異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第13話「サーベルタイガーの頭が欲しいそうです」

 

 マヤ達が起こした喧噪と入れ替わるようにハンターギルドに入ってきたのは、3人の若い探検者《エクスプローラー》だった。

 

 いずれも二十歳前後といったところで、軽装ではあるが、剣は良いものを持っていた。一人は槍持ちである。3人共細身だが、よく鍛えられた身体をしていた。服のデザインからして北の隣国、ワリナ王国の者のようである。

 

 マヤのハンター登録をやった直後だったので、マスターはまだ1階におり、3人が入ってきた直後からマスターは目で追っていた。ただならぬオーラのようなものを感じ取ったからだ。

 

『こいつら、できるな……』

 

 3人は入ってすぐのところで中の様子を一瞥すると、1人を依頼掲示板の方へ行くよう指図し、残る2人は喫茶のカウンターへ向かう。そして飲み物を注文すると、瓶のまま受け取り、立ったまま話を始めた。

 

 暫く話をしていたが、依頼掲示板に行っていた者が戻ってきて、その者も加えて少し会話をすると、受付カウンターの方へとやってきた。マスターはカウンターの奥へ下がり、窓口ではケイトが相変わらず新聞のようなものを読んでいた。

 

「姉さん、この辺の獲物は獣類が主流のようだが、魔物は出ないのか?」

 

 3人ともなかなかのイケメンなので、ケイトは新聞らしきものを放り投げると、愛想よく笑顔を振りまいて応対した。

 

「はぁい。ヘキサリネで大きい魔物が出るのはほぼ西の森林地帯だけで、他で獲れるのは基本的に獣類、たまに魔物が出ても小物だけですよぉ」

「ほう。それで今獲れる獣類で一番デカいのはなんだ?」

「マンモスかエラスモテリウムですかねー。だんだん気温が上がってきてるので、マンモスは標高の高い方へどんどん移動してますから、これからはエラスモテリウムとかブロントテリウム。もっと温かくなればアパトサウルスが出てきますよぉー」

「どれも草食ですね」

「ん-、大きさだけで言ったら草食の奴らの方がでけえからなあ」

「俺は大きさより強さの方が迫力あると思うんですが。肉食獣類にしませんか?」

「だけど依頼掲示板には出てなかったんだろ? 狼とかじゃつまんねえし……って、おおお!?」

 

 真ん中のリーダーと思われる男が、買取カウンターの後ろに置いてあるサーベルタイガーの頭蓋骨に気付いた。

 だだだっと買取カウンターに駆け寄ると、カウンター越しに乗り出して、頭蓋骨を指さした。

 

「ちょっとそれ見せてくれ!」

 

 言われて買取係が重そうに頭の骨を持ち上げた。カウンターの上にでんと置かれた、抱えきれな大きさのサーベルタイガーの頭に、リーダー格の男は歓喜に目を大きくした。

 

「これ、虎の類だよな!? こんなでけえのがいるのか! こりゃあすげえ」

 

 上から見たり、しゃがんだり、特にその長くて凶暴な牙に感心する。

 

「毛皮はねえの?」

 

 投げられた質問に買取係のおっちゃんは肩をすくめる。

 

「持ち込まれたのはこれだけです」

「そうかあ。でもこの牙に残ってる焦げ跡からすると、火を使って仕留めたんだろう。毛皮は残らなかったかもなあ」

 

 斜め下から見上げながら、惜しそうに言った。

 

「これ、いくら?」

「は、はい。え、えーと、少々お待ちを」

 

 買取カウンターのおっちゃんは中へ引っ込んだ。そしてギルドマスターを連れて戻ってきた。

 

「ここの責任者ジオニダスだ。サーベルタイガーの頭骨を買いたいって?」

 

 リーダー格の男は、強面(こわもて)のマスターを見ても全く動じず、態度にも変化はなかった。

 

「うん。こりゃあすげえ。この辺、こんなのがうじゃうじゃいるのか?」

「いたら狩るか?」

「狩りてえ。どこら辺にいるんだ?」

 

 狩りの自信はあるようだ。まあ漏れ出てくるオーラからしてAランクは固いだろうとマスターは思った。

 

「残念だが、サーベルタイガーの分布はさっぱりわかってない。これは偶然捕まえらえたんだ」

「そうか。ふーんそりゃ残念だ。しかしそんな希少種を偶然見つけた時に、逃さず捕まえるとは、さぞ腕のいいハンターだったんだな」

「うむ。そいうことでだ。で、それだけ希少な頭というわけだ。ハンパな値段ではないぞ?」

「ていうと……大金貨10枚くらいか?」

「はっ、話になんねえ! 特金貨20枚は持ってきな!」

「特金貨20枚!? そりゃあちょっとふっかけ過ぎだろ!」

 

 大金貨は大取引用の楕円形の大判金貨で、日本円換算で30万円くらい。特金貨は大金貨が分厚く、かつ金の純度が上がったもので、金庫に蓄えておくようなものだった。50万円くらいの感覚だ。

 

「希少商品だぞ? 過去の取引を調べたが、前にサーベルタイガーを扱ったのは10年前だ。その時のだって、これより2回りも小さかった。10年後また来るか?」

「ぐぬぬぬ……。それじゃ大金貨20枚!」

「帰ってくれ。だいいち、払えるのか?」

 

 むうっとしかめっ面をして唸ったその男は、首からタグを取り出し、バンッとカウンターに置いた。拾い上げてそれを見るマスター。

 

 レオナルド・オヴ・ワリナ 

 冒険者ハンター ランクS

 登録国 ワリナ王国

 

「Sランクハンター!? レ、レオナルド・オヴ・ワリナ!!?」

 

 ガタガタッと一部始終を見守っていた1階にいたハンター達が、慌てて後ずさったり、立ち上がったりした。そして片膝を付き頭を下げたり、何をしていいか分からず固まっている者もいる。

 その様子に後ろを振り返ったレオナルドは苦笑した。

 

「ああ、皆気にしないで普通にしてくれ。俺は今、一介の冒険者、いやここでは探検者(エクスプローラー)って言うんだったな。それで来てるんだ」

 

 それは北の隣国、ワリナ王国の次期当主、いわば王太子であった。

 しかし王太子という肩書を取ったとしても、国に10名いるかどうかのSランクハンターである。それだけでもここにいる者には頭を下げたくなるに十分だった。

 ギルドマスターも1歩下がって頭を下げる。

 

「隣国のプリンスとは、失礼した」

「あんたもいいって」

「では同じハンターとして交渉を続けよう。金銭面の心配はないことは分かった。しかしだからと言って値引きはないぞ?」

「むしろ釣り上げるか?」

 

 ニヤッと口角を上げるレオナルド。

 

「一度出した値を変動させる理由にはならない」

「それでこそハンターギルドだ。んじゃ……特金貨15枚! 即決!」

「特金貨18枚! これ以上びた一文譲れん」

 

 考え込むレオナルド。そしてため息をついた。

 

「ハンドシェイクだ」

 

 ギルドマスターとレオナルドは握手した。

 特金貨18枚でサーベルタイガーの頭が売れたのだ。おおーっと歓声が上がる。

 

「といっても、そんな大金懐に入れて持ち歩いてるわけねーから、夕方までにもう一度来る。その頭、梱包しといてくれ。さっきみたいにカウンター覗いたら見えるなんてことねーよーにしとけよ? 金に糸目をつけねー奴はいるからな。追跡されてまた交渉するハメになるのは御免だ」

「分かった。梱包して目のつかないところへ移しておく」

「あ、あのー、領都ハンターギルドのケイトでーす。商品を取り置きますので、手付金と、今日中にお支払いいただく旨、一筆覚書をいただきたいのですがー?」

 

 ニコニコニコと紙とペンを持ってケイトが横から出てきた。

 レオナルドはペンをスカッと取ると、さらさらと今日中に払うと書いて、ハンタータグの写しを紙に取り、バムッと覚書の上に大金貨を1枚置いた。

 

「ありがとうございまーす。ケイトが預かりましたー」

 

 ケイトは一生懸命顔を売りこもうとしているが、レオナルドは全然眼中にない感じ。

 

「おい、いったん館に戻って金準備するぞ」

「「うぃっす!」」

 

 出ていこうとする3人にケイトは先回りして軋むドアをギコーッと開けた。

 

「では後ほど、ケイトがお待ちしてまーす」

 

 つかつかと速足で出ていくレオナルドとお付き人。槍持ちの人だけがちらりとケイトに目をやった。ケイトは逃さず満面の笑みをたたえて会釈する。槍持ちの人はちょっと顔を赤らめて足を速めていった。

 

「かわいい! あの人ぜったいウブな子よ!」

 

 後ろからスコーンとケイトの脳天にチョップが入った。背後にマスターが立っていた。

 

「王子の付き人ならおそらく爵位持ちだろう。平民のお前に縁はあり得ん」

「痛いじゃないですか! なんの、側妻(そばめ)(めかけ)、取りつく方法はいろいろあります。マスターなんか顎で使ってやりますから、後で吠え面かくといいんです」

「お前、特Sクラスのハンター並みに心臓に剛毛が生えてるな」

 

 2回目の騒動が終わり、時間は昼飯時。

 

 やれやれと疲れた顔のマスターは、外に食べに行くのはやめて、1階の喫茶カウンターに食事の注文をしに行った。ケイトは朝買って持参したパンを食べる準備をする。買取カウンターのおっちゃんは、「うちのカアちゃんが作った煮物だが食うか?」と皿を差し出した。

 数人のハンターがギィーとドアを開けて入ってきた。町から出てないハンターではここで昼飯を取る者もいる。ギルド登録者は1割引きの恩恵があるからだが、あくまでここにある店は軽食喫茶なので、体を動かすのが仕事のハンターには物足りないだろう。案の定、入ってきたうちの1人は依頼掲示板の方へと直行した。しなやかそうな身体をした細身の十代であろう女性だった。他の者は喫茶へ来る。

 マスターは、ここにいては客が気まずかろうと、喫茶のマスターに「できたら持ってきてくれ」と告げて、受付の後ろへと引っ込もうとした。

 そこへドアをバーンと勢い良く開けて、今度は騎士のようなのが数人が入ってきた。

 マスターは、ああやって開けるからドアが歪んで軋むんだと、心で悪態をついた。

 

 

 

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