異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~   作:RightWorld

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第139話「ガイアスの想定を超えた護衛侍女とUMAがやらかし始めました」

 

 ガイアスは基地中心にある大木に向かった冒険者を、ちょっとばかし相手してやろうと思った。

 

 少数の人数である。おそらく絶え間なくやってくる魔物に不安を抱いて、どれだけ増援が来るのかを目視確認したいのだろう。

 ならば見るがいい。切れ目なくやって来る魔物兵団を見て、絶望するといい。

 恐怖で歪んだ顔を拝ませてくれるんだよね? そうしたら殺してあげるよ。

 

 

 馬に乗った冒険者が巨木まで辿り着いた。

 そのうち来る奴もいるだろうと、木にはタイガー・スパイダーを置いてある。はたして何人展望台まで上がれるかねえ?

 

 ガイアスは久しぶりにわくわくした。

 

 しかし残念ながら、冒険者はスパイダーを退けて、全員が展望台まで到達したようであった。せめて何人かは死んでくれてもいいのに。

 いや、残念ってことはないか。せっかくなのだから、我が魔物兵団を見ていってもらわなきゃ。そしてヘキサリネ軍全体に、自分達が風前の灯火であることを伝えてもらわないとね。

 

 ガイアスのところからも大木のてっぺんにある展望台は良く見えた。そこまで数人が駆け上がってきて、手すりに駆け寄り、周囲を展望する姿が見えた。

 

「どうだい? 最後に見た景色は。素晴らしかったかい? 絶望できたかな?」

 

 展望している中に子供のようなのが2人いた。

 人間は子供まで戦場に駆り出しているのか?

 その子供の1人が己の方を指差したように見えた。

 

「まあいいさ。もう十分見たよね」

 

 ガイアスは杖を上げた。魔法陣を展開する。

 

「土の精霊よ。我の指す先に土を集め固めよ。土は重なりて団塊となり、団塊はさらに集まり圧縮して岩となる。もっと、もっと大きな岩を我は欲す」

 

 土の塊が次々と生成され、展望台の上に向かって飛んで行く。それがくっつき岩の塊が出来上がっていった。

 

「土の精霊よ、岩を大地へと返したまえ。今、掴みし手を放さん!」

 

 大きく成長した岩が落下した。

 展望台にドシャっと落ちて、崩れていくのが見える。人間達は岩が落ちる前に辛くも展望台から脱出した。崩れていく通路を綱渡りのように駆け下りていく。

 

「ひいっひっひひ! なかなかにしぶといねえ! だがそうじゃなくちゃ、そこで見た絶望の景色を仲間に伝えることができないからねえ。まあ安心しなよ。伝え終えたらすぐに逝かせてやるから!」

 

 オーク・ジェネラルが大木の方に40体程のオーク兵の集団を向かわせていた。ちょうど展望台から降りたところで袋叩きできるタイミングとなりそうだ。

 

「いいぞ、いいぞ! もっと恐怖を味あわせてやれ!」

 

 

 展望台から降りてきた者達がオークに惨殺されるのを楽しみにして目で追っていると、信じられないことが起きた。

 

 破裂鉄球とは別のものが巨木の下からオークへ向けて発射され、走っていたオーク達が次々ともがき苦しんで倒れていったのだ。

 同じようなのがゴブリン集団にも飛んでいき、こちらは破裂鉄球と同じことが起きた。

 ワイバーンが自律行動で発射地点を攻撃しようとしたが、法力攻撃で負傷してしまった。

 

「お、お、おのれええぇぇ!」

 

 テーブルを押し倒して立ち上がる。ワインの瓶が地面に落ちて割れた。

 ゴブリン・ロードとオーク・ジェネラルがいるところへ駆けていき、上空で周回していた偵察コウモリ(リコニチオーネバット)を呼び寄せる。

 

「現有兵力を再確認する。一旦攻撃を中止! お前達、もう一度陣形を整え直しな!」

 

 これでは無能なロードや、ライブラリの自律行動に任せていられないかもしれない。

 偵察コウモリ(リコニチオーネバット)の見た映像を確認していく。

 

 南門側の兵力は…………全滅!?

 基地内に入ったゴブリン兵は壊滅状態か?

 

 ガイアスの顔に冷や汗が流れる。

 

 いやいや。数で見れば半減かもしれないが、これからぞくぞくやってくる魔物はゴブリンよりずっと上位ランクだ。実質戦力としてはまだ5分の1の損耗。挽回可能だ。

 

 偵察コウモリ(リコニチオーネバット)の映像共有でヘキサリネ軍の陣容を再確認していると、ふと、北門から魔物集団がぱたりと入って来なくなっていることに気が付いた。

 

「?」

 

 北門の方に振り返る。

 

 いない。

 

 ゴブリン集団とオーク集団、サンダーウルフ集団は、それぞれ出発に時間差はあるが、途切れることはなく五月雨で来るはずである。

 オークはさっき40頭をやられたが、順次追加が到着中だった。だがオーク、サンダーウルフともまだそれぞれ50頭ほどしかいない。

 

「どういうこと?」

 

 ガイアスは偵察コウモリ(リコニチオーネバット)を1匹、北門の外へ飛ばした。

 

 しかしいつまで経っても帰ってこない。

 苛立ったガイアスは立ち上がり、北門の方へ向かった。

 

 

 北門を出ると、何百匹もの魔物が踏みしめたことで、ガイアスが来た時とは比べ物にならないくらい広い道が、谷の方に向かってできあがっている。しかしそれが廃墟の町の大通りのように、不気味に閑散としている。

 

 そして50mほど歩いた時、道の先に見えた情景に足が止まってしまった。

 

 累々と魔物の死体が折り重なっていた。そして倒れている全ての魔物が、すさまじく苦悶した顔をしている。

 

「何だこれ!?」

 

 近付こうとして、ガイアスは足を止めた。

 ガイアスの頭に、大木に向かったオーク集団が喉を掻きむしりながらばたばたと倒れていった映像がよぎった。

 

 毒? まさかこれは毒なんじゃ!? 毒が散布された!?

 

「どうやって!」

 

 毒といえばヘキサリネの隣のミリヤ皇国が毒生産を誇っている。もしかするとその毒をヘキサリネ軍は輸入していたのかもしれない。それをカタパルトかなにかで投射した?

 そのために展望台に登ったのか?

 魔物集団がやってくる方向を確認するために。

 

 ガイアスに怒りが込み上げた。

 

「僕が強化して作った魔物が、戦う前にこのように殺されるだって……?」

 

 あり得ない。

 あってはならない。

 あったとすれば許せない。

 

 ガイアスは周囲の大気を“診た”。

 

「ようやく成ったようじゃん」

 

 念の為、杖を振って魔法陣を出す。短く呪文を唱えると、目の前に魔素濃度が棒グラフのように伸びた。 

 

「濃度4」

 

 ガイアスは怒りを湛えつつも、口の端を持ち上げて笑った。

 

「ワイバーンのブレスが使える濃度に達したじゃん!」

 

 杖を持ち上げ、信号弾となる魔法を低空に放った。

 それは予め決めてあったワイバーンへの命令だった。

 

「ワイバーン達よ、ブレス攻撃を解禁だ! もう林の中に隠れていても無駄だよ! 林ごとヘキサリネ軍を燃やしてしまええぇー!」

 

 1頭のワイバーンが1基のカタパルトに向かってブレスを吐いた。

 カタパルトを据え付けていた砲台が丸ごと火炎に包まれ、カタパルトが松明のように燃え上がる。下の方で爆発が起こり、カタパルトがガラガラと崩れていった。

 

 基地中のヘキサリネ兵が、オレンジ色に包まれた砲台とカタパルトの終末を見て固唾を飲んだ。ワイバーンのブレス攻撃の凄まじさに改めて恐怖する。

 飛び回るワイバーン。

 あれが次々に火を吐いてくるのだ。基地の全部が業火で焼け落ちる様がはっきりと想像できた。

 

「ひゃははへははは! さあワイバーンよ、燃やせ燃やせえええぇぇー!」

 

 だがその命令を下した直後、空じゅうがキラキラと光りだした。

 東の方から激しく光る壁のようなのが西へ向かって移動している。

 そしてガイアスの目には、壁の内側に、壁に押されるように動くものも見えていた。

 

「魔素が……魔素が、流されている……?」

 

 魔族の目は、魔素を捉えることがことができるのだ。

 魔素の動きが確認できた時、ガイアスは真っ青になった。

 

 魔素は単に風に流されているとかではない。急速に縮んでいく風船のように集まっていくのだ。一点に。

 

 ガイアスは集まっていく方向へ目を凝らした。杖を振って魔法陣を出し、短く遠見の呪文を唱える。眼前にレンズのようなものが浮かぶ。ガイアスはそのレンズを通してその一点を覗く。

 

 そこはヘキサリネ軍陣地、戦獣の後ろの方だった。そこに魔素がどんどんと集まって球のようになっている。球の色はほぼ黒だ。あれが魔素だとすれば、その濃度は如何程か。どれだけ集めればあの色になるのか。

 

「ま、まさか、この一帯の魔素が全て!?」

 

 はっとなって上空を見た。

 

 空を飛んでいたワイバーン。それが全て、地上に向かって落下を始めていた。

 周回していた偵察コウモリ(リコニチオーネバット)も枯れ葉のように落ちていく。

 

「ええっ、もう飛べないほどに!?」

 

 ついさっき濃度4であるのを確認したばかりではないか。ワイバーンは濃度2以上の魔素があれば飛べる。

 

「あれから数分で濃度2未満になったっていうの!? いったいどうやればそんなことが!」

 

 魔法を使って浮力を得ていたワイバーンは、魔素がなくなったことで精霊が飛行魔法を起こすことができず、いきなり空中に置かれた重たいトカゲとなっていた。

 

 ワイバーンが地面にたたきつけられ、ドドドーンとあちこちで地面を揺るがした。

 

「く、くっそおぉー! 火の精霊よ、ここに炎を集めて……」

 

 だが精霊が応えない。いやいない。精霊がいない!

 眼の前を風の精霊がつぅ~っと横切った。

 

「か、風の精霊よ!」

 

 だが風の精霊は一目散に遠ざかっていった。精霊が恐れをなして逃げているのだ。

 

「ち、ちょっと、逃げんなよおおぉー!」

 

 

 

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