異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~ 作:RightWorld
新しく張られたテントを前にして、ヴェルディ、ジオニダス、レオナルド、ケン、クーノが並んでいた。
そこにリエラとフィリアに連れられて、マヤがやってきた。
「ほら、ここには一般
「うん、うん」
先程戦場から逃亡したマヤを、リエラが連れ戻したのだ。妙な慰め方ではあったが。
マヤが来るのを待っていたレオナルドは、腰の魔素計を覗いた。
「魔素濃度はゼロだ」
リエラがマヤに確認の質問をする。
「魔法が使われることはないはず、よね?」
マヤは頷く。
「さっき魔法使いはワイバーンの魔石を取り出して、魔石を還元して魔素を作るってことしてましたけど、この辺りの魔石は、わたしが作ったのも含め片付けましたから、もう魔法は起こせないはず……です」
「それでも……」
ヴェルディは慎重に言った。
「想定外は起こるかもしれない。シールドを張れるクーノは一緒に中へ入ってくれるか? リエラの盾としてフィリアも中へ。ケンは外を見張ってくれ。なにか変なことが起きたらすぐ知らせてくれ」
「「了解しました」」
「盾、な、なりますとも盾」
ヴェルディはもう一度皆を見渡すと、親指でテントの中へ促した。
「それじゃあ行こう」
一行はテントの中に入った。
中にいたユスティニアス中隊長が顔を上げて入ってきた一団に目を向けた。
中隊長の前には、手足を縛られて椅子に縛り付けられた問題の魔法使いが座らされていた。頭から被っていたフード付きのローブは脱がされていて、青年……というかマヤには自分と同世代くらいの少年に見える顔立ちの男が、不貞腐れたような表情でいた。
そして何より、その人物が否が応にも自分たちと同じ人族でないことを目の当たりにし、マヤは背筋を凍らせた。
魔族の頭には、側頭部に沿って短いながらも太い角のようなものが、後頭部に向かって生えていたのだ。
◇◇◇
ガイアスは手足を縛られて椅子に縛り付けられ、ユスティニアスと名乗った軍人の男の尋問を受けていた。気を失った後、不名誉にもヘキサリネ軍に捕らえられたのだ。勿論何も喋ってはいない。
『チキショウ。下級上位の精霊に大盤振る舞いで魔力をあげちゃったから、魔力残量がほとんどないぞ。これ以上消耗すると本当にヤバイ。魔術は……身を削れば一発ぐらいできるかもしれない。でもそれは命に係わるから最後の手段だ。それも使ってどのようにここを切り抜けるか、だ。
しかしいったい何が起こったってんだ? 魔術を無効化する破魔法? いや精霊とは繋がっていたぜ? 精霊は魔法事象を発生させていた。途中で止めてもいない。なのに魔法事象を阻害されたんだ。下級精霊とはいえ上位だぞ? いったいどうやれば精霊の起こした事象を無効化できるんだ?』
尋問を受けていたテントにまた数人入ってきた。大きく厳つい男が2人。背の高い男2人。なかなかにそそられる若い女が2人。
『……この者達、見た覚えがある。侵攻に先駆けて、事前情報として目を通しとけっていってた資料にあった連中じゃね? だけどそんなのあり得ない。こんなことろにいるはずがねーし、揃っているってのも信じらんない。これって夢? 僕は夢を見てるのか?』
最後に子供の女が1人入ってきた。その女児を見た途端、全身が逆立った。
『魔素をかき集めていたガキだ!
そして、何かをこちらに向けて飛ばし、ファイヤーボールを見たこともない方法で消し去った者!
子供に見えるけど、もしかして長命種なのか? 見た目より年食ってるのかも。でもこの辺にはいないハズなんだけど』
ユスティニアスが入ってきた者達に向かって口を開いた。
「この者、全く口を割りません」
「そうだろうな」
「薬を出しましょうか? 口が軽くなる類のがいくつかありますが。前後関係がわからなくなるものや、あまりの苦痛に言いたくなるものとか」
えっ、何言っちゃってんのこいつ!? 僕が勝ったら、側に召し使えてもいいんじゃねって思わせるような若くていい女と思ってたのに、顔に似合わない恐ろしいことを咳止め薬でも出すかのように気軽に言いやがって!
「俺の前でよくそういう事を言えるな。お前のとこの大使館、調べた方がいい気がしてきた」
「我が国の商品を買ってもらいたいがためのデモンストレーション、プレゼンテーションと思っていただければ」
若い女はニコニコと笑顔を振りまいて、厳つい男に物騒な宣伝している。
『おい、僕を商品宣伝のデモやプレゼンの為に実験台にするっていうの!? なんていう悪魔に劣らぬ卑劣な所業!』
「まったく……。興味はあるが、今はしなくていい」
商品の斡旋を受けた大男はそれを断ると、椅子を引きずって僕の前に座った。
「ヘキサリネ領主、ヴェルディだ」
目が大きく開いてしまった。
『やはり! ということは周りの連中もそのまさか、なんてことないよね!?』
まさかの通りであるとすれば、恐ろしい薬を売る話をしたのが薬物先進国ミリヤ皇国の第一皇女マリエラ。そしてあの背の高い金髪の若い男がワリナ王国第一王子レオナルドということになる。
『どうしてこんな難しい関係の国の者が一同に集うなんてことが?
いやそれより、各国のトップの人間がなぜこんな最前線基地に?
僕が捕まったからすっ飛んできた……というには早過ぎる。』
だとすれば、あの戦闘のさなかからここにいたことになる。トップ人物が前線視察するには場所も時期もまるでそぐわない。それじゃあ自ら戦闘する前提に来ていたとか? とすれば……
『とてつもない大バカ者じゃね?』
「なんだか俺達を知ってたかのような顔だな」
「行く先の有名人の顔くらい知っていても当然じゃね?」
ガイアスは自分の答えに違和感を覚えた。思っていた通りの事であるが、もう少し言い方があるだろう。
「そうか。覚えめでたく光栄なことだ。さあてそれでは、洗いざらい話してもらおうか」
ガイアスはふんっとそっぽを向く。
その横顔をヴェルディはしばらくじいっと睨んでから口を開いた。
「まずは名前と部隊名から聞こうか」
「ヘキサチカ攻略
「ほうケントゥリオ。師団長か。お前の師団の役割はなんだ?」
「魔物の強化と、ヘキサチカの包囲、攻略。……な、なんだ!?」
「お前の師団には、他にお前以外の魔族はいるのか?」
「いない。……ちっちょ!」
「ヘキサチカ攻略にはいくつの師団が入国して、それぞれ何人の魔族がいるんだ?」
「3個師団、魔族はそれぞれ1人の計3人。……ど、どうして!」
ガイアスは青ざめた。
『なんだこれ!? なんで僕はこいつの質問に素直にほいほいと即答してるんだ!? しかも嘘偽りない答えを!』
ヴェルディは後ろに控える者達に振り返った。
「ヘキサチカ攻略師団と言ってる時点で、直接の目的は明確だな」
「やはり魔族はどこかで復興して、人間の国へ敵対行為を始めていたのですね」
「ヘキサリネ以外の国にも侵攻しているのか?」
レオナルドが疑問を投げるとヴェルディが言い直した。
「ワリナやミリヤにも侵攻しているのか? その他の国も侵攻対象か?」
「ワリナ、ミリヤに武力侵攻はしてないが、工作活動は始まっている。人間の国は全て侵攻対象だ。……く、くそっ!」
ガイアスは唇を噛んで必死に口を閉じようとした。
「しかしなんでコイツ、ペラペラ喋ってんだ?」
レオナルドが聞くと、ヴェルディはニヤッと笑っただけだった。
「今更俺達に秘密ってこたぁねえだろ」
ヴェルディは目を瞑って頷くと、その種を明かした。
「そうだな。これは俺の法力『真相の打ち明け』だ」
マリエラが手を口に当てて驚いた。
「そ、その法力の存在が噂されたことはありましたが、まさかヴェルディ様にあろうとは……」
一番驚き青ざめているのはガイアスだった。
『真相の打ち明け』!?
『まずい! これはまずい!
こんな馬鹿げた法力があっていいのか!?
あまりにも都合の良い法力の能力。
魔法のように、発動のための予備動作なんて一切ない。息をするように行使している! 普通の会話と尋問の区別がつかない!
真偽判定器とかレジストラジオネ・ロッサみたいな魔導具を使う方法が魔族にはあるけど、本人の口から本心を喋らせるなんてのは、魔法でも出来無いってのに!』
これほどの能力をなんの対価もなく、あまりにも当たり前に使えるよう、人間に与えた創造神は、いったいどういうつもりだったのか。
ガイアスは怒りと同時に恐怖に襲われた。
ヴェルディの尋問が続いた。
「ワリナとミリヤへの工作活動は始まってるとの事だが、魔族が潜入してるってことか? どれぐらいの規模だ?」
「がふっ、そ、その二国に直接入っている魔族はいない。隣国に4、5人が潜入していんる、んぐふふふ!」
ガイアスは口をつぐもうと必死に口の周りを噛んでいるが、どうしても抗えない。ガイアスの目が血走る。
まずい、このままでは己の知っている事全てを洗いざらい引き出されてしまう。
それは魔族軍
となるとできる事は、己の
『それはあり得ない事だとアデマールに言ったばっかりじゃないか! そんな事態に僕がなるはずがない。起こりえない。起こってはならない。なのに! なんで、なんでこうなった!? なぜだ、どこでミスった!?』
汗まみれの顔から眼だけを上げた時、視界に入ったのはあの子供の女だった。とたんに全身の毛穴が、再び逆立つ。
『こいつだ。こいつが、魔素をかき消してからだ。ワイバーンがブレス攻撃できなくなり、飛行もできなくなり、僕の魔法も消し去り、精霊が逃げ出し……、僕の計画が、魔術が
ガイアスが詰みとなったことを自覚認識したその時。
カチン!
ガイアスの胸の中で何かのスイッチが入ったような音がした。ガイアスの魔石器官に刻まれた紋様が光り、自我に関係なく、刻まれた自律行動が開始された。それに気付いたガイアスが目を大きく見開いた。