異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「レオ兄ちゃん、あそこだ! 強い魔物反応!」
「黒ローブに魔法杖。いやがった!」
北門から入って少し行ったところの、門兵詰所のようなところに、予想した通り魔法使いはいた。
急にそちらから重圧のようなものがのしかかってきた。
杖がこちらを向いた。魔法陣が杖の先に現れる。
「気付かれた! 逃げるぞ!」
魔法陣から大量の土の塊がビュンビュンと飛んできた。それは人を直接狙ったものではなかった。デッキの上に集まって、飛んでくる土の塊をくっつけてどんどんと大きくなる。そして見るからに硬い岩に変わっていく。
岩は直径2mくらいになったところで下に落下し、デッキにのしかかった。
バキバキバキバキ
グシャドシャ、ズズーン
岩がデッキを破壊。デッキが足場ごと崩落した。
マヤたちは間一髪岩から逃れ、崩れる渡り廊下を飛んで駆け降りる。
走りながらレオは勝ち誇った。
「ふはははは、いたぞ魔族が! それもマヤの『結界』より内側だ。短期決戦でいくぞ! イレム、他にあれと同じような魔族がいないか確認しろ! なるたけ遠くまで探知範囲を広げるんだ。弱い反応は無視しろ!」
「わかった! けど、走りながらだとやりずれぇー!」
どだだだだだと、階段や渡り廊下を走り下り、さっき倒したタイガー・スパイダーを飛び越える。
「レオ兄ちゃん、俺が探知できる範囲に、他にあいつみたいなビカビカ光る反応はないぞ!」
「うしっ。これであいつだけやっつけりゃあよくなった!」
渡り廊下や階段は巨木の幹を回るように設置されているので、走っていると葉っぱの隙間から木の全周囲を見渡せる。視界が西側に開けた時、オークの集団がこっちへ来るのが見えた。ワイバーンが隙を伺って遊弋しているのも見えた。
マヤが叫んだ。
「あ、あれが来ないうちに、下の皆と合流しないと!」
「微妙に間に合いそうにねぇな。帰り道は邪魔されそうだな!」
下では、個別にやってきた3頭のゴブリンをワリナの騎兵がその機動力で蹴散らしたところだった。巨木へ登る階段の前に集合すると、オークの大集団を睨みつける。
「どうします、突っ込みますか?」
「しかしあの数に対し4騎では、すぐに囲まれて動けなくなるぞ」
「私達がやるわ」
仁王立ち状態で宣言したのはリエラだった。
「フィリア。超短期効果神経毒を距離60mで」
「承知しました」
フィリアがストレージを開け、長方形の箱が乗った木製の台車を引き出した。だいたいおでん屋の屋台くらいの大きさである。台車の上の長方形の箱は井桁状に6区画に区切られており、それぞれに丸い筒が差し込まれている。
「ケンさん、ワイバーンがこっちへ来たら牽制をお願い! 撃ち落として構わないけど、最低でも近寄らせなければいいわ」
「うほっ、了解、お姫様!」
ケンは槍を構え、法力で剣先に力を溜め込み、ワイバーンへ向けた。
「若の将来の奥方様に仕えるってのもいいねえ」
ぼふっとリエラの顔が真っ赤になって煙を噴き上げた。
「こ、こんな時にからかわないでっ」
フィリアは台車と箱を動かしてオーク集団の方に向けた。そして台車に備え付けられた引き出しを開けた。ガラスボトルが沢山並んでおり、フィリアはオークの集団を見ながら、空小瓶にボトルの中身を注ぎ入れ、調合を始める。
「おい、今薬を調合するのか?」
「これは起爆薬です。何秒後に破裂させるかは相手との距離によるので、その場で調整します」
「うへっ、すぐ目の前に迫る敵には向かない武器だねえ」
するとワイバーンが台車に気付き、こちらに向かって急降下してきた。
「ケン、来たわよ!」
「任せとけ!」
槍の切っ先をワイバーンに向けたまま、腰だめに構える。
ワイバーンはフィリアの出した台車を引っ掛けようと脚の爪を立てた。
それを迎え撃つべく、ケンが力を溜め込んだ槍をワイバーンに向かって突き、剣先から衝撃波を放った。
「てえぇぇえーーい!」
飛んでくる衝撃の塊に反応したワイバーンが咄嗟にロールして回避しようとする。しかし完全には避けきれず、片翼を掠めて一部がちぎれ飛んだ。ワイバーンは悲鳴を上げて、急旋回して離れていった。
「くそっ、仕留められなかったか!」
しかしフィリアへの接近は阻止できた。
「上々よ、ケン!」
リエラは片目をつぶって親指を立てる。
ケンはちょっとだけ頬を赤くして、悔しそうな顔を緩めた。
その間フィリアはタイミングを測っていた。オークとの距離を見て、止めていた手を動かして最後の液体を小瓶に注いで調合を終えた。小瓶の中身が反応を開始し光り出す。
「行きます!」
調合液の入った小瓶を1本の筒の先端の方に仕込むと、極太のマッチのような棒に火を灯し、筒の後端に火を点けた。
しゅわわわわと白い煙を勢いよく吹くと、バシュウウーーーっと筒が箱から飛び出した。
筒はオーク集団に向かって真っ直ぐ飛翔する。集団の直前まで飛んだところで、先端に入れた小瓶の中身が破裂し、それを契機に筒がバアーーンッと炸裂、霧状のものが撒かれる。
霧を被った途端にオークが苦しみだした。喉や胸を掻きむしり、泡を吹いて次々と倒れていく。
「な、なにが起こった!?」
ケンや騎兵たちが度肝を抜かれて目を丸くする。
「5分は近寄っちゃだめよ。5分過ぎれば安全になるわ。もしここまで来るオークがいても、私が相手する。私なら大丈夫だから」
「もしかして、あれ、毒か?」
額に汗を浮かべてケンが聞く。と、ケンの後ろで再び大きな音がした。
バシュウウーーーッ
フィリアが別の筒に火を点けたのだ。
ちょうどマヤ達が階段を降り切ったところで、マヤの目の前を1本の筒が白い煙を吹いて矢のように地表2mをすっ飛んでいった。 そしてヘキサリネ陣地へゴブリンを送り込んでいるゴブリン溜まりに突っ込んでいき、そこで、バアアーーンと破裂した。
空中に跳ね上げられる数体のゴブリン。地表では吹き飛ばされたゴブリンがぼろ雑巾のようになって地表を転げている。まるで先程ヘキサリネ軍がカタパルトで飛ばしていた炸裂玉のようである。
「フィリア?」
この攻撃はリエラの命令によるものではなかったようで、リエラはフィリアの方へ振り返る。
「こちらにもう1集団送り込もうとしていたようなので、リエラ様の安全確保のため事前に排除いたしました」
フィリアはしれっと先制攻撃を報告した。
しかしその結果に、そこにいたリエラ以外は半ば唖然としていた。ゴブリン溜まりでモコモコと上がるキノコ雲を見てレオナルドは呟いた。
「大がかりなカタパルト投擲攻撃と同じことを、フィリア1人でかよ……。ミリヤにはこんな物もあるんだな」
マヤはぱかんと口を開けて、悲惨なことになっているゴブリン溜まりを見て、その後フィリアと台車を指さして声を上げた。
「多連装ロケット発射装置とロケット弾ですよこれ! しかも1発は化学兵器だし!」
「また分からんこと言っているが、マヤには似たようなものの見識があるってことだな」
横でジト目をするレオナルド。
「大婆様から受け継いだ
フィリアはメイドの佇まいで、何か特別な事でも? というように言う。
「護衛には過剰装備でしょ!?」
「過剰攻撃し放題のマヤさんに言われたくありません」
「少なくともメイドの装備じゃねえな」
レオナルドも、これにはマヤに賛同のようだ。
リエラはにんまりと微笑んだ。
「ミリヤの特産といえば毒薬に解毒薬、医療薬が知られてるけど、その本質は薬。薬にはいろんなものがあるわ。今見た物に使われていたのは毒薬の他に、炸裂薬と噴進薬。どちらも秘匿薬だけど、私達いずれ同盟を組むんでしょ? ふふ、心強い味方になるわよアピールってとこね」
イレムが発射装置の口に手を突っ込んで、ロケット弾を1本引き抜こうとしていた。
「これに火を点ければ使えるんか? 1本もらっていいか?」
「ああっ、さわっちゃダメです! ちょっ、それ撒いたらこの一帯、当分草も木も生えなくなっちゃいます! リエラさん、早く撤収しましょうーー!」
「そうね。レオさん、陣地まで戻りましょう」
「お前ら、そんな物騒なものまで持ち込んでるのか? ヴェルディに知れたらまずいんじゃねえの?」
フィリアは発射装置に取りつくイレムを払い除けて、急いでストレージに多連装ロケット砲をしまった。
騎馬が回ってきた。
「マヤさん、急いで乗ってください!」
騎兵が手を伸ばす。
「わわ、ありがとう」
馬の上に引っ張り上げられる。レオの他にリエラとフィリアもタンデムで馬に乗せられ、ヘキサリネ軍陣地へと駆け戻った。
帰りを自走させられたイレムは「なんでだよ!」と不満を言うが、往きが特別だっただけである。
マヤは馬上で、先程張った外側の酸素膜を動かした。
「幅は500mくらいでいいかな。天井もつけてドーナツ状に展開!」
ヘキサリネ軍前線基地の外側に、幅500m、地表から20mくらいの高さまでを、酸素の膜でドーナツ状に覆った。
「仕上げにと、
ドーナツ空間の酸素を取り払った。
「これでマヤちゃんの結界完成っと」
<1日目途中経過スコア(監視塔奪還後時点)>
・デッカー(Aランクプラス)
オーク・ソルジャー14頭+ワイバーン4頭(共同)。現在戦闘中。
・マヤ(Fランク アンリミテッド・パーティー 5階級差違反制裁中)
オーク・ソルジャー62頭。タイガー・スパイダー45匹。カメレオ・タイガー・スパイダー1匹。ワイバーン4頭(うち1頭共同)。