異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
レオナルドに率いられた側面襲撃隊は、捕らえられていた兵士達を救出した。
周りのオーク・ソルジャーも掃討し終えると、正面から殴り込んだマヤ達と合流した。
「デッカーさん。あの数のオーク・ソルジャーを、よくあんな短時間で全滅させられましたな」
龍の鱗メンバーはデッカーを出迎えるなり褒めちぎった。しかしデッカーは首を横に振って大きくため息をついた。
「実際のとこ、俺がやったのは10匹ちょっとに過ぎねえ」
えっ? と皆は意外な顔をした。
「あの小娘、とんでもねえ野郎だ。何したのか分からねえが、一瞬でオーク共の体が上と下にサヨナラしたかと思えば、半狂乱になってオークを八つ裂きにしたり、眼の前に来たオークが突然燃え出して、炎の竜巻の中で跡形もなく燃え尽きるとか、訳わからねえ」
「「「「……」」」」
龍の鱗メンバーは声を失い、暫く見つめ合った。
「な、なんスかそれ?」
「半狂乱になって殺戮とか、キチガイ?」
「炎系の法力なのか? いやしかし、体を切ったと言うし」
龍の鱗のメンバーはマヤのいる方に目を向けた。当の本人はサンドラにお茶を貰って、つきたての餅のように緩んでいた。
「5階級差違反ってのは本当だったってことか?」
「つうか、5階級差違反なんてやらかす奴は、やっぱりどっか壊れた野郎ってことなのかな」
泉の畔の陣地は解放され、待機させていた馬車が呼び寄せられた。
お湯を沸かして待っていたサンドラは、着くなりただちにお茶を淹れて、討伐隊の皆に配った。
「マヤちゃん、どうぞ」
「ありがとうサンドラちゃん。わあ何これ不思議。温かいのに喉からお腹がスーッと涼しくなるよ。ミントの一種かな」
「クールダウンのお茶なの。法力で上手く効能が上がっていれば、緊張があれば
サンドラはマヤの頬に手を触れると、ぷにぷにとつまんだ。
「マヤちゃんの顔見る限り、緊張には効いてるみたいなの」
「穏やかな顔になってるってことかな~」
マヤは頬を撫でる。餅のように垂れ下がってるからとはサンドラは言わなかった。
そんなマヤに誰かが寄りかかってきた。
「うん。確かに落ち着くわ~。オークから魔石取る作業でハイになった精神が回復するわ~」
声の主はホワイトガーディアンのエリンだった。
「エリンさん? 魔石取る作業ってハイになるんですか?」
背中のエリンに声を掛ける。
「数が尋常じゃなかったもんね~。地面を埋め尽くす上下真っ二つのオーク。そこからひたすら魔石を回収するルーチン作業。失っていく理性。ゴブリン村討伐で沢山のゴブリンから回収するってのはあるわよ~。でもずっと大きなオーク、それもソルジャーよ~。それが百頭よ~。感覚おかしくなるわ~」
振り返って見れば、エリンの手は血まみれ。顔や体にも返り血が飛んで、恐怖映画の殺人鬼になっている。
「ひいっ!」
「そんな気持ちを平常に戻してくれるこのお茶は凄いわぁ~」
「す、すみません、ごめんなさい。魔石回収をお任せしちゃって申し訳ありません」
「いいのよ~。殆どマヤさんがすぱーっ、すぱーってやっつけちゃったのに、あたしらもおこぼれを貰えるんだから、それぐらいやるわよ~」
今回のクエスト中に討伐した魔物は、第二次探検者増援部隊全パーティーで山分けになるのである。これは役割上どうしてもフォワードに立てない人も出てくるので、そういった人達が一方的に損を被らない為だ。勿論実討伐者は多くもらえるよう色を付けるなどの配慮はある。
「それにどれも胸の下辺りで切れてたから、魔石取り出すのも楽ちんだったしぃ。そこまで考えて魔物倒すなんて、余裕ね~。さすがはザ・デストロイヤーなのぉ」
「そ、その呼び名はやめて下さい。それに余計なこと考える余裕なんてなかったですから」
兵士達にもお茶を配ろうとしていたサンドラは、マヤとエリンの会話に足を止め、怪訝そうな顔に心配を織り交ぜた。
「す、すぱーっ? マヤちゃん、また加減間違えてなんかやっちゃったの?」
「やってない、やってないから!」
「オーク・ソルジャー相手だもん。手加減なんていらないわよねぇ。さあて、あたしは残りの魔物の魔石ほじくり出して来るねぇ」
「ほじくり……」
大変な仕事だあと、エリンを見送った。
救出した兵士達は泉の畔に集められた。兵士は皆負傷していたが、殆どはオーク・ソルジャーの奇襲で負傷したわけではなく、その前から怪我をしていたらしい。もともと負傷兵として後方に下げられた人だったのだ。
サンドラはリネールとフィリアにも手伝ってもらって、負傷兵たちにも同じお茶をふるまった。その時小瓶も配っていった。小瓶の中身は、アンフィスバエナ騒動の結果生まれた、超回復ポーションだ。
「傷に効く薬なの。半端ない効き目だからあなたの傷なら半分でいいと思うの。この人には怪我のところに直接かけて、残りは飲ませてあげて。あなたはこっちの人と半分こで分け合って飲んで。お兄さんは3分の1かなあ」
「薬だって?」
「3分の1だあ? たったのそれだけ?」
兵士は小瓶のコルク詮を抜くと、中身を覗き込んだ。
「これ本当に飲んで大丈夫なのか? 得体のしれない臭いがするぞ」
まあ原材料の大半は、アンフィスバエナの毒液(解毒済み)とドクダミみたいな葉っぱのエキスだもんね。
不気味がってる向こうで、苦しそうにしていた重傷の兵士が、傷にポーションを注がれて、同僚に起こされてポーションを飲んでいた。口に入れた途端、「ぐあっ!」とかすごい顔して叫んだので、同僚がビビっていたが、飲み干した兵士は歪めていた顔を徐々に和らげ、そしてぼそりと呟いた。
「あ、あれ、痛みが急に……」
「え!? お、お前、横っ腹の傷どうした!?」
言われて服を捲って横腹を撫でながら困惑した顔を上げた。
「……治ってる。跡形も無い」
周りの兵士達が息を呑んだ。
「マジか。効くのか本当に!?」
そして我先にとポーションを飲み始めた。
「凄まじく不味いが、すぐ痛みが引いてくぞ。おお、傷が塞がっていく!」
「俺も!」
「俺にもくれ!」
「本当にひでぇ味だな」
「だが見ろ、すげえ! 本当に治った!」
飲んだ兵士達が治った部位を見せたり、手足をぶんぶん振り回したりして、その回復ぶりに驚いている。
デッカーがやってきて、兵士達の様子を見て目を丸くした。
「お前らが持ってきてたポーションって、そんなすげえ物だったのか!?」
「うふふ、凄いでしょ。これまだ皆には知られてない薬なの。領主様にいいって言われるまでは黙っててね」
「そんな貴重な物、ここで使っちまっていいのか?」
「今使わねえでどうする」
レオナルドがデッカーの横に立って言った。
「俺が使えって言ったんだ。増援を呼ぶくらいだから前線で兵は足りてないんだろう? なら負傷兵が復帰して、今まで通りの編成に戻ってくれた方が、補充兵が来るよりよっぽど喜ばしいはずだ」
デッカーはなる程と唸った。
「確かに
兵士達も、これで領主様のところへ戻れるなと、嬉しそうに肩を叩き合っていた。
「これはミリヤの薬なんですか?」
兵士の一人が聞いた。
解毒薬に限らず、薬の先進国といえばミリヤ皇国である。だがレオナルドは首を横に振った。
「いや、ワリナ、ヘキサリネ、ミリヤで共同開発した物だ」
「共同開発? ……ワリナと?」
デッカーは眉を捻じ曲げて
これまでミリヤとワリナの仲は良くなかった。おまけにデッカーはワリナに良い印象を持ってこなかっただけに、本当に信用できるのかと、疑問に思っているのが顔に出てしまう。信用し難い顔をしてレオナルドを見つめた。レオナルドは兵士と会話を続けた。
「サンドラも言ってたが、このポーションの事は極秘事項だ。まだ他言無用だぞ」
「分かりました。……ところであなたはワリナの方のようですが?」
「ああ。察しの通り、俺はワリナの
兵士達は、なぜこのワリナの
若いのに全
そこで一人の兵士が気付いた。腰の剣の柄にワリナ王家の紋章があることに。
顔を上げ、その成端な顔を見上げて、まさかと恐る恐る質問した。
「あ、貴方は、も、も、もしかしてワリナ王国のレオナルド王太子殿下でございますか?」
レオナルドは特段表情も変えず、淡々と返事した。
「ところ変わればそんな風に言われることもあるな。だがここではSランク
「な、なんと!」
兵士達がざわめき、慌ててザザッと片膝をついて頭を垂れた。
「隣国の救援に感謝致します!」
「ワリナ王国が助けに来るだなんて!」
「敵対国だったワリナが!」
「それも王太子自らが!」
「おいよせ。国を上げて来たわけじゃない。そもそも依頼もないのに国として来たら内政干渉だろう。俺は帰国の道中で、たまたま何か騒いでるのを見たから、
「本当にその程度なら、配下に見に行かせればよいだけのはず。王太子殿下自らがこんな危険なところに来られるわけがありません。これはワリナからヴェルディ様への誠意とお見受けします」
ヘキサリネ兵に最敬礼され、レオナルドはこそばゆくなった。ケンとクーノもくっくっくっと笑いを堪えている。
兵士達はさらに先程の救出劇を思い出す。
「そういえばミリヤ皇国の
「もしかして隣国がみんな、ヘキサリネの為に動いてくれてるのか!?」
「おお……これもヴェルディ様の友好政策の賜物だ」
敵対国と、同盟国だが裏では国力を削いで属国化を狙っていると噂される国が、現実のヘキサリネの危機に駆けつけてくれているのだ。兵士達は次々に感激の言葉を発し、ますます頭を下げるのであった。
一方レオナルドについてきたワリナの護衛達は、口をあんぐり開けて呆れていた。
どこがたまたまだ寄っただ、とか、率先して首を突っ込みにいったんじゃないか、とか、絶妙に帰国のタイミングを討伐隊の出発と合わせてたじゃんか、とか、内心で激しくツッコミを入れまくっていた。
「ところで、領主のヴェルディ殿がここに来てたというのは本当か?」
レオナルドは一番知りたかったことを尋ねた。