異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第119話「領主の行方 その2」

 

「最初に発見した魔物は、空を飛ぶワイバーンの群れでした」

「ワイバーン!?」

「群れでだと?」

 

 クラークへの事情聴取を聞いていた探検者(エクスプローラー)達にざわめきが走った。

 

「ワイバーンが群れでか……」

 

 デッカーも額に汗を浮かべる。何しろワイバーンはAランクの魔物だ。Bランクパーティーにとっては格上、Aランクパーティーとて群れ相手となると対応できるところは限られてくるだろう。

 探検者(エクスプローラー)達のざわめきは続いた。

 

「先日領都の近くにワイバーンが出たとかいう噂が出てたが、あれは本当だったのか」

「だがそのワイバーンは仕留められたんだろ?」

「誰がやったんだ? どこのパーティーが?」

 

 ざわつく中で、ホワイトガーディアンのニエミネンが苦笑しながらマヤの方に目線を送った。

 

「アンリミテッドパーティーの資格は伊達じゃないってことさ」

 

 ニエミネンの視線の先を皆が追い、そしてマヤにたどり着くと……

 

「げえ! 5階級差違反ってそれか!」

「それで低ランクパーティーの連中がアホみたいに盛り上がってたのか」

「そうだったのか。事実なら確かに、あいつらが崇めるわけだ」

 

 いまだ正気な探検者(エクスプローラー)はUMAを見るような目をマヤへ向けているが、かなりの上位ランク探検者(エクスプローラー)の目も何かを期待するようなものに変わり始めた。

 そういった幾つもの好奇な目線を注がれたマヤは、小さく悲鳴を上げてレオナルドの影に逃げてしまった。

 いよいよ高ランクパーティーの中からも、マヤへの変な信奉者が現れそうである。

 

 クラークは話を再開する。

 

「ワイバーンは足でオーク・ソルジャーを2頭掴んでいました。つまり30頭のワイバーンが60頭のオークを運んでいたのです」

「全てのワイバーンがオークを運んできたというのか?」

 

 レオナルドの驚きようはかなりのものだった。レオナルドの後ろに隠れていたマヤも、顔を出して同じように驚く。

 

「うわあ、それってもう本当に空挺部隊じゃないですか」

「くうてい? マヤさんの国では似たような用兵があるの?」

 

 リエラはマヤの反応に食いついて尋ね返した。

 

「え? あ、あははは……。方法は置いといて、空から兵士を送り込めればって凄いよなあって考えはですけど。機動力って点では地上を移動するよりはるかに早く、遠く、深くに送り込めますからね。軽装備になることと、補給とか孤立させないようよく考えてあれば、できたら凄いよなあって」

 

 ほぉっと感心したリエラ。すぐその有効性に気付いた。レオナルドもだ。

 

「なるほどね。魔物なんか身体さえあれば装備はあるようなものだから、人間の兵士よりはるかに安易に送り込めるし、有効な戦術だわ」

「いきなり真後ろに敵の集団が現れたら、動揺しない兵はない。恐ろしい戦術だな。マヤはそんな用兵にも見識があるのか」

 

 レオナルドはマヤがこのような戦術の知見を持っていたことに少なからず驚く。そして腕を組んで考え込んだ。

 マヤはマヤで、魔物が取った行動の深刻さを再認識した。

 

『わたしが遭遇したワイバーンもオークを運んでいたけど、たまたまじゃなくて、まさかそういう使い方を意図してだったとは思わなかった。こういう戦いにおいては、探知法力を持ってる人の価値は、現代戦のレーダー同様に最重要だわ。そして真っ先に潰しにいきたいターゲットにもされる。気を付けないとだわ』

 

 ちらっと兵士達の中にいるイレムに目をやった。

 

「増援隊が出発した後の陣には50人弱がいるに過ぎませんでした。しかも半分は前線から戻された負傷兵です。60頭ものオーク・ソルジャー相手では敵うはずもありません」

「その後地上からもオーク・ソルジャーの集団と、数体のポイズン・スパイダーが来て、あっという間にここは占拠されてしまいました。生き残りはポイズン・スパイダーによって毒檻に閉じ込められたと言う訳です」

「空からの襲撃とタイミングを合わせて、地上の魔物達も襲ってきたというのか?」

 

 レオナルドは地上部隊も連携して動いていたことに驚きを隠せなかった。想像以上に魔物の動きが洗練されている。

 

「そうするとヴェルディ殿は、ここが占拠されたことを知らないのだな? ワイバーンがオークを空中移送していたこともか?」

「はい」

「背後の危険に気付いてないってわけだ。それでオークを運んだワイバーンはどうした?」

「殺した兵士を食って腹を満たし、また飛び去って行きました」

「ええっ!」

 

 マヤはさらに顔を青ざめさせる。

 

「多分我々が生きて囚われたのも、後で魔獣共の餌にするためでしょう」

 

 探検者(エクスプローラー)達は息を呑んだ。そして怒りで真っ赤になり、次々と仇を討ってやると息まいた。

 

「ワイバーンはヴェルディ殿の装甲獣部隊を追っていったのか?」

「それが、北東の方へ飛んでいきました」

「そうすると新たなオーク・ソルジャーを拾いに行ったのかな? 魔物が集まっているところの方か?」

「いえ、魔物が集結しているところは北西の方角です。魔物集結点の手前には我々の最前線基地がありますので、そこを迂回しようとしたのではないでしょうか。見つかると奇襲効果が薄まりますので」

 

 リエラがレオナルドのそばに来ると小声で囁いた。

 

「ワイバーンがそこまで考えます?」

「龍種は頭が良いとは言うが、龍種の中では下級のワイバーンに、いくらなんでもそれほどの知恵はねえだろ」

「ですよね」

 

 二人は難しい顔で見詰め合った後、レオナルドは兵士に向き直る。

 

「それで最前線の方はどんな状況なんだ?」

「それについては私が」

 

 負傷して前線から引き下がっていたコドリン上級軍曹が話を引き継いだ。

 

探検者(エクスプローラー)達の調査で、ワハイム沼という所が魔素溜まりになっていて、魔物の大群がそこに集まっていることがわかりました。そこが魔物の出現点に違いないということで、ヘキサリネ軍は攻撃を仕掛けました。

 ですが大量の高ランクの魔物や、普段のヘキサチカ周辺にはいないような強力な魔物がいたりで、予想以上に抵抗が強くて、最初の攻撃は多数の負傷者を出して失敗。その後の攻撃でも沼に近付けなかったので、ヴェルディ様は重装甲獣兵の増派を決めたのです」

 

 ふむとレオナルドは顎を撫でる。

 

「ヘキサリネ軍は重装甲獣兵を加えて一気に戦力強化。探検者(エクスプローラー)も増援。マヤも呼び寄せた。ってことは、ヴェルディはそこに転移魔導具があるって確信したんだろう。マヤに魔導具を破壊させるつもりでな。ここでケリをつけるための布陣ってわけだ」

「転移魔導具? なんだそれは」

 

 デッカーが眉をひそめて聞くと、レオナルドが顔を上げて答えた。

 

「知らないのか? 魔族が作った、魔物をどこからか連れてくるための魔法どうぐもももも……」

 

 リエラが背後からレオナルドの口を塞いだ。そして顔を近付けて小声で言った。

 

「ヴェルディ様とギルドマスターは、魔族が絡んでる事をまだ探検者(エクスプローラー)には告げてません」

「そ、そうなのか?」

「魔族!? このスタンピードにはもしかして、魔法使いが絡んでいるのか!?」

 

 耳の良いデッカーはリエラの小声を逃さなかった。デッカーのみならず、後ろの探検者(エクスプローラー)達も身を乗り出した。

 そこへコドリン軍曹の発言がダメ押ししてしまった。

 

「レオナルド王太子は転移魔導具の事をご存知なんですか? 探検者(エクスプローラー)達にはまだ伝えてないはずなのですが」

「なんだと!? 俺達には秘密にしていたのか!」

 

 軍部は把握していたと知って、デッカーはますます憤慨した。

 

「か、確証がなかったからです。それに今でも転移魔導具は発見されてません。状況から推測しているに過ぎない」

 

 情報がすべて伝えられてなかったことに怒りを見せるデッカーを、バラしてしまったレオナルドは落ち着けとなだめた。そして隠していてもしょうがないと、知っていることを話すことにした。

 

「魔族共がヘキサチカ周辺で何かやってるのは間違いねえ。俺はアンフィスバエナ騒動の時にも魔法使いと出くわしている。それにアイポメアニール採取クエストの時、俺達のパーティーは西の森で転移魔導具を見つけている」

 

 えっ、とコドリン上級軍曹とクラーク下級軍曹も驚いた。

 

「そうすると魔導具を破壊したというのは王太子殿下のパーティーですか?」

「正確には俺達のパーティーと共に行動した者だ。実際やったのはこいつだ」

 

 レオナルドは自分の影に入ってコソコソしているマヤの襟首を掴んで突き出した。

 

「え、この子供が?」

「し、失礼な。わたしは大人です」

 

 ぶはっとリネールが吹き出した。

 だが探検者(エクスプローラー)達はそれで納得した。

 

「5階級差違反者か!」

「事実なら、そりゃあ魔導具くらい破壊するでしょうな」

 

 探検者(エクスプローラー)達の話を聞いて、兵士にも理解が広まってきた。

 

「5階級差違反、あり得るんだな、そんなことが……」

 

 兵士達からもUMAを見るような目線が注がれ、マヤは「そんな目で見ないで!」と、またレオナルドの影に隠れようともがく。

 

「しかし敵はワイバーンを最低でも30頭使役してるんだよな?」

「はい。ここを襲ったワイバーンは30頭いましたので」

 

 レオナルドの後ろでマヤは聞き返した。

 

「結論としてここは、魔素溜まりにいる魔物を、ワイバーンを使って空中移送して、奇襲されたってことでいいんですよね?」

 

 空挺部隊を実用化してるなんてずるいわ、とマヤはぶつくさ言う。

 それは確かにそうなのだがと、リエラとレオナルドは腑に落ちない顔をした。

 

「確かにそれで話は通るんだけど」

「何だろうな。何か引っかかるものがあるんだよな」

「ふーん。お二人にはすっきりしない何かがあるんですか」

 

 考えてもすぐ出てこないので、レオナルドは聞き取り調査を終わりにした。

 携帯食が配られ、みんなは軽く栄養補給をする。

 するとサンドラのポーションで回復した兵士達が、補給が終わり次第出発すると言った。

 

 

 

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