。

 

「オーク・ソルジャーが百五十頭も(たむろ)してりゃあ、Aランクくらいの危機でいいだろう。事実、Aランクパーティーがその数でビビってるわけだしな」

 

「ぬうっ! べ、別にビビってるわけじゃねえ!」

 

 デッカーさんが青筋を立てる。

 

 だが積極的に出れなかったのは事実だ。

 他のエクスプローラー達は恐れるようにマヤを見た。

 もしかしてあれくらいの数じゃ顔色一つ変えないのか?

 アンリミテッド・パーティーの資格を持つ者は、Aランクプラスをも凌駕するということか?

 

「そういうことだから、ここはマヤを積極的に使う」

「えっ! レレ、レオさん、広場のオーク倒すのに、わたしも参加するんですか? わたしは1匹でも怖いんですけど! 武器持った2m以上もある魔物なんて、ビビるどころじゃないですけど! わたしペーペーの探検者(エクスプローラー)なんですけど!」

 

 だというのに怯えまくるマヤに、皆はガクッとした。

 基本的にマヤは臆病である。法力が変なスイッチを入れない限り。

 

 レオさんがやれやれという顔をした。

 

「お前のバカげた法力は、こういう時に使うもんだろーが」

「女神の法力をバカ呼ばわり!?」

「あの物騒なののどこが女神だ。お前は自分の法力のバカさ加減がわかってねえ。これまでさんざんやらかしてるだろ。ということでオーク殲滅の主力になってもらう。平原に密集して集まってるこの程度の魔物なんか一撃だろうが」

「一撃って……ま、まさか水素爆発やるんですか? 泉があるからできるかもだけど、あれやったら捕まってる人達も巻き添えになって、一緒に吹っ飛んじゃいますよ?」

 

 わたしの発言を聞いて、それまで嘲笑っていた龍の鱗の人達が急にギョッとなった。レオさんは、ちげーよと手を横に振る。

 

「それやったら悪目立ちし過ぎるだろ。いいかよく聞け。オーク・ソルジャーが統率の取れた集団行動を取れるのは、コミュニケーションを密に取ってるからだ。そのコミュニケーションってのには魔法が使われているらしい」

「魔法? コミュニケーションに? 無線みたいなので連絡取り合ってるってことですか? というよりテレパシーかな」

「マヤの例えはよく分からんが、とにかく魔法を使って、離れていても意思疎通ができるらしい。お前このあいだ、ワイバーン仕留めたそうじゃねえか。その時ワイバーンは飛べなかったと聞いた。前もってアレやっといたんだろ?」

「アレ?」

「ワイバーンがあの程度の翼で巨体を浮かび上がらせられるのは、飛行の魔法を使っているからだ。飛べなかったってことは、魔法を使えないようにしたんだろ?」

「魔法を無力化……。あっ、魔素ですね? 確かに事前に魔素を取っ払う空気清浄をやってました。ワイバーンがいるなんて知らずに、ただ魔素が異様に濃かったから、取り払ったってだけだったんですけど」

 

 リエラさんが呆れた様子で嘆息した。

 

「やっぱり、また出会い頭にやっちゃっただけだったのね」

 

 マヤさんの前に現れるなんて、そのワイバーンも運のない、とリエラさんは魔物に同情まで見せる。

 

「ど、どうせいつもわたしは、出会い頭になんかやらかしちゃってますよ! こっちはその出会い頭のせいで5階級差違反になって、洒落になってないんですけど。

 ……まあ分かりました。空気清浄やって、オーク・ソルジャーの魔法を使えなくしちゃうってことですね?」

「そういうことだ。そうすりゃオーク・ソルジャーも単なるオークの集団程度にまで驚異度が落ちる。他のエクスプローラーも戦いやすくなる」

 

 続いてレオさんは探検者(エクスプローラー)達に向いた。

 

「皆は広場の側面に回り込んで、横から襲撃しろ。リエラは囚われている兵士の救出だ。檻の破壊を頼む」

「スパイダーの糸でできてる檻の始末ね。分かったわ」

 

 リエラさんへの指示に、探検者(エクスプローラー)達が驚いて次々に声を上げた。

 

「おい、ありゃあただのクモの糸とは違うぞ! ポイズン・スパイダーの毒糸だ。ポイズン・スパイダーの毒は即死級の強さだ。触れただけで死ぬ!」

「それに糸に含まれる毒液の量が半端ねえから火もつかねえ!」

「剣やナイフのような金属、ガラスといったもので切ると糸が破裂して、中の毒液が降りかかってくる。中にいる兵士が毒を浴びて死んでしまうぞ!」

 

 ナニソレ! なんて厄介な。ラトロ・アトレイタの糸も巻かれたら死ぬって言ってたけど、この世界の毒持ちはやり過ぎじゃないの!?

 しかしリエラさんは顔色一つ変えない。

 

「分かってるわ。だからこその私の出番よ」

「そうか。ミリヤの嬢ちゃんの解毒法力か!」

 

 アンフィスバエナ騒動の時にも参加していた探検者(エクスプローラー)がポンと手を打った。

 

「解毒といや確かにミリヤが有名だが、ポイズン・スパイダーの即死毒も解毒できるのか?」

「リエラ嬢はアンフィスバエナの毒を解毒できたんだ。実力は折り紙付きさ」

 

 おおっ、と皆がどよめく。

 

「ミリヤの解毒は噂に聞いてたが、そりゃあすげえ」

「どれくらいの時間があれば、ポイズン・スパイダーの檻を解毒できる?」

 

 質問にリエラさんは自信をもって答えた。

 

「ミリヤ特製の解毒薬も併用すれば、即死毒もものの数秒で無毒化できるわ。任せてちょうだい」

「おおっ!」

「スゲーッ!」

 

 実際のところリエラさんは、自分の法力だけで瞬間解毒できる。ただそれができるのは皇族だけだ。そのことは秘密になっている。なので解毒薬と併用という説明をしたのだった。

 

 期待のこもった声が上がる中、龍の鱗メンバーからはまだレオさんの作戦に対して疑わし気な意見も出る。

 

「だがレオナルド王太子。いくら横から奇襲するといっても、百五十頭ものオーク・ソルジャーを二十と数人で相手するのは無茶ではないですか?」

「おっと、その数人はカウントされないんじゃねえか? Sランクの指揮官殿は、はたして行かれるのかねえ?」

「ははっ、そりゃそうだ。その間、王大使殿は遠くから護衛に守られ、戦闘ご指導というわけですな」

 

 よいご身分でと、皮肉混じりのささやき声が聞こえてくる。

 隣国の王太子が、他国の魔物討伐事案の戦闘に、それも圧倒的数の不利なところへ身を晒すとは、大概の探検者(エクスプローラー)達は思ってなかった。当然後方から指示を出すだけと思っていたのだ。

 龍の鱗メンバーやデッカーの皮肉った言動にワリナの護衛達は苛立ったが、肯定するわけにもいかず険しい顔でデッカー達を睨んでいる。実際彼らだって、レオナルドは後方から指示を出すだけと思っていた。

 

 するとレオさんは涼しい顔で言った。

 

「何だデッカー。俺とポジション代わりたいのか? なら譲ってやってもいいそ。できるならだが。その代わり絶対失敗すんなよ?」

「な、何!? お、俺だってSランクを狙ってるんだ。指揮ぐらい執れるぞ!」

「いや、俺達がやろうとしてる事はどっちかってえとAランクプラス向きの仕事だ」

 

 そう言ってレオさんは、わたしとケンさん、クーノさんを呼んだ。

 

「デッカー殿には俺に代わってマヤ、ケン、クーノを連れて、魔物を引き付けて側面攻撃隊からの注意を逸らしてもらうのをやってもらう」

「こいつらと魔物を引き付ける? どうやって?」

「特別な方法なんて無い。一番隊としてどうどうと正面から殴り込みをかけるだけだ。できる限りど派手にな」

「な! し、正面!?」

「え! 正面!?」

 

 デッカーさんだけでなく、わたしも聞き返した。

 

「任せていいな?」

 

 レオさんはニヤニヤと笑みを浮かべてデッカーさんに念を押した。

 

「まさか、お、俺が代わるって言ったから作戦を変えましたな!?」

「さっきも言った通り、作戦といえるものなんてねえよ。嫌なら俺がやるが? Aランクプラス向きの仕事だから譲ろうと思ったんだが。ふむ、デッカー殿にはちと難易度高いらしい」

 

 ちらっとクーノさんとケンさんに目を向けると、二人もニヤニヤしてレオさんに合わせた。

 

「ワリナに戻ったら、あっちの探検者(エクスプローラー)ギルドで噂にならなきゃいいですがな。ヘキサリネのAランクプラスの実力はこの程度だと。そこの不良探検者(エクスプローラー)辺りから」

「おいケン、なぜ俺の方見て言う? 別に俺でなくても他から噂なんか流れ出てくるんじゃないか? ワリナとヘキサリネを行き来する探検者(エクスプローラー)は多いからな」

 

 デッカーさんは顔を真っ赤に急変させた。言い出した関係上引くに引けない感じだろうか。声を荒げて承諾の返事をした。

 

「正面から殴り込みや、やってやろうじゃねえか!」

 

 

 

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