異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
広場の上空では、キラキラと何かが光りながら街道の方へと流れていった。その後、魔物達は急に悪寒が走ったようになり、不安に駆られて唸り声を出し、左右に首を巡らせる。
キラキラが移動していった街道の先では、空中に次第に紫色の塊が出来始め、それは黒いくらいの濃い紫色の球になった。
「
マヤの頭上に出来上がっていた濃い紫色の球が花火のように激しく光り、下にザアザアと水色の砂が降ってくる。そして砂は、白いモヤを上げている青い大きな受け皿の上に降り積もった。
やがて空中の紫色の球はなくなった。
マヤは、よしっと胸の前で両手ガッツポーズをする。
「な、何だそれは? もしかしてそれは……」
目をまん丸に開けて驚愕しているデッカーの前で、マヤは下に積もった青い砂を片手で一掬いすると、デッカーに見せた。
「いります? 魔石の粉ですけど」
両手で掬いなおし、サラサラとデッカーの手の平に魔石粉を落とす。デッカーはそれとマヤの顔を交互に見て、口をぽかんと開けた。
「
固体酸素の受け皿の上に固体酸素の板で蓋をして魔石粉を閉じ込めると、酸素ストレージにしまった。
マヤの酸素を蓄えているストレージは、しまう対象が酸素に限定されてると思ってたけど、固体酸素で覆ってしまえば何でも入れられることが判明している。冷凍状態になってしまうけど。
「うおぉっ!? 魔石はどこだ? あれだけあったら相当な額に……」
「はい、わたしのストレージに仕舞っちゃいました。わたしだけが採取できるものだから、全てわたしの物ってことになるそうです。あ、さっき掬った分は差し上げますよ」
手の上の魔石粉を、「えっ?」と見つめ返したデッカー。マヤと魔石粉を交互に見てどうするか迷った末、ポケットにねじり込んだ。ヘキサリネでは魔石の価格は高いのだ。
「そ、それとさっきの青い氷のようなの。もしかしてお前も氷法力持ちなのか?」
「ほ、法力の事は言えません」
法力の秘密は明かす必要はないし、詳しく聞くも無粋というのが
ケンが手にしていた魔素計をマヤに見せてきた。
「魔素計の値はゼロ。毎度グッジョブだぜマヤさん。これでオーク・ソルジャーも単なるオークとさして変わらなくなった」
そう言ってケンはマヤに向け、ぐっと親指を突き出した。
デッカーは目を丸くした。
「なに!? もしかしてさっきのは魔素を取り去ってたのか? そうすると魔石ができるのか?」
マヤもケンもニヤニヤするだけで何も言わなかった。
「何なんだ、お前の法力は!」
悔しそうにするデッカー。
「それじゃ殴り込みますか」
クーノが拳をボキボキ鳴らせて、やる気満々な笑みを浮かべ歩き出した。
ケンも口角を上げて槍をヒュンと一回りさせて構えるとクーノの後に続く。
「うう、怖いよう」
マヤもその後をへっぴり腰で付いていく。
「デッカー殿の法力は氷操作。得意技は氷散弾だそうですな? 俺達を見つけたらオーク共が突進してくるだろうから、なるべく遠くから氷散弾で討ち取ってください」
「い、言われるまでもねえ!」
デッカーも慌てて付いてくる。
マヤ達4人はわざと目立つように横一列になって、広場の入り口に向かって歩いていった。
魔素がなくなって不安の声を上げていたオーク達だが、広場入り口で門兵のように立っていた2頭がマヤ達に気付き、後ろに向かって何事か叫んだ。その声で入り口に近い集団が一斉に振り向き、雄叫びを上げると斧や剣を振りかざして突進してきた。
「わああ! 来た! 来ましたよー!」
「デッカー殿!」
クーノに呼ばれると同時に、デッカーは手を前に出した。その先に氷の
「アイシクル・バレット!」
デッカーが叫ぶと同時に、氷の礫が勢い良くオークに向かって飛んだ。
それは4頭のオーク・ソルジャーに命中し、氷の銃弾を受けたオークは悲鳴を上げ、仰向けにのけ反って倒れた。
「おお! さすが二つ名がつくだけはある。あのオーク・ソルジャーを一撃で数体葬るとは!」
だがなおも6頭が突進してくる。
「今度は俺だ! てえい!」
ケンが槍の先に法力を集中させ、一気に突き出す。その切っ先から衝撃波が発射され、さらに4頭が吹っ飛んだ。
残る2頭が目の前に迫る。
「シールド!」
2頭は急に見えない壁にぶち当たり跳ね返った。クーノのシールドだ。
クーノは剣をスラリと引き抜くと、シールドの後ろから剣を突き出す。剣はシールドに阻まれるかと思いきや、シールドを突き抜け、1頭のオークの腹に突き刺さり、そのオークが倒れた。
もう1頭が斧を振りかぶって殴りかかろうとするが、斧はシールドで弾かれる。何度振り降ろしても同じだ。
クーノはシールドの後ろからオークに向かって剣を薙ぎ払った。またも剣はシールドなどないかのようにオークの胴体に届き、装着していた金属鎧ごと胴を斬り裂いた。
クーノはシールドを絶妙に操作して、剣が出るだけの隙間を出したい位置に開け、さらに動かすことができるのだ。なのでシールドの後ろで守られながら攻撃もできるのである。卑怯もいいとこである。でもそれが法力というものなのだ。
10頭はあっという間に片付けられた。
「よっしゃ、まずは一丁上がり!」
「ひええ、これならわたしいらないですよねえ!?」
悲鳴を上げるマヤの声に反応したかのように、あちこちにいたオーク・ソルジャーの集団がこっちの騒ぎに気付いた。
「オラオラ魔物供! こっちだこっち!」
さらにクーノがオーク共を煽る。
オークはぎゃあぎゃあと喚くと、武器を振り回して一斉に向かってきた。それを見てデッカーが慌てた。
「バカ野郎、何煽って……ち、ちょっと待て! 百頭くらいが一斉に向かってきたぞ!」
「俺達に引き付けなきゃなんだから、こっちに来る数は多いほど良い。できるだけ目立たないと」
「いくらなんでもこの数をいっぺんには無理だ! ここには何も遮蔽物になるものが無いんだぞ!」
デッカーが後退る。マヤより後ろに下がるもんだから、マヤは慌てて手を伸ばしてデッカーの服を掴んだ。
「わあ! 逃げないでください!」
クーノは広場のそこかしこから向かってくるオーク・ソルジャーをサッと見渡してカウントした。ヘキサリネ兵が捕まっている右の方から3集団、30頭。前方および左からは7集団、70頭が向かって来ていた。
「マヤさん、デッカー殿! 前方から左の奴らを任せたぞ!」
「前方から左!?」
「ば、バッカ野郎! 大部分じゃねえか!」
7割をマヤとデッカーでやれと言うのだ。
「デ、デッカーさん、た、頼みます。今こそAランクプラスの実力を見せる時です!」
「何言ってやがるこの役立たずFランク! 70頭をいっぺんに一人で相手できるわけないだろおおお!」
「ええ? できないんですかあ!? クーノさん、デッカーさんがもう少し分担を減らしてくれって言ってますよお!」
しかしクーノは全く心配した様子はなかった。
「初撃はマヤさんがやればいいと思うよ。左側は後ろには森しかない。でも右側は後ろに兵士が捕まって閉じ込められている檻がある。マヤさんの攻撃だと兵士達が巻き添えを食うかもしれないからね。だいたいいつもやり過ぎちゃうだろ?」
「や、やり過ぎって、まるで節操のない人みたいに!」
つまり前方や左になら、やり過ぎても問題ないというのだろう。
「ケン! 俺達は人質がいる側から来るのを迎撃するぞ!」
「右だな? 分かった!」
二人は右からくる3集団に向かって駆けて行った。
「あーっ」
「あっ、てめえら! 本当に行っちまった!」
「うおおおお!」
ケンが槍の先に法力で力を溜め込み、そして集団に向かって解き放った。衝撃波が発生し、オークの1集団をボーリングのピンのように弾き飛ばす。
3集団を同じように遠距離から攻撃して数を減らすと、半分以下に減ったオーク達をクーノの張るシールドの後ろで迎え撃つ。
Aランクの2人は単独でも無茶苦茶強いので、2人共同でとなると手をつけられない強さだ。
問題はマヤとデッカーの方だ。
マヤはぐるぐると考えを巡らす。
『今日会ったばかりのデッカーさんと連係プレーなんてまず無理。でもAランクプラスなんだから、数さえ減らせば後はお任せしていいんじゃないだろうか? クーノさんは初撃はわたしがやればいいって言ってたし』
左から前方のオーク達は、集団が重なり合ってほぼ隙間なく横に並んだ状態で、地響きと砂塵を上げて迫って来る。まだ距離は200m以上あるが、巨体のくせして走るのが結構速い。すぐにここまで来そうだ。あまりの迫力に心臓が飛び出そうになる。それはデッカーも同じようで、腰が引けていた。
「むむむ無理だ! に、逃げるぞFランク!」
「ににに逃げてもあの速さじゃ追いつかれますよ! せめてちょっと減らしてからにしましょうよ!」
オークの顔も今やよく見える。狂気の顔をしてこっちをロックオンしている。
「ひいいいぃっ!!!」
マヤの体がゆらっと水色で揺らぐ。
「薙ぎ払えばいいんでしょ!? 草原の草だと思って刈っちゃえばいいのよね!」
横一列に50m、高さ1.5mくらいのところに酸素噴出点がずらっと並んた。
「
やって来るオーク集団に向けて、酸素噴出点を一斉に発射した。
フオォンっと空気が鳴り、オークの集団の後方にまで風が吹き通る。
すると、走っていたオーク達が次々と胴体の辺りから体が上下に別れて、上半分が地面に落ち、足の方だけが走ってくる。やがて足の方も足がもつれて倒れ、こっちに向かってきていた正面と左の大半は、50mほど先で崩れ去った。ついでにオーク集団の後ろにあった林で、木が数本バサバサと倒れた。
「や、や、やったー!」
それでも全滅はできず、生き残ったオークは一瞬驚いたが、かえって怒りを増して向かって来た。
「デッカーさん、10頭くらいまで減らしましたよ! あとお願いしますね!」
マヤはデッカーに叫ぶ。
だがデッカーは真っ二つになったオーク集団を見て、口をパクパクさせて棒立ちになっていた。
「わあああ、デッカーさん、呆けてないで早く、早く! 来ちゃいます!」
各集団でどうにか生き残ったオークは全部で11頭だった。それらはバラバラに散開した状態で迫ってくる。特に正面方向の8頭が近い。そいつらは火の点いた棍棒のようなのを振りかざしながら咆えている。
「ひいい、怖い! デッカーさーん!」
「はっ! うおおお、アイシクル・バレット」
デッカーが慌てて発射した氷の礫は、正面方向の8頭のうちの5頭を倒した。残った3頭に向けた2発目は、慌てたせいで1頭を倒しただけだった。迎撃が間に合わないと思ったデッカーは氷の壁を正面に張った。
「アイスウォール!」
正面方向から来る2頭の前に、氷の壁が立ちはだかる。
その間に左側から来る3頭に狙いを定め、氷の礫を生成する。だがそっちももう20mくらいといったところまで来てる。しかも固まってなくバラバラに来るので、デッカーが発射する礫も1頭ずつ狙うしかない。
「アイシクル・バレット!」
1頭が散弾で倒れる。たが、あと2頭がもう眼前まで来ていた。
「ま、間に合わねえ! 各自で応戦しろおおー!」
眼前に迫る怒り狂ったオークの顔を見たマヤは戦慄した。
血走った目。ヨダレを振りまきながら吠える口。気温が低いわけでもないのに口や鼻からは白い息が吐き出されている。
恐怖に駆られたマヤは、指先に酸素噴出点を出現させると絶叫した。
「ぎゃあああ、
顔を背け、手だけ引っ掻くようにしてオークへ向けて振り回した。
勢い良く走っていたオークは、縦横斜めに振り回された10本の酸素の刃によって切り刻まれ、木っ端微塵の肉片となった。
バラバラの肉片が走ってきた勢いそのままになってマヤ達の方に飛んできた。
「あがぁ!?」
それを見たデッカーがまたも大口を開けて固まった。肉片の一つがデッカーの頭に命中するが、デッカーは固まったままだ。
「オ、オークが氷の壁を回り込んでますよ! 早く!」
正面のオーク2頭が氷の壁を横に回って突破した。
そのオークが手にしている棍棒は油を染み込ませた布でも巻いているのか、火がついている。黒い煙を上げて燃える棍棒を振り回し、咆哮を上げ迫るオークに恐怖がマックスになる。
「いやーっ、
マヤは純粋酸素でオークを取り囲む。途端に棍棒は、ぼばあっと爆発的に燃え上がった。火の粉がオークにも降り注ぎ、オークの衣服や毛にも着火する。そこへ酸素を容赦なく注ぎ込むと、全身が燃えだした。
唸りなのか悲鳴なのか、うめき声のようなのが火の中から聞こえ、燃える片手をずるずるとこっちへ向けてきた。マヤを掴もうとするかのように。
もう恐怖映画の世界だ!
「ぎゃー、
吹き付ける酸素量はさらに増え、炎には回転が加わる。燃える全身を中心に炎が竜巻となった。オークは炎の柱の中で何かを叫んでいるように口を開けているが、聞こえるのは業火のごおぉー! という音のみ。
「来ないで、来ないでーっ!」
さらに容赦なく酸素をあびせかける。
オークの体は黒焦げになり、次には
その様子にデッカーが真っ青になって尻餅をついた。
そしてついに……。
「はあ、はあ、はあ」
荒い息を吐いて地面を見詰めると、オークだったものは消し炭さえもほぼなくなり、魔石だけが2個、コロンと落ちていた。
視線をずらすと、驚愕と恐怖の入り混じった顔で目と口を丸々と開けたデッカーが、マヤを見つめ返していた。
こ、これは、やってしまったわ。
<戦闘開始10分後のスコア>
・デッカー(Aランクプラス)
オーク・ソルジャー11頭。
・マヤ(Fランク アンリミテッド・パーティー 5階級差違反制裁中)
オーク・ソルジャー62頭。