異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
監視塔の騒ぎが起こってから真っ先に動いたのは、巨木の近くで休んでいた兵士だった。
血まみれになって降りてきた1人の監視兵に仰天するも、すぐに介抱しながら話を聞き、司令部に伝令を走らせるよう仲間に伝えると、その辺にあった薪割用の斧を手にして巨木を駆け上がっていった。
彼が駆けつけた時は、既に展望デッキは血の海だった。
トレントは2体。
階下へ脱出した1人を除き、6人いた監視兵は4人が倒れており、2人がトレントと戦っていた。と言っても短剣くらいしか持っていなかったので、針のように尖らせた何本もの枝や蔓の攻撃を防ぐので精いっぱい。彼らも既に手負いの状態だった。
「加勢するぞ!」
「た、頼む!」
「おのれ魔物め!」
3人でガキンガキンとトレントと打ち合って援軍が来るまで時間を稼ぐ。
槍と刀だけ持って上がってきた2人の兵が加わり、長剣を振り回して背後から斬りかかった。トレントが反撃の棘付きの蔓をムチのように飛ばす。それを2,3本切り落としたところで、ようやくまともな兵が来た。
「さがれ!」
さらに後ろから弓兵が現れ、火矢を構えた。
突撃兵が盾を構えて防御姿勢のままバックすると、多数の火矢が放たれた。それらが雨のようにトレントへ降り注ぎ、次々と突き刺さる。揮発性の高い油を染み込ませた火矢は、植物であるトレントの体へ燃え移る。すかさず突撃兵が再び突進し、火矢を振り落とそうとするトレントの蔓を妨害する。そうしているうちに火が回り、トレントは苦しみもがきだした。
「とどめだ!」
リフト法力の兵士が大岩でトレントを狙う。のたうち逃げるトレントへ、念動法力の兵士が落ちる大岩の落下方向を補正し、大岩をトレントの体中央へ命中させた。
メキメキボキッと幹が折れる音がして、トレントの体が崩れた。見た目は人のようだが、ささくれ立った表皮は、トレントが木の魔物であるのを物語っている。
もう1体も同じように岩でへし折られると、後ろで待機していた
「水法力者は火を消せ! お前達は負傷者を運び出せ!」
「遠距離視法力者は急いで空中を探せ! 目標はワイバーンだ!」
燻るトレントの上に乗って、遠距離視法力の者が目の上に手でひさしを作って、ぐるりと周囲を見回した。
「いた! 東の方角! こっちへ来る!」
「数は30! おっと、少数が分かれたぞ! 『キャンプ・スプリング』へ行く道に降りようとしている!」
何をしようとしてるんだと頭を巡らせた時、兵士の一人が、ハッとしたように叫んだ。
「やばい! そいつらが狙ってるのは、補給物資を運んでるイグアノドンの部隊じゃないのか!?」
補給部隊は重装甲獣本隊から少し遅れて出発している。こっちへ向かって移動中のはずだ。
装甲獣には大型草食恐竜を使っているので、大量の餌を必要とする。補給物資も相応の量がなければ前線にとどまることができないのだ。むしろ肉食恐竜の方が餌の体積としては少なくて済むだろう。
だがイグアノドンの部隊に構っている暇はなかった。
「ワイバーン20頭、来る! うち4頭が急接近!」
速度を急激に上げた4頭が、基地上空に侵入した。
「重弓兵隊、迎撃始め!」
重弓兵は外周部に作られた砲台に配置されていた。使う弓は木製の土台に据え付けられた大きなクロスボウ・バリスタで、貫通力は抜群である。これらは基地に向かってくる魔物を迎撃するためのものだったが、よもや基地の内側に向けて撃つとは思いもよらなかった。
基地の内側に向けて土台を転回させると、仰角をつけて空へ指向させる。火のついた矢がセットされた。
ワイバーンが旋回し、足で掴んでいたものを離した。それはオーク・ソルジャー。
8匹のオークが降下兵のように基地に向かって落ちてくる。
「目標変更、あれを狙え!」
照準はワイバーンにつけていたが、構わずを砲台から矢が放たれた。照準は方角が大体合っていれば、あとは各砲台に付いている念動法力者が弾道に補正を入れてくれる。一種の誘導弾である。
そして練度の高かったヘキサリネ弓兵隊は、なんと空中を落下中の6頭のオークに火矢を命中させた。空から気味の悪い悲鳴がいくつも響き、叩きつけるような音を立ててオークが地面に落下し、その場で燃える。それらのオークは起き上がってこなかった。
矢の当たらなかった2頭のオークは、大広場の北縁付近に降り、ムクリと起き上がった。
「装甲獣、突撃!」
待ち構えていた2頭の重装甲獣がドスドスと地響きを立ててオークに向かっていく。
オークは手に持っていた斧のような武器を振り下ろした。が、斧はガーンと音を立てて装甲にはじかれた。直後、オークはダンプカーに衝突されたように吹き飛び、次いで鉄の棘が追加された尾によって叩かれた。地面をバウンドして転げたオークは、それっきり動くことはなかった。
兵士達から歓声があがる。だが。
「直上! 気を付けろ!」
見上げると、オークを放ったワイバーンが急降下してきていた。地上付近で水平に滑空し、鋭い爪を立てた脚を前に突き出すと、1頭の重装甲獣を蹴り飛ばした。重装甲獣は蹴られた勢いで横倒しになった。
装甲獣の顔や肩、横腹など低い部分は装甲板で覆っているが、背中など高い部分は矢を防ぐ程度の鉄板でできている。ワイバーンの爪は竜使いが顔を出す背中のハッチ部分をえぐり取り、危うく竜使いも頭を持っていかれるところだった。
「装甲獣を林の中へ退避させろ!」
「各隊、遮蔽物のある所へ!」
倒れて下腹を晒すことになった装甲獣に、もう1頭のワイバーンが狙いを定めて急降下してきた。
「危ない!」
「腹を抉られるぞ!」
移動途中の兵士達が叫ぶ。
やられると思ったその瞬間、別の重装甲獣が間一髪、間に滑り込み、装甲をもって爪を防いだ。正面装甲を盾にした防御姿勢で受けたので、その装甲獣はひっくり返ることなく、なんとか衝撃を耐えたが、装甲板を留めるリベットが数本飛んだ。
さらにもう1頭のワイバーンが、側面を狙って降下してくる。
「蹴らせるな! 放てぇー!」
次の矢を装填し終えた3台のクロスボウ・バリスタが矢を放った。矢に気付いたワイバーンは、装甲獣への降下をやめ、急旋回した。念動法力者が矢の弾道を変化させるが、旋回から直ちに加速に入ったワイバーンを追うことはできず、ワイバーンは矢を躱しきった。
「今のうちだ! 装甲獣を起こせーっ!」
「「「「「おおーっ!」」」」」
横倒しになった装甲獣に兵士達が群がって引き起こし、何とか林に逃げ込んだ。
地上戦ではめっぽう強い重装甲獣であるが、すばやく空中を動くワイバーンにはついていけなかった。まるで空からの攻撃に弱い戦車を見ているようである。
だが魔物の攻撃は終わったわけではない。装甲獣が林の下に逃げ込んだことで誰もいなくなった大広場、それと北の小広場に、ワイバーン16頭がオーク・ソルジャーを降下させてきたのだ。
こうなってしまうとバリケードや堀などの外周防御設備はもう無意味である。いきなり陣地内に魔物の侵入を許してしまったのだから。
そこへさらに恐ろしい情報がもたらされた。
ハドル谷へ向かう道に繋がっている基地の北門に、ズタボロになった兵士数人が飛び込んできた。
「おい、大丈夫か!?」
「俺達はワハイム沼監視砦の部隊だ。砦が魔物の大集団に襲われて陥落した」
「なんだって!?」
「何百頭ものゴブリンやオーク、スパイダーの群れが黒い波のようになって押し寄せて来る。門を閉じて橋を落とすんだ、すぐに! もうそこまで来ている!」
抱き起こした兵士は真っ青になった。
「今ここもワイバーンに襲われてんだ。そこにゴブリンやオークのスタンピードだと!?」