異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
「
重装甲獣列の後ろのスペースに広げた固体酸素の器の上で、一帯から回収した魔素と、酸素を強制結合した。フラッシュのように輝く魔素球の下に、ざあざあと魔石の結晶粉が降ってくる。
そして空中の輝きが収まると魔素球はなくなり、固体酸素の器の中には、膨大な量の魔石結晶粉が降り積もっていた。運ぶには大型ダンプカーが必要だろう。
「蓋をかぶせて密封」
周囲にいた
「今の魔石か!?」
「魔石の粉だよな!? いったいどうやって!」
「あの量の魔石って、いったいいくらに……」
注がれるUMAを見る目。
あるいは驚愕、羨望、畏怖の目。
マヤが突き刺さる視線にビビる。
「ひっ! あ、あげないよ、魔石頂戴っていっても、これはあげないからね! 固体酸素コンテナ収納!」
ひゅんと一瞬で消える魔石粉が入った固体酸素のコンテナ。
「ああ、宝の山が!」
「おい、あれ全部マヤさんが独り占めか!?」
「一生遊んで暮らせるんじゃねえか!?」
「「「「一生ついていきます!」」」」
「知らないから! 奢らないからね! つけ回してもダメだからね!」
一方、 装甲獣がいる方でヘキサリネ兵が大声を上げている。
「魔物どもの動きがおかしくなったぞ!」
「ワイバーンも地上に落ちてくる。今ならやれるぞ、切り伏せろ!」
「重装甲獣、前へ! 踏み散らせ!」
バキバギバキと枝をへし折って1頭のワイバーンが近くに墜落した。
ユスティニアス中隊長が笑みに怒りを滲ませて、そのワイバーンに近寄った。
「今までさんざんやってくれたなぁ。とりあえず、俺の怒りのぶつけ先になってもらうぞ」
動きの鈍くなっているワイバーンに手を触れた。
「熱源生成!」
ワイバーンの表情が固まった。目が白く濁る。グラグラと煮えるような音がして、頭がボコボコと膨れる。そしてパァーンと内側から破裂した
ヘキサリネ兵の反撃が始まった。
「いったいなんだよこれ!? どうして魔素がなくなるんだよ!」
ガイアスの目は魔素が集められた一点に集中していた。
そこには小さな女。さっき展望台にいた子供の1人のようである。あの女児が何かをしたのだ。
「……おのれえ」
だが魔素がない。魔素がなければ魔法が使えない。精霊が事象を発現できない。魔力をつぎ込めば下位精霊の中でも上位のものは詠唱に応えるだろう。だが魔素がない。
「かくなる上は」
ガイアスは杖に魔力を流す。杖は魔力を増幅する。魔力に惹き寄せられて上位の精霊が少し戻ってきた。
さらに杖には魔素が貯蔵されている。これは前大戦で生き残った宮廷魔導師が作った仕掛けで、魔力増幅術式と一体になって仕込まれていて取り外せない。魔力増幅術式が優秀な為そのまま量産され、多くの杖で使われているが、現世の魔導師は使いみちのないこの部分を邪魔物扱いしていた。
「それがまさか、こんなところで役に立とうとはね」
寄ってきた精霊が、杖から出てくる魔素で杖の先に刃を形作った。
ガイアスはその刃を、落ちて横たわるワイバーンの腹に突き立てた。
ワイバーンが悲鳴を上げる。
刃を何度か
ワイバーンは息絶えた。
そして杖が保持している魔素を使って魔法陣を発生させた。
「火の上位の精霊よ、我に応えよ。我の魔力を捧げん。魔力が欲しければ応えよ」
杖で増幅されたガイアスの出す魔力にそそられて、下級精霊の中でも少し上位になる精霊が興味を示した。
「我に応えた精霊よ、我の魔力を捧げん。必要なだけ持っていくがいい」
精霊は欲しいだけ、ガイアスの魔力を急激に吸い出していく。
「ぐうぅぅ!」
視界が狭ばり、意識が、視界が白くなる。ガイアスが萎む。
魔法陣に魔力が蓄えられると、ガイアスから吸い出される魔力が止まった。もういくらも残っていまい。
「はあ、はあ、このワイバーンの魔石を供物として火の精霊に捧げる。我は地上に太陽を欲す!」
ガイアスの詠唱に応えた少し上位になる下級精霊が魔石を分解して魔素を取出し、その事象を具現化していく。
火の玉が杖の先に発生する。
「この魔石をすべて使え!」
「魔族はあそこだ!」
イレムが指差した先に、火の玉が現れた。どんどんとそれは成長していく。
「なんで魔素を掃除したのに、魔法が起こってるの!?」
マヤの疑問はもっともである。そこにリエラが魔族の足元を指で指し示して叫んだ。
「見てマヤさん! あの魔法使いの足元にある魔石、あそこから紫のモヤが出てる!」
「あの魔石は横に倒れているワイバーンから取り出したものです!」
近くにいた
見ればリエラの指摘通りの事が起きていた。
マヤは感付いた。
「魔石は魔素と酸素が結合したもの。還元すれば魔素が取り出せる。そうやって魔素を作って魔法を起こそうとしてるんだ!」
「火焔球を撃ってきます!」
火の玉はまだまだ大きくなる。
周りの皆は唖然として固まって動けないでいた。
逃げても無駄な大きさ。太陽が地上に降りたようだ。
「そ、それ撃ちます!? こっちに向けて、撃ちます!? 本当に撃ってくる気!?」
マヤの身体が水色の光に包まれた。刹那。
ドムッ!
直径3mはある巨大な火の玉がこっちへ飛んできた。
そこにいたみんなが息を飲んだ。水色に輝くマヤを除いて。
「
マヤが両手を突き出した所に水色の固体酸素の壁が出現し、それが甲高い音を立てて超短周期振動した。
「押し返せーっ!」
固体酸素の壁が火の玉へ向けて飛んだ。
固体酸素の壁は火の玉にぶつかると、触れたところから激しく発光し、下にざあーっと魔石粉を作りながら火の玉を壊しつつ突き進む。火の玉を全て粉にすると、密度の薄まった固体酸素は気体となり、そのまま魔法使いに向かって行く。
「なんだ、ファイヤーボールが消え!? ええ何かヘンな壁がこっちに、う、うわあああぁぁーーー!」
ズドン!!
女に向けていた杖が激しく光り、先端から砕け、粉になっていく。
ささくれ立った空気の壁が、ガイアスの全身に命中した。空圧が全身を圧迫し、纏っていたローブも一瞬で光り、砂のようになって吹き飛んでいく。
空気の壁はガイアスの全身を洗い流し、その勢いを保ったまま突き抜け、ガイアスの後ろの魔物達へも同じように襲った。
ガイアスは意識を失った。
最初みんなは唖然としていた。
静寂を破ったのはイレムだった。
「ゴブリンが痩せちまってないか?」
「え?」
マヤが飛ばした水色の壁に包まれ吹き飛ばされた魔物達。あれほど筋骨隆々で逞しかった魔物達が、貧乏くさいひょろひょろのみすぼらしい姿に変わっていた。
我に返ったユスティニアス中隊長が命令を下した。
「残りの魔物を撃退しろ! 重装甲獣を先頭に突撃!」
わあああぁぁぁー!!
掛け声とともにヘキサリネ兵が土塁から飛び出した。
もやしのようになったゴブリンは、重装甲獣の尻尾のひと振りで20匹くらいがなぎ払われた。
「こいつらはヘキサリネにいるゴブリンじゃなさそうです!」
尾の一撃でひしゃげたゴブリンを見て竜使いが言った。
撃ち漏れたゴブリンを剣で一刀両断したり、柄でぶん殴ったりしつつ、兵士達も同意した。
「そうだな。ヘキサリネのゴブリンはこんなふうにポキポキ折れたりはしない!」
「ヘキサリネは魔素が薄いから、魔物も魔素に頼らず普通の動物同様に体を鍛えないと生きていけないからな。こいつらは魔素のたっぷりあるところで育ったもやし野郎だ!」
「肉体強化魔法で身体能力を補っていたんだろうよ! ヘキサリネ以外でよく見る、初心者
ゴブリンがやたらと筋骨隆々だったのは、こういう仕掛けだったのだ。強化された肉体は魔素で作られていたので、マヤの強制酸素反応促進によって、盛られていた体はすべて魔石粉になってはがれてしまった。
「左前方11時方向にゴブリン・ロード!」
それは数の少なくなったゴブリン溜りにいた。こちらも背が高いだけのなんだか頼りない姿になっている。
竜使いは装甲獣をゴブリン・ロードに向け走らせる。
ゴブリン・ロードは斧のような武器をこちらに向けて何か叫んでいるが、周りのゴブリンは我れ先にと散っていく。一匹のみ取り残されたロードは、トリケラトプスの角で跳ね上げられ、空中高く放り投げられた。
ぐしゃっと変な音を立てて地上に落下すると、強化魔法の解けたゴブリン・ロードは気持ち悪い程に変な形に折れ曲がっていた。
マヤの酸素の壁に当たらなかったオーク・ジェネラルと周囲のオーク兵、それとサンダーウルフの群れは、まだ若干戦意が残っていた。
こちらにはマスター率いる
「あのジェネラルはなかなか手応えありそうだ。マスター、あいつは俺にやらせてくれ」
「待て。あの仰々しい大剣は単なる剣じゃないぞ」
オーク兵達がジェネラルに、行け、行けと言うように奇声を上げてはやし立てる。オーク・ジェネラルは任せろとばかりにその大剣を構え、距離があるにもかかわらず、大きく咆哮しながら横凪に振るった。
ジオニダスはこの距離でも届く攻撃ができるのだと瞬時に見破り、
「遠距離攻撃に注意! あの剣はおそらく魔導具の一種だ!」
マスターの警告に、
……しかし何も起こらなかった。
身構えたまま固まる
しかし最も困惑していたのはオーク・ジェネラルの方だった。もう一度構え直し、叫びながら大剣を振るった。だがやはり、遠くで大き目の剣を振るったのと変わらず何も起こらなかった。
それはかなりの異常事態だったようで、オーク・ジェネラルだけでなく、その周囲のオーク兵達も大いに動揺し、後ずさりしだした。
「なにそれ、魔法剣? ざんねーん、魔素は取っ払っちゃったのよ。魔法は起きないわ」
身をひそめる
実はこの剣、マヤが見立てたように魔法剣で、風の刃を放つ魔剣だった。
やって来るマヤに向けて、サンダーウルフが雷を撃とうとする。が、こちらも何も起こることなく、傍からはでかい狼が吠えているだけというふうである。サンダーウルフの雷も魔法である。
「なーに? あなた達もわたしに魔法を放とうというの? いーの? そんなことしていーの?」
いつもは自信なさげに陰に隠れているのに、魔物に向かってマヤ自ら向かっていくという事態に、レオやリエラも困惑する。
「あいつ雰囲気変わってねえか?」
「私、あの水色の靄が気になるんだけど。これってデストロイモードのスイッチ入っちゃってるよね?」
ジェネラルを含め、オークとサンダーウルフ達が、危険を察知して散りぢりになって逃げ出した。
「
マヤが右手を突き出した先の空間が、巨大で青く四角い氷で埋め尽くされた。オークとサンダーウルフ合計約100頭が散らばって逃げたが、散ったところでどうしようもないくらいの範囲が固体酸素で覆われている。
「
右手が下から上へ斜めに振り抜かれた。その延長線上の固体酸素にピッと線が入り、やがてずずずっとずれて上下に別れ、上側が中に閉じ込められた魔物もろともゴブリン溜りの方に滑り落ちた。
迫ってくる青い巨大な氷の塊から逃げようと、重装甲獣やヘキサリネ兵が大慌てで走っている。
あっけにとられて固まっている30頭ほどの痩せこけたゴブリンは、いとも簡単にくしゃっと固体酸素の氷に潰されてしまった。
「まーだわたしに魔法向けようとするヒトいるのかなぁ?」
「マ、マヤさん、ヘキサリネ兵が氷から逃げ回っているわよ! 氷しまって!」
リエラに揺さぶられて我に返ったマヤが、はわっと叫んだ。
氷に当たらずに済んだ兵士が震えながら注ぐUMAを見る目線に、マヤは次第にあわあわしだす。震えは寒さからくるものだけではなさそうだ。
「こ、固体酸素、回収」
しゅんっと青い氷だけが消える。そしてコチコチに凍った、寸断された魔物だけが残った。
「あ、あと、お願いしまーす!」
ぴゅーっと林の中へ逃げていくマヤ。
大喜びなのは
「デストロイ現象だ!」
「デストロイ法力が炸裂した!」
「
「「「一生ついていきます!」」」
「いやあああぁぁぁぁ…………」
逃げていくマヤの悲鳴がフェードアウトしていった。
<1日目途中経過スコア(対ガイアス戦終了時点)>
・デッカー(Aランクプラス)
オーク・ソルジャー14頭+ワイバーン4頭(共同)。現在集計中。
・マヤ(Fランク アンリミテッド・パーティー 5階級差違反制裁中)
オーク・ソルジャー62頭。タイガー・スパイダー45匹。カメレオ・タイガー・スパイダー1匹。ワイバーン4頭(うち1頭共同)。オーク・ジェネラル1頭。オーク50頭。サンダーウルフ50頭。ゴブリン30頭。