異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第130話「南門前の攻防 その3」

 

「やっぱり鳥だ、周り中から鳥が飛び立った! これに紛れられたらどれがワイバーンだか鳥だかわからねえ!」

「なにい!?」

 

 羽音や鳴き声は全周囲から聞こえる。これまで戦闘に巻き込まれないよう木の枝に止まってやり過ごしていた多数の鳥が、一斉に飛び立ったのだ。しかも羽音や鳴き声からして、鳥は右往左往しながらこっちへ飛んできているようだった。

 

 パイアスの法力である『探知』は、魔物も動物も人間も探知できる。できてしまう。今までは飛翔していたワイバーンは移動速度が他のものと明らかに違っていたので、区別がついていたのだ。それが速度を落としたことで、見分けがつかなくなった。鳥は全周囲から飛び立っている。どの方位の鳥に紛れてくるか分からない。

 

「ヤロウ、完全に鳥に紛れてやがる!」

 

 ワイバーンは鳥の動きに合わせるか、鳥を誘導しているようだった。

 皆に動揺が走る。

 

「ええい、こうなったら出たとこ勝負だ!」

 

 デッカーが覚悟を決めた。

 そんな中、レオナルドのやや弾んだ声と、イレムのやんちゃな声が届いた。

 

「イレム、出番だ。見えてるな?」

「ばっちりわかってらい!」

「ワイバーンも区別つくな?」

「もちろん。タイガー・スパイダーよりぜんぜん反応がでっかいんだ」

 

 イレムの法力も、『探知』だ。しかし魔物しか探知できないという”欠陥品”だった。それ故に普通の人や動物を探知できず、本人も家族もずっと法力があることに気が付かなかった。魔物がめったに出ない村で生まれたイレムは、法力が発現しなかった無能力者と思われ、山に捨てられたのだ。

 何とか自力で山を脱出したイレムは孤児院に拾われ、先の領都の危機を救うアイポメアニール採取クエストの時、孤児院パーティーの一員として参加してマヤ達と一緒に行動し、その”欠陥”が明らかになったのである。

 クエストで一緒に行動した中にはレオナルドもいたので、イレムの法力のことは把握済み。その性能もである。

 

 レオに肩車されたイレムが腕を伸ばして、次々と森の上の空を指さす。

 

「1匹は右前方。3匹右真横、1匹は左後方!」

「2頭じゃねえのか!?」

 

 デッカーとパイアスが驚く。

 

「さっき3匹が右の方から飛んで来て加わった!」

 

 レオナルドが瞬時に隊形を分析した。

 

「右が本命だ。あとはおとりと見た!」

「左後方のやつ、速度上げたぞ! 道に出てくる!」

 

 イレムが隊列の後ろを指して叫ぶ。

 

 バサバサバサアー!!

 

 イレムが言った通り、鳥の群れとともに木々を揺らして1頭が、ドリフト気味に隊列の後方に姿を現した。

 

「こいつは気を逸らすおとりだ! 誰か足を止めとけ!」

 

 レオナルドの指示に応えたのは、殿をつとめていたリエラとフィリアである。

 

「私達がやるわ! フィリア、アンカーで足を止めなさい!」

「ひっ、しょ、承知しました!」

 

 女探検者(エクスプローラー)とメイド服の護衛侍女(エスコートメイド)がダッシュする。

 

「我らも援護する!」

 

 遅れて数名のヘキサリネ兵も隊列を離れて追う。

 

 

 後方から陽動で接近したワイバーンは、その人間共の動きを見とめた。

 予想より迎撃に来る人間が少ない。であれば向かってきた人間は適当にいなして陽動をやめ、大物、つまり補給部隊本体を襲う。とプログラムされた通りに行動を変更した。目標は部隊最後尾のイグアノドン。

 

 

 ワイバーンに向かっていたリエラは、ずざーーっと途中で急停止した。

 右手を腰のポシェットに入れる。左手で剣を構えると、剣先で地面をトントンと指し示した。

 

「フィリア、ここに落とすのよ!」

「や、やってみます!」

 

 フィリアは止まらずにリエラの横を駆け抜けていく。

 

「失敗したら私、ワイバーンに食べられちゃうわよ?」

「ひいいいい、絶対止めます! 止めないと護衛侍女(メイド)長に殺されちゃいます!」

 

 リエラの正体はミリヤ皇国の第一皇女、マリエラお姫様である。それを護るのが護衛侍女(エスコートメイド)たるフィリアなのだが、リエラの傍にいさせてもらうには、こういう無茶に応えていかねばならないのである。傍にいなければ護衛は務まらないのだから。

 しかし、と走りながら思う。

 

 リエラ様を置いて走り去っていく私。

 護衛とは?

 

 最近どんどんわからなくなってきているフィリアである。

 そのフィリアは、ワイバーンの下を通り越してしまった。そしてまだまだ駆ける。

 

 

 なにもせずに下を走り抜けたフィリアに、ワイバーンもチラッと一瞬視線を向けただけだった。逃げたものと思ったのだ。それより前に立ち塞がるリエラに集中する。

 

 あんな中型剣程度では、当たったところで硬い鱗に傷もつくかわからない。何かの法力持ちか? でなければ立ち向かおうなどと思うはずがない。

 しかし目標はイグアノドン。接触は避け、やり過ごすべきと思ったワイバーンは、リエラの攻撃が当たらないよう、少し高度を上げようとした。

 その時、ワイバーンの後ろでフィリアが急停止し振り向いた。

 

 フィリアは抜きざまに、筒状の物をストレージから取り出していた。

 急停止と同時に振り向いてそれを構え、素早く狙いをつける。

 一瞬後、しゅばあーっと白い煙を吹いて何かが飛んできた。

 それはワイバーンを大回りしながら何周か回り、鎖を体に巻き付けた。それでもかまわず飛び続けるワイバーンは、鎖をジャーーーッと引きずっていく。

 鎖はフィリアの法力であるストレージから繰り出されていた。そして鎖の終端までいくと、テトラポットのような錘をドンと引きずりだして止まった。

 

「!??」

 

 突然、がくんと引っ張られるようになったワイバーン。急落下し、砂塵を巻き上げて地面にたたきつけられた。

 何が起きたのかと目を白黒させる。

 目の前の砂埃が散っていくと、その中から現れたのはリエラの姿だった。リエラはその美しい顔に冷えた笑みを浮かべて見下ろすと、ポシェットに入れていた右手を引き出した。

 

「ミリヤ皇国名産の毒薬よ。猛烈劇物ガエルから抽出したものを濃縮しまくったものだけど、たんと味わいなさい」

 

 ワイバーンのトカゲのような縦長の瞳孔が見開かれる。

 リエラはゴム風船のような毒薬の袋をワイバーンの鼻先に放り投げた。そして剣を横薙ぎに払いスパっとそれを切った。

 バッシャアッと破裂した袋は、中から透明な液を飛び散らせた。飛んだ液の雫の一つがリエラの頬にも付く。リエラは何事もないように指でその液をぬぐった。

 が、同じ液がかかったワイバーンの方は大変なことになっていた。鼻から顔がじゅわーっと音を立てて溶けていくではないか。

 悲鳴を上げるも、今度は溶ける速度以上の勢いで顔の周囲が灰色に変色し、声はすぐ出なくなった。動きも止まる。

 リエラは無機質な顔でワイバーンの断末魔を見下ろしている。

 

 リエラの法力は瞬間解毒。どんな強力な毒液も、リエラには真水と変わらないのである。

 

 リエラに追いついたヘキサリネ兵は唖然としていた。

 振り向いたリエラが兵士に話しかけた。

 

「ワイバーンが死ぬ前にトドメを刺してもらえるかしら? このままじゃ私、階級差違反になっちゃうの」

「え? は、はい!」

 

 兵士は、溶けて骨が剥き出しのワイバーンの脳天に剣を突き立てた。

 

『なんかもう、死んでたんじゃないか?』

 

 兵士はそう思ったが口を噤んだ。それよりも、あの短時間でワイバーンを動かなくした毒薬に背筋が凍った。

 しかもその毒の効果、まだ終わってない。胴の方に向かって首が灰色にどんとんと変色していっている。

 

「フィリア、胴体に毒が回る前に、首を落としちゃいなさい。素材として使えなくなっちゃうわ」

「承知しました」

 

 きれいなメイドお辞儀をしたフィリアは、ストレージを開けると、でっかい鎌というか、太い木の棒に少し角度の付いたメーターサイズの厚い刃がついた道具を取り出した。

 それを見た兵士達はぎょっとした。

 その形状はクジラの解体で使う大包丁に似ていた。

 

 ワイバーンの顔は勿論、首も半分以上が灰色になり、まだまだ浸食されつつある。

 フィリアはその大包丁を、まだ侵食されてない首の付け根辺りに当てると、じょりじょりじょりと音を立てて切っていく。あの硬い鱗をなんなく切り裂いていくのに兵士達はまた驚いた。

 あとは柔らかい中の肉。さくさくと切っていき、骨の繋ぎ目に刃を差し込んで、灰色に変色した部位が到達する前に首を切り落とした。

 

「貴女の大婆様のお道具が持ってこれるようになって良かったわね。頑張ってストレージを拡張した賜物よ」

「毎度狩りにご同行し、死にそうな程鍛えていただいたおかげです。なんか納得いきませんが」

 

 きれいにメイドお辞儀するフィリアであった。

 

 

 そんな後ろの方での、ある意味異常事態を、隊列の前の方は気にしている暇なぞなかった。

 右前方のワイバーン、そして右真横のワイバーンである。

 

 イレムの探知により、鳥に紛れての偽装も通じることなく的確に所在の共有を受けたパイアスは、自分の探知のどれがワイバーンなのかを再確認することができた。

 

「右前方から来る奴、デッカーのパーティーに任せるぞ」

 

 レオナルドの指示にパイアスとデッカーも顔をしかめるが、駄々をこねてる場合ではない。

 

「あのガキの情報で動くのは癪だが」

「この際仕方ねえ! ハルド、パイアスの言うタイミングで疾風! 下降気流起こしてワイバーンを墜落させろ!」

 

 後はAランクパーティーである。ワイバーン1頭であれば、彼らに任せておけば良い。

 これによって残りの戦力は全て右真横に向けられた。

 

 ワイバーン3頭は誘導した鳥と共に森から一挙に姿を現し奇襲を仕掛けた。

 が。

 

「いまだーっ」

「シールド!」

 

 イレム探知によってタイミングばっちりに張られたクーノのシールドは、逆にワイバーンにとっては奇襲だった。鼻先をシールドにぶつけて出鼻をくじかれたところで、

 

「全員で攻撃しろ!」

 

 レオナルドの掛け声で、探検者(エクスプローラー)や兵士達から雨あられと、法力やら弓矢やら石やら岩やらがぶつけられる。

 それまで指揮に専念していたレオナルドも、そろそろじっとしてられなくなって、「俺にもやらせろ!」と灼熱化させた剣を振りかざして突っ込もうとしたのは良い。

 イレムまでもが「俺もいくぜ!」とタガーナイフを振りかざして突っ込んでいった。

 

「ええ!? 待ちなさい!」

 

 イレムのベビーシッター役を押し付けられているマヤが手を伸ばす。

 が、イレムはあっさりとその手をすり抜けた。今度はニエミネンも側にいない。

 

「万が一あんたが弱りきったワイバーンに刺したナイフが、最後のトドメの一撃だったりしたら、あんたが5階級差違反になりかねないのよーっ!」

「へっ、望むところだ! 龍殺しの称号とワイバーンステーキはいただくぜ!」

 

 もはや手の届かぬところを走るイレムは、探検者(エクスプローラー)や兵士達の足元をひょいひょいと縫ってどんどん追い越していく。

 

「……っこのおおばかーーっ!!」

 

 マヤの目が焦りでぐるぐると回る。

 

 先に、先にワイバーンを殺っとかなければ!

 イレムに万が一が起こる前に!

 ワイバーン殺っとかなければ!

 

 マヤの身体が水色に淡く光る。

 右手を手刀の形にして腕を振り上げると、その延長線上に酸素噴出点がずらっと、ワイバーン3頭の体を横断するに十分な長さで並んた。

 

 マヤが酸素を出せる範囲は、目で見える距離である。ワイバーン3頭の幅くらい、なんでもない。それこそキロ単位で並べることもできるのだ。

 

 そして右腕を投げるように勢い良く振り下ろし、法力をぶっ放した。

 ワイバーン3頭分の幅の高圧酸素噴出点が一斉に落ちる。

 

酸素断頭台(オキシジェン・ギロチンカッター)!!」

 

 逃げようとするも、クーノのシールドで塞がれてもがいていた3頭のワイバーンの胴体が、ざんっといきなり中央で切断された。

 まるでまな板の上で根菜を切ったかのように輪切りになり、ゆっくりときれいな断面を見せて後ろ側が倒れ、続いて頭を含む前側が崩れ落ちた。

 ワイバーンを攻撃していたその場の全員が固まり、目が驚愕で丸く見開かれ、前後2つに分かれたワイバーンに注がれた。

 続いてその目はマヤへと向いた。

 マヤは荷車の上に仁王立ちし、人差し指を人ごみの中に向けて声を張り上げた。

 

「イレム、あんた5階級差違反が、どれだけ大変な罰則受けると思ってんの!? 一生Fランクで終わりたいの!? 所帯持ったらFランクの報酬じゃ食べていけないよ! ニーシャを泣かせるつもり!?」

 

 兵士や探検者(エクスプローラー)の中からイレムがひょこッと顔を出した。

 

「そ、そうなのか?」

 

 輪切りのワイバーンを背景に静かになった中で、マヤの心配事と、それに一人真面目に受け答えたイレムの声は、ひどく場違いだった。

 

 静かになった戦場。その異様な空気に、ようやくマヤもはっと気付いた。

 ゆっくりと左右を見る。

 

「ま、また、やってしまったかしら……」

 

 やらかしたUMAを見る目。

 やってくれたと喜ぶマヤ狂信者の目。

 片手を頭に当て、やりやがったと苦悶するレオナルド。

 

「「「「破壊神(ザ・デストロイヤー)、バンザーイ!」」」」

「「「「一生ついていきます!」」」」

「いやああーー!」

 

 

 

 

<1日目途中経過スコア(前線基地入口前時点)>

・デッカー(Aランクプラス)

   オーク・ソルジャー14頭+ワイバーン4頭(共同)。

・マヤ(Fランク アンリミテッド・パーティー 5階級差違反制裁中)

   オーク・ソルジャー62頭。タイガー・スパイダー45匹。ワイバーン4頭(うち1頭共同)。

 

 

 

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