異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第136話「ガイアス師団長の闘い その1」

 

 ワハイム沼大規模魔物集団(ケントゥリア)師団長(ケントゥリオ)ガイアスは、崩れかけた砦の前にいた。

 

 ハドル谷の入り口に築かれた砦。それはヘキサリネ軍が谷の真ん中にあるワハイム沼を魔物発生のホットスポットと見当をつけた時に急増で作られた。

 ヘキサリネ軍と探検者(エクスプローラー)ギルドは、ここを拠点にハドル谷の中の偵察、谷に出入りする魔物の監視、そして魔物自体の討伐攻撃を行ってきた。少し南にある最前線基地が兵站拠点となって、定期的に物資の補給、交代人員、怪我人の手当といった支援をしていた。

 自然の岩と地形を利用して、急増ながらも巧みに作られており、これまで何度か魔物による襲撃を試みたが、全て撃退されていた。

 その砦が、とうとう陥落したのである。

 

「目障りだった敵の拠点もこれでようやくお終いだね。よくもこれまで僕の魔物強化行程を邪魔してくれたねぇ。おかげで軍団参謀(トリブヌス)に怒られるし、さんざんだよ。その報いを受けるがいいさ」

 

 砦にはゴブリンとオークの群れがアリのように(たか)って石垣を崩している。ラトロ・アトレイタが死体を貪り食っていた。

 

 そこにオーク・サージェントが報告にやってきた。

 報告を聞いたガイアスは、ローブのフードの中からギョロッと目だけを光らせると、オーク・サージェントを、雷を纏った鞭で叩いた。大きなオーク・サージェントが子供のように怯む。

 

「あれだけ包囲は徹底しろと言ったのにどういう事? 包囲の意味、解ってんの?」

 

 ヒュゴォッ、ビシィッ!

 

 再び鞭が振舞われる。オーク・サージェントが悲鳴を上げた。

 ガイアスの口元は笑っているが、目やのその他のパーツは怒りを滲ませていた。

 

「……包囲網を突破して脱出した敵兵は一人残らず殺せ。敵本体に情報が伝わるのは絶対阻止。一人でも逃しちゃったら……」

 

 手を首のあたりで水平に動かし、首を撥ねるジェスチャーをした。

 オーク・サージェントが震えながら下がるのを見届けると、ガイアスは懐から魔導時計を出した。

 

「とは言ったものの、この時間であれば、砦が陥落したという知らせを聞いたところで既に遅し、だろうけどねぇ」

 

 森の中から人の悲鳴が聞こえてきた。砦を脱出した兵が一人捕まったようだ。

 ガイアスの口が歪に横に広がって、ひへへへへと笑いが漏れた。

 

 ゴブリンの列は軍隊アリの行進のように先へと続いていた。砦は、まるで行進の針路上にたまたまあって、ついでに踏みつぶされたかのようである。実際そうであった。

 ゴブリンの行進は停滞することなく続いている。ということは計画通り敵陣に入り込めたのであろう。

 

 偵察コウモリ(リコニチオーネバット)が肩にとまった。

 コウモリが見た映像が共有される。

 

「うほほほ、よいじゃないかよいじゃないか。命令した通り、ワイバーンが降ろしたオーク・ソルジャーが北側の門を開けたみたいだね。遠くからでも多数種の魔物を自律連携行動させて作戦を遂行できるって、これで証明できた。現場に張り付いて魔物を指揮して攻略するなんてことは、もう昔の戦争の仕方になるよ。これなら数で劣る魔族も人間に勝てる。

 ところで敵の兵力は? ……300人程しかいないか。はっ、楽勝だねぇ」

 

 ガイアスは腰を上げると、ゴブリンの列と共に進軍した。

 

 

 

 

 やがてヘキサリネ軍前線基地が見えてきた。

 空堀や柵は攻防の跡もなくきれいで、開け放たれた門扉から我が家のように基地内に入城することができた。奇襲に成功し、抵抗を受けずに門を奪取したことが見て取れる。

 ガイアスは己の作戦が上手くいったことに笑いを隠しきれなかった。

 

「ひひははは。真正士官学校(ストラティオアカディミア)で開発した新戦術は素晴らしいね。そしてそれを実戦で作戦指導している僕の優秀さも素晴らしいね。ひへははひ」

 

 魔物の強化が終わるまでは随分と苦渋を舐めさせられたが、準備できてしまえばこの通りだ。己の実力が恐ろしい。

 

 門を入るとすぐ小広場があり、次々とやってくるゴブリンが、20匹ほどの塊になるまでそこに留まっている。集団ができあがると基地の奥へ入っていく。

 広場の先には宿舎らしき掘っ立て小屋が並んでいる。ゴブリンが数体中に入り、略奪行為をしていた。

 ガイアスは顔を酷くしかめた。

 

「何を遊んでいるんだい? 下等種族が。土の精霊よ……」

 

 呪文を詠唱すると杖の先に魔法陣が現れ、小さな石ころが多数生成される。

 

「この愚か者共へ石の(つぶて)にて懲罰を与えよ。ストーンバレット!」

 

 ギャアアアーッ!

 

 小さな石が散弾となってゴブリン達を撃ちつけた。懲罰ということでアザができる程度に威力は減衰されている。

 

「次は命も刈るからね。とっとと行きな!」

 

 ゴブリン達は一目散に建物から飛び出していった。

 

「ロードのやろう、配下を統率しきれてないじゃんか。思ったより能力の低い個体だったみたいだな」

 

 兵舎小屋群を抜けると、ゴブリン・ロードが数の揃ったゴブリン集団を突撃させていた。基地の東側に向かわせている。その先では、叫び声や剣撃が聞こえてきた。

 ガイアスは自分の目で戦況を見に歩を進めた。

 

 

 ゴブリンは肉体強化しているので、1対1の白兵戦ではヘキサリネ兵を押しており、そのうえ数でも圧倒的に上回るので、ヘキサリネ兵はたまらず後退していく。しかし後方に石壁の建物があり、そこに後衛兵士が詰めているようで、激しい支援攻撃をしてゴブリンの前進を鈍らせていた。ゴブリンも苛烈な弾幕の中に入って行くのを躊躇っていた。

 

「ガアアアア! ギゲエーー!」

 

 それでもゴブリン・ロードは、正面突破をけしかけた。

 このロードはまるでだめだ。戦術センスがまったくない。

 

「突撃命令しかできない低級ロードめ」

 

 ガイアスは闇雲に突撃をさせようとするゴブリン・ロードを鞭を使って静止した。

 

「この階級の魔物を肉体だけじゃなくて、頭も強化する魔法ってのはないもんかねえ。どきな、おバカさん!」 

 

 ガイアスは杖を掲げた。魔法陣が空中に浮かぶ。

 ロードとゴブリンの集団が、杖の向く先を避けるように左右に分かれた。

 

「土の精霊よ。崩れし山肌が全てを押し潰し押し流すがごとき岩の雪崩、今ここに現れん。それをもってあの建物を破壊し給え」

 

 杖を振りかぶると魔法陣を建物へ投げるかのように振り下ろした。魔法陣の先に大岩が現れ、建物に向かって飛ぶ。途中でグシャッと潰れると、崩壊して土石流となって建物を襲った。石を積み上げた土台の石垣が崩れ、もろとも石壁も崩壊した。中にいた兵士達は土石流に押し流された。

 

「僕の手を煩わせるなんて、あとでお仕置きだよ。さあ障害は片付けた。攻撃を続けな!」

 

 ロードは「ゲ、ゲェ!?」と一瞬怯んだあと、「ギゲエーー!」と再び吠えて配下に命令した。

 障害のなくなったゴブリンの群れは奇声を上げて再び突撃を開始した。

 後衛の兵士がいた建物跡を踏み越え、さらに奥の建物へ逃げた兵士を追って、大量のゴブリンが洪水のように突き進んでいく。

 ガイアスはその様子に、口が裂けたかのように笑い始めた。

 

「ふひひひひ! 法力を持つ人間の力はこの程度なのかい? 所詮人間なんてその程度の生物。やっぱりこの世界は魔族こそが頂点に立つべきなんだよ。早く引きずり落してあげないとだね」

 

 高笑いする男の顔の横で、キラキラと幾つもの星屑が瞬くように光って集まり始めた。

 

「ん? 光の精霊魔術? 魔素通話か」

 

 この戦域通話魔法は、中位精霊に呼びかけられないと発現できない。ガイアスの技量ではまだできなかった。

 

「腐っても前大戦の生き残りってことね」

 

 ガイアスは渋りながらも光の粒の集まりに魔力を向ける。光精霊が魔力を受け取り、魔素通話回廊と同調させた。

 腹立たしいが、アデマールは中位精霊に呼びかけられるのだ。だてに歳を食ってるわけではないということだ。

 

師団長(ケントゥリオ)ガイアス?』

 

 縦長の楕円形状に集まった光の粒の中から、声が聞こえてきた。

 

師団長(ケントゥリオ)アデマールかい?」

 

『そちらの具合はどうであるか?』

 

「へっ、順調に決まってんじゃん。ヘキサリネ軍の最前線基地にゴブリン集団を踏み込ませたところさ。強化魔法をかけたゴブリンに連中は大して抵抗もできないでいる。この勢いなら僕は見てるだけで、魔物だけで1日もかからずに制圧し終えるよ」

 

『敵はどの程度の兵力だったか?』

 

「ワイバーンの上空偵察と、中から観測したところによれば、300人強。それに大型恐竜を使った戦獣部隊が20頭ほどといったところかねえ」

 

『ふうむ……。逆に言えば、たったそれだけの兵力で、我々の計画の魔物強化行程が遅延を起こすほどの妨害をしていたということか』

 

 ガイアスはむっとなって口を尖らせた。

 

「そ、それは、転送した魔物強化が終わった今時点では、もはやどうでもいいことじゃないか」

 

 この場でもまだちくちくと嫌味を続けるか、この老いぼれめ。

 

 ガイアスは奥歯を軋ませた。しかしアデマールは諭すように穏やかな口調で続けた。

 

師団長(ケントゥリオ)ガイアス。人間共は200年魔族との闘いから遠ざかっていて、どう戦うべきかを忘れているだけだ。全盛期は3倍の魔族軍をもってようやく力が拮抗した。決して油断はせぬよう』

 

「ひはははは。んじゃあ既に僕の戦力は、全盛期の法力人間共であっても太刀打ちできない数ってことだよ。強化が終わった魔物の数は3千を超えているだよ」

 

 つまり10倍もの数の差があるということだ。

 

『この短期間にその数を成し遂げたそなたの手腕には驚かされる、師団長(ケントゥリオ)ガイアス。それでも油断はせぬことだ。』

 

「ふん。それでAAランクの魔物まで呼び寄せて備えるってか? 敵の10倍の数。それにAAランク。過剰戦力もいいとこでしょ。少々臆病が過ぎるんじゃない? 師団長(ケントゥリオ)アデマール。他の戦域から苦情が出るよ」

 

『……そなたの言う通りとは思う。だが我が一族は12年前に、1万の軍勢を“一瞬で”失った場にいたのだ』

 

 ガイアスは横の地面に唾を吐いた。

 

「その法力を持つ者は始末されたと聞いてるよ。心配無用でしょ」

 

『……』

 

「拠点攻略に集中したいから、これで」

 

『邪魔をした。もし何か変化があればすぐ狼煙(フィアマブルー)を打ち上げて連絡してくれ。AAランクはまだだが、こちらにも予備兵力がある』

 

「心配いらないよ」

 

『それと、万が一が発生したときは、レジストラジオネ・ロッサの打ち上げを忘れなきよう。ヘキサリネは魔素が少なすぎて遠方には届かぬであろうが、レジストラジオネ・ロッサの回収の望みはある』

 

 ガイアスは怒りで顔を赤くしたが、なんとか抑え込んだ。

 

「そんなことありえないんだけど」

 

 指をパチンの鳴らすと、楕円形の光の粒が四散し、通話も切れた。

 

「ばかたれ、あほの老いぼれくそじじいが! 僕がそんな事になるわけないだろ!」

 

 通話を終えて怒りに任せて地面をけ飛ばすと、直径1m程の大穴を開けた。飛んでいった土砂を浴びたゴブリンが目をぱちくりさせる。

 ゴブリンの波は建物群に群がり、乗り越えていった。

 

 

 

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