異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第132話「マヤちゃんの取り扱い責任者」

 

「それで、増援部隊はどのように動けばいい?」

 

 デッカーがマスターに質問する。

 

探検者(エクスプローラー)側は遊撃部隊として活動している。南門前で襲ってきた魔物の動きで分かったかもしれないが、魔物どうしの連携が尋常じゃねえんだ。どうやら魔族の生き残りがいて、魔物を指揮しているらしい」

 

 マスターの憶測に皆は驚くかと思ったが、疑問をいだいた顔は一つもなかった。むしろやっぱりという顔だ。

 

「それはここに来るまでに俺達も散々思い知らされたよ。魔族が絡んでいるという話はレオナルド王太子に道中で聞いた。間違いないのだな?」

「聞いているなら話が早い。それは事実だ。既存のパーティーはその魔族の発見に力を注いでいる。

 そして魔物だが、ワハイム沼の半島から湧いて出てきているように見える。そこに魔族が転移魔導具を仕掛けたんじゃないかというのが俺達の予想だ。デッカー達増援のパーティーは、ワハイム沼の半島にあると思われる魔法転移魔導具の存在確認に全力を注いでもらいたい」

 

 デッカーは頷いた。

 

「了解した。皆聞いた通りだ。強行偵察をする装備と準備をしてくれ」

 

 おうっ! と大きな声で探検者(エクスプローラー)増援隊が返事をした。

 

「さっそく取りかかれ!」

 

 だだだだっと散っていく探検者(エクスプローラー)達。

 『龍の鱗』メンバーも出ていったが、デッカーだけはつかつかとマヤのところにやってきて、懐から紙とパステルを取り出した。

 

「お前をパーティーに加えてここまで連れてくる依頼はこれで完了だ。達成確認のサインをしろ」

「はぇっ? そ、そういえばそんな話でしたっけ」

 

 マヤは胸元に手を入れて自分の探検者(エクスプローラー)タグを出すと、パステルでタグの型を取る。これをギルドに提出すれば、『龍の鱗』は『マヤ護送依頼』の報酬を受け取れるのだ。

 デッカーはひったくるようにサイン済みの紙を取り上げると、「まだ負けてねえからな」と捨て台詞を吐いて去って行った。

 

「勝負なんてしてないですけど。……え、えーと、そうするとわたしはどうなっちゃうのかしら……」

 

 一人置いてかれたマヤはオロオロする。すると背後に大きな人影が立った。

 

「ひっ! 魔物!」

「誰が魔物か!」

 

 大きな人影はギルドマスターのジオニダスだった。

 

「マ、マスターでしたか」

 

 マヤは激しい動悸に胸を押さえる。しかし、はっとしてすぐにマスターの服を掴む。

 

「デッカーさんのパーティーからお払い箱にされました! 次はどこに行けば!? ここって周りじゅう強い魔物ばっかりですよね? このままじゃわたし、また階級差違反()を重ねることに!」

 

 マヤは一人では最低のFランクハンターでしかない。パーティーを組まないとアンリミテッド・パーティーの資格は生きないのだ。

 

「ここにFランクの魔物なんかいるとは思えない。きっと何を倒しても階級差違反になってしまうに違いありません! 死活問題です!」

 

 マスターは溜息をついた。

 

「お前は今からこのクエスト終了まで、俺と臨時パーティーを組む。何が出てきても違反になることはない」

「何が出てきても? たとえドラゴンでも魔王様でも? や、やったあ」

 

 ヘナヘナとへたり込む。

 

「これで安心だあ。……ん、まてよ?」

 

 ホッとしたと思ったら、また不安な顔になった。

 

「もしマスターが死んじゃったりしたら、また単独でふらついてるFランクハンターになっちゃうんですか?」

「縁起でもねえこと言うんじゃねえ。メンバーが死んでも、受注中の依頼が終わるまでは、所属パーティーの資格は生きる。だから、あり得ねえが仮に俺が死んだとしても、俺のパーティーメンバーであるお前は何倒しても大丈夫だ。あり得ねえが魔王でもだ」

「よかったぁ」

 

 心底ホッとして、またヘニャヘニャと座り込んだ。

 

 

 探検者(エクスプローラー)の討伐増援部隊が準備でいなくなると、残ったのはヴェルディ領主、ギルドマスターのジオニダス、ユスティニアス中隊長、レオ・ケン・クーノのワリナ組、リエラ・フィリアのミリヤ組、そしてサンドラ・リネール・マヤのリトルウィングだけとなった。実は隅っこにイレムもいるのだが、除外していいだろう。ミリヤの2人組にも残るように言ったのはヴェルディだ。

 

「妙なメンツが残りましたな」

 

 一同の顔を眺めて中隊長が言った。

 

「転移魔導具が見つかるまでの間のマヤの使い方について、ジオニダスにイメージが湧かないようなので、良く知ってそうなメンツに残ってもらった」

 

 このメンツになった理由をヴェルディは説明した。

 

「マヤとジオニダスは臨時パーティーを組むが、実際一緒に活動したことのあるレオナルド王子やマリエラ皇女の方が、有効に使う場面を思い付くだろう。助言してもらいたい」

「なんだかわたし、道具のような扱いを受けてる気がするんですけど」

「法力の力だけがバケモノのFランクなんざ、道具と変わらんだろ」

 

 ジオニダスが現実を突きつけると、イレムが隅の方でケケケケと笑っている。

 くぅ~、その通りだから言い返せない。

 

「まず今の状況だが」

 

 ヴェルディが話を先に進めた。魔物との激しい戦闘を物語る怒号や地響きがする方を目で示してから続ける。

 

「ワイバーンが基地内に直接オーク兵を運ぶということをしやがって……、まあ一足先にキャンプ・スプリングで使われた戦術だったようだが、そいつらが北側の門を内側から開けてしまった。そこから大量のゴブリンが入り込んで、基地の半分以上を取られた、というのが大雑把な状況だ。ワイバーンが空にいるせいで、自慢の重装甲獣をゴブリン集団に突っ込ませることもできない」

「基地に入り込んだ魔物を一掃したいと?」

 

 リエラが聞いてくる。

 

「それもそうだが、その魔物の元を正せば、沼の魔物出現点から来たと思われる連中だ。元を断たねばならん。それともう一つ」

 

 上空を通過したワイバーンを首を上げて追う。

 

「多種類の魔物を連係させている存在だ」

「魔族の指揮官だな」

 

 レオナルドが言うと、ヴェルディは頷いた。

 

「マヤさんは使っていいの?」

 

 リエラが尋ねると、ヴェルディは難しい顔をした。

 

「魔物の陸空連携がなければ使わずに済ませたかったが、中隊長も苦労してるようなのでな。仕方ない。ただし、魔族にマヤの事を知られたくない。慎重に使いたい」

「使うけど知られたくない……」

 

 リエラは口に手を当てて俯く。

 しかしレオナルドは不敵な笑みを絶やすことなく、リエラの懸念を一掃した。

 

「もし魔族がマヤの事を知っちまった時は、他の魔族に連絡取ったりする前にその魔族を即口封じすりゃあいい。そうじゃねえか?」

 

 ヴェルディは一瞬レオナルドを見詰めると、ニヤッと笑った。

 

「できるならそれでもいい」

「えええっ、知られたからには始末するって、典型的な悪者のセリフですよ! わたしをいったいなんだと思ってるんですか!?」

「魔族共を滅ぼせる力、だと思ってる」

 

 ヴェルディはきっぱりと即答した。マヤは頭を抱えた。

 

「いやあーっ! そんな最終兵器みたいな立ち位置、ヤです! なんで皆、平和をもたらす女神として扱ってくれないのっ?」

 

 そんなマヤの悲鳴なぞ意に介さず、レオナルドはヴェルディに尋ねた。

 

「ここに何人魔族が入り込んでるか分かんねえが、戦域外にいる他の魔族との連絡手段ってなんだろうな?」

「人間が使うような目視で伝える方法は勿論あるだろう。あとは魔法を使った何らかの遠距離伝達だろうな」

 

 だよなーと頷くと、レオナルドは口の端を持ち上げてマヤの方に向いた。

 

「マヤ。大雑把な戦術は見えたぞ」

「うぅ、またわたしをいいように使うつもりですね?」

「お前の使い方は俺が一番心得ているからな。ってことでヴェルディ、ここが終わったら、こいつは俺が(ワリナ)へ持って帰っていいな?」

「私が許しません」

 

 即座にリエラが異議を唱えた。一歩遅れてヴェルディも続いた。

 

「マヤはヘキサリネの住民だ。しかしレンタルは考えてやる。ただしレオナルド第一王子個人だけに限定だ。今ぶっ壊したらそれもなしだからな」

「ちっ。まあレンタル可能って言質はとった」

「わたしを物みたいに扱わないでえ!」

「それじゃあ俺が思いついた作戦だが」

 

 構わずレオナルドは続ける。

 

「マヤ、例のお前の危ない『結界』とらやで、基地周囲を囲うんだ。入ってきた奴は即死亡。それで魔物の増援は来なくなる。『結界』の仕組みが知られてなければ、毒が撒かれたのではと魔族は憶測するだろう。デストロイ法力とは勘付かれまい」

「デストロイ法力じゃなくて、オキシジェン・ビーナスです」

 

 即死する結界が女神なんたらなわけねーだろ……。

 そこにいる大半の目にそう書かれていた。

 

「その結界ってどれくらいの幅取れるんだ?」

 

 マスターが聞いてきた。

 

「酸素の膜を張れればだから、100mでも500mでもできると思いますけど。結界の内側の端だけは張るとき目視しないとです」

「となると、基地の外を見渡せる所に行かないとか」

 

 マスターは顎に手をやった。

 

「監視塔を奪還しないとだな」

 

 マスターが顔を上げて言うと、レオナルドは頷いた。

 

「では監視塔を奪還し、そこからマヤに結界を張ってもらう。結界の次にやることは魔族の発見だ。見つけたら、マヤの威力圏内に誘い込んでもらう。そこまでできれば、あとはいつも通り魔素を取っ払えばいい。それでマヤは制限解除だ。思いっきり法力を使っていい」

 

 マヤがポンと手を叩いた。

 

「魔素さえなくなれば、魔法が使えなくなる、他の魔族との通信もできなくなる。やりたい放題ってことですね」

 

 わかってきたじゃねえかと、レオナルドはマヤの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 むう、わたし子供じゃないんですけど、とマヤは口を尖らせる。

 

「ふむ。確かにレオナルド王子はマヤを使い慣れてるな」

 

 顎に手をやってヴェルディが感心した。

 

「そりゃアイポメアニール採取クエストで、1週間も寝食を共にしたんだからな。何でも知っている」

「勘違いされそうな言い方しないでください」

「大丈夫よ。マヤさんとなら間違いを犯すことはないわ」

「リエラさん、それってわたしに魅力がないと言ってます? ヴェルディ様、感心しないでください。レオさんも胸を張らないでください」

「俺も領主なんてやってなけりゃあなぁ、そっち行ったのに」

 

 腕を組んで、さも惜しい感じで息を漏らすヴェルディ。

 

「王太子なんて立場の人だって、普通ならそんな場にいねえよ」

 

 マスターが目線を逸らしてぼそっと嫌味を言う。

 

「何か言ったか?」

「いや別に」

 

 レオナルドは向き直る。

 

「って訳で、扱い慣れた俺がマヤを持って帰って……」

「わたくしが許しません」

「レンタルだ。それもちゃんと借用伺い立てて許可出した上で、だ」

「わたしをレンタル品扱いはやめてぇ!」

 

 同じやり取りが繰り返されたところで、ドドーンと後ろでまた大きな音がした。こうしている間にも、魔物はひっきりなしに来ているのだ。

 

「監視塔を取り返して、結界とやらを張りに行くぞ」

「うう、わたしここで休んでるんで、監視塔取り返したら呼んでください。って、あーれー」

 

 レオナルドがマヤの襟首を掴んで立ち上がった。ケンとクーノもさっとレオナルドの傍に行く。

 レオナルドは傍らで黙って見ていたイレムにチラッと目をやった。そしてふうっと一息つくと、くいくいと指でついて来いと合図した。イレムはやったと笑顔になって、レオナルドの後を追っていった。

 

 マスターを先導に、レオナルドのパーティーとイレム、リエラとフィリア、そしてマヤは基地の中央へと向かった。

 

 

 

 

 皆を送り出したヴェルディは、端のテーブルにちょこんと座って残っているサンドラとリネールに目を向けた。やけに大人しかった二人だが、領主様の手前、発言を控えていたようだ。

 

「リトバレー村の小さな薬師見習いと、弓使いのリネールだったな。気兼ねなく発現してよかったのだぞ?」

 

 サンドラとリネールはブンブンと勢い良く首を横に振った。そして抱えていた大きな鞄を差し出して跪いた。

 

「ポーションを持ってきてくれたのだな。ご苦労であった」

 

 サンドラは恐る恐る口を開いた。

 

「あ、あの領主様。途中で怪我してた兵隊さん達に、超回復ポーションを少し使っちゃいました。レオナルド様が使え使えって言うもんだから。ごめんなさい」

 

 ヴェルディはサンドラの頭に大きな手を置くと、ぽんぽんと撫でた。

 

「そのように使うために持ってきてもらったのだ。謝る必要はない。ここでも大きな怪我を負った者がいる。早速診てもらえるか?」

 サンドラはぱっと笑顔になると、返事した。

 

「はいなの!」

 

 うむ、と口元を和らげる。しかしすぐに元の怖い顔に戻すと、リネールの方に向いた。

 

「最初の襲撃は監視塔の兵に対して行われた。探知法力や遠距離視法力の者が狙われたのだ。酷い怪我だが、まだ辛うじて息があるらしい。優先して診てくれ。サンドラにはきついようならお前が頼む」

「わ、わかりました。つっても俺、医療の専門家じゃないけど」

 

 リトルウィングの2人も負傷者を集めているテントへ向かうと、ヴェルディもドンパチやってる方に足を向けた。

 

「限られた記録にあるのはトロのもの。その弟子のはどんなもんか。俺も実物の『オキシジェン・デストロイヤー』を見ておかねえとな」

 

 

 

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