異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第126話「ゴブリンの波」

 

 ヘキサリネ軍前線基地。

 

 士官用宿舎にしていた丸太小屋が、ワイバーンの蹴りでガラガラと崩れ落ちた。

 飛び去るワイバーンに向かって重弓兵隊の矢が放たれる。念導力者が矢を誘導するが、もう1頭ワイバーンが現れ、翼を羽ばたかせて突風を起こし、矢を吹き飛ばしてしまった。

 

「なんとか地上に落とせられれば!」

「飛翔する魔物が複数いると、こんなにも面倒になるとは!」

「魔素濃度も濃くなってきています。現在濃度3.8。ワイバーンの動きが良いのもそのせいでしょう」

「濃度4を超えるとワイバーンもブレスを吐くと聞いたことがある。もしそうなったら……」

 

 視線が中隊長に集まる。中隊長は遠くを見つめたままである。

 

「た、大変です!」

 

 伝令が飛び込んできた。

 

「中隊長、基地内に降下したオーク・ソルジャーが、北側の門を内側から開けました。大量のゴブリンと思われる魔物が基地内に雪崩込んでいるとのことです!」

「大量ってどれくらいだ?」

「湧き出るように続々とやって来るようで、二百匹以上の規模にはなると」

 

 ギョッと目を見開いた参謀達。

 

「待て待て! ゴブリンはそんな大規模には群れないぞ。せいぜい20匹程度のファミリー単位。それ以上の集団を作るには統率者が必要だ。百匹単位となると、ロードクラスのゴブリンがいないと群れが纏まらないはず!」

「てことは、いるってことだろうな。ロードクラスが」

 

 ユスティニアスが努めて冷静に言った。

 

「しかし相手はゴブリンですよ?」

「いや、ゴブリンであっても、この数で攻められては……」

「ゴブリンだけじゃないんだろ?」

 

 ユスティニアスは普通の会話のように聞き返す。そしてその問いにも自らで答えた。

 

「陥落したハドル谷入り口の砦から逃げてきた兵の話だと、ゴブリンだけじゃなくオークやスパイダーにも襲われたということだったな。ということはまだまだぞくぞくとやってくるぞ」

 

 参謀達の顔色はますます悪くなった。

 ユスティニアスの呟きは続いた。

 

「ただ数が多いだけじゃない。ゴブリン集団、それを率いるゴブリンロード。さらにはワイバーン、オーク・ソルジャー、その他諸々の種族の違う魔物が連携して、ヘキサリネ軍陣地を落とそうとしている。この事実が何よりも異常事態だ」

「種族の違う魔物がコミュニケーションを取るなんて普通考えられません。つまり双方をコントロールできる何者かがいるということですか?」

 

 参謀の質問にユスティニアスが頷いた。

 

「それこそが魔族。滅んだはずの……ですな?」

 

 ユスティニアスが最後に質問調で投げかけた先にいたのは、領主のヴェルディだった。向けられたヴェルディも頷いた。

 

「そうだ。どこかにいる。なんとしてもそいつをひっ捕らえるんだ。連携を止めるには、それしかない」

 

 

 

 

 壊れた北側の門から入ってきたゴブリン達は、いずれも重量挙げ選手のように太い筋肉を付けた個体ばかりだった。もはやゴブリンとは言えない、まるで上位種のホブゴブリンが背を低くしただけのようだ。

 

「数が多いとはいえ、所詮はゴブリン。切り捨てろ!」

「「「おう!」」」

「突撃ーーっ!」

 

 わあああーっと、ヘキサリネ兵がゴブリンの集団に斬りかかる。

 

 ガキーンン!

 

 防いだ!?

 

 粗悪な武器に、腕力も劣るはずのゴブリンが、ヘキサリネ兵の長剣を受け止めた。それどころか弾き返し、逆に斬り込んできた。

 

「本当にゴブリンかこいつら!?」

 

 ゴブリン集団は、Fランク探検者(エクスプローラー)の経験値稼ぎになる魔物とは思えぬ身体能力で、ヘキサリネ兵に抵抗する。

 正面からの斬り合いで押されたヘキサリネ兵は、たまらず後方の武器倉庫となっている建物遺跡群へと逃げ込んだ。そこでは武器を急ぎ搬出している者だけでなく、弓矢や遠距離法力攻撃ができる後衛兵士がおり、彼らの激しい援護射撃によってゴブリン達は建物へ近寄れなくなった。

 

「ガアアアア! ギゲエーー!」

 

 ゴブリンが動けず集団で固まっているところに、ゴブリン・ロードと思われるひときわ大きい個体が叫んだ。その声に呼応して一瞬突撃してきそうになったが、急に静かになり、ゴブリン集団が道を開けるように二つに割れた。

 割れた集団の奥に現れたのは、浮いている岩の塊だった。

 

 兵士達が岩の出現にぎょっとして息を飲んだその刹那、弾かれたように岩が建物遺跡群に向かって飛んできた。

 岩は途中でグシャッと崩壊し、岩雪崩となって建物遺跡群を襲った。

 建物遺跡は、石を積み上げて作られた土台と、腰くらいの高さまでの石壁でできた遺構で、そこから上の壁や屋根を、後から丸太や木の板で作り足し倉庫としていた。その木の壁や屋根が岩雪崩によって崩壊し、中にいた兵士が、岩や粉砕した木材に押し流された。

 

「た、退避ーっ!」

 

 巻き込まれなかった兵士が、がれきから体が見えている者を引きずり出しつつ、さらに後方の倉庫へ向け後退する。

 再びロードが咆哮を上げると、今度こそゴブリンの群れは奇声を上げて突撃を開始した。

 

 

 

 

 ヘキサリネ軍は大広場と林の境で、ブレード法力者がブルドーザーのようになって急ごしらえの土塁を築いていた。彼らは本当に土木作業車両のようで、人力とは思えぬ速さで構造物を作っていくのだ。

 土塁にはわざと切れ目が作ってあり、そこから中に入ると袋小路となっていて、そこでは重装甲獣が待ち構えている。なかなかにえげつない陣地である。

 

 構築中の土塁の所に、東の武器倉庫群の方から兵士が数名逃れてきた。

 

「大丈夫か!?」

 

 介抱に来た兵士に、荒い息の合間を縫って答えた。

 

「魔物の身体能力が、半端ない。武器は粗悪ながら、我が方の剣を、叩き折ることも、ある」

「ゴブリンのくせにか? なんでそんなに強いんだ?」

「重装甲獣を、回しては、もらえないのか?」

 

 その時、頭上にワイバーンが飛んできて、脚で掴んできた岩を落とした。

 地上に落ちた岩が巻きあげた土砂が降ってくるのを手で防ぎながら、兵士は飛び去るワイバーンを恨めしそうに目で追う。

 

「あれがやっかいなのだ。あいつさえいなければ、重装甲獣をゴブリン集団に突っ込ませてやれるのだがな」

 

 

 

 

 南門近くの空き地にユスティニアス中隊長はいた。

 ユスティニアスの後ろには、一見高射砲にも似た物が設置してあった。2つの木製の三角の櫓と、その間に砲身のように1本の長い棒が立っている。人力の巻き上げ機が縄を巻いているところで、縄に引っ張られて棒が次第に倒れていっていた。高射砲のようなのは、投石機カタパルトだった。

 ユスティニアスのところに、木箱を積み上げた台車がガラガラと音を立ててやってきた。

 

「中隊長、武器倉庫から破裂玉を回収してきました!」

「たったこれだけか? まあ回収できただけでも良しとするしかない。ワイバーンを狙いたい、できるか?」

 

 問われたカタパルトの指揮官は胸を張った。

 

「飛翔中の標的も訓練してます!」

「頼もしいじゃないか。1頭でも落とせば、警戒して近寄るのを躊躇するようになる。絶対に落せ!」

「ははっ!」

「炸裂まで1分で仕込むぞ!」

 

 台車に積まれた木箱の蓋を開けると、直径15cm程の丸い鉄球が詰め込まれていた。その球にユスティニアスは手を置いた。

 

「熱源発生。加熱」

 

 手を置いた鉄球が淡く光る。

 その作業をやりながら、ユスティニアスはヴェルディ領主の方へ向いた。

 

「領主、南門が無事に開いているうちに逃げられては?」

「さっき補給部隊のところに降りていったワイバーンの別動隊が、オークと一緒に道を伝って南門へやって来るんじゃねえか? 俺をそいつらと鉢合わせさせる気か?」

「しかしその別動隊がここに来た時点で、南門を閉めて籠城戦に移行ですぞ。ここにいても討ち死にするだけかもしれません」

「なんだ、この程度の魔物も退けられないってのか? そのようじゃあ、領都防衛など任せられねえなあ」

「まあ、おっしゃる通りなんですが」

 

 ユスティニアスは手を添えていた砲丸のような鉄球から手を離した。

 

「炸裂まで1分だ。装填しろ!」

 

 鉄球はカタパルトの棒の先端に繋がっている網の袋に入れられた。

 カタパルトを指揮する兵士が、空を動く黒いものを剣で指して、周りの部下に号令を出す。

 

「攻撃目標、右を飛翔中のワイバーン!」

「右を飛翔中のワイバーン、砲座あと5度旋回。放出角80度!」

 

 カタパルトを据え付けてある地面が動く。地面はターンテーブルのようになっていた。

 

「念道法力誘導準備!」

「誘導準備完了!」

「用意……いけ!」

「投擲!」

 

 号令とともに棒を抑えていた縄が外される。棒の反対側にぶら下がる錘の重さで棒がグワッと立ち上がっていき、頂点付近まで行ったところで、網の中の鉄球が空中に放り投げられた。

 空中に投げ出された鉄球は、念道法力者によって方向を修正される。それは1頭のワイバーンの方へ着実に向かっていった。

 すかさず別のワイバーンが1頭、飛んでくる物体を逸らそうと接近してきた。そして翼を羽ばたいて突風を起こす。しかし念道法力者が修正を加える上、重さのある鉄球は少々の風では方向を変えない。

 そしてユスティニアスが鉄球から手を離してきっかり1分。鉄球に亀裂が入り、2頭のワイバーンから数mのところで、鉄球が破裂した。鉄球の中から真っ赤になった鉄片が花火のように飛び散る。それらはワイバーンの翼や体を貫いた。

 

「キギャアアアア!?」

 

 いきなり無数の何か熱いものに体を貫かれ、堕ちていく2頭のワイバーン。

 これを見た他のワイバーンが警戒を強めたのが分かった。

 高度を上げるもの、逆に木々で見えないくらい低空へ降りていくもの。

 

「探知法力者がいれば、隠れてても攻撃してやるのに」

「中隊長、こちらの破裂玉にもお願いします。時間差で炸裂するようにしてください。ゴブリンの集団にぶち込んでやります」

「よし任せろ」

 

 ユスティニアスは右手と左手をそれぞれ鉄球に当てる。

 

「熱源発生。加熱」

 

 ユスティニアスは手に触れたものの中に熱源を作り出し、それを任意の速度で加熱させられる、それが領都防衛第二中隊長ユスティニアスの法力だ。

 鉄球の中心には水が入っており、ユスティニアスが発生させた熱源がそれを加熱。最終的には熱源が鉄球の一部を溶かして水と接触し、水蒸気爆発を起こして鉄球が破裂する仕組みだ。爆発するタイミングは熱源の加熱具合で調整される。

 

「カタパルトに装填」

「目標、北門側小広場のゴブリン集団」

「方位、着弾距離、補正完了」

「投擲!」

 

 ストッパーの縄が外され、錘の重さによってスリングが腕を振るうように立ち上がり、頂点付近で鉄球が飛ばされる。

 

 鉄球は北門になだれ込んでいたゴブリンの集団に命中し、数体を殴り倒した。そしてゴロゴロと地面を転がって止まった。

 1体のゴブリンが腹立たしげにその鉄球を拾い上げようとした時、中の熱源が急激に発熱し、周りの水がそれに触れて一気に蒸発。水蒸気となって体積が増えた水の圧力によって鉄球が炸裂した。熱水蒸気、中に仕込まれた鉄片、鉄球本体の破片といったものが飛び散り、一帯にいたゴブリンが一瞬にズタボロになって倒れていった。

 

 だが損耗を超える数が次々と北門から入ってくる。

 

「……いったいどれだけいるんだ」

 

 

 

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