異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「ひゃああっ!」
再び頭上をワイバーンが横切り、マヤとサンドラはまた首をすぼめた。ワイバーンを追いかけるようにドドン、ドドン、パアンと火の玉や岩の礫などが飛ぶ。
このワイバーンはわざと姿を晒して目を引き付けようとしている奴だ。
「あれの他にまだあと2頭いたはずだ! 油断するな!」
レオナルドが全体に注意を促す。そして次々と指示を飛ばす。
「そこの小隊、道を塞いでいる岩をどかせ!」
指示された兵士達が岩に群がる。
「対空警戒! パイアス、見えてないワイバーンの位置分かるか?」
「捕捉しています。だがスピードを緩めてきていて、見分け辛くなってきた。周囲の森にもなんだかかなりの数の魔物が集まってきているようです」
「タイガー・スパイダーと思しき影を木の上に見かけました! あ、地上に降りてきた!」
ぞろぞろと黄色と黒の縞模様の巨大グモが森から出てきた。
「いよいよ空と地上との連携攻撃が始まったか! ケン、
「了解! 行くぜ、皆ついて来い!」
「けちらせーっ」
「うおおおおー」
マヤの乗っている荷車の周りも、森から湧くように出てきたクモで囲まれてしまった。『ホワイト・ガーディアン』のメンバーがそれらを押し留める。
「マヤちゃーん」
怯えたサンドラがマヤにすり寄ってきた。
「クモ気持ち悪ぅ! だ、大丈夫、いざとなればわたしも正当防衛で……」
「二人とも頭引っ込めて!」
リネールが叫んだ。
「「ひゃあ!」」
バサバサバサーッ
ドドンドドンドドン!
上空を例の引きつけ役のワイバーンが超低空で通過。それを撃墜しようと追う火炎玉が同じ高度で炸裂する。
ワイバーンは爪を突き出して飛んでいる。もし引っかけられたらお陀仏だ。
「危なかった! リネールさんありがとうっ」
「あいつ鬱陶しいね。俺もやっていい?」
護衛対象の薬運び屋として来ている『リトルウィング』のサンドラとリネールだが、リネールはじれったくなってきたようだ。なにしろリネールはリトバレー村随一の弓使いでもある。
自分のロングボウを取り出したリネールに、マヤは階級差違反を心配した。
「ち、ちょっと、Dランクのリネールさんが手を出していいの? 相手はAランクなのよ?」
「マヤさんの攻撃と違って、俺の矢が当たったところで致命傷になることはないから、ぜんぜん大丈夫」
「あ……なるほど」
遠い目になるマヤ。それがUMA扱いの人と普通の人の違いである。
リネールは、ポーチから小瓶を出した。
「火炎瓶付きの矢を使うよ」
「あ、それならわたしも手伝った方がいいよね?」
マヤはレオナルドに向かって手を振る。
「レオさーん、リネールさんも加勢するって。真上のうっとおしいワイバーンに火炎瓶の弓矢を使うって言うんだけど、わたしも手伝っていい?」
「こいつには手を焼いているからな、許す! この1匹だけだぞ!」
「アイアイサー。やったわ、許可もらったよ」
「うはは、マヤさんのデストロイ法力が加わったら、もしかしたら俺の弓矢でも撃墜しちゃうかも!」
「デストロイ法力じゃないから」
やけに嬉しそうになったリネールは、小瓶を矢に取り付けた。
小瓶の中身は、リネールの火炎法力で出す火炎を、マヤの助言で火をつけないようにして発動させて採取したものである。マヤの予想通り、そうすると火炎の燃料だけを取り出せたのだ。その燃料はガソリンに極めて似ていた。
「狩りで鍛えた腕前を見せてやるよ」
瓶の口から出た導火線に自分の法力で火をつけると、弓の狙いをつける。
「そりゃあ!」
びゅんっと放った矢は何もない空に向かう。しかしまるで矢に向かって来るようにワイバーンが飛んできた。見越し射撃だ。首の付け根当たりに矢はぶつかり、硬い鱗に当たって瓶がはじけた。
すかさずマヤが手を向ける。
「
割れた瓶から飛び散った燃料に大量の酸素が供給され、そこに導火線の炎が引火する。
ごばあっとワイバーンの全身が火炎に包まれた。
驚いたワイバーンはギャアーッと悲鳴を上げた。急いで離脱しようとする。
「逃げられると思って!?」
マヤの身体が淡い水色に包まれた。
「もっと
マヤが容赦なく酸素を追加供給する。
火はワイバーンの体にも引火し、マヤの酸素操作で体組織の炭素と酸素が化学反応を起こす。つまり燃焼する。
体自体が燃え出し、ワイバーンは全身から煙を吹きながら墜落し、道にひしめいているタイガー・スパイダーの群れの中に落っこちた。
「燃えちゃえ燃えちゃえーっ、クモ達も一緒に燃えちゃえーっ、
ハイテンションになってどんどんと酸素を追加する。
火に弱いクモ達へも次々と引火し、荷車を取り囲んでいたクモは松明のようになった。
大火事になったその光景に、横にいたサンドラが怯えて、マヤの袖を引いた。
「マ、マヤちゃん、荷物に燃え移りそうなのっ」
「平気平気、燃えても酸素抜き取ってすぐ消してあげるわ。もっと
「もうクモが炭になっちゃってるのーっ」
いつも止められる側のイレムがマヤの腕を掴んで止めに入った。
「ガキババア燃やし過ぎだ! あれじゃ素材として使えなくなっちゃうだろ!」
「あはは! あんなキモいクモいらないわー!」
「クモの脚も燃えちゃうだろ!」
パキャッとイレムがマヤの頭をはたいた。
「いたあ!」
マヤを包んでいた水色のモヤが消える。
「ワイバーンもあれじゃ食えねーだろーが!」
素材っていうか、食材にしか見えてないのか、この悪ガキは。
しかしすでに遅し。ワイバーンもクモも全身消し炭となっていた。
「ああ、ばか野郎ーっ! みんな燃やしちまった!」
黒い塊となってしまったワイバーンとタイガー・スパイダーの成れの果てを見て、マヤもようやく落ち着いた。
「えっ、やり過ぎた? いやいや、襲われてたのよ? この状況下でも食い気?」
「ワイバーンのステーキ食えたかもしれないのに! デッカーのおっさんが仕留めたのは分けてくんねーだろーから、リネール兄ちゃんやガキババアのなら遠慮なくできたのに!」
マヤ達のならって、それもどうかと思うが。
「今のお前か!?」
「リネール、すげえな!」
まさか本当に自分の矢の一撃でワイバーンが落ちるとは、それどころかタイガー・スパイダーの集団まで燃えてしまうとは思わなかったので、リネールは慌てて弁明する。
「ち、違います! 俺は火矢を当てただけ! その後のデストロイ現象は全部マヤさんだから! とどめ刺したのはマヤさんだから!」
リネールが必死になるのは当然。でないとDランクがAランクを仕留めたということで、3階級差違反にされてしまう。だが階級差違反の口実に使われたマヤはたまったもんではない。
「ちょっとリネールさん、デストロイ現象ってなに!?」
「デストロイ現象? あれが!?」
「うむ、デストロイ現象だな」
「確かにありゃあデストロイ現象だ!」
「噂には聞いておりましたが、なるほどあれをデストロイ現象というのですか!」
「「「「さすがはマヤさんだ!」」」」
「なんで皆納得してるの!?」
「「「「一生ついていきます!」」」」
「いやーっ! デストロイ現象なんて知らないわ! やめてそういう変な祀り上げ方しないで!」
とうとうヘキサリネ兵にも信奉者が広がり始める。
一方、やっちまったと頭を抱えたのはレオナルド。攻撃許可を出したはいいが、予想以上にマヤが目立つ結果となってしまった。
「マヤてめえ、ワイバーン1匹だけって言ったろうが!」
「うー、だってあっちが勝手にクモの群れの中に墜落したんだモン! 囲まれてて気持ち悪かったし、この際燃えてしまえと心の声が」
こいつ、マジでデストロイヤーだ。
「とにかく後は緊急時以外はそこで大人しくしてろ! パイアス、あと2頭のワイバーンの動きはどうなった?」
傍らにいるパイアスに目を向ける。
パイアスは顔の先の空間を見つめるようにして探知法力でずっと監視していたが、眉間に皺を寄せて険しい顔をし、焦りの色を見せた。
「くそっ、すまんがどれがワイバーンか判別つかなくなりました」
低空に降りていた2頭のワイバーンだが、飛行速度を落としたことで、森の中にいるタイガー・スパイダーや他の生き物と区別がつかなくなったのだという。
困っているパイアスにデッカーが助言をした。
「今のところクモ共は前列周囲の木々からだけ出てきてる。おそらくまだ回り込まれてはいない。だから横や後ろから接近する奴はワイバーンだと思っていいんじゃねえか?」
クモの集団はまだ、補給部隊の横や後ろまでは回り込んでいない、とデッカーは踏んだのだ。
「なるほど、それでやってみよう」
その時。
キュゴオオオン!
遠くでワイバーンが吠えた。
するとバササササという羽音があちこちから聞こえだした。
パイアスが舌打ちした。
「ちいっ、周り中で動きが! これは鳥か!?」
一部の木の上に鳥が群れをなして飛び立つのが見えた。
「やっぱり鳥だ、周り中から鳥が飛び立った! これに紛れられたらどれがワイバーンだか鳥だかわからねえ!」