異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
一方その頃。
本体から別れた10頭のワイバーンは、イグアノドン10頭からなる装甲獣補給部隊に襲いかかろうとしていた。
補給部隊は、頭上を覆った影と翼の羽ばたく音で、ようやくその驚異に気付いた。
「ワイバーンだ!」
「足で何か掴んでるぞ!」
「……あれは、オークか?」
旋回して正面に回り込んだワイバーンのうち6頭からオーク・ソルジャーが切り離された。12頭のオークは、補給部隊が進む道の正面に降下した。行く手を塞がれた形だ。
ワイバーンの群れはイグアノドンの隊列を縦に通過すると、残る8頭のオーク・ソルジャーを切り離す。それらは補給部隊の後方にドドドッと降下した。
補給部隊は前後を挟まれる形となった。
「もしかしてこのためにワイバーンはオークを運んでいたのか?」
「し、信じられん。しかも挟み撃ちにするようにオークを降ろしやがった」
明らかな戦術をもって行動していることに驚きを隠せない補給部隊。
「逃さねえってことか」
「各竜、荷車を外して防御体制に移行せよ!」
弱い草食恐竜のイグアノドンであるが、肉食恐竜相手に巣や子供を守るため、集団で固まって壁を作り立ち向かうという行動を取ることがある。防御体制とはその習性を利用したものだ。
だがワイバーンが先にそれを挫いた。急降下して低空で迫り、脚の爪を前に突き出して、隊列を横から襲ってきたのだ。1頭のイグアノドンがワイバーンの鋭い爪で背中をえぐられた。
この攻撃でイグアノドンの群れに怯えが広がった。怯え上がったイグアノドンはその場から動けなくなってしまった。
「この魔物共、連携してやがるぞ!」
「ますます信じられん。こいつら本当に単なるスタンピードで出てきただけなのか!?」
防御体制も取れなくなったイグアノドン補給部隊を見下ろしたワイバーン達は、満足したのか咆哮を一つ上げると、元の群れを追って飛び去って行った。
「もうオークだけで十分ってことか?」
「補給部隊だからって舐めやがって!」
「むざむざやられてたまるか!」
動けない補給部隊に向かって、前後のオーク・ソルジャーがやたらと枝分かれした大剣を振りかざして迫ってきた。このままでは装甲を装着してないイグアノドンは、端から1頭ずつ襲われてやられてしまうだろう。
補給部隊にはイグアノドンを操る竜使いが1頭につき1人付く。あとは護衛兼世話係の歩兵が5人いる。というか世話仕事がメインだ。兵士は合わせて15人。だが彼らには、相棒である恐竜を捨てて逃げるという考えはなかった。
竜使い達は怯えるイグアノドンの鼻を優しく撫でると、剣を抜いて隊列の前と後へ散る。一人は弓を構えた。
相手は数は劣っているとはいえ、集団戦に長けたオーク・ソルジャーだ。この状況を言い換えれば、トラック輸送隊が重武装の歩兵部隊に強襲されたようなものである。普通に考えれば絶望的な戦いだった。それでも竜使い達の顔に絶望の色は見えない。竜使いも世話係もヘキサリネ兵である。皆戦闘できるよう訓練されているし、それよりも……
「大丈夫。俺達は死なない。この身は朽ちて大地の糧になり、我がヘキサリネに還元されるのだ。未来のヘキサリネの民、それを支える自然となって甦る」
ヘキサリネはその土地柄故、自然崇拝が強い。人も自然の一部という世界観は、時として死の恐れをも超越する。
モードの切り替わった竜使い達の雰囲気を感じ取り、後方の8頭のオークは威嚇の雄叫びを強めながら接近した。
あと20mというところまで迫った時。
ひゅうっという音がしたと思うと、1頭のオークの脳天に、ドスッと矢が突き刺さった。
そのオークはゲハッと口から空気を漏らすと、白目をむいて前のめりに倒れた。
さらに矢が次々と降り注ぎ、3頭のオークの背や肩に矢が突き刺さった。
仲間が次々に倒れたのを見て、後ろを振り返った3頭のオーク。次の瞬間、その体を無数の氷の
穴だらけになった3頭のオークも倒れた。残った1頭は狼狽して左右をきょろきょろとした。その顔面をドガッと矢が貫いた。
「ガーターさんの狙撃力はさすがですな。ヘキサリネ軍弓兵隊にほしいくらいだ」
クロスボウの構えを解いた『龍の鱗』パーティーのガーターが、顔を向けることなく声を掛けてきたヘキサリネ弓兵に返した。
「俺は軍隊で大人しく行進出来るほど行儀良くねえから
別の弓兵は『龍の鱗』のパーティーリーダーのデッカーに感嘆して話しかけた。
「デッカーさんの法力は攻撃距離、威力とも一流ですな。我々の弓に張り合えるとは」
その横を騎兵が通過していった。通過する際、騎兵は馬上から「見事だったぞ!」と親指を立てていった。
「ふん、数匹が相手なら俺だって負けやしねえんだ」
そのセリフは、弓兵や騎兵に言ったのではないようだった。
「そんなに5階級差違反の女がショックだったんですかい?」
ガーターに指摘されたデッカーは一瞬ムッとして、「いいから行くぞ!」と駆け出した。
何が起きたのかと目を丸くした補給部隊の竜使いの視界に、砂埃を上げて駆けてくる一団が見えた。
かなりの人数である。服装に統一感がないのは
「援軍だ!」
喜びに満ちた声が竜使い達から上がる。
騎馬は後方の竜使い達に追いつく。しかし止まることなく、そのまま横を駆け上がっていった。
補給部隊前方でオークと対峙していた竜使い達は、馬の蹄の音に一瞬驚いたが、それとともに聞こえてくる歓喜の声に、味方が来たと察し安堵の息を漏らした。しかしすぐ当惑することになる。補給部隊の先頭まで馬と共に駆け上がってきたのがワリナの騎兵であったからだ。
馬にはレオナルド、ケン、クーノも同乗しており、3人は隊列の一番前まで来たところで馬から飛び降りた。
「えっ、ワリナの騎兵!?」
「もう大丈夫だ、助けに来たぞ」
レオナルドがニヤリと口元を上げてそう言うと、スラリと腰の剣を抜いた。
ケンとクーノはその場に留まるとこなく、騎馬を追って駆けて行った。
駆け込んできたのがまさかの隣国、それも敵対的なワリナ王国の者だったので、竜使い達は混乱した。当惑するのは当然だ。
それにお構いなく、軽くなった4騎のワリナ騎馬兵は、突撃隊形を取るとオークに向かって突進した。
オーク・ソルジャーは何やら空に向かって叫ぶと、前進を止めて陣形を作って身構える。4頭が立ち塞がるように横に並び、その後ろに8頭が回った。
騎馬兵は槍をかまえ、前列4頭のオークの胸に照準を合わせる。
「一撃で4頭をぶちかませ! その勢いを保ったまま後ろの奴もやる!」
その時。
少し遅れて到着した『龍の鱗』パーティーの探知法力者、パイアスが叫んだ。
「右にワイバーンだ!」
道の右側の森の上に、バサァッと突如ワイバーンが現れ、爪を立てて騎兵を横から襲ってきた。どうやら1頭だけ残しておいたらしい。オーク・ソルジャーの救援要請を聞いて飛んできたのだ。
「シールド!」
後ろから追っていたクーノが瞬時に展開したシールドは、ワイバーンの太い脚と爪を防いだ。
騎馬隊は一瞬焦りの色を見せたが、速度を落とすことなくそのまま突進を続けた。
「「「「やあああーー!」」」」
4頭のオークに長槍を突き立てた。
オークは幾つにも枝分かれした剣でその槍を払い除けようとしたが、近衛騎兵の卓越した技量の突きに馬の加速が加わり、剣の枝は全てバキバキバキと割り砕かれてしまった。オークはそれに驚く間もないまま、胸に槍を突き立てられた。
ガハアッ!
オークはすさまじい形相で、大きく開けた口から血を吹き出す。
だがオークはそれで終わらなかった。突き刺さった槍をガシッと手で掴んだのである。
「こ、こいつ槍を! 抜けない!」
驚いた騎兵達。すり抜けざまに槍をひねり振りながら、刺した相手から槍を引き抜こうとしたのだが、わずかに残る余力で掴んだ槍を離さないのだ。
もはや意識もない、またあるものはすでに絶命しているが、それでも離さない。
騎馬隊の足が止まる。機動が売りの騎兵が止まってしまっては、その威力は半減以下である。
後ろに回っていた8頭のオークが、好機とばかりに動けない騎兵に向かって巨剣を振り上げ走ってきた。
「そうはさせるか!」
騎馬を追っていたケンが槍の切っ先に力を溜める。動けないでいる騎馬の横まで来ると、力を溜め込んだ槍から衝撃波を放った。
「テエエーイ!」
衝撃波はオーク5頭をまとめて吹き飛ばした。
クーノが法力のシールドを張りつつ突っ込み、残る3頭もあっという間に切り伏せてしまった。
ワイバーンはオークが全て倒されたと知るや、街道から離れて高度を上げた。
援護すべき対象を失ったので引き返すのかと思いきや、ワイバーンは旋回すると補給部隊の中央付近に向かって急降下した。
目標を再び補給部隊のイグアノドンに変えたのだ。